うま)” の例文
お月様てえ奴は実に憎くない奴よ、おらがあすこでもつて飲んでる時アどうだうまいだらうと、いつたやうな顔付でもつて見てござる。
磯馴松 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
可也かなり皮肉な出来事であつたからで、気の小さい、きまわるがり屋の彼は、うかしてうまくそれを切りぬけようと、頭脳あたまを悩ましてゐた。
花が咲く (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
何か思おうとしてもちっともうまく思う事ができやしない。こんな風だと、かえってだんだんわたしの頭が悪くなってゆくばかりだわ。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
彼とても芸妓げいしやと飲む酒のうまい事は知つて居やう、しかし一度でもう云ふ場所へ足を向けた事の無いのは友人が皆不思議がつて居る。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
伝道師のうちに北海道へって来たという者があると直ぐ話を聴きに出掛けましたよ。ところが又先方はうまいことを話して聞かすんです。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
当人もあまりうまくないと思ったものか、ある日その友人で美学とかをやっている人が来た時にしものような話をしているのを聞いた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
勘次かんじ利根川とねがは開鑿工事かいさくこうじつてた。あきころから土方どかた勸誘くわんいう大分だいぶうまはなしをされたので近村きんそんからも五六にん募集ぼしふおうじた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
新「海上さんはお世辞ものですよ、その口でうまく花魁を撫でこみ、血道をあげさせたんですね、ほんとに軍艦ふねの方は油断がならないわ」
「やアい意気地なし、嚇かしたらほんとにしやアがつて、馬鹿やい! 俺らが家へ持つてつて焼いて食つてやらア、うまい/\。」
周一と空気銃とハーモニカ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
後家の鐙を買合かいあわせて大きい利を得る、そんなうまい事があるものではないというところにかんを付けて、すぐに右左の調べに及ばなかったナと
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
無筆のお妾は瓦斯ガスストーヴも、エプロンも、西洋綴せいようとじの料理案内という書物も、すべ下手へた道具立どうぐだてなくして、巧にうまいものを作る。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「うん知っていますよ。さっきから私もそれを考えてたんです。ああいうことがあると商売がきっとうまくゆかないものですよ。」
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
指導役しどうやくのおじいさんはそんな御愛想おあいそういながら、おし少女しょうじょみずをすすめ、また御自分ごじぶんでも、さもうまそうに二三ばいんでくださいました。
丁度うまい物を味ひながらゆつくり啜るやうなキスであつた。「ねえ、あなた。生れたら、矢つ張可哀がつて下さるでせうか。」
母御は世辞上手にて人を外らさぬうまさあれば、身を無いものにしてやみをたどる娘よりも、一枚あがりて、評判わるからぬやら。
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
が、うまさと切なさと恥かしさに、堅くなった胸は、おのずからどぶの上へのめって、折れて、煎餅は口よりもかえって胃の中でボリボリとれた。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そうすると、家の者が、皆口じゃ何処にいるか知らない、とうまく言ったけれど、田舎者のことだから間が抜けているでしょう。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ついでに着せもしてやらうと青山の兄から牡丹餅ぼたもちの様にうま文言もんごん、偖こそむねで下し、招待券の御伴おともして、逗子より新橋へは来りしなりけり。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
私の家来のフラテはこの水をさもうまそうにしたたかに飲んでいた。私は一瞥いちべつのうちにこれらのものを自分のひとみへ刻みつけた。
斯うなると、菊太と祖母は只こんくらべである。つまる処は根の強い菊太がいつもいつもうまい事になって仕舞うのが常である。
農村 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
被告の身にとつては人のい、福々ふく/″\した、朝餐あさめしうまく食べた裁判官に出会でくはすといふ事が大切だいじだが、原告になつてみると、平常いつも不満足たらしい
爺さんに隠れてうまいものを食べることもある。家計を少しばかりごまかして内儀さんが種へ染絣を買うてやることもある。
神楽坂 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
併しお梅には足る程悪口を云はさして遣らうと思つたから、小言を云はれてうまくも無い飯を出来るだけ落付払つて腹一杯食はうと決心して居る。
あののさめるやうなあか蛇苺へびいちごうまいことをつてよくとうさんをさそひましたが、そればかりはさはりませんでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「さううまいといふ程のものではないけれど、野生のものを取つて来てかうして話しながら食べるのは何だかいゝね。」と、青木さんもおあがりになる。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
讀者よ、我に餘白の滿みたすべきあらば、飮めども飽かざる水のうまさをいさゝかなりともうたはんものを 一三六—一三八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
自己の希望がものの符合ふごうすればよいが、なかなかそううまくゆくことがすくないから、結局感情にられてすことは、そむくこととなりやすい。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
『何も化けて出るこたありゃしまい、散々思いあって思う男と死に遂げるなんて、こんなうまい話があるもんかい。』
蛙や蝸牛などのグロテスクなものをうす気味悪い思いをしてまで食べなくとも、巴里パリにはうまい料理がいくらもある。
異国食餌抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そのとき、なんともいえぬうまそうなにおいが、どこからかしてきました。ねずみはきゅうはなをひくひくさせました。
ねずみとバケツの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「安子や、今日着いたお米はね、あれは庄内米しょうないまいといって、日本一の米だよ。白くて焚き殖えがしてうまくてやすくて、何でも一挙五徳につくという話だった」
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
狂犬に咬まれた者少しくまば即座に治る、また難産や疥癬に神効あり、その肉またうまければ人好んであがない食う
せめて戸も障子もある家へ入れて、うまい物でも食わせて、暖かい物でも着せて上げたら親孝行にもなるだろうが
そして軽食ランチの膳立であろう、うまそうな品々がならべてあった。やがて正面の玄関口に廻ってみると、そこには二つの土耳古トルコ青色せいしょくの植木鉢が両側に控えていた。
彼れ自分で殺したと白状して居るけれど伯父が何の刃物で殺されたか夫さえも知ぬじゃ無いか、君が短銃ぴすとるの問は実にうまかッたよ、彼は易々やす/\と其計略に落ちた
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
いや実にうまいものだ。この力強い文章はどうだ。それに引証の該博さは。……この塩梅あんばい進歩すすむとしたら五年三年の後が思い遣られる。まず一流という所だろう。
戯作者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それに今宵は誰も彼もが羽目をはずしてはしゃいでいるのに、どう云うわけか平中はひとり沈んで、自分だけは酒がうまくないと云いたげな様子をしているのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
これを商人にたとえていえば、物品をやすく買ってたかく売りたいというのがその希望であろうが、時に相場が下がったり、品物が毀損きそんしたりしてうまく行かぬ事がある。
せっかく孫の口をうまくしようと思って入れた幾滴かのお酒が、まるっきり予期しない反対の結果を生んだのでした。それを知って、一雄は余計悲しくなりました。
祖母 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
丁度此処ここへ通りかかつた、ではない泳ぎかゝつた湖水のひれ仲間に名を知られた老成なますどのが、おなかのすき加減といひ、うまさうな物が水の面に見える工合ぐあいといひ
鼻で鱒を釣つた話(実事) (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
それから食膳の豊かすぎることを内儀おかみさんに注意し、山に来たら山の産物が何よりもうまいのだから、明日からは必ず町で買物などはしないようにと言い聞かせた。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
犬の為には好きなうまものも分けてやり、小犬の鳴き声を聞けばねむたい眼を摩って夜半よなかにも起きて見た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「さあいずれ模様を見まして、鶏やあひるなどですと、きっと間違いなくふとりますが、斯う云う神経過敏かびんな豚は、あるいは強制肥育ではうまく行かないかも知れません。」
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
文化的進歩とは、シュークリームのうまい、まずい位のものだが、金儲けもその程度のものにすぎない。
大阪を歩く (新字新仮名) / 直木三十五(著)
まことにうまい話である。併し彼女には此の種の人間がどういうことをするのか、大概もう見当がついていたから「良人と相談の上明日千歳まで返事する」と言って分れた。
女給 (新字新仮名) / 細井和喜蔵(著)
国子当時蝉表せみおもて職中一の手利てききなりたりと風説あり今宵こよいは例より、酒うましとて母君大いによい給ひぬ。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
うまい煙草のことをかれて彼女はハッと顔色をかえたが、もう仕方がないのだ。先にさして置いた私の釘は、どうしても彼女の告白を期待していいことになっていたのだ。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
早速履脱くつぬぎへ引入れて之を当がうと、小狗こいぬ一寸ちょっとを嗅いで、直ぐうまそうに先ずピチャピチャと舐出なめだしたが、汁が鼻孔はなへ入ると見えて、時々クシンクシンと小さなくしゃみをする。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
その辛いやうな酸ぱいやうな所がその人らにはうまく感ぜられるやうに出来て居るのに違ひない。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
彼は食うものを作りながら、誰れかにうまい汁を吸われているのだった。呉服屋も、その甘い汁を吸っている者の一人である。だから、こちらからも復讐してやっていゝのだ。
窃む女 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)