なく)” の例文
何を伯母さん、おつしやる、し貴女に死なれでもして御覧なさい、私はほとんど此世の希望のぞみなくして仕舞ふ様なもんですよ、何卒ネ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
いいえ、三年前の秋の事さ、そののち御新姐さんもおなくなんなすったそうだもの、やっぱり御病気の処へ、そんなこんなが障ってさ。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それで、師匠がなくなりましたから、お久と云う土手で殺した娘が、連れて逃げてくれと云い、伯父が羽生村に居るから伯父を尋ねて世帯しょたい
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「あれは太閤さまがおなくなりになる前の年、慶長二年の夏のことでござりました。かれこれ十四、五年になりましょう」
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
妻の道子は数年前になくなった有名な川上という大学教授のお嬢さんです。生れつき聡明な上に、非常な美人でした。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
と、あの時、大囲炉裡おおいろりに、大茶釜おおちゃがまをかけた前に待っていたむつむつしたような重い口の博士は諧謔かいぎゃく家だったが、その人も震災後の十四年になくなられた。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
なくなンなすッたよが一寸ちょっと分らなかったが、死んだのだと聞くと、吃驚びっくりすると同時に、急に何だか可怕おっかなくなって来た。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「洪を殺しても又洪が出来る。リュウなくしてもまた代りが出来る。まるできたないものにうじがわくようなものだ。昔から幾度そんなことを繰り返して来たか」
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
あの大将さんのおなくしになりました人は兵部卿の宮様の二条の院の奥様のお妹さんだったそうでございます。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
この少し以前、三女らくは実扶的利亜ジフテリアに罹って三歳でなくなっていた。そこで長女順は桜井女学校へ寄宿せしめ、私は長男健行を携えて神田の三崎町に下宿した。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
奪取うばひとり江戸へ名乘出んとは思しが師匠ししやう感應院かんおうゐんの口よりもれんも計りがたければ師匠は我十三歳の時に毒殺どくさつしたり尚も幼顏をさながほなくさん爲に九州へ下り熊本にて年月を經り大望を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これに加擔人して是非にも嫁にと願ふ道理はなし、唯可愛く大事に行末までを案じて、明け暮れ胸を痛め思ひになやむは汝が其身一つぞや、父樣はやくなくなり給ひしより
花ごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
じつ今度こんどると、ボズさんがない。昨年きよねん田之浦たのうら本家うちかへつてなくなつたとのことである。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
其樣そん心算つもりではなかつたから、お大は繁々しげ/\かねへ呼出をかける。第一大切の米櫃こめびつなくして了つては、此先生活の道がないので、見かけによらぬ氣の小いお大は、氣が氣でない。
絶望 (旧字旧仮名) / 徳田秋声(著)
六年前になくなつた番頭萬助の伜で、今年二十五の春まで小僧から手代へと店で叩き上げた男で、物の考へやうも手堅く、先々はお染と一緒にして——そんな事を勘兵衞が考へて居た樣子です。
その前の晩、田住生たずみせいが訪ねて来た。一昨年をととしの暮になくなつた湯村ゆのむらの弟、六郎の親友である。今度福岡大学へ行く途中とあつて立寄つた。此間こなひだの洪水で鉄道が不通ゆゑ神戸までは汽船にすると云ふ。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
◎これはちと古いが、旧幕府の頃南茅場町みなみかやばちょう辺の或る者、乳呑子ちのみごおいて女房になくなられ、その日稼ぎの貧棒人びんぼうにんとて、里子に手当てあても出来ず、乳がたりぬのでなきせがむ子を、もらちちして養いおりしが
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
「奥様を、おなくしなさいました、それは御不自由でございましょう」
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
奥さんがおなくなりになってからお食事なんか如何どうなさいますの。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかし、自分もまた、母親を早くなくした娘の一人である。
荒天吉日 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
なくなつた一葉女史いちえふぢよしが、たけくらべといふほんに、狂氣街道きちがひかいだうといつたのはこれからさきださうだ、うつかりするな、おそろしいよ、とかた北八きたはち警戒けいかいす。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ういう始末でねえお賤さん、御本家へもおくやみあがりましたが、旦那がおなくなりでさぞもう御愁傷でございましょう、ヘエわっちも世話に成った旦那で
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
瀕死ひんしの女と、すでに死んでしまった男との魂が、その瞬間にも合致していたかいなかったか、それすらももう片方の者がなくなってしまった上は、たしかめる事さえ出来はしない。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
忘れもせぬ、祖母のなくなった翌々年よくよくとしの、春雨のしとしとと降る薄ら寒い或夜の事であった。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
そういう古老がおいおいなくなられて、われわれをかまいつけるような奇特な方も少なくなり、それに、この節、このへんに人家が立てこんで来ましたせいか、たいへんに犬が多くなり
ところが横浜に高橋という雑貨商があって、随分盛大にやって居ましたが、其主人あるじは女で名はうめ所天つれあいは二三年前になくなって一人娘ひとりむすめ里子さとこというを相手に、贅沢ぜいたくくらして居たのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「でも僕あ帰った時、(芳さん!)てって奥から出て来た、あの時の顔にゃ吃驚びっくりしたよ。暮合くれあいではあるし、なくなった姉さんの幽霊かと思った。」
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まア御承知の通りおかみなくなりまして、私も此様こんな処で、お茶を売るまでに零落おちぶれましたが貴方あなたはまア大層お立派におなりなすって、見違いますようで……おや由兵衞さん
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
平常いつもつもりで何心なくそとから帰って見ると、母が妙な顔をして奥から出て来て、いつになく小声で、お前は、まあ、何処へ行ッていたい? お祖母ばあさんがおなくなンなすッたよ、という。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
この世から消えてなくなりました。僕は全然恋の奴隷やっこであったからかの少女むすめに死なれて僕の心は掻乱かきみだされてたことは非常であった。しかし僕の悲痛は恋の相手のなくなったが為の悲痛である。
牛肉と馬鈴薯 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
まさしの両親とも日本橋生れで、なくなった母親は山王様の氏子うじこ此家こちらは神田の明神様の氏子、どっちにしても御祭礼おまつりにははばのきく氏子だというと、魚河岸から両国のきわまでは山王様の氏子だったのが
「でも円髷に結ってるもの、銀杏返だとなくなった姉様ねえさんにそっくりだから、姉様だと思うけれど、円髷じゃあ僕は嫌だ。」
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わずか二日のうちにふた夫婦と影法師のお若さんがなくなり、晋齋老人のうちは大さわぎでげす。これも因縁だ因果だと思召すから、それ/″\葬りのことねんごろになされました。
川上がなくなるすこし前の事であった。貞奴夫婦を箱根で見かけた時は、貞奴は浴衣がけで宮の下から塔の沢まで来た。その折など決して彼女が、自分の財袋たくわえだけ重くしている人とは見られなかった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
可哀そうにそれから二年目にとうとうなくなりましたが、これは府中に居た女郎上りを買って来て置いたのだと申します。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家内が心配してなくなり、それから続いてうちは潰れる様な訳で、せがれが一人ありましたが、その忰平太郎と云う者は、仕様がなくって到頭お寺様か何かへ貰われて仕まったと云う事を
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
祖父は九歳の年に、ほかの子供たちと一緒に、長い年期で大丸呉服店へ小僧でっち奉公に下ったのだ。父親はもうなくなっていた。足弱は三人ずつ、三方荒神さんぽうこうじんという乗りかたで小荷駄馬へ乗せられて来たのだ。
口惜くやしい、畜生ちくしやうめ、けだものめ、ト始終しじうさうおもつて、五ねんも八ねんたなければ、真個ほんとうわかることではない、おぼえられることではないんださうで、おなくんなすつた
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
お暇を取りに使いを頼んで遣りましたので、お内儀かみさん毎度申しまする通り、あれ四才よッつの時に母親おふくろなくなりましたが、乳呑ちのみ盛りでございますから、わたくしが梨を両方の籠へ入れるのを
「何ですか、蔭で聞きますりゃ、御新造さんもおなくなんなさいましたッて、飛んだ事で、」と震えてあおくなっていう。お夏も心が激したか、目のふちに色を染めて
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新「有難う存じますな、わたくしも身寄兄弟も無い者で、少し訳があって参りました者でございますが、少し頼る処が有って参りました者で、此方こちらへ参ってから、だしぬけになくなりましたので」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
蝶吉の母は根岸の情人いいひとなくなってから、世を味気なく、身をただ運命に任せていたので、いうことに逆らわず、芳町から再勤したが、足りない金子かねは、家財を売って
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旦那……お手水ちょうずですか、き突当って右の方です……だがねねえさん、の旦那様と云うものは御新造様が無いのですよ……アレサ実は御新造さんは三年あとなくなってお独身ひとりでおいでだが
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
……お慈悲深じひぶかいおかただけに、お貯蓄たくはへつてはござりませんで、……おなくなりなさりますと、ぐに御新姐樣ごしんぞさまが、貴下あなたと、お年寄としよりかゝへて、お一人ひとり御辛勞ごしんらうをなさりました。
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ちいさい時分に両親ふたおやなくなってしまい、知る人に連れられて此の美作国みまさかのくにめえって、何処どこと云って身も定まりやしねえで居ましたが、縁有って五年あと当家こゝへ奉公にめえりまして、なげえ間お世話になり
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そりゃものも分ったし、おなくなんなすったことは知ってるが、どうしてもあきらめられない。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貴方にお目に懸りたいと云ってあねさんも何様どんなに待っておいでなすったか知れません、貴方が家出をなさいましても屋敷にられぬ事はございませんが、おっかさんは心配して三年目になくなりまして
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一週間ばかりって、小宮山が見覚みおぼえのあるかの肌に着けた浴衣と、その時着ておりました、白粉垢おしろいあかの着いたあわせとを、小包で送って来て、あわれお雪はなくなりましたという添状。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あゝ若い時分は無分別な事だった……のう婆さん……昨宵ゆんべばゞあと話をして居りましたが、まことに有難うございます、なくなりました日が知れますれば、線香の一本も上げ、念仏の一つも唱えられます
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
愛吉てば、お前、おっかさんがなくなっても、うちが焼けても、まるで顔を見せないんだもの。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)