天蓋てんがい)” の例文
天蓋てんがいの下をのぞくと、だんなが業平なりひら、あっしが名古屋山左衛門さんざえもんていう美男子だからね。ときに、この尺八ゃどこへどう差すんですかい
また三世勝三郎の蓮生院れんしょういんが三年忌には経箱きょうばこ六個経本いり男女名取中、十三年忌には袈裟けさ一領家元、天蓋てんがい一箇男女名取中の寄附があった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
娘師むすめし邯鄲師かんたんし、源氏追い、四ツ師、置き引き、九官引き、攫浚付かっさらいつけたり天蓋てんがい引き、暗殺あんさつ組の女小頭こがしら、いろいろの商売を持っております」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大きな須弥壇しゆみだん金鍍きんめつきをした天蓋てんがい賓頭盧尊者びんづるそんじやの木像、其処此処に置かれてある木魚、それを信者達は代る代るやつてきてたゝいた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
見ると、鼠木綿ねずもめんの宗服を着たのが、虚無憎とみえますが、蠅をうけた以上、無論、掛絡けらく天蓋てんがいぎとられているので顔はさらしている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青葉の頃、ベンチに腰かけて上を仰ぐと、私の頭上高く、緑の天蓋てんがいが覆いかぶさっていて、私はうっとりとしていい気分になるのであった。
犬の生活 (新字新仮名) / 小山清(著)
そのくるま手長蜘蛛てながぐもすね天蓋てんがい蝗蟲いなごはねむながい姫蜘蛛ひめぐもいと頸輪くびわみづのやうなつき光線ひかりむち蟋蟀こほろぎほねその革紐かはひもまめ薄膜うすかは
老人が立ち上がって尋ねると、お嬢さんはムクムクとベッドの上に起き上がって、天蓋てんがいの薄絹をかき分け、やっとその寝間着ねまき姿を現わした。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
立木はこの芝生の中に残されているので、道路を縦から見ると、両側の大木の柱が、双方から空をおおって、緑の天蓋てんがいがずっとつづいている。
ウィネッカの秋 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
地底の国の模糊たる天蓋てんがい。想像を超えた、高いたかい地殻の裏側が、ここで曇日のような曖昧な空をつくっているのだった。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
三根夫はあのにくむべき悪党に、天蓋てんがいのところで出会って、あとでふり切って逃げたが、あのあと、まだ何か悪いことをしていたのであろうか。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
刑場のまわりにはずっと前から、大勢おおぜいの見物が取り巻いている。そのまた見物の向うの空には、墓原の松が五六本、天蓋てんがいのように枝を張っている。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
虚無僧の天蓋てんがいはどんな頭でも顏でも隱せるし、宗次郎を殺して茶店の裏から逃込んで、着物を換へるのは、ほんの煙草二三服のひまで出來るからなア
蜀紅しょくこうにしきと言う、天蓋てんがいも広くかかって、真黒まくろ御髪みぐし宝釵ほうさいの玉一つをもさえぎらない、御面影おんおもかげたえなること、御目おんまなざしの美しさ、……申さんは恐多おそれおおい。
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たとえば百済くだら観音は仕切った一室にただひとり安置されてある。新しい天蓋てんがい蓮台れんだいもつくられた。すべては美々しくよそおわれ、花もささげられてある。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
寝台は色あせてはいたが、豪華な紋緞子もんどんすで、高い天蓋てんがいがついており、張出し窓と反対側の壁のくぼみのなかにあった。
そしてそれは彼女にとって、どんなにか慰安だったろう!……二人は低く泣きながら、天蓋てんがいのような重々しい雲の移りゆく下で、音楽に耳を傾けた。
私が訪れた夜は恰度ちょうど彼樹庵は、見すぼらしい衣を身に纏い、天蓋てんがいを被った蒼古な虚無僧こむそうのいでたちで、右手に一管の笛、懐ろにウィスキイを忍ばせつつ
放浪作家の冒険 (新字新仮名) / 西尾正(著)
自分は、死んだ祖母に手を引かれて堂に上ると彼方に、蝋燭ろうそくの火がゆらいでいる。其処の一段高い、天蓋てんがいの下には、赤い袈裟けさをかけた坊さんが立っていた。
過ぎた春の記憶 (新字新仮名) / 小川未明(著)
たった、ひとりで踊場にあらわれるレデーの香入りの天蓋てんがいの下で、僕は曲線のあるウィンクを感じながら、女性の罠と、慇懃いんぎんな精神のむなさわぎをける。
十世紀にできた宇治うじ鳳凰堂ほうおうどうには今もなお昔の壁画彫刻の遺物はもとより、丹精たんせいをこらした天蓋てんがい、金をき鏡や真珠をちりばめた廟蓋びょうがいを見ることができる。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
法隆寺のものでは、金堂の天蓋てんがいから取りおろしてこの室に列べられた鳳凰ほうおうや天人が特に興味の深いものである。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
みんな土葬でひつぎは三尺程高い箱棺で、それに蓮台れんだい天蓋てんがいとはお寺に備えつけのものを借りて来て、天蓋には白紙を張り、それに銀紙でまんじをきざんで張りつけ
いすの上に、ばらいろのくもの巣でおった天蓋てんがいがつるしてあって、それにとてもきれいなみどり色したかわいいはえが、宝石をちりばめたようにのっていました。
天蓋てんがいの、華鬘けまんの、金襴きんらんの帯の、雲の幾流は、になびき、なびきて朱となり、褪紅たいこうとなり、灰銀かいぎんをさえまじえたやわらかな毛ばだちのかばとなり、また葡萄紫となった。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
天蓋てんがいのない建物の屋根の上に、わずかにとりすがっている僕等だから、豪雨には徹底的にたたきつけられる。が、この豪雨は、また漂流者にとって天の恵みでもあった。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
着飾つた坊さん、はだし位牌いはい持ち、ひつぎ、——生々しい赤い杉板で造つた四斗だるほどの棺桶くわんをけで、頭から白木綿で巻かれ、その上に、小さな印ばかりの天蓋てんがいが置かれてある。
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
こればかりは本式らしい金モールと緋房ひぶさを飾った紫緞子むらさきどんすの寝台が置いてあって、女王様のお寝間ねまじみた黄絹きぎぬ帷帳とばりが、やはり金モールと緋房ずくめの四角い天蓋てんがいから
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その電車は床の上に何本かの柱があって風通しのめに周りの囲い板はなくわずか天蓋てんがいのような屋根を冠っているだけである。いやし難い寂しい気持ちが、私の心を占める。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
すぐ身近なところに大きな説教壇があり、その小さな、まる天蓋てんがいには、半ば横になって二つの黄金のの十字架がつけられてあり、そのいちばん尖端せんたんで相交わっていた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
ルイ十四世が身を置いた天蓋てんがいの下から老王シャール十世を取り出し、それを静かに地に置いた。王家の人々に手を触るることを、国民はただ悲しみと用心とをもってしたのである。
天蓋てんがいしょう篳篥ひちりき、女たちは白無垢しろむく、男は編笠をかぶって——清楚せいそな寝棺は一代の麗人か聖人の遺骸いがいをおさめたように、みずみずしい白絹におおわれ、白蓮の花が四方の角を飾って
しかれどもいやしくも人民多数の愉快・満足・幸福の公平なる分配あらずんばかの金冕きんべん・鉄冠・天蓋てんがい・勲章の燦爛さんらんたるも、武備の絢美けんびなるも、広大なる植民地も、雄巨なる帝国も
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
新子は、笑いながら、大きなハンカチーフを拡げて、頭から天蓋てんがいのようにしながら
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そのチー・リンボチェの法服を着けて法王と共に天蓋てんがい付の絹の大傘の下にしずしずと歩んで来られたが、この方が出られた時分には先のネーチュンなる神下かみおろしをあざけって居った僧侶も
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
る東京の大使館から売り物に出た、天蓋てんがいの附いた、白い、しゃのようなとばりの垂れている寝台で、これを買ってから、ナオミは一層寝心地がよいのか、前よりもなお床離れが悪くなりました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
すなはち京都四条坊門しじょうぼうもんに四町四方の地を寄進なつて、南蛮寺の建立を差許さるる。堂宇どうう七宝しっぽう瓔珞ようらく金襴きんらんはたにしき天蓋てんがいに荘厳をつくし、六十一種の名香は門外にあふれて行人こうじんの鼻をば打つ。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
はらさんと夫より播州さしてぞいそぎける所々方々と尋ぬれど行衞ゆくゑは更にしれざりしが或日途中とちうにて兵助に出會であひしも六郎右衞門は天蓋てんがいかふりし故兵助は夫ともしら行過ゆきすぎんとせしに一陣のかぜふき來り天蓋を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
大法鼓だいほうこを鳴らし、大法螺だいほうらを吹き、大法幢だいほうとうてて王城の鬼門をまもりしむかしは知らず、中堂に仏眠りて天蓋てんがい蜘蛛くもの糸引く古伽藍ふるがらんを、いまさらのように桓武かんむ天皇の御宇ぎょうから堀り起して、無用の詮議せんぎ
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天蓋てんがいには、瓔珞ようらく羅網らもう花鬘けまん幢旛どうばん、仏殿旛等。
き当った天蓋てんがい
原爆詩集 (新字新仮名) / 峠三吉(著)
「なるほど、いつもながらの侠気おとこぎじゃ。恋はすれど意気地もなく、天蓋てんがいの下に身をかくしている、この弦之丞などは面目ない」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ眼は大勢おおぜいの見物の向うの、天蓋てんがいのように枝を張った、墓原はかはらの松を眺めている。その内にもう役人の一人は、おぎんの縄目をゆるすように命じた。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
虚無僧の天蓋てんがいはどんな頭でも顔でも隠せるし、宗次郎を殺して茶店の裏から逃込んで、着物を換えるのは、ほんの煙草二三服のひまで出来るからなア
それはアドロ彗星の砲撃がますますはげしくなり、ガンマ星の天蓋てんがいをぼンぼンと破壊しはじめたからであった。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
部分的に見ると左端の菩薩や天蓋てんがいの右の天人などは非常に美しい。いろいろな像の布置もなかなか巧みである。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
かげの夫婦は手で抱合うて、かくす死恥旗天蓋てんがいと、蛇目傘じゃのめ開いて肩身をすぼめ、おとせ、あれあれ草葉の露に、青いかすかな蛍火一つ、二つないのは心にかかる。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大空おおぞらは、まんまんとして、はらうえあお天蓋てんがいのように、無限むげんにひろがっているし、やわらかなくさは、うつくしい敷物しきもののごとく、地上ちじょうのとどくかぎりしげっていました。
太陽と星の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「見事見事。ほめてやってもいいよ」虚無僧姿のイスラエルのお町、天蓋てんがいの中で愉快そうに笑った。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
右門は凛然りんぜんとして、もはやむっつり右門にかえり、江戸から用意の雪駄せったをうがち、天蓋てんがいを深々と面におおい、腰には尺八をただ一つおとし差しにしたままで、すうと表のやみの中へ