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只
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ただ
ふりがな文庫
“
只
(
ただ
)” の例文
読者諸君が、さようになやんでいるのを、作者は意地わるい微笑をうかべて、悪魔じみた楽しさを
只
(
ただ
)
一人味わいたいつもりではない。
四次元漂流
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
謁見室には
只
(
ただ
)
一人宮相だけが残っていた。夜と昼との境目の、微妙な灰色の外光を、窓から
幽
(
かすか
)
に受けながら、彼は思いに沈んでいる。
闘牛
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「夫婦てえものはおめえ、二人で蜜柑の木を育てるようなもんだ、その他人の育てた蜜柑をよ、
只
(
ただ
)
で取って食うって法はねえもんだ」
青べか物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
むろん
此等
(
これら
)
の人達は、すでに地上とはきれいに絶縁して
了
(
しま
)
い、彼等の墓石の上に、哀悼の涙を
濺
(
そそ
)
ぐものなどは、
最早
(
もはや
)
只
(
ただ
)
の一人もない。
霊訓
(新字新仮名)
/
ウィリアム・ステイントン・モーゼス
(著)
只
(
ただ
)
その周囲の処に人がドヤ/″\
群集
(
ぐんしゅう
)
して居るだけである。
夫
(
そ
)
れゆえ大きな声を出して
蹴破
(
けやぶ
)
って中へ
飛込
(
とびこ
)
みさえすれば誠に楽な話だ。
福翁自伝:02 福翁自伝
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
▼ もっと見る
どうも節ちゃんの様子がおかしいぞなし、あの
娘
(
こ
)
に
訊
(
き
)
いても泣いてばかりいるが、どうもこれは
只
(
ただ
)
ではない、
貴方
(
あなた
)
がまた
下手
(
へた
)
なことを
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
が、それには一応
何時
(
いつ
)
もの須山らしい調子があるようで、しかし
如何
(
いか
)
にも取ってつけた
只
(
ただ
)
ならぬさがあった。それが
直接
(
じか
)
に分った。
党生活者
(新字新仮名)
/
小林多喜二
(著)
たとへ、東京へ出ないとしても、私には
只
(
ただ
)
規丁面
(
きちやうめん
)
でこち/\にかたまつた義雄のやうな青年に、なんの魅力をも感じられなかつたのだ。
念仏の家
(新字旧仮名)
/
小寺菊子
(著)
娘は村を追ひ出されても
行
(
ゆ
)
く先もありませぬ、又乞食する
術
(
すべ
)
も知らず
只
(
ただ
)
声を限りに泣き叫びながら広い/\野原の方へ参りました。
金銀の衣裳
(新字旧仮名)
/
夢野久作
(著)
しかし、伸子の耳には這入らないのか、
只
(
ただ
)
一刺にと、足を一歩踏み出した。玉島はぎゃっと云う鳥の絞められるような声を出した。
罠に掛った人
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
わたくしとしましては
只
(
ただ
)
そのお心根がいじらしく、おん痛わしく、お頼みにまかせて
文
(
ふみ
)
使いの役目を勤めておったのでございます。
雪の宿り
(新字新仮名)
/
神西清
(著)
男子はもとよりこれに必死となっているが、女性の側でも
只
(
ただ
)
これを傍観して、蔭であれあれと言っている時代ではあるまいと思う。
木綿以前の事
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
いい着物を着て、
美味
(
うま
)
い物を食べて、立派な家に住み
度
(
た
)
いと思わぬ事は無いが、
只
(
ただ
)
それが出来ぬから、こんな処で甘んじて居る。
文士の生活:夏目漱石氏-収入-衣食住-娯楽-趣味-愛憎-日常生活-執筆の前後
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
「実は、私は青木君のお友達ではありません。
只
(
ただ
)
偶然、同じ自動車に乗り合わしたものです。そして青木君の臨終に居合せたものです。」
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
只
(
ただ
)
この日記が、偉大なる山岳を汚損する如き傾向を、僅かなりとも読者の心に与えなければ、私はそれを以て充分に満足する。
スウィス日記
(新字新仮名)
/
辻村伊助
(著)
「いゝえ、外へ出なくてもいゝのだよ、
只
(
ただ
)
そこへ
坐
(
すわ
)
つたまゝ、この傘の下に入れば、
直
(
す
)
ぐ行かれるんだ、いゝかね、ほうれ。」
夢の国
(新字旧仮名)
/
宮原晃一郎
(著)
そして一時捜査本部は新しい捜査に色めき立ったが、
然
(
しか
)
し依然として何んの得る所もなかった。
只
(
ただ
)
隣家の広瀬医師から一つの証言があった。
雪
(新字新仮名)
/
楠田匡介
(著)
赤い
焔
(
ほのお
)
に
包
(
つつ
)
まれて、
歎
(
なげ
)
き叫んで手足をもだえ、落ちて参る五人、それからしまいに
只
(
ただ
)
一人、
完
(
まった
)
いものは
可愛
(
かわい
)
らしい天の
子供
(
こども
)
でございました。
雁の童子
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
二人が兄弟も
只
(
ただ
)
ならず、懇意だということを、岡ッ引きに告げてやりゃあ、雪さんだって、
安穏
(
あんのん
)
にいられるわけがないんだ——
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
僕は
只
(
ただ
)
それだけを心がけてゐる。それだけでもペンを持つて見ると、
滅多
(
めつた
)
にすらすら行つたことはない。必ずごたごたした文章を書いてゐる。
文章と言葉と
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
源之助の屍体には、喜三郎の屍体に見られた様な打撲傷や
擦
(
かす
)
り傷はなかった。
只
(
ただ
)
、心臓の上に、同じ様な刺傷があるだけだ。
カンカン虫殺人事件
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
只
(
ただ
)
ごうっと吹く風の音、ばらばらっと板屋を打つ雨の音に
許
(
ばか
)
り神経は
昂進
(
たかぶ
)
るのである。新聞も読掛けてよした。雑誌も読掛けた
儘
(
まま
)
投げてやった。
大雨の前日
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
むんずと飛びついて来た千草の股引は、これは
只
(
ただ
)
の股引ではありませんでした。充分に腕に覚えのある捕手の一人でした。
大菩薩峠:38 農奴の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
これは
只
(
ただ
)
の
慰
(
なぐさ
)
めの
言葉
(
ことば
)
よりも
幾分
(
いくぶん
)
かききめがあったようで、
母
(
はは
)
はそれからめっきりと
楽
(
らく
)
になって、
間
(
ま
)
もなく
気息
(
いき
)
を
引
(
ひ
)
きとったのでございました。
小桜姫物語:03 小桜姫物語
(新字新仮名)
/
浅野和三郎
(著)
只
(
ただ
)
、青い海に浮んだ白い大都市が、
燦然
(
さんぜん
)
と、迫ってきた、あの感じが、いつもぼくに、ある
永劫
(
えいごう
)
のものへの旅を誘います。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
只
(
ただ
)
一湖を描けるのみなるを以て、推測する材料の乏しきに苦しむ次第なりといわれ、津婦良沼又はツウラ沼なる名は前記三湖の総名とするよりも
古図の信じ得可き程度
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
すると、坊様は、折角、幸吉が丹念に拵えたものを
只
(
ただ
)
で貰うは気の毒、これを
彼児
(
あれ
)
へお小遣いにやって下さいと
一分銀
(
いちぶぎん
)
を包んで師匠へ渡しました。
幕末維新懐古談:17 猫と鼠のはなし
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
どこの小屋へも、長いので
脅
(
おど
)
かして、
只
(
ただ
)
で入る野郎です。それが孝行藤六の妹のお春に心をかけ、執念深く言い寄って
弾
(
はじ
)
かれたので、藤六にケチを
銭形平次捕物控:092 金の茶釜
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
只
(
ただ
)
りよ一人平作の家族に
気兼
(
きがね
)
をしながら、
甲斐々々
(
かいがい
)
しく立ち働いていたが、
午頃
(
ひるごろ
)
になって細川の奥方の
立退所
(
たちのきじょ
)
が知れたので、すぐに見舞に往った。
護持院原の敵討
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
只
(
ただ
)
で乗せて伴れて行つて貰へるからこそ出て来たほどの貧しい身には、世話になるは気の毒だとは思ふが、しかし酒を買ふほどの余裕はなかつた。
朝
(新字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
徒らに
只
(
ただ
)
犇
(
ひし
)
めいている間を、わが退屈男はいとも自若として押し進みながら、珠数屋の大尽の囚われ先はいずくぞと、ひたすらに探し求めました。
旗本退屈男:04 第四話 京へ上った退屈男
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
純粋経験の事実においては主客の対立なく、精神と物体との区別なく、心即物、物即心、
只
(
ただ
)
一個の現実あるのみである。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
から、
強
(
あなが
)
ちそればかりを怒ッた訳でもないが、
只
(
ただ
)
腹が立つ、まだ何か
他
(
た
)
の事で、おそろしくお勢に
欺
(
あざむ
)
かれたような心地がして、訳もなく腹が立つ。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
どのようにしてどう
飜訳
(
ほんやく
)
してよいのか、「まことに
艫舵
(
ろだ
)
なき船の大海に乗出せしが如く、
茫洋
(
ぼうよう
)
として寄るべなく、
只
(
ただ
)
あきれにあきれて居たる
迄
(
まで
)
なり」
パンドラの匣
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
翌朝
(
よくちょう
)
彼
(
かれ
)
は
激
(
はげ
)
しき
頭痛
(
ずつう
)
を
覚
(
おぼ
)
えて、
両耳
(
りょうみみ
)
は
鳴
(
な
)
り、
全身
(
ぜんしん
)
には
只
(
ただ
)
ならぬ
悩
(
なやみ
)
を
感
(
かん
)
じた。そうして
昨日
(
きのう
)
の
身
(
み
)
に
受
(
う
)
けた
出来事
(
できごと
)
を
思
(
おも
)
い
出
(
だ
)
しても、
恥
(
はずか
)
しくも
何
(
なん
)
とも
感
(
かん
)
ぜぬ。
六号室
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
密閉主義の日比野の家でも、衛生には
殊
(
こと
)
に神経質のおふみが、何かとこの青年に健康の相談をかけ、出入を許してゐる
只
(
ただ
)
一人の親戚といふことが出来る。
蝙蝠
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
ちと人が悪いようなれども一切
只
(
ただ
)
にて拝見したる報いは
覿面
(
てきめん
)
、腹にわかに痛み出して一歩もあゆみ難くなれり。
半日ある記
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
事実時代というものは
只
(
ただ
)
それだけの浅薄愚劣なものでもあり、日本二千年の歴史を
覆
(
くつがえ
)
すこの戦争と敗北が果して人間の真実に何の関係があったであろうか。
白痴
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
「そんな
料簡
(
れうけん
)
でなく
私
(
わたし
)
は
自分
(
じぶん
)
のが
伐
(
き
)
つたんですつていへば、そんでいゝやうに
始末
(
しまつ
)
してやるだから」
内儀
(
かみ
)
さんが
力
(
ちから
)
を
附
(
つ
)
けて
見
(
み
)
ても
勘次
(
かんじ
)
は
只
(
ただ
)
首
(
くび
)
を
俛
(
た
)
れて
居
(
ゐ
)
る。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
東金の寓舎にあっては「只道悪帰勝美遊」〔
只
(
ただ
)
道
(
おも
)
フ悪帰ハ美遊ニ
勝
(
まさ
)
ルト〕といい泉村を過ぎては「山風不管帰愁切。」〔山風管セズ帰愁切ナリ〕の語を洩した。
下谷叢話
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
只
(
ただ
)
で置いたら、みんな只でおかねばならなくなる。病院にはいるのに入院料がいる位の事は子供でも知つてることだ。それにお前はキリスト教信者ぢやないだらう。
こほろぎの死
(新字旧仮名)
/
村山籌子
(著)
一大事と申すは、今日、
只
(
ただ
)
今の心なり。それをおろそかにして、翌日あることなし。
凡
(
すべ
)
ての人に遠きことを思えば、
謀
(
はか
)
ることあれど、『的面の今』を失うに心つかず
般若心経講義
(新字新仮名)
/
高神覚昇
(著)
耳まで
鞘
(
さや
)
を払った刀身の如く、鋭利になって、触るれば手応えあらんずるとき、幻は微小なる黒体となって、
毬
(
まり
)
の如く
独楽
(
こま
)
の如くに来た、この黒体が
只
(
ただ
)
一つ動くために
奥常念岳の絶巓に立つ記
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
向日葵
(
ひまわり
)
、
毎幹
(
まいかん
)
の
頂上
(
ちょうじょう
)
に
只
(
ただ
)
一花
(
いっか
)
あり、
黄弁大心
(
おうべんたいしん
)
、
其
(
そ
)
の形
盤
(
ばん
)
の
如
(
ごと
)
く、太陽に
随
(
したが
)
いて回転す、
如
(
も
)
し日が東に
昇
(
のぼ
)
れば
則
(
すなわ
)
ち花は東に
朝
(
むか
)
う、日が天に
中
(
なか
)
すれば
則
(
すなわ
)
ち花
直
(
ただ
)
ちに上に
朝
(
むか
)
う
植物知識
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
『顔を見たり、声を聞いたりしなければ』妻が答えた、——『もしあなたがあれをこの家から
只
(
ただ
)
外へやってさえ下されば——そうすれば憎しみを押える事ができましょう』
生霊
(新字新仮名)
/
小泉八雲
(著)
只
(
ただ
)
その活きた発散の源が現前して居ないので、無窮の供給が出来ぬ、随いて今老師の居間へ来て見ても、
頗
(
すこぶ
)
る物足りがせぬ。何だか寂しい、悲しい心持がして仕様がない。
楞迦窟老大師の一年忌に当りて
(新字新仮名)
/
鈴木大拙
(著)
一、余去年
已来
(
いらい
)
心蹟百変、挙げて数え難し。
就中
(
なかんずく
)
趙の
貫高
(
かんこう
)
を
希
(
こいねが
)
い、楚の
屈平
(
くっぺい
)
を仰ぐ、諸知友の知る所なり。故に子遠が送別の句に「燕趙の多士一貫高、荊楚の深憂
只
(
ただ
)
屈平」
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
「今降りて来る女はやりましたよ」と、
只
(
ただ
)
之れ丈け云って自分の人指ゆびを
鈎
(
かぎ
)
にして見せた。
乗合自動車
(新字新仮名)
/
川田功
(著)
馬鹿な
真似
(
まね
)
をするものでないと
叱
(
しか
)
り飛ばされて、余計なことをしなければよかつたと私も悔いたが、
只
(
ただ
)
併し、自分の書いたものが人に感動を与へ得るといふことに就いては
イボタの虫
(新字旧仮名)
/
中戸川吉二
(著)
電話はある銀行の重役をしている親類がいいかげんな
口実
(
こうじつ
)
を作って
只
(
ただ
)
持って行ってしまった。
或る女:1(前編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
“只”の意味
《名詞》
(ただ)無料。ロハ。
《形容動詞》
(ただ)その他のことに関わらず。
(出典:Wiktionary)
只
漢検準1級
部首:⼝
5画
“只”を含む語句
只今
只々
只管
真只中
只事
只中
只者
只一人
瓊姿只合在瑤台
只走
只一
只人
只見
只看唯我独尊山
弓削破只
愛玉只
只麼
只聞山鳥与渓声
只知君報国満腔気
只瞻
...