少女をとめ)” の例文
聲と情との調和好き此一曲は、清く軟かなる少女をとめのどに上りて、聞くものをして積水千丈の底なる美の窟宅を想見せしむ。ロオザ。
今この処を過ぎんとするとき、とざしたる寺門の扉に倚りて、声を呑みつゝ泣くひとりの少女をとめあるを見たり。年は十六七なるべし。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
これ、解剖學者に取ツては、一箇神聖なる物體である、今日解剖臺に据ゑられて、所謂いはゆる學術研究の材となる屍體は、美しい少女をとめそれであツた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
わが腰を休めたる石の彼方かなたには、山より集り落つる清水のかけひありて、わが久しく物を思へる間、幾人いくたり少女をとめ來りて、その水を汲みては歸りし。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
彼はそつと樹によりかかつたまま、その場に立ちつくさうと肚をきめた。と、少女をとめの口から明らかに自分の名がもらされた。
おほきくなるにしたがつて少女をとめかほかたちはます/\うるはしくなり、とてもこの世界せかいにないくらゐなばかりか、いへなかすみからすみまでひかかゞやきました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
かれ大毘古おほびこの命、高志こしの國に罷りでます時に、腰裳こしもせる少女をとめ、山代の幣羅坂へらさかに立ちて、歌よみして曰ひしく
そがなかには家をするの良妻もあるべく、わざに励むの良工もあるべし、恋のもつれに乱れ髪の少女をとめもあらむ、逆想にりて世を忘れたる小ハムレットもあらむ。
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
少女をとめ心の他愛なさに、二人の弟が貰ふべき嫁を、誰彼となく心で選んでるうちに、何時しか眠つて了つた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
淡紅色ときいろ薔薇ばらの花、亂心地みだれごゝち少女をとめにみたてる淡紅色ときいろ薔薇ばらの花、綿紗モスリンうはぎとも、あめの使ともみえるこしらへもののそのはねを廣げてごらん、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
牝獅子の乳で育つたと云ふ野蛮人の猛将を、細いかひなで刺し殺した猶太ユダヤ少女をとめの美しい姿が、勇ましい面影が、蝕画エッチングのやうに、彼女の心にこびりついて離れなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
春の新潮あらしほに乘つてくる魚鱗うろくづのやうな生々いき/\した少女をとめは、その日の目覺めに、光りをすかして見たコツプの水を底までのんで、息を一ぱいに、噴水の霧のやうな、五彩の虹を
(旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
西八條殿にしはちでうでんゆらぐ計りの喝采を跡にして、維盛・重景の退まかり出でし後に一個の少女をとめこそ顯はれたれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
そして彼女は少女をとめになった。併しまだその幸福といふものを同じやうに考へながら、必ず自分に近よって来るやうに思ってるのだ。夜が明けると雨がしとしと降って居た。
青白き夢 (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
たとへば、緩漫なまのろふゆしりへにはなやかなはるめがるのをて、血氣壯けっきさかんわか手合てあひかんずるやうなたのしさ、愉快こゝろよさを、つぼみはな少女をとめらと立交たちまじらうて、今宵こよひ我家わがやりゃうせられませうず。
噫、何にも自分のことを知らないで、愛らしい少女をとめと一緒に林檎畠を彷徨さまよつたやうな、楽しい時代はつてしまつた。もう一度丑松は左様さういふ時代の心地こゝろもちに帰りたいと思つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
さうして巴里パリイへ来た当座も自動車の上の少女をとめ、劇場で見る貴婦人、街を歩く巴里女パリイジエンヌをやつぱりそんな気分で眺めて居た。生憎あいにく其内そのうちに隠れた方の事が自分の目に見え出して来た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
く 地奈多の湯海に鄰れど人の世に近き処と思はずに浴ぶ 海女あま少女をとめ海馬かいばめかしき若人も足附の湯に月仰ぐらん 唯二人岩湯通ひの若者の過ぎたる後の浜の夜の月 などがある。
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
初めて自分の分身としてひかるを見た時の満足にも劣らない満足さを感じるのですが、やはりあの時のやうに目をいて居ない、真紅まつかな唇は柔かくとざされて鼻の側面が少女をとめのやうである
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
鈴のついた小鼓に、打つ手拍子踏む足拍子の音烈しく、アンダルジヤの少女をとめが両手の指にカスタニエツト打鳴らし、五色ごしき染色そめいろきらめくすそを蹴立てゝ乱れ舞ふ此の国特種の音楽のすさまじさ。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
まだけがれを知らぬ清淨しやうじやう少女をとめり出して、稚兒ちごに立てねばならなかつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「梅子さん」突如銀子は梅子のひざに身を投げ出し、涙に濡れたる二つの顔を重ねつ「梅子さん——寄宿舎の二階からきらめく星をかぞへながら、『自然』にあこがれた少女をとめ昔日むかしが、恋しいワ——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
しみじみと物のあはれを知るほどの少女をとめとなりし君とわかれぬ
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
くちなしの花の白さは絵草子の夢二がゑがく少女をとめにも似る
遺愛集:02 遺愛集 (新字新仮名) / 島秋人(著)
おもひ出づな恨に死なむ鞭のきず秘めよと袖の少女をとめに長き
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
この宿やど島原しまばらゆ来し少女をとめ居りわがために夕べ洋灯ランプを運ぶ
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「たたらめの花のごと、三笠みかさの山の少女をとめをばてて」
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
少女をとめの床のべに我がおきしつるぎの太刀、その太刀はや。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
芋食ひのうまし少女をとめら知るや如何に目黒に甘藷先生の墓
目黒の寺 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いづその、——あま少女をとめ相舞あひまひ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
羊を飼へる少女をとめらは羊さし
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
いのちみじかし、こひせよ、少女をとめ
ゴンドラの唄 (旧字旧仮名) / 吉井勇(著)
少女をとめごころは秘めて放たじ
婦人と文学 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
船に住む 少女をとめなるらし
短歌集 日まはり (旧字旧仮名) / 三好達治(著)
千曲ちくま少女をとめのたましひの
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
森の家のわれは少女をとめ
極楽とんぼ (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
いかなれば彼少女をとめは我を棄てゝ尼寺に入りしぞ。こは情愛を去りて平和に就きしにあらずや。我胸は一種の言ふべからざる空虚を感じたり。
そこで少女をとめにふさはしい髮飾かみかざりや衣裳いしようをさせましたが、大事だいじですから、いへおくにかこつてそとへはすこしもさずに、いよ/\こゝろれてやしなひました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
それは、その翌日、殆ど全村を焼き尽したその灰燼くわいじんの中になかば焼けた少女をとめの死屍を発見した事で、少女は顔を手に当てたまゝ打伏うつぶしに為つて焼け死んで居た。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
あどけ無いほゝ薔薇ばらの花、末は變心こゝろがはりをしさうな少女をとめ、あどけ無い頬に無邪氣むじやきあかい色をみせた薔薇ばらの花、ぱつちりした眼のわなをお張り、僞善ぎぜんの花よ、無言むごんの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
さふらへど紅茶ならで番茶に梅干を添へたる給仕の心入れはうれしと思はれさふらふ。なほ聞けば、この梅干は給仕が自身の母の持たせししななるよしさふらふ。この少女をとめ鈴木と云ふ名なるよしにさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
国境の峠を越して来る祭客の中に交つて来る少女をとめ達、大阪から来る親類の少女をとめ達、其等それらいづれも平常ふだんに逢ふことが稀で、大方は一年振で祭に出逢ふ人達なのですから、その一かうかう
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
楽しい追憶おもひでの情は、唐人笛の音を聞くと同時に、丑松の胸の中に湧上わきあがつて来た。朦朧おぼろげながら丑松は幼いお妻のおもかげを忘れずに居る。はじめて自分の眼に映つた少女をとめの愛らしさを忘れずに居る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「埋葬曲」は洋琴ピアノ作曲家として何人なんびとも企て及ばざる Chopin が藝術の極致を示したもので、波蘭土革命ポーランドかくめいの騷亂に殉死した一青年の埋葬に戀する許嫁いひなづけ少女をとめが會葬の人々の立去つたあと
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
胸張り肩そびえたる士官の、まだ維廉ヰルヘルム一世の街に臨めるまどり玉ふ頃なりければ、様々の色に飾り成したる礼装をなしたる、かほよ少女をとめ巴里パリーまねびのよそほひしたる、彼も此も目を驚かさぬはなきに
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
⦅いつたい、どうしたつていふのだらう?⦆さう思ひながら、もう少し近く忍び寄ると彼は一本の樹の後ろへ身をかくした。まともに月光を浴びてこちらを向いてゐる少女をとめの顔が輝やいて見える……。
少女をとめなれば姿は羞ぢて君に倚る心天ゆく日もありぬべし
晶子鑑賞 (新字旧仮名) / 平野万里(著)
玉名のや少女をとめ索緒くちたて煮る繭のころろ小をどる玉白かりき
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
手に雲雀料理をささげつつ歩みゆく少女をとめあり
いのちみじかし、こひせよ、少女をとめ
ゴンドラの唄 (旧字旧仮名) / 吉井勇(著)