人参にんじん)” の例文
旧字:人參
人参にんじんや大根を刻むことが道楽だといって片づけられているが、こんな荒っぽい女性に私たちはどんなキタイをかけたらいいのだろう。
平凡な女 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
下等の西洋料理屋ではその玉子へ水を割って玉子一つを十五人前位のカツレツに使うそうです。附合せが人参にんじんとジャガ芋位ですな。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「そいつは聴かない方がいい、——なア八、憎いのは町内の衆じゃなくて、人間を牛蒡ごぼう人参にんじんのように斬って歩く、辻斬野郎じゃないか」
沈香じんこう麝香じゃこう人参にんじんくま金箔きんぱくなどの仕入、遠国から来る薬の注文、小包の発送、その他達雄が監督すべきことは数々あった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
此近在の農人のうにんおのれが田地のうちに病鶴やめるつるありてにいたらんとするを見つけ、たくはへたる人参にんじんにて鶴の病をやしなひしに、日あらずやまひいえて飛去りけり。
そのシナの茶とアメリカ人参にんじんの往返が太平洋を忌避し、太平洋が帆船にとっても超ゆべからざる地表の大クレヴァスだったわけというのは——
猪や兎の肉でも悪くはないが、にらねぎ人参にんじんを刻みこんだたれで、味付けしながら気ながに焙った鹿の肉ほど、甲斐にとってうまい物はない。
『呂氏春秋』には不老長生の術を学び成した者が、虎に食われぬ法を心得おらなくて虎に丸呑みにされたとある、いわゆる人参にんじん呑んで縊死だ。
たゞこの植物の形が丁度支那の人参にんじんと等しく人間の形をして居るために(即ち根が又をなして人の脚の形をして居るゆゑ
毒と迷信 (新字旧仮名) / 小酒井不木(著)
うち、比島へ行ったから知っとるが、ちっちゃな尻尾を巻いて、三寸人参にんじんくわえたやつが、コンガリと焼けあがって、バナナの葉に載って出てくるよ
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
十二、三ばかりの、女の子が前かがみに何か線の細かなをすすいでいる、せりかときいてみるとかすかに顔を赤らめながら、人参にんじんの葉だという。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
馬鈴薯のみならずかぶ人参にんじんにも応用が出来るそうだから、我邦でも軍隊の炊事などに使えば便利かと思われる。如何にも米国人のこしらえそうな器械である。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
私はオデッサの大学を出ると直ぐ第三国際の宣伝員として黒海に沿うすべての都会の裏街で売春婦たちと一しょに人参にんじんと洗濯石鹸しゃぼんを食べて生活しました。
踊る地平線:09 Mrs.7 and Mr.23 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
軽く手をつや、そのくらに積めるままなるかぶ太根だいこ人参にんじんるい、おのずから解けてばらばらと左右に落つ。駒また高らかに鳴く。のりつけほうほう。——
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
村民は、清水を汲んで、陣地へにないこんでいた。いもを煮ていた。餅をついていた。馬も、草や人参にんじんくわえていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と頼りない日本語を言って、朝鮮人参にんじんを入れたアメで、子供相手の大道商売をやっている朝鮮人が眼に浮ぶ。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
麦はうねなしのばら蒔き、肥料を施さずしてよく出来たり。地味の豊饒思ふべし。春は野の花夥しく咲くと聞く。今はツユあをい、矢車、野しゆん菊、人参にんじんの類のみ。
たとえば一定量の人参にんじんのあるところへ猿が集まってきたとすれば、猿はおのおの自分の腹を充分に満たした上に、なお頬のふくろへもいっぱいに詰めこもうとするから
動物の私有財産 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
しかし佐橋家で、根が人形のように育った人参にんじん上品じょうひんを、非常に多く貯えていることが後に知れて、あれはどうして手に入れたものか、といぶかしがるものがあった。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ひげの中から顔が出ていてその半面をカンテラが照らす。照らされた部分が泥だらけの人参にんじんのような色に見える。「こう毎日のように舟から送って来ては、首斬くびきり役も繁昌はんじょうだのう」
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人参にんじんを、山ほど積んで浴びせかけるようにしてやれば、江戸から通しかごの外科も呼んだが、もう手遅れで、弁の奴、二、三日して、死んでしまやがったが——しかし、あいつあ
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
子供たちは菜園から人参にんじんや大根の土の香のぷんぷんする奴を引っこ抜いて駈け出して来る。……やがてこんどは長椅子に思いきり手足を伸ばして寝そべり、何か絵入り雑誌を眺める。
富籤 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
前垂まえだれがけの下から八百屋で買って来た牛蒡ごぼう人参にんじんを出してテーブルの上へのせておいたまま「これはおかずです」とその野菜をいじりながら雑誌を一生懸命に読出したということや
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
たなからちる牡丹ぼたもちものよ、唐様からやうたくみなる三代目さんだいめよ、浮木ふぼくをさがす盲目めくらかめよ、人参にんじんんでくびく〻らんとする白痴たはけものよ、いわしあたま信心しん/″\するお怜悧りこうれんよ、くものぼるをねが蚯蚓み〻ずともがら
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
玉菜たまな赤茄子あかなすねぎ玉葱たまねぎ大根だいこんかぶ人参にんじん牛蒡ごぼう南瓜かぼちゃ冬瓜とうがん胡瓜きゅうり馬鈴薯ばれいしょ蓮根れんこん慈姑くわい生姜しょうが、三つ葉——あらゆる野菜に蔽われている。蔽われている? 蔽わ——そうではない。
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さういふ人たちは、家の中にゐるのは気づまりなので、仕事を見つけて表に出た。庭のすみにかまどをしつらへ、大きいなべをかけた。井戸端では、ぶこつな手で、大根や人参にんじんをこまかく刻んだ。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
穗「羚羊角れいようかく人参にんじん細辛さいしんと此の七を丸薬にして、これを茶でませるのだ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ずこんな塩梅式あんばいしきだから、吾々われわれ一行の失策物笑ものわらいはかず限りもない。シガーとシュガーを間違えて烟草タバコを買いにやって砂糖をもって来るもあり、医者は人参にんじんおもっかって来て生姜しょうがであったこともある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
沢山な人が私のいったその家に集っていて、大皿や鉢に、牛蒡ごぼう人参にんじんや、鱈や、里芋などの煮つめたものが盛ってある間を、大きな肩の老人が担がれたまま、箱の中へ傾けて入れられるところだった。
洋灯 (新字新仮名) / 横光利一(著)
大根やいも人参にんじんをかついでる人が、通りかかりました。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
久し振りで庵を訪ねた主人の前へ、一色道庵の示した丸薬の成分というのは、人参にんじん松樹甘皮まつのあまかわ胡麻ごま薏苡仁よくいにん甘草かんぞうの五味だけ。
そこで先ずジャガ芋と薄く切った大根と人参にんじんとを入れるのですが人参が多過ぎると臭くなっていけません。宅ではその外に蒟蒻こんにゃくも入れます。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
此近在の農人のうにんおのれが田地のうちに病鶴やめるつるありてにいたらんとするを見つけ、たくはへたる人参にんじんにて鶴の病をやしなひしに、日あらずやまひいえて飛去りけり。
牛蒡ごぼう人参にんじんなどの好い野菜を出す土地だ。滋野は北佐久きたさくの領分でなく、小県ちいさがたの傾斜にある農村で、その附近の村々から通って来る学生も多い。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
苦しいはずだのに、結局はこの人達によりそって大根を刻み人参にんじんを刻んでいるのです。私は最近本を三四冊出しました。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
人参にんじんの果てから下着の附けひもに到るまで、男子としてはなはだ不本懐な労役にコン吉を従事せしめるとか、——コン吉にとってはとかく腹の立つことばかり。
たしかに物干用と見られるひもが回してあって、洗濯した靴下、多くは最近流行の私の嫌いなあの人参にんじん色のもの、それに鼠色した下着といったものが掛けてあるが
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
北の境から九十六歩、東の崖から四十四歩、三角線をえがいて中心にあたる所、人参にんじん畑の血塚です。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて、それから御飯ごはんときぢや、ぜんには山家やまがかうもの生姜はじかみけたのと、わかめをでたの、塩漬しほづけらぬきのこ味噌汁みそじる、いやなか/\人参にんじん干瓢かんぺうどころではござらぬ。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
前日の『大阪毎日』紙に、近藤廉平氏が強壮剤は人参にんじんが第一てふ実験談を録しあった。
一軒の小さな八百屋やおやがあって、あかる瓦斯ガスの燃えた下に、大根、人参にんじんねぎ小蕪こかぶ慈姑くわい牛蒡ごぼうがしら小松菜こまつな独活うど蓮根れんこん、里芋、林檎りんご、蜜柑の類がうずたかく店に積み上げてある。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
此の者どもを切るのは人参にんじんや大根を切るよりやすいではござらぬか、夜中やちゅう帯刀して此の市中を歩いて、無闇に刀を抜いて人を切るなどと云う事を仰しゃれば、先生のお名前にもかゝわりましょうから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一時に多量の人参にんじんを猿に与えると、猿は最初の間は実際これを咀嚼そしゃくしてのみこんでしまうが、一通り腹が張ってからのちは、ただこれを口の中にたくわえ、両側のほおを風船玉のごとくにふくらして
動物の私有財産 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
駿府の城ではお目見えをする前に、まず献上物が広縁ひろえんならべられた。人参にんじん六十きん白苧布しろあさぬの三十疋、みつ百斤、蜜蝋みつろう百斤の四色よいろである。江戸の将軍家への進物しんもつ十一色に比べるとはるかに略儀りゃくぎになっている。
佐橋甚五郎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「大根でもいもでも人参にんじんでも、食べるよ」
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
朝鮮に人参にんじん多し先生何が故に服せざる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それから人参にんじんを糸切りにして糸蒟蒻いとごんにゃくと前の牛蒡と三品を一旦湯煮ゆでておいてそれへ椎茸を加えて鰹節かつぶし煮汁だしと味淋と醤油とで美味おいしく煮ます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
本田蓼白と伊東参龍の見分けた成分は、松の甘皮と胡麻ごま甘草かんぞうで。一色道庵はその上人参にんじん薏苡仁よくいにんを見つけたそうですが、もう二味あるはずだと言います。
人参にんじんの栽培は木曾地方をはじめ、伊那、松本辺から、佐久の岩村田、小県ちいさがたの上田、水内みのち飯山いいやまあたりまでさかんに奨励され、それを尾州藩で一手いってに買い上げた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのなかに芝居土用やすみのうち柏筵はくえん一蝶が引船の絵の小屏風を風入れするかたはらにて、人参にんじんをきざみながら此絵にむかしをおもひいだして独言ひとりごといひたるをしるしたる文に