あかがね)” の例文
私はこの時母の前へ此三ツの貨幣を置いて其廻そのまはりをトン/\踊りまはつたのを覚えてます、「金の機会に、銀の機会に、あかがねの機会だ」
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
弓を捨てると、馬超は、あかがねづくりの八角棒を持って、張飛を待った。張飛の蛇矛じゃぼこは、彼の猿臂えんびを加えて、二丈あまりも前へ伸びた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「かれくろがねうつわを避くればあかがねの弓これをとおす、ここにおいてこれをその身より抜けばひらめやじりそのきもよりで来りて畏怖おそれこれに臨む」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
そういったかと思うと、三十年間の櫛風沐雨しっぷうもくうで、あかがねのように焼け爛れた幸太郎の双頬そうきょうを、大粒の涙が、ほろりほろりと流れた。
仇討三態 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それから第二の御布告おふれあかがねの板に書きまして、馬乗うまのりの上手な四人の兵士に渡して、四方の国々の王宮へ即座に出発させました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
精々十五発程度のものが紙に包んで添えられていたのであったが、あたりを見廻しながらあかがね色をしたはがねの胴体に、手早く装填そうてんしてしまった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
召しませぬか、さあさあ、これは阿蘭陀オランダトッピイ産の銀流し、何方どなたもお煙管きせるなり、おかんざしなり、真鍮しんちゅうあかがね、お試しなさい。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
他なほ知らぬがほにて、「黄金殿か白銀しろかね殿か、われは一向親交ちかづきなし。くろがねを掘りに来給ふとも、この山にはあかがねも出はせじ」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
お前たちはさっと一斉にあかがねの胸を張って、殆んど蹄も地に触れないで、空気を切って飛ぶ一本の直線と化し、神意を体して驀進する!……ロシアよ
そうこうしているうちに、向うから一人の掘子ほりこが来た。ばらのあかがねをスノコへ運ぶ途中と見えて例のいてよちよちカンテラをりながら近づいた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
... 鉄鍋はおろか、銀の鍋を買ても知れたものだ」と主人の熱心は遂に小山の心を動かしけん「それでは僕もあかがねや青銅の鍋を廃して残らず西洋鍋に取代とりかえよう」
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そしてその次の日、イーハトーヴの人たちは、青ぞらが緑いろに濁り、日や月があかがねいろになったのを見ました。
グスコーブドリの伝記 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
敷石道の左右は驚くほど平かであって、たまの如くなめらかな粒の揃った小石を敷き、正方形に玉垣を以て限られた隅々にあかがねの燈籠を数えきれぬほど整列さしてある。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
藪原長者の大館おおやかたは木曽川に臨んだ巨巌きょがんの上にとりでのように立っていた。すそは石垣で畳み上げ、窓はあかがねの網を張り、おおかみより猛々たけだけしい犬の群は門々の柱につないであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あなたは宮殿の角のあかがねの柱につながれて、鉄の縄で足をくくられていました。獄卒が往ったり来たりして、棒であなたのわきの下をくと、血がだらだらと流れました。
鱗綴うろことぢの大鎧にあかがねほこひつさげて、百万の大軍を叱陀しつたしたにも、劣るまじいと見えたれば、さすが隣国の精兵たちも、しばしがほどはなりを静めて、出で合うずものもおりなかつた。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
その隣には小型旋盤が置かれ、すぐわきの床に取りつけたモーターと調革しらべかわでつながれている。その近くの壁には配電盤があり、大きなスイッチのあかがねが幾つも気味悪く光っている。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
風に雲のふきはらわれたとき、その深いあかがね色のそこが見えた。雲はやがて雨になるであろう。
苦しむ者の聲によりて鳴き、あかがねうつはあたかも苦患なやみに貫かるゝかと疑はれし如く 一〇—一二
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
貯積したり、鉱夫より出でてあかがね御殿を建てたるものあり。その徳や実に賛美して余りあり
空中征服 (新字新仮名) / 賀川豊彦(著)
札木合ジャムカ (すっかり怖毛おじけ立って)いや、貪る鷹のような成吉思汗ジンギスカン軍のいきおいだ。成吉思汗ジンギスカンは、総身あかがねのように鍛えられ、土踏まずや腋の下にさえ、針も通らぬというではないか。
道臣は神殿のあかがね擬寶珠ぎぼしでも盜みに來たものがあるのではなからうかと思ひつゝ、隨神門の扉を押し開いて、兩側に並んだ石燈籠の蔭や、中をくり拔けば大きな水風呂の幾つも出來さうな
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
銀のくさびと銀ののこぎりをうけとりました。それから、つちあかがねでした。
私が長崎に居るとき塩酸亜鉛あえんがあれば鉄にもすずを附けることが出来ると云うことをきいしって居る。れまで日本では松脂まつやにばかりを用いて居たが、松脂ではあかがねるいに錫を流して鍍金めっきすることは出来る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
羅馬法皇ろおまほふわうのやうな薔薇ばらの花、世界を祝福する御手みてからき散らし給ふ薔薇ばらの花、羅馬法皇ろおまほふわうのやうな薔薇ばらの花、その金色こんじきしんあかがねづくり、そのあだなるりんの上に、露とむすぶ涙は基督クリスト御歎おんなげき、僞善ぎぜんの花よ
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
その巨木の立枯れしてゐる中へ、あかがねの船が一艘沈んでゐる。
霧の旅 (旧字旧仮名) / 吉江喬松(著)
或る知られざる神の持つ、あかがねふちどられたる額して
己は門の屋根のあかがねを剥して売らうと考へた
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
あなあはれ、今日けふもまたあかがねの雲をぞ生める。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
いまわが呉は、孫将軍が、父兄の業をうけて、ここに三代、地は六郡の衆を兼ね、兵は精にし、ろう豊山ほうざんあかがねとなし、海を煮て塩となす。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曲尺かねじゃくに隅を取って、また五つばかりあかがねの角鍋が並んで、中に液体だけはたたえたのに、青桐あおぎりの葉が枯れつつ映っていた。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
虫が知らせたと云えば、虫が知らせたとも云えるが、実はこの山の色を見て、すぐあかがねを連想したんだろう。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
墓の形が穹窿アーチ形に、あかがねや青銅、そして中には金と覚しく、陽光を受けて燦然さんぜんきらめいているのもあった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そのときはもう、あかがねづくりのお日さまが、南の山裾やますそ群青ぐんじやういろをしたとこに落ちて、野はらはへんにさびしくなり、白樺しらかばの幹などもなにか粉を噴いてゐるやうでした。
かしはばやしの夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
あかがねで蔽われた天井だの、黄金を敷いた階段だの、鋼玉を鏤めた石像だの、絹布に刺繍した天蓋だの、美々しい装飾に眩惑され乍ら、私は飽かず堂内を歩き廻っていたものです。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
たけの高い高粱が、まるで暴風雨あらしにでも遇ったようにゆすぶれたり、そのゆすぶれている穂の先に、あかがねのような太陽が懸っていたりした事は、不思議なくらいはっきり覚えている。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
むかふうの台所へって御覧なさい、古びた青銅鍋からかねなべだの粗製そせい琺瑯鍋ほうろうなべだのあるいはあかがねの鍋だの真鍮鍋しんちゅうなべなんぞを使っていますが西洋は大概国法を以てあんな鍋の使用を厳禁しています。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
東大寺の大仏、同じくあかがね燈籠扉のレリーフ、法華堂ほつけだう(三月堂)の諸仏像、当麻寺たいまでらの諸像、法隆寺の九面観音像、その他、優にエヂプト、ギリシャの彫刻にも匹敵するものが多いのである。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
非常梯子ばしご伝いに三階の非常口まで来ますと、あそこから丈夫なあかがねの雨とい伝いに、軒先からクルリと尻上りをして屋根の上に出ましたが、さすがの私……火星の女も、その尻上りをした時に
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
父は少し口髯くちひげが白くなったばかりで、あかがねのような顔色はますます輝き、頑丈な身体からだは年と共に若返って行くように見えましたが、母は私の留守に十年二十年も、一時に老込おいこんでしまいました。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
白鉄余はくてつよ延州えんしゅう胡人こじん西域せいいきの人)である。彼は邪道をもって諸人を惑わしていたが、深山の柏の樹の下にあかがねの仏像を埋め、その後数年、そこに草が生えたのを見すまして、土地の人びとをあざむいた。
人住むあたりあかがねの雲、たち籠むる眼路めぢのすゑ。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
あかがねの、千の帯にてかの空を満たしもしよう。
あなあはれ、きその日もあかがねのなやみかかりき。
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
緑青のんだあかがねの門の垂木たるきから
都会と田園 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
たった三杯みっつ四杯よっつかさねただけなのに、武蔵の顔は、あかがねを焼いたようにてりだし、始末に困るように、時々手を当てた。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妙に白耳義が贔屓ひいきで、西班牙がすきな男だから、瓜のうつろへ、一つには蛍を、くびあかがねに色を凝らして、烏金しゃくどう烏羽玉うばたまの羽を開き、黄金きんと青金で光の影をぼかした。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのときはもう、あかがねづくりのお日さまが、南の山裾やますそ群青ぐんじょういろをしたとこに落ちて、野はらはへんにさびしくなり、白樺しらかばの幹などもなにか粉をいているようでした。
かしわばやしの夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この静かな判然はっきりしない灯火の力で、宗助は自分を去る四五尺の正面に、宜道のいわゆる老師なるものを認めた。彼の顔は例によって鋳物いもののように動かなかった。色はあかがねであった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だからもし運命が許したら、何小二はこの不断の呻吟しんぎんの中に、自分の不幸を上天に訴えながら、あのあかがねのような太陽が西の空に傾くまで、日一日馬の上でゆられ通したのに相違ない。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)