可厭いや)” の例文
おいら可厭いやだぜ。」と押殺した低声こごえ独言ひとりごとを云ったと思うと、ばさりと幕摺まくずれに、ふらついて、隅から蹌踉よろけ込んで見えなくなった。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何の因果で此様こん可厭いやおもいをさせられる事か、其は薩張さっぱり分らないが、唯此可厭いやおもいを忍ばなければ、学年試験に及第させて貰えない。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
お前が可厭いやなものを無理においでといふのぢやないのだから、断るものなら早く断らなければ、だけれど、今になつて断ると云つたつて……
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
うちへ二晩泊って帰るんだそうだ。し乃公が音なしければ、一緒に連れて行って呉れる約束だ。お春は可厭いやな奴だ。お花さんが
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「こんなお子さんがお有んなさるの」と言ったそこの家の内儀さんからも多勢の女中からも可厭いやにジロジロ顔を見られたことを思出した。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
片目の小さい、始終唇を甜め廻す癖のある、鼻の先に新聞記者がブラ下つてる樣な擧動やうすや物言ひをする、可厭いやな男であつた。
札幌 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
きふしました、『だれあたましたへおろしてくれゝばいなァ!もうたツ一人法師ひとりぽつちるのは可厭いやになつてしまつたわ!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
あの人の可厭いやなむら気で誰が苦しむんだい? いつでもあの人自身じゃないか。たとえばさ、あの人は僕達が嫌いだと云うようなことを思い附く。
千代 まあ、ほんまに夫れはけしいことぢや。今年は何やら可厭いやな年ぢや。出来秋ぢや、出来秋ぢやと云うて米は不作。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
あの可厭いやと思った学生の声でしたから、私達は急いで停車場を出て、待たせて置いたうちの俥に乗って帰ったのでした。
昇降場 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
三人のうちで、一番たけの高いお山と云ふ女がひよい振顧ふりむくと、『可厭いやだよ。誰かと思つたらお大なんだよ。』と苦笑にがわらひしながらばつが惡いと言ふていで顏を見る。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そこへ塩気しおけがつく、腥気なまぐさっけがつく、魚肉にく迸裂はぜて飛んで額際ひたいぎわにへばり着いているという始末、いやはや眼も当てられない可厭いやいじめようで、叔母のする事はまるで狂気きちがいだ。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そうだ、この可厭いやな気持からまぬかれるためには、やっぱりあの女に逢いに行くほかない。なに、庄左衛門は女のために大義をあやまったかもしれないが、俺の怖ろしいものは別にある。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
村瀬は誘はれると、可厭いやとも云へないで、賑やかな光景を見物してゐたが、映画やスポーツや音楽や文学の話が、それからそれへ続いてゐても、一言でも口のはさめた験しもなかつた。
女に臆病な男 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
お蔦 可厭いやだ、はじめて気が付いたやうに貴方、何うかしてゐるんだわ。
上野界隈 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
する物と見えたり成程此宿このしゆく繁花はんくわにて家數も多く作りて立派なり晝前なるに料理屋に三味線さみせんの音ありさだめて木曾の歌の古雅なるならんと立寄れば意氣がりて爪彈つめびきで春雨いらぬ事ながら何やら憎く思はれぬ道中筋の繁花な所といふと得て生意氣な風が吹て可厭いやな臭がしたがる者なり賢くも昨夜ゆふべの宿を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
……ものおしみをするようで可厭いやだから、ままよ、いくらでも飲みなさい。だが、いまの一合たっぷりを、もう一息にやったのかい。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貴女が可厭いやだつたらすぐに帰りますよ、ねえ。それはなかなか好い景色だから、まあ私にだまされたと思つて来て御覧なさいな、ねえ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そりやあもう、政事屋なんてものは皆なきたない商売人ですからなあ——まあ、其道のもので無ければ、可厭いやな内幕もく解りますまいけれど。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
片目の小さい、始終しよつちゆう唇をめ廻す癖のある、鼻の先に新聞記者がブラ下つてる様な挙動やうすや物言ひをする、可厭いやな男であつた。
札幌 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
物は最初はじめが大切だそうだ。初めて逢った時可厭いやだと思った人は何時までも可厭だとは、お花姉さんの始終しょっちゅう言う事だ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
悠々として天命を楽むのは実にえらい。例えば「死」なる問題は、今の所到底理論の解決以外だ。が、解決が出来たとした所で、死は矢張やっぱ可厭いやだろう。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
『まァ、可厭いや動物どうぶつだこと、ひと命令いひつけたり、ひと學課がくくわのやりなほしをさせたりして!』とあいちやんはおもひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
『何だね此人は。さう云ふお前は何だえ。』とお山は憎さげにお大の顏を見詰めて、『今日は酒にでも醉つてるんぢやないかい。可厭いやに人に突かゝるぢやないか。 ...
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
京都を歩いて居ると無用のものが多く、だだぴろくてきに可厭いやになるが、大阪に至つては街區のどの一角を仕切り取つても活溌な生活ラ・ヰイの斷片を掴む事が出來るやうに感ぜられる。
京阪聞見録 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
九輪請花露盤宝珠くりんうけばなろばんほうじゅの体裁までどこに可厭いやなるところもなく、水際みずぎわ立ったる細工ぶり、これがあの不器用らしき男の手にてできたるものかと疑わるるほど巧緻たくみなれば、独りひそかに歎じたまいて
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
『何だか可厭いやな人だわ。』
昇降場 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「勿論、久しく煩いましても可厭いや言種いいぐさだが、とにかくだ、寝ているからおいで下すっても失礼します、いずれそのうち、ご挨拶だ。」
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
定めし、文平は婦人をんな子供こどもと見て思ひあなどつて、自分独りが男ででも有るかのやうに、可厭いや容子ようすを売つて居ることであらう。さぞ
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
不図ふつとさう思出おもひだしたら、毎日そんな事ばかり考へて、可厭いや心地こころもちになつて、自分でもどうかたのかしらんと思ふけれど、私病気のやうに見えて?
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
甲田さんも随分好事ものずきな事をする人ですなあ。乞食してゐて五十銭も貰つたら、俺だつて歩くのが可厭いやになりますよ。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ると、自分じぶんまへには女王樣ぢよわうさまが、うでこまねいてつてられました、苦蟲にがむしみつぶしたやうな可厭いやかほして。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
乃公は実際学校が可厭いやになった。斯ういう処に長居をすると碌な事を覚えない。善ちゃんは紙を丸めて人の頭に打付ぶっつけて知らん顔をしている法を教えてくれた。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
背負揚しよいあげのうちに、何等なんら秘密ひみつがあらうとはおもはぬ。が、もしつたら如何どうする?とさけんだのも、おそら猜疑心さいぎしんであらう。わたしはそれをかんずると同時どうじに、めう可厭いやした。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「ああ、分った! 匂袋においぶくろだ」、と図星を言ったつもりでいうと、雪江さんは吃驚びっくりして、「まあ、可厭いやだ! 匂袋においぶくろだなんぞッて……其様そんな物は編物にゃなくッてよ。」匂袋においぶくろでもないとすると
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
椽木たるき割賦わりふり九輪請花露盤宝珠くりんうけばなろばんはうじゆの体裁まで何所に可厭いやなるところもなく、水際立つたる細工ぶり、此が彼不器用らしき男の手にて出来たるものかと疑はるゝほど巧緻たくみなれば、独りひそかに歎じたまひて
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
……私は可厭いやな事を聞いた、しかし、祖母と小さい弟妹を死なせて水戸屋を背負って生残いきのこったと言う娘分、——あの優しいおんなたしかにと
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
意地の悪い烏は可厭いや軽蔑けいべつしたやうな声を出して、得たり賢しと頭の上をいて通る。あゝ、鳥ですら斯雪の上に倒れる人を待つのであらう。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
娘の帰つた後、一人ニヤニヤと可厭いやな笑方をして、炉端に胡坐あぐらをかいてると、屹度、お由がグデングデンに酔払つて、対手なしに悪言あくたいき乍ら帰つて来る。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
(三)は金港堂きんこうどう優勢いうせいおされたのです、それでも経済けいざいの立たんやうな事は無かつたのです、しからうおほくしてをさむる所がきはめて少いから可厭いやつてしまつたので、石橋いしばしわたし連印れんいん
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ただ解決が出来れば幾分かあきらめが付き易い効はあるが、元来「死」が可厭いやという理由があるんじゃ無いから——ただ可厭いやだから可厭いやなんだ——意味が解った所で、矢張やっぱり何時迄も可厭いやなんだ。
予が半生の懺悔 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
今日けふのやうな天候てんこうは、べつしてもあたま差響さしひゞく。わたしくのも可厭いやひとられるのも、ひと訪問はうもんするのも臆劫おつくうつたかたちで——それならてゞもゐるかとおもふと、矢張やつぱりきて、つくゑすわつてゐる。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
その何ですとさ、会社の重役の放蕩息子どらむすこが、ダイヤの指輪で、春の歌留多かるたに、ニチャリと、お稲ちゃんの手をおさえて、おお可厭いやだ。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『屹度、なんですよ。先生からおあしを貰つたから歩くのが可厭いやになつて、日の暮れまで何處かで寢てゐて、日が暮れてから、そつと歸つて來て此村へ泊つて行つたんですよ。』
葉書 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
成さるでしょう……可厭いやだ、可厭だ……私は一生かかって憎んでも足りない……
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
学科は何時迄いつまでっても面白くも何ともないが、たとえば競馬へ引出された馬のようなもので、同じような青年と一つ埒入らちないに鼻を列べて見ると、まけるのが可厭いやでいきり出す、矢鱈やたら無上むしょうにいきり出す。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ばれた坂上さかがみは、こゑくと、外套ぐわいたうえりから悚然ぞつとした。……たれ可厭いやな、何時いつおぼえのある可忌いまはしい調子てうしふのではない。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
『屹度、なんですよ。先生からおあしを貰つたから歩くのが可厭いやになつて、日の暮れるまで何処かで寝てゐて、日が暮れてからそつと帰つて来て此村ここへ泊つて行つたんですよ。』
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
可厭いやだ——可厭だ——」
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
可厭いや大袈裟おほげさあらはしたぢやねえか==陰陽界いんやうかい==なんのつて。これぢや遊廓くるわ大門おほもんに==色慾界しきよくかい==とかゝざあなるめえ。」
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)