ねがい)” の例文
の春部梅三郎は、奥の六畳の座敷に小匿こがくれをいたして居り、お屋敷の方へは若江病気について急においとまを戴きたいというねがいを出し
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一日には二日を数え、二日には三日を数え、ついに両手の指をことごとく折り尽して十日に至る今日こんにちまでなお帰るべしとのねがいを掛けたり。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
貞白はすぐに抽斎をうて五百のねがいを告げ、自分もことばを添えて抽斎を説きうごかした。五百の婚嫁はかくの如くにして成就したのである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
わしはあなたにおねがいがあるのじゃ。なんと聞いてはくれまいか。今にも死にそうなこの病人の一生の願を、どうか聞き届けてはくれまいか。」
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
夫人 (大胆に、身近く寄る)私は何にも世の中にねがいはなし、何の望みもかなわなかったから、お前さんののぞみを叶えて上げよう。宝石も沢山ある。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
貴方あなた少々しょうしょうねがいがあってたのですが、どうぞ貴方あなたわたくしと一つ立合診察たちあいしんさつをしてはくださらんか、如何いかがでしょう。』と、さりなくハバトフはう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
済度さいどし給わんやとねがいければ上人左右そうなく接引し給い静御前乃振袖ふりそで大谷氏に秘蔵いたせしに一首乃歌をなん書記し給いぬ
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
れまで私は部屋住へやずみだからほかに出るからと云てとどけねがいらぬ、颯々さっさつ出入でいりしたが、今度は仮初かりそめにも一家の主人であるから願書を出さなければならぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ルパンは決してそんな弱気な男ではなかったけれど、恋人のねがいもだし難くて、つい同意してしまったものである。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「それはお断りする」と四宮理学士は冷然と僕のねがいをしりぞけた。こうなっては僕のとる道は一つよりほかない。
階段 (新字新仮名) / 海野十三(著)
◯二十三、四節には三つのねがいが記されている。第一は「望むらくはわが言の書き留められんことを」である。第二は「望むらくはわが言ふみに記されんことを」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
無理なねがいを申すもまことに苦しゅうは御座りまするが、どうぞわたくしめを元の通りお縛りなされて下さりませと案のほかの言葉に珠運驚き、これは/\とんでもなき事
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ってしまうと、おんなむねきゅうかるくなりました。そしてたしかに自分じぶんねがいがとどいたようながしました。おんなうちはいりました。それから一つきつと、ゆきえました。
「わたしおねがいがあってよ、マダム。衣物きものを取りに来たの。これじゃ寒くてやりきれないんですもの」
碧眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
私は行々ゆくゆくは大文豪になりたいが一生のねがいだから、おおいに人生に触れて主観の修養をしなければならん。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「さても情深き殿たちかな。かかる殿のためにぞならば、すつる命もおしくはあらず。——妾が自害は黄金ぬしが、御用に立たんねがいに侍り」「さては今の物語を」「なんじは残らず……」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
わたくし懐剣かいけん何卒どうぞこのままわたくしと一しょかんなかおさめていただきとうございますが……。』するとはは即座そくざわたくしねがいれて、『そのとおりにしてあげますから安心あんしんするように……。』
あたりには大きなすぎの木が立ちならんでいて、昼間ひるまでもおそろしいようなところでした。けれども甚兵衛じんべえは一心になって、どうか上手じょうずな人形使いになりますようにと、神様かみさまねがいいました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「小山の奥さん、それでは何分ねがいます。夜具の事は大丈夫ですかね」妻君
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あすこへ行って見たいというねがいが誰の胸にも湧いた。信州沢にもこれに似た所がある。其時見たのは孰れであったか未だに判然しないが、それ以来東沢の奥で落葉松を見ると何となく懐かしい。
釜沢行 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
つづいて、はげしいザーという吹雪が、烟出けむだし窓の障子に当って小さな声は消されてしまった。その後は、しばらく死のような沈黙が来た。老婆は、空耳であってくれればいいというねがいおこった。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「お豊さん、おねがいだから気を鎮めておくれ」
礫心中 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
どうぞ何分宜しくおねがい申します。1875
恋さま/″\ねがいの糸も白きより
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
恋さまざまねがいの糸も白きより
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
快くねがいれてくれました。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
どうぞ私を打遣うっちゃってお逃げなすって下さいまし、おねがいでございます。貴方にこうして頂きますより殺されます方がどんなに心安いか分りません。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんな家にこうして住まわせて上げれば、平生のねがいかなったのだと云ってもいと、嬉しく思わずにはいられなかった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
少々おねがいがあって参りました、母が立腹を致して三日程食事をしません、種々いろ/\詫を致してもきません、手前が喧嘩の中へ入り、匹夫の勇を奮い
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
淵明、王維の詩境を直接に自然から吸収して、すこしのでも非人情ひにんじょうの天地に逍遥しょうようしたいからのねがい。一つの酔興すいきょうだ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私の方からもねがいすじがある、兼て長官へ内々御話いたしたこともある通り、三田みた島原しまばらの屋敷地を拝借いたしたい、けは厚く御含おふくみを願うと云うは
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
参軍断事さんぐんだんじ高巍こうぎ、かつて曰く、忠に死し孝に死するは、臣のねがいなりと。京城けいじょう破れて、駅舎に縊死いしす。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
が、そうした疑惑は、ふと足を止めた時などに、閃光のように頭を掠めるだけで、弥陀のおねがいを信じ切って居るおかんは、此の道が極楽へのたゞ一つの道である事を信じて居た。
極楽 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
幾千年、幾万年、お前たち、空も森も水も、ただこの一刹那いっせつなの為に生き永らえていたのではないか。お待ち遠さま(!)さあ、今、私はお前達のはげしいねがいをかなえて上げるのだよ
火星の運河 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ああ感謝す爾は余のこの大試錬に堪ゆべきを知りたればこそ余のねがい聴賜ききたまわざりしなり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
神様かみさまもこのわたくしねがい無理むりからぬこと思召おぼしめされたか、こころよくお引受ひきうけしてくださいました。
お前のれいねがいが己を引き寄せている。
「旦那様、おねがいで御座います」
黄金を浴びる女 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
恋さまざまねがいの糸も白きより
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
早く彼がねがいを満たいて、ちかいの美女を取れ、と御意ある。よって、黒潮、赤潮の御手兵をちとばかり動かしましたわ。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
國のくの字も仰しゃる気遣きづかいはありませんよ、それですから貴方が本当に信実しんじつがおあり遊ばすならば、私のねがいかなえて、うちの殿様を殺して下さいましな
われ君が心を知りてのねがいあり。かくいはばきのふはじめて相見て、こと葉もまだかはさぬにいかでと怪み玉はむ。されどわれはたやすくまどふものにあらず。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
母の病気ねがいが済んでいよいよ船にのって出掛けようとする時に母の病気、誠に困りました。ソレカラ私は一生懸命、の医者を頼みの医者に相談、様々に介抱した所が虫だとう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
おんおもかげの変りたる時にこそ浅墓あさはかならぬわが恋のかわらぬ者なるをあらわしたけれと、無理なるねがいをも神前になげきこそろと、愚痴の数々まで記して丈夫そうな状袋をえらみ、封じ目油断なく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
されば「かた」とは後に実行さるべき事を今かたく約する所の確証である。十七章三節のヨブのねがいは、彼の死後において神が彼の無罪を証明する約束の確証を今賜わらんことを願うのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
長きたもとに雲の如くにまつわるは人に言えぬねがいの糸の乱れなるべし。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かなわぬことと知りながら、彼は果敢はかないねがいを捨て兼ねた。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
この国のみかどが切におねがいなされたので。
人のもてあそびの腐れただよごれものが、かけまくもかしこき……清く、美しき御神おんかみに、嫉妬しっとねがいを掛けるとは何事じゃ。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
善「そんな事をいう奴があるものか、しかし八右衞門さん、此奴こいつの事ですからさしたる事でも有りますまいから、どうぞねがいを叶えてやって下さいましな」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)