鳥居とりい)” の例文
群衆雪崩なだれを打って立ち分れると、その間を縫って、南町奉行鳥居とりい甲斐守忠燿ただてる、手附の与力、配下の岡っ引共を従えて立ち現われました。
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
貴船神社の宮守みやもりや里の者は驚いた。鳥居とりいわきの喬木の梢に、の古法衣につつまれた人間が荒縄で吊り下げられていたのを仰いだのだ。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、みちの上に新しい石磴いしだんがあって、やはり新らしいひのきの小さな鳥居とりいが見えた。勘作はたしかにこれだと思ってその石磴をあがって往った。
ある神主の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ところで、もとの石の鳥居とりいところまできてみると、そこにちゃんとのっていたはずの、たにしのおむこさんの姿すがたが見えません。
たにしの出世 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
先づ文学としては役者評判記やくしゃひょうばんきまた劇場案内記げきじょうあんないき等の類にして、絵画としては鳥居とりい勝川かつかわ歌川うたがわ諸派の浮世絵、流行としては紋所もんどころ縞柄しまがら染模様そめもようの類なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「なんだ神田かんだの、明神様みょうじんさまいし鳥居とりいじゃないが、おまえさんもきがなさぎるよ。ありゃァただのお医者様おいしゃさま駕籠かごじゃないよ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
はりこの鳥居とりいだとか、石灯籠いしどうろうだとか、石膏せっこうでつくった銅像のようなもの、そのほか、いろいろのものが、雨ざらしになって、おいてあるのです。
妖人ゴング (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
馬籠の荒町あらまちにある村社の鳥居とりいのために檜木ひのき背伐せぎりしたと言って、その始末書を取られるような細かい干渉がやって来る。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鳥居とりいのまわりから、草ぼうぼうと生えてる。宮の前にはさすがに草は生えていないが、落葉おちばで埋まるばかりになってる。
落穂 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
第一幕と同じさびしき浜辺はまべ熊野権現くまのごんげんの前。横手にまずしき森。その一端に荒き丸太まるたにてつくれる形ばかりの鳥居とりい見ゆ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そして、もう、としちゃんのやってくる時分じぶんだとおもうと、おみや屋根やねうえからまた鳥居とりいいただきから、じっと、いつもとしちゃんのくるほうをながめていました。
ごみだらけの豆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その時与次郎は往来のまん中へ立ち留まった。二人はちょうど森川町もりかわちょうの神社の鳥居とりいの前にいる。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さくひたる井戸ひとつ、銀杏いちようりたる樹あり、そがうしろに人の家の土塀どべいあり。こなたは裏木戸のあき地にて、むかひに小さき稲荷いなりの堂あり。石の鳥居とりいあり。木の鳥居あり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
登口のぼりくち鳥居とりい立ち、二三十本の杉の古木あり。そのかたわらにはまた一つのがらんとしたる堂あり。堂の前には山神の字を刻みたる石塔を立つ。昔より山の神出づと言い伝うるところなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
戸数こすう五百に足らぬ一筋町の東のはずれに石橋あり、それを渡れば商家あきんとやでもなく百姓家でもない藁葺わらぶき屋根の左右両側りょうそくに建ち並ぶこと一丁ばかり、そこに八幡宮はちまんぐうありて、その鳥居とりいの前からが片側町かたかわまち
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
ただあのあたりの風景にして気にかかる構成上の欠点は、図書館の近くにある豊国とよくに神社の屋根と鳥居とりいである。あれは、誰れかが置き忘れて行った風呂敷包ふろしきづつみであるかも知れないという感じである。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
蒔絵の模様は、こうを除いたほとんど全部に行きわたっていて、両側の「いそ」は住吉すみよし景色けしきであるらしく、片側に鳥居とりい反橋そりはしとが松林の中に配してあり、片側に高燈籠たかどうろう磯馴松そなれのまつと浜辺の波が描いてある。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
霜枯れた草原に、野生やせい松葉独活アスパラガスが紅玉をちりばめて居る。不図白木の鳥居とりいが眼についた。見れば、子供がかかえて行ってしまいそうな小さな荒削あらけずりのほこらが枯草の中に立って居る。誰が何時いつ来て建てたのか。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
やなぎのつじの鳥居とりいの下に立ち、竹生島神伝ちくぶしましんでん魔独楽まごま! 水をらす雨乞独楽あまごいごま! そうさけんで声をからし、半時はんときばかり人をあつめて
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神風かみかぜを起こしてあのをふくらせ、水夫かこうでの力を二倍にし、鳥のごとくにすみやかにこの岸に着かしめたまえ。(鳥居とりいのほうに走り出そうとする)
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
しかたなく、鳥居とりいのところまでもどってきて、ぼんやりとしてっていると、せみのこえがうるさいほど、あめるようにあたまうえからきこえてくるのでした。
真昼のお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
氏神への参拝を済まして鳥居とりいの外へ出るころ、冬にしては温暖あたたかな日の光も街道にあたって来た。彼はその道を国境くにざかいへと取って、さらに宿はずれの新茶屋まで歩いた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
むこうがわの入口に石の鳥居とりいがあって、そこから社殿まで、ずっと、しき石の道がつづき、両がわにたくさんの石どうろうがならび、社殿の前には、二ひきの大きな石のコマイヌが
灰色の巨人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
今日では小石を石の鳥居とりいの上に乗せて見ようとし、または沓掛くつかけといって、馬のくつ古草鞋ふるわらじを投げあげるようにもなっており、子どもや若い者のなぐさみくらいにしか考えられておるまいが
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
神社について見るもまず鳥居とりいあり次に楼門あり、これを過ぎて始めて本殿に到る。皆相応の距離が設けられてある。この距離あって始めて日本の寺院と神社の威厳が保たれるのである。
と、およめさんはいって、石の鳥居とりいの上に、おむこさんを休ませました。
たにしの出世 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
すると間もなく大阪から鳥居とりい君が来たので、主筆しゅひつ池辺いけべ君が我々十余人を有楽町の倶楽部クラブへ呼んで御馳走ごちそうをしてくれた。余は新人の社員として、その時始めてわが社のおもなる人と食卓を共にした。
長谷川君と余 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
街路とおりの左右に櫟林くぬぎばやしを見るようになった。政雄はもう人家が無くなるだろうと思っていると、街路とおりの右側に石の新らしい鳥居とりいに電燈を一つとりつけてあるのが見えた。政雄のほしいままな心が高ぶっていた。
女の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
橘屋たちばなや若旦那わかだんな徳太郎とくたろうも、このれいれず、に一は、はんしたように帳場格子ちょうばごうしなかからえて、目指めざすは谷中やなか笠森様かさもりさまあか鳥居とりいのそれならで、あかえりからすっきりのぞいたおせんがゆきはだ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
たださいぜんから明らかに知っていて、べつに気にもめなかったのは、鳥居とりい横木よこぎにうずくまっている一灰色はいいろの鳥だった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ともだちとこんなはなしをしていると、一人ひとりのみすぼらしいおばあさんが、鳥居とりいのところにまって、神社じんじゃかっておがんでいました。片手かたてながいつえをっていました。
夕雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あか鳥居とりい手前てまえにある。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
長柄を横に置いて、ちた鳥居とりいの下に腰をおろし、眼すら、ぽつねんと、雲へやって、菓子を見ないのであった。
剣の四君子:03 林崎甚助 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みや鳥居とりいのかたわらにあった、たかまつにかかっているえだや、くものがきれいにあらられて、すがすがしくなるからであり、人間にんげんのとどかないたかいところのちりや
台風の子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
で、鳥居とりいをくぐって、およそな見当けんとうのところをしきりにさがしはじめたが、さあこののほうにも一なんがある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ももさんは、そとて、おともだちと、おみや鳥居とりいのところであそんでいました。
夕雲 (新字新仮名) / 小川未明(著)
井伊兵部いいひょうぶ、石川数正かずまさ本多ほんだ平八郎、彦八郎などの一族、鳥居とりい、大久保、松平まつだいら奥平おくだいらなどの譜代ふだい、酒井、榊原さかきばらなどの精鋭、水野、近藤、長坂ながさか坂部さかべ、などの旗本たち——。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ねえさんは、おばあさんからまめってはとにやりました。はとは、おみや屋根やねから、また鳥居とりいうえからりてきて、よろこんでまめべました。としちゃんは、ちいさなをたたいてよろこびました。
ごみだらけの豆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
凝視して、同じように、側に立っていた軍目附いくさめつけ鳥居とりい忠広は、ちと、無念そうに、くちをかんだ。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
にんは、神社じんじゃまえへくると、境内けいだいへはいりました。あたりをると、そこの鳥居とりいにも、かきねにも、こないだの、選挙せんきょのビラが、はりつけられてあり、また、方々ほうぼうにらくがきがしてありました。
ひとをたのまず (新字新仮名) / 小川未明(著)
さきに、鳥居とりい忠広と一緒に、危地を脱して行った家康は、うしろに続く、人々を顧みて
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とつぜん、へいが、石段いしだんりて、鳥居とりいそとていきました。
ひとをたのまず (新字新仮名) / 小川未明(著)
そして即座に、鳥居とりい元忠、渡辺守綱もりつなの二臣に、手勢をさずけて、追い討ちをかけた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勇吉ゆうきちは、ならんで鳥居とりいによりかかるとすぐに、問題もんだいして
真昼のお化け (新字新仮名) / 小川未明(著)
宇治まで来ると、平家の軍勢二万余騎が、地の利をとって包囲にかかり、弓矢のつづく限り悪戦苦闘したが、遂に力及ばず、老将頼政もそこに自刃して果て、宮にも、光明山の鳥居とりいのほとりで
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)