師走しはす)” の例文
中津川備前屋の親仁おやぢ伊左衞門なぞは師走しはすの月にでもなると馬籠下町の紋九郎方に來て十日あまりも滯在し、町中へ小貸しなどして
桃の雫 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
平次は外へ出ると、眞つ暗な師走しはすの空を仰いで、大きく息をしました。見えざる敵のしたゝかさを改めて犇々ひし/\と感じた樣子です。
お前がわたしを拾つて下すつたのは、今から二十年前の師走しはすの廿五日、雪のチラつく夕間暮ゆふまぐれくお言ひだが、たツた五年の昔、三月十五日の花の夜
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
師走しはす算段さんだん𢌞まはつて五味坂ごみざか投出なげだされた、ときは、懷中くわいちうげつそりとさむうして、しんきよなるがゆゑに、路端みちばたいし打撞ぶつかつてあしゆび怪我けがをした。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
井戸は車にて綱の長さ十二ひろ、勝手は北向きにて師走しはすの空のから風ひゆう/\と吹ぬきの寒さ、おゝ堪えがたとかまどの前に火なぶりの一分は一時にのびて
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
人々はその下で、いかにも師走しはすらしく、動きまはつてゐるのだ。家々の表口には、すでに新春の飾物さへ見える。
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
かたしめて立出たり折柄師走しはすの末なれば寒風かんぷうはだへつらぬく如きを追々の難儀に衣類は殘ず賣拂うりはらひ今は垢染あかじみたる袷に前垂帶まへだれおびをしめたるばかり勿々なか/\夜風はしのぎ難きを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
……須磨、明石も塩屋のけむりのみにて、冬ざれ、うら淋しうは候へど、汀々なぎさなぎさ、千鳥のにぎはひをかしくて、うかうか、都の師走しはすも忘れ歩きをり候ふままに。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
七夕の竹ヤ々々は心涼しく、師走しはすの竹ヤ/\は(すゝはらふ竹うりなり)きくせはし。物皆季におうじて声をなし、情に入る事天然の理なり。胡笳こかかなしみも又然らん。
師走しはす中頃なかごろで、淀川堤よどがはづつみには冬枯ふゆがれのくさひつじのやうでところ/″\にまるいたあとくろえてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
耶蘇降誕節クリスマスの霜が眞夏に降り、雪もよひの師走しはすの嵐が六月に吹きすさみ、氷は熟れた林檎りんごにはりつめ、吹雪は開きそめた薔薇を散らし、牧草畑、麥畑の上にはこほつた衣が下り
師走しはすの或、父は五歳になる男の子をき、一しよに炬燵こたつへはひつてゐる。
虎の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
らうことなら、自分じぶんだけ陰氣いんきくら師走しはすうち一人ひとりのこつてゐたいおもひさへおこつた。やうや自分じぶんばんて、かれつめたいかゞみのうちに、自分じぶんかげ見出みいだしたとき不圖ふと此影このかげ本來ほんらい何者なにものだらうとながめた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あはれ、やかに 吾れは 覺ゆ 寒き 師走しはすの 夜中なり
座布団ざぶとん綿わたばかりなる師走しはす
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
師走しはすちりおもてに高く澄めり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あわただしい師走しはす
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
井戸ゐどくるまにてつなながさ十二ひろ勝手かつて北向きたむきにて師走しはすそらのからかぜひゆう/\とふきぬきのさむさ、おゝえがたとかまどまへなぶりの一ぷんは一にのびて
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
とし押詰おしつまつて師走しはす幾日いくにちかは、當邸たうやしき御前ごぜん服部式部はつとりしきぶどの誕生日たんじやうびで、邸中やしきぢうとり/″\支度したくいそがしく、なんとなくまつりちかづいたやうにさゞめきつ。
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
七夕の竹ヤ々々は心涼しく、師走しはすの竹ヤ/\は(すゝはらふ竹うりなり)きくせはし。物皆季におうじて声をなし、情に入る事天然の理なり。胡笳こかかなしみも又然らん。
なでいや然樣さやう云るゝと實に面目めんぼく次第もなし併し年中御世話にばかりなり其上節季せつき師走しはす押迫おしつめての金の才覺さいかくあまり心なしに御話おはなしも出來ぬゆゑよんどころなく淺草田町の利兵衞と云國者を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
師走しはすに入ると、寒くてよく晴れた天氣が續きました。ろくでもない江戸名物の火事と、物盜り騷ぎが次第に繁くなつて、一日々々心せはしく押し詰つた暮の二十一日の眞夜中。
照子と俊吉とは、師走しはすの中旬に式を挙げた。当日はひる少し前から、ちらちら白い物が落ち始めた。信子は独り午の食事をすませた後、何時までもその時の魚の匂が、口について離れなかつた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
うす寒き師走しはす
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
井戸は車にて綱の長さ十二ひろ、勝手は北向きにて師走しはすの空のから風ひゆうひゆうと吹ぬきの寒さ、おお堪えがたとかまどの前に火なぶりの一ぷんは一にのびて
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
とし寛政くわんせいねん押詰おしつまつて師走しはす幾日いくにちかは當邸たうてい御前ごぜん服部式部はつとりしきぶどの誕生日たんじやうびとあつて、邸中やしきぢうが、とり/″\支度したくいそがしくなんとなくまつりちかづいたやうにさゞめきつ。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
これよつて享保三年五月十八日双方共さうはうとも呼出よびいだされ淡路守殿彦兵衞に向はれ其方儀彌七は何時いつ召抱めしかゝへたるやと尋ねらるゝに彦兵衞つゝしんで去年きよねん師走しはすに召抱候と申をよく勘辨かんべん致せ未だ氣心も知れぬ者に金高きんだかの品を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今年の師走しはす
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
師走しはすそら芝居しばゐみるひとるをとおみねはまづなみだぐまれて、まづ/\かぜさむきにておいでなされませ、と堅燒かたやき薄蒲團うすぶとん伯父おぢかたせて、さぞさぞ澤山たんと御苦勞ごくらうなさりましたろ
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
大根だいこん時雨しぐれ干菜ほしなかぜとびからすせはしきそらを、くものまゝにつゝけば、霜林さうりん一寺いちじいだきてみねしづかてるあり。かねあれどもかず、きやうあれどもそうなく、しばあれどもひとず、師走しはすまちはしりけむ。
月令十二態 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
師走しはすつき世間せけんたいものせわしきなかを、ことさららみて綾羅きらをかざり、一昨日おとゝひそろひしとそれ芝居しばゐ狂言けうげんをりから面白おもしろ新物しんものの、これをのがしてはと娘共むすめどもさわぐに、見物けんぶつは十五日
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)