こお)” の例文
くらばんに、ゆきこおった、細道ほそみちあるいてゆくと、あちらからふえいて、とぼとぼとあるいてくるとしとった盲目めくら女按摩おんなあんまあいました。
塩を載せた船 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「もう、何べん空がめぐったでしょう。たいへんさむくなりました。海がなんだかこおったようですね。波はもう、うたなくなりました」
シグナルとシグナレス (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
すずりの水がこおった時に、酒をそそいでその水をとかしたので、それから酒を硯水というなどと、ありもしない故事こじを引用した者もある。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
昨夜来の寒波かんぱのためにすっかり冷え切っていて、早登庁はやとうちょうの課員の靴の裏にうってつけてあるびょうが床にぴったりこおりついてしまって
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何をつまらねエやつに、いつまで引ッかかっているんだ——といわないばかりの鼻先をこおらせて、木蔭こかげに、弥蔵やぞうをきめてかがんでいる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とうとうそれはかたかたこおってきて、子家鴨こあひるうごくとみずなかこおりがめりめりれるようになったので、子家鴨こあひるは、すっかりその場所ばしょこおり
彼女は、そのまゝ椅子にこおり付いたように、身体を小さくしながら、息を潜めて、母達が行き過ぎるのを待っていようと思った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
澹山はそっと壁がわをはなれて、縁側に出て耳をすますと、こおっている雪を踏み散らしてゆく足音が生垣の外へ遠くきこえた。
半七捕物帳:33 旅絵師 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
聞きながらこの曲の構想を得たのである手事の旋律せんりつは鶯のこおれる涙今やとくらんと云う深山みやまの雪のけそめる春の始めから
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
と、誰が——誰がとは何じゃ? きまっておる! あの、神尾喬之助に決まっておるではないか——玄蕃の顔に、浮かびかけた笑いがこおった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
首をたれ、顔色が青ざめ、眼がこおったように光っていた。かれはその眼をそろそろとあげ、じっと朝倉先生を見つめながら
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
喜多川歌麿きたがわうたまろの絵筆持つ指先もかかる寒さのためにこおったのであろう。馬琴ばきん北斎ほくさいもこの置炬燵の火の消えかかった果敢はかなさを知っていたであろう。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
積った雪はかたこおりついてともすればすってんころりんところばねばならぬ。折々、満州おろしが、雪交りの砂を遠慮なく顔や脚にたたきつける。
『夜の冷気も、やはり、空からおりてくるんだからね。ここにえる、わずかなものも、こおってしまやしないだろうか。』
家に居ると、朝から晩まで何やら厚ぼったい雑誌にふけってそれを煙草の灰だらけにするか、さもなければこお林檎りんごをむしゃむしゃやっていた。
あらぬ方を見る利吉の視線を追って行くと、物蔭にチラリと白いもの、——長崎屋の娘のお喜多が、そこからこおるような視線を送っているのでした。
それをかき消すようにクニ子や実枝の若い健康な寝息がすう、すう、と響いてくる。寒い、こおるような毎夜であった。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
私はそこでしばらくちながら、すやすや眠っているらしい女に、私がそうやって佇っていることを知らすまいと、こおったしきいの上に音もなく雨戸を閉めた。
童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そして一座を見渡したのち、広い母屋おもやを廻って、二人を三段のはしの所まで引き出し、こおった土の上に衝き落す。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ただむなしいものがいっぱい詰っている。そうして、それがしんとしてこおっている。隣の庭もその通りである。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
谷間の泉から、苦力が水をになって病院まで登って来る道々、こぼした水がこおって、それが毎日のことなので、道の両側に氷がうず高く、山脈のように連っていた。
雪のシベリア (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
妾はまた彼を愛して、はては互いに思い思われ、妾の入浴するごとに彼は来りてあかを流しくれ、また夜にればとこを同じうして寒天さむぞらこおるばかりの蒲団ふとんをば体温にて暖め
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
湯屋ゆやひろあつめたつめじゃァねえよ。のみなんざもとよりのこと、はらそこまでこおるようなゆきばんだって、おいらァじっとえんしたへもぐりんだまま辛抱しんぼうして苦心くしんたからだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
触るとおもっただけで、体中の血が、こおるほど、厭らしい。なぜだか、はっきり言えないが。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
そうしないと、肉はかちかちにこおってしまって、どうすることも出来なくなるのです。
負けない少年 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
あるに甲斐かいなく世をれば貧には運も七分しちぶこおりて三分さんぶの未練を命にいきるか、ああばかりに夢現ゆめうつつわかたず珠運はたんずる時、雨戸に雪の音さら/\として、火はきえざる炬燵こたつに足の先つめたかりき。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
生憎あいにく、この日は一段と寒さの激しい日で、見ていると、山の頂にかたまっては流れている雲の色さえ、そのままこおってしまうかと思われるような寒さで、それを見ながら、ああ、ああ
蕗の下の神様 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
そして弁当を元どおりに包んで腰にさげ、スケッチ帳をふところにねじこむと、こそこそと入り口に行って長靴ながぐつをはいた。靴の皮は夕方の寒さにこおって、鉄板のように堅く冷たかった。
生まれいずる悩み (新字新仮名) / 有島武郎(著)
にわかに、周囲まわりの空気がこおりつき、眼の中に、火のかたまりができたように思われる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
ぐつすりと寝込んで居た、仙台の小淵こぶちの港で——しもの月にひとめた、年十九の孫一の目に——思ひも掛けない、とも神龕かみだなの前に、こおつた竜宮の几帳きちょうと思ふ、白気はっき一筋ひとすじ月に透いて
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
こおったような姿勢で、琥珀色こはくいろ干涸ひからびた身体に向いあって立っている。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
私は熱した頭を冬の夜のこおった風にあてる為に、そこにあった庭下駄をつっかけて、フラフラと庭へ下りました。そして乱れた心そのままに、木立の間を、グルグルと果てしもなく廻り歩くのでした。
日記帳 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
舁「地蔵様の前に水がありますが、こおり切って居りやす」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
こおりついたように冷たくなってしまう。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
寒さにいきはむねに白くこおりました。空気がうすくなった為に、はねをそれはそれはせわしくうごかさなければなりませんでした。
よだかの星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
かわらへ立つと、寒さに、骨が鳴った。石ころだの、水溜りだの、こおっている足袋たびの先が痛い。夜更よふけまで彼は荻江節おぎえぶしを流して歩いた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あるのこと、おとこはいつものごとくかんがえながらあるいてきました。さむあさで、自分じぶんくちや、はなからいきしろこおってえました。
犬と古洋傘 (新字新仮名) / 小川未明(著)
さて、さむさは日々ひびにひどくなってました。子家鴨こあひるみずこおってしまわないようにと、しょっちゅう、そのうえおよまわっていなければなりませんでした。
話がおわったあと、しばらくは部屋中がこおったようにしんとしていた。かなりたって、塾生の一人が、だしぬけに
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
しかしいずれの視線も氷のようにこおりついていた。普通の場合だったら、どちらもぱっと頬を染めたであろうに。
千早館の迷路 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのころは、わたり鳥たちはよその国へいってしまい、ネズミたちはこおった地面の下にかくれ、ニワトリたちは小屋の中にとじこめられていたのですから。
そうしてにぎこぶしでたたいて、何枚わったというような瓦なのだから、火事にあっても、また寒さにこおってもすぐくだけて、火の用心にはあまりならなかった。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
空を見るとこおっているようであるし、うちの中にいると、陰気な障子しょうじの紙をとおして、寒さがみ込んで来るかと思われるくらいだのに、御米の頭はしきりにほてって来た。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
河はこおって、その上を駄馬に引かれたそりが通っていた。氷に滑べらないように、靴の裏にラシャをはりつけた防寒靴をはき、毛皮の帽子と外套をつけて、彼等は野外へ出て行った。
雪のシベリア (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
縄を解き、懐中ふところよりくし取りいだして乱れ髪けと渡しながら冷えこおりたる肢体からだを痛ましく、思わず緊接しっかりいだき寄せて、さぞや柱に脊中がと片手にするを、女あきれて兎角とかくことばはなく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いつしか、あきとなり、ふゆとなりました。ふゆには、さむい、さむがつづいたのでした。地面じめんこおって、かたくかちかちとなりました。
親木と若木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「かくては」と、玄徳は自ら心を励まし、御林の軍をひきいて、こおる帝旗を、さらに、猇亭こてい(湖北省・宜都の西方)まで進めた。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この子が何か答えるときは学者のアラムハラドはどこか非常ひじょうに遠くの方のこおったようにしずかな蒼黒あおぐろい空をかんずるのでした。
ふたりは帰ってくると、水はすっかりこおっていて、地面も見わたすかぎり雪でおおわれていると知らせました。
たちまちこおりついてしまって、穴は元どおりにふさがってしまったから、どこから地底戦車が入りこんだのか、ちっとも見たところでは、分らないのであった。
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)