みさを)” の例文
三四年ぜんよりは別居も同じ有様に暮し居候始末にて、私事一旦の身のけがれやうやく今はきよく相成、ますます堅く心のみさをを守り居りまゐらせ候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
〔評〕或ひと岩倉公幕を佐くとざんす。公薙髮ていはつして岩倉邸に蟄居ちつきよす。大橋愼藏しんざうけい三、玉松みさを、北島秀朝ひでとも等、公の志を知り、深く結納けつなふす。
軽薄な細工物は云はばすたり易い流行物はやりもの、一流のみさをを立てゝおのれの分を守るのが名人気質だと云ふのが分らぬか、この不了簡者。
名工出世譚 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
小倉嘉門の後家みさをの住家、そして最後の一軒には、亡者の手紙でのろはれた、矢並行方といふ若い浪人者が住んで居ります。
此方このはうからくといへ恥辱ちじよくにもなるじつにくむべきやつではあるが、情實じやうじつんでな、これほどまでみさをといふものを取止とりとめていただけあはれんでつて
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
梅幸と云ひますのは、当時、丸の内の帝国劇場の座附俳優で、唯今、太閤記たいかふき十段目のみさをを勤めて居る役者です。
手巾 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
適間たまたまとぶらふ人も、宮木がかたちのめでたきを見ては、さまざまにすかしいざなへども、三二ていかしこみさをを守りてつらくもてなし、後は戸をてて見えざりけり。
また昨日きのふ今日けふ新墓しんばか死人しびと墓衣はかぎくるまってかくれてゐよともはッしゃれ。いたばかりでも、つね身毛みのけ彌立よだったが、大事だいじみさをつるためなら、躊躇ちゅうちょせいで敢行してのけう。
一日問をかけて曰ふ、「汝等一家むつまじく暮らす方法は如何にせば宜しと思ふか」と。群童こたへに苦しむ。其中尤も年けたる者にみさを坦勁と云ふものあり。年十六なりき。
遺教 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
突然の新談緒しんだんちよに「藤野さんテ、華厳滝けごんのたきでお死なすつたみさをさんですか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
いつきまつりしみさを
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
「でも、この手紙の筆跡は、間違ひもなく死んだ夫——小倉嘉門の書いたものだと、後家のみさをさんが言ひますよ」
これほどまでみさをといふものを取止めて置いただけあはれんで遣つてくれ、愚鈍ではあるが子供の時からこれといふ不出来ふでかしも無かつたを思ふと何か残念の様にもあつて
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さア、やれ、よるよ、くろづくめのきものた、るから眞面目まじめな、嚴格いかめしい老女らうぢょどの、はやをしへてたも、清淨無垢しゃうじゃうむくみさをふたけたこの勝負しょうぶける工夫くふうをしへてたも。
一日あるひ父が宿にあらぬひまに、正太郎磯良を六一かたらひていふ。御許おもとまことあるみさをを見て、今はおのれが身の罪をくゆるばかりなり。かの女をも古郷ふるさとに送りてのち、父の六二おもてなごめ奉らん。
ほとほと自らそのいとぐちもとむるあたはざるまでに宮は心を乱しぬ。彼は別れし後の貫一をばさばかり慕ひて止まざりしかど、あやまちを改め、みさをを守り、覚悟してその恋を全うせんとは計らざりけるよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
少し耄碌まうろくしてゐる上に耳が遠く、何を言つても要領を得ず、さすがの平次も持て餘して居るところへ、聞き兼ねた樣子で、奧から女主人のみさをが出て來ました。
すれば、おまへがロミオへの封印代ふいんがはりにしたこのを、あだ證書しょうしょ封印ふういん使つかはうより、またいつはりのこのこゝろみさをそむいてあだをとこけうより、この懷劒くわいけんこゝろ突殺つきころしてのけう。
然し、間が如何いかに不心得であらうと、貴方の罪は依然として貴方の罪ぢや、のみならず、貴方が間を棄てたゆゑに、彼が今日こんにちの有様に堕落したのであつて見れば、貴方は女のみさをを破つたのみでない。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あは手向てむけはなに千ねんのちぎり萬年まんねんじやうをつくして、れにみさをはひとりずみ、あたら美形びけい月花つきはなにそむけて、何時いつぞともらずがほに、るや珠數じゆずかれては御佛みほとけ輪廻りんゑにまよひぬべし
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
播磨はりまの国加古かこうまや丈部はせべもんといふ博士はかせあり。清貧せいひんあまなひて、友とするふみの外は、すべて調度の絮煩わづらはしきいとふ。老母あり。孟氏まうしみさをにゆづらず。常に紡績うみつむぎを事として左門がこころざしを助く。
こいつはもと品川で勤めをしてゐた三十女で、以前は武家の出だといふが、自墮落じだらくの身を持崩して、女のみさをなんてものを、しやもじのあかほどにも思つちやゐない。
うれしいとはおもひもせでよしなき義理ぎりだてにこゝろぐるしくよしさまのおあとふてとおもひしはいくたびかさりとてはいのちふたつあるかのやうに輕々かる/″\しい思案しあんなりしと後悔こうくわいしてればいままでのこと口惜くちをしくこれからの大切たいせつになりました阿房あほうらしいんだひとへのみさをだてなになることでもなきを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
とて取次とりつふみおもりてもなみだほろほろひざちぬ義理ぎりといふものかりせばひたきこといとおほわかれしよりの辛苦しんく如何いかときはあらぬひとまられてのがればのかりしときみさをはおもしいのち鵞毛がもうゆきやいばりしこともありけり或時あるときはお行衛ゆくゑたづねわびうらみは
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)