“操(みさを)” の例文
三四年前(ぜん)よりは別居も同じ有様に暮し居候始末にて、私事一旦の身の涜(けがれ)も漸(やうや)く今は浄(きよ)く相成、益(ますます)堅く心の操(みさを)を守り居りまゐらせ候。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
〔評〕或ひと岩倉公幕を佐くと讒(ざん)す。公薙髮(ていはつ)して岩倉邸に蟄居(ちつきよ)す。大橋愼藏(しんざう)、香(か)川敬(けい)三、玉松操(みさを)、北島秀朝(ひでとも)等、公の志を知り、深く結納(けつなふ)す。
軽薄な細工物は云はば廃(すた)り易い流行物(はやりもの)、一流の操(みさを)を立てゝ己(おのれ)の分を守るのが名人気質だと云ふのが分らぬか、この不了簡者。
名工出世譚 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
小倉嘉門の後家操(みさを)の住家、そして最後の一軒には、亡者の手紙で呪(のろ)はれた、矢並行方といふ若い浪人者が住んで居ります。
此方(このはう)から行(ゆ)くと家(いへ)の恥辱(ちじよく)にもなる實(じつ)に憎(にく)むべき奴(やつ)ではあるが、情實(じやうじつ)を酌(く)んでな、これほどまで操(みさを)といふものを取止(とりと)めて置(お)いただけ憐(あはれ)んで遣(や)つて呉(く)れ
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
梅幸と云ひますのは、当時、丸の内の帝国劇場の座附俳優で、唯今、太閤記(たいかふき)十段目の操(みさを)を勤めて居る役者です。
手巾 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
適間(たまたま)とぶらふ人も、宮木がかたちの愛(めで)たきを見ては、さまざまにすかしいざなへども、三二三貞(てい)の賢(かしこ)き操(みさを)を守りてつらくもてなし、後は戸を閉(た)てて見えざりけり。
又(また)昨日(きのふ)今日(けふ)の新墓(しんばか)で死人(しびと)の墓衣(はかぎ)に苞(くる)まって隱(かく)れてゐよとも言(い)はッしゃれ。聞(き)いたばかりでも、例(つね)は身毛(みのけ)が彌立(よだ)ったが、大事(だいじ)の操(みさを)を立(た)つる爲(ため)なら、躊躇(ちゅうちょ)せいで敢行(しての)けう。
一日問をかけて曰ふ、「汝等一家睦(むつ)まじく暮らす方法は如何にせば宜しと思ふか」と。群童對(こた)へに苦しむ。其中尤も年長(た)けたる者に操(みさを)坦勁と云ふものあり。年十六なりき。
遺教 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
突然の新談緒(しんだんちよ)に「藤野さんテ、彼(あ)の華厳滝(けごんのたき)でお死なすつた操(みさを)さんですか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
齋(いつ)きまつりし操(みさを)の
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
「でも、この手紙の筆跡は、間違ひもなく死んだ夫——小倉嘉門の書いたものだと、後家の操(みさを)さんが言ひますよ」
これほどまで操(みさを)といふものを取止めて置いただけ憐(あはれ)んで遣つてくれ、愚鈍ではあるが子供の時からこれといふ不出来(ふでか)しも無かつたを思ふと何か残念の様にもあつて
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
さア、來(き)やれ、夜(よる)よ、黒(くろ)づくめの服(きもの)を被(き)た、見(み)るから眞面目(まじめ)な、嚴格(いかめ)しい老女(らうぢょ)どの、速(はや)う來(き)て教(をし)へてたも、清淨無垢(しゃうじゃうむく)の操(みさを)を二(ふた)つ賭(か)けた此(この)勝負(しょうぶ)に負(ま)ける工夫(くふう)を教(をし)へてたも。
一日(あるひ)父が宿にあらぬ間(ひま)に、正太郎磯良を六一かたらひていふ。御許(おもと)の信(まこと)ある操(みさを)を見て、今はおのれが身の罪をくゆるばかりなり。かの女をも古郷(ふるさと)に送りてのち、父の六二面(おもて)を和(なご)め奉らん。
ほとほと自らその緒(いとぐち)を索(もと)むる能(あた)はざるまでに宮は心を乱しぬ。彼は別れし後の貫一をばさばかり慕ひて止まざりしかど、過(あやまち)を改め、操(みさを)を守り、覚悟してその恋を全うせんとは計らざりけるよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
少し耄碌(まうろく)してゐる上に耳が遠く、何を言つても要領を得ず、さすがの平次も持て餘して居るところへ、聞き兼ねた樣子で、奧から女主人の操(みさを)が出て來ました。
すれば、お前(まへ)がロミオへの封印代(ふいんがは)りにした此(この)手(て)を、他(あだ)し證書(しょうしょ)の封印(ふういん)に使(つか)はうより、又(また)僞(いつは)りの無(な)い此(この)心(こゝろ)を操(みさを)に背(そむ)いて他(あだ)し男(をとこ)に向(む)けうより、此(この)懷劒(くわいけん)で手(て)も心(こゝろ)も突殺(つきころ)してのけう。
然し、間が如何(いか)に不心得であらうと、貴方の罪は依然として貴方の罪ぢや、のみならず、貴方が間を棄てた故(ゆゑ)に、彼が今日(こんにち)の有様に堕落したのであつて見れば、貴方は女の操(みさを)を破つたのみでない。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
哀(あは)れ手向(てむけ)の花(はな)一枝(し)に千年(ねん)のちぎり萬年(まんねん)の情(じやう)をつくして、誰(た)れに操(みさを)の身(み)はひとり住(ずみ)、あたら美形(びけい)を月花(つきはな)にそむけて、世(よ)は何時(いつ)ぞとも知(し)らず顏(がほ)に、繰(く)るや珠數(じゆず)の緒(を)の引(ひ)かれては御佛(みほとけ)輪廻(りんゑ)にまよひぬべし
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
四播磨(はりま)の国加古(かこ)の駅(うまや)に丈部(はせべ)左門(もん)といふ五博士(はかせ)あり。清貧(せいひん)を六憩(あまな)ひて、友とする書(ふみ)の外は、すべて七調度の絮煩(わづらはしき)を厭(いと)ふ。老母あり。八孟氏(まうし)の操(みさを)にゆづらず。常に紡績(うみつむぎ)を事として左門がこころざしを助く。
こいつはもと品川で勤めをしてゐた三十女で、以前は武家の出だといふが、自墮落(じだらく)の身を持崩して、女の操(みさを)なんてものを、しやもじの垢(あか)ほどにも思つちやゐない。
嬉(うれ)しいとは思(おも)ひもせでよしなき義理(ぎり)だてに心(こゝろ)ぐるしく芳(よし)さまのお跡(あと)追(お)ふてと思(おも)ひしは幾(いく)たびかさりとては命(いのち)二(ふた)つあるかのやうに輕々(かる/″\)しい思案(しあん)なりしと後悔(こうくわい)して見(み)れば今(いま)までの事(こと)口惜(くちを)しくこれからの身(み)が大切(たいせつ)になりました阿房(あほう)らしい死(し)んだ人(ひと)への操(みさを)だて何(なに)に成(なる)ことでもなきを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
とて取次(とりつ)ぐ文(ふみ)の思(おも)ひ切(き)りても涙(なみだ)ほろほろ膝(ひざ)に落(お)ちぬ義理(ぎり)といふもの世(よ)に無(な)かりせば云(い)ひたきこといと多(おほ)し別(わか)れしよりの辛苦(しんく)は如何(いか)に或(あ)る時(とき)はあらぬ人(ひと)に迫(せ)まられて身(み)の遁(のが)ればの無(な)かりし時(とき)操(みさを)はおもし命(いのち)は鵞毛(がもう)の雪(ゆき)の夜(よ)に刄(やいば)手(て)に取(と)りしことも有(あり)けり或時(あるとき)はお行衛(ゆくゑ)たづね詫(わび)て恨(うら)みは
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)