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御面影
蜀紅の
錦と言う、
天蓋も広くかかって、
真黒き
御髪の
宝釵の玉一つをも
遮らない、
御面影の
妙なること、
御目ざしの美しさ、……申さんは
恐多い。
右の
歌を
歌い
終ると
共に、いつしか
私の
躯は
荒れ
狂う
波間に
跳って
居りました、その
時ちらと
拝したわが
君のはっと
愕かれた
御面影——それが
現世での
見納めでございました。
思いがけなき所にて思いがけなき君の姿を見申
候。たとい装いを変え給うとも、三年このかた
夢寐にも忘れぬ
御面影を、いかで見逃し候べき。
妾は始めより頭巾の女の君なる事を承知
仕候。