丸髷まるまげ)” の例文
丸髷まるまげに結ったり教師らしい地味じみな束髪に上げたりしている四人の学校友だちも、今は葉子とはかけ隔たった境界きょうがいの言葉づかいをして
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
お麻さんがその妾宅で、鬢髱まわりをひっつめた山の手風の大丸髷まるまげにいって、短かく着物をきていたのもしばらくで、また柳橋へかえった。
と見ると、丸髷まるまげの女が、その緋縮緬ひぢりめんそばと寄って、いつか、肩ぬげつつ裏のすべった効性かいしょうのない羽織を、上から引合せてやりながら
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かはかたうして素人しろうとの手に刻まれねば、給仕を頼みて切りて貰ひ、片隅に割拠かつきよし、食ひつゝ四方を見るに、丸髷まるまげの夫人大口開いて焼鳥を召し
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
ようよう現われたのは、やはり女で、しかも今度のは丸髷まるまげのすごいような大年増、玄関に現われるや否や、不破の関守氏とかおを合わせて
堅気らしい丸髷まるまげってぞろりとした風をした女や安お召を引っ張って前掛けをした女などがぞろぞろ二階に上ったり下りたりしている。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
私の頭の雲脂ふけを落したり、いたりしてくれた上に、「少しお頭を拝借させて下さい」と、水油を少し附けて、丸髷まるまげに結ってくれました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
と、手を取って呉れたのは、丸髷まるまげ姿のおきみでした。おきみは渋い着附に赤いものを丸髷の手絡と帯上げにだけ覗かせています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
つややかな丸髷まるまげってうす色の珊瑚の玉をさしていた。桃色の鶴や、浅葱あさぎのふくら雀や、出来たのをひとつひとつ見せてはつづけてゆく。
折紙 (新字新仮名) / 中勘助(著)
そこは二階堂の別荘建の家で、案内をこうて入って往くと、待ちかねていたとでも云うようにして丸髷まるまげの美しい女が出て来た。
二通の書翰 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
菊五郎のお蔦、両吟りょうぎんの唄にて花道の出は目のむるほど美しく、今度は丸髷まるまげにて被布ひふを着られしためもあらんが、容貌きりょうは先年より立優たちまされり。
浴衣ゆかたを着た早川医学士と、丸髷まるまげに結った時枝ヨシ子の二人が並んで撮った鮮明な写真まで入れて、次のような記事が長々と掲載されていた。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
昨日ひさしつかねてあったお兼さんの髪は、いつの間にか大きな丸髷まるまげに変っていた。そうして桃色の手絡てがらまげの間からのぞいていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ほつれ毛もないようなあの丸髷まるまげは空しくつぶされ、ぐるぐると櫛巻くしまきにした洗い髪が、えりにあてた手拭てぬぐいの上におくれ毛を散らばらせていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
ランプのあかりで見れば、男は五分刈ごぶがり頭の二十五六、意地張らしい顔をして居る。女は少しふけて、おとなしい顔をして、丸髷まるまげに結って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
丁度、旦那様の御留守、母親おふくろは奥様にばかり御目にかかったのです。奥様は未だ御若くって、おおき丸髷まるまげに結って、桃色の髪飾てがらを掛た御方でした。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
なんでも縫紋ぬいもんの羽織なんか着込んで、髪をこう丸髷まるまげなんかに結んで、ちょっと老化ふけづくりだったそうですが、これがその、例によって型通り
あやつり裁判 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
西京さいきやう大坂おほさか芸妓げいこまゐつてりましたが、みな丸髷まるまげ黒縮緬くろちりめん羽織はおり一寸ちよつと黒紗くろしやれをひつけてりまして、様子やうす奥様然おくさまぜんとしたこしらへで
牛車 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
竜土軒の主人は八字ひげを生やした品の好い男で、耳が少し遠かった。細君は赤坂の八百勘で女中をしていた人で、始終粋な丸髷まるまげに結っていた。
芝、麻布 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
丸髷まるまげ田中絹代たなかきぬよ嬢の「ネー、あなたあ」というような声を聞かせて喜ばせようというだけの目的であるのならばその企図は明瞭めいりょうに了解される。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そうしてその前には姉のおきぬが、火鉢のふちひじをやりながら、今日は湿布しっぷを巻いていない、綺麗きれい丸髷まるまげの襟足をこちらへまともにあらわしていた。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
黒縮緬くろちりめんの羽織の着こなしと云ひ、丸髷まるまげの似つかはしさと云ひ、何処どこの奥さんであらう、私さへも見それるほどめかしてゐた。
ある職工の手記 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
界隈かいわいの小待合より溝板どぶいたづたひに女中の呼びに来るを待ち、女ども束髪に黒縮緬くろぢりめん羽織はおり、また丸髷まるまげに大嶋の小袖といふやうな風俗にて座敷へ行く。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
平次はそう言いながら、お夏の丸髷まるまげから、まがい物の鼈甲べっこうに、これも怪しい銀の帯をしたこうがいを取って、スッと抜きました。
毎日びんや前髪を大きくふっくらと取った丸髷まるまげ姿で出ていた彼女は、大きな紋のついた羽織もぬがずに、外眦めじりをきりきりさせてそこに突立っていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この世の中に、旧式の丸髷まるまげ泥鴨あひるのような歩き振、温順と貞節とよりほかに何物をも有せぬ細君に甘んじていることは時雄には何よりも情けなかった。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
丸髷まるまげの根がくずれて、見るもあさましい形になってはいたが、真新しい明石縮あかしちぢみの粋な単衣ひとえを着た下町風の女房だった。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
和服を着て、目がねをかけて、丸髷まるまげなんかに結って、まるで相好そうごうが変っているではないか。このしとやかな奥様が、女賊「黒トカゲ」であろうとは。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
浅子夫人はまた島田や丸髷まるまげの日本髪が嫌ひだ。婦人会などで、若い大人達の丸髷姿が目に入ると急に気難きむづかしくなつて
下太しもぶとりのかぼちゃのように黄いろい顔で頭のてっぺんには、油固めの小さい丸髷まるまげが載っている。これが声の主である。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
早速「水もしたゝる」ような赤い手柄の丸髷まるまげを結って、工場へやって来る、そしてこれ見よとばかりに一廻りして行くとか、日給を上げて貰うために
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
その絶頂には小さな丸髷まるまげが一つ乗っているのでした、その髪の下は完全な禿頭はげあたまで、その禿頭にはくろんぼがベタベタと瘡蓋かさぶたの如く一面に塗られていて
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
その細君は自分の丸髷まるまげを根元から切って川上のまえに投げ出して、どうでもかつらを入座させてくれと泣いて迫ったので、川上もとうとうを折って
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ハイカラ的丸髷まるまげの亡者が徘徊はいかいするとの噂が町内に広がり、物好きの男が第一番に正体を見あらわしてやらんと、しようもないところに力瘤ちからこぶを入れ、一夜
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
と、細い声を出したのが、前列にすわっている赤い手柄の丸髷まるまげだ。とんがり長屋にはめずらしい、色っぽい存在。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
馬琴を戸口まで送ったまゝ、今までわざと避けていたお菊は、京山に名を呼ばれて、ぬッと丸髷まるまげの顔を窺かせた。
曲亭馬琴 (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それが崩れるとまた暫く何も出来ずに居たが、ようよう丸髷まるまげの女が現れた。その女のびんが両方へ張って居るのは四方へ放って居る光線がそう見えるのである。
ランプの影 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
それではと丸髷まるまげの上から大風呂敷をスッポリかぶせてやらせると今度は成功、春雨と紀伊の国がやっと聞えた。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
大一番の丸髷まるまげに結って肉襦袢タイツ姿、それが三百ポンドもある大重錘をさしあげる、大和撫子やまとなでしこならぬ大和鬼蓮おにはすだ。
人外魔境:08 遊魂境 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
見れば、友禅の炬燵蒲団こたつぶとんに胸をうずめて、ちょっと澄まし気味の丸髷まるまげ若御新造わかごしんぞが、こっちの入るときからの身ごなしをにやにやとの高い顔して眺めている。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、五号の部屋の障子しょうじの破れ目から中をのぞいてみたが、蒲団ふとんえりから出ている丸髷まるまげとかぶらの頭が二つ並んだまままだなかなか起きそうにも見えなかった。
赤い着物 (新字新仮名) / 横光利一(著)
髪はこの手合てあいにおさだまりのようなお手製の櫛巻なれど、身だしなみを捨てぬに、小官吏こやくにん細君さいくんなどが四銭の丸髷まるまげ二十日はつかたせたるよりははるかに見よげなるも
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
同勢四人の中の、たった一人の女である姐御と呼ばれた彼女は、つぶしたような丸髷まるまげに疲れた浴衣である。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
一人ひとりつまなるべしつゐするほどの年輩ねんぱいにてこれは實法じつぱふちひさき丸髷まるまげをぞひける、みたるひとるよりやがて奧深おくふかとこかせて、くゝまくらつむりおちつかせけるが
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私が振返ってすっかり青葉になってしまった桜を眺めている間に、羽織姿の桃割ももわれ赤前垂あかまえだれ丸髷まるまげとが交って踊り出した。見物人の間に立って私はしばらく見ていた。
祇園の枝垂桜 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
おッ師匠ししょうさん——子供達はそう呼ばされていた——は女で、四十五、六でもあったろうか、総前髪そうまえがみの小さな丸髷まるまげうて、あかじみた浴衣ゆかたしまの前掛けを当てていた。
校友の控所にてられたる階上の一室には、盛装せる丸髷まるまげ束髪そくはつのいろ/\居並びて、立てこめられたる空気の、きぬの香にかをりて百花咲ききそふ春ともいふべかりける
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
丸髷まるまげに結って、綺麗きれいなとても綺麗な、わたしはだれか花曲輪はなぐるわの芸妓衆でもあろうかと思ったくらい、なんともいえぬ綺麗な奥さんが……それがお前真っ青な顔をして……
蒲団 (新字新仮名) / 橘外男(著)
丸髷まるまげ島田しまだに結つて帽の代りに髮の形を美しく見せる樣になつて居る場合に帽は却て不調和であるけれども、束髮姿そくはつすがたには何うも帽の樣な上からおほふ物が必要であるらしい。
巴里にて (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
この婦人は吾々われわれのかいたものを役得に持って帰ることを楽みにしていた。いつも丸髷まるまげを結っていた此の女は、美しくもなくいきでもなかったが、何彼と吾々の座興を助けた。
御萩と七種粥 (新字新仮名) / 河上肇(著)