鉢巻はちまき)” の例文
旧字:鉢卷
あのしろ着物きものに、しろ鉢巻はちまきをした山登やまのぼりの人達ひとたちが、こしにさげたりんをちりん/\らしながら多勢おほぜいそろつてとほるのは、いさましいものでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
細おもてに無精髭ぶしょうひげが少し伸びて、しおやけのした顔に賢そうなが光っていた。古タオルで鉢巻はちまきをし、仕事着に半長靴はんちょうかをはいていた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
武男が入り来る足音に、老爺じじいはおもむろに振りかえりて、それと見るよりいささか驚きたるていにて、鉢巻はちまきをとり、小腰をかがめながら
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
今——このかげから四、五人の軍卒ぐんそつ鎖具足くさりぐそくに血のにじんだ鉢巻はちまきをして、手に手にくわすきをひッさげ、バラバラと陣屋へけだしてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
此処こゝに寝ているのが亥太郎の親父おやじ長藏ちょうぞうと申して年六十七になり、頭は悉皆すっかり禿げて、白髪の丁髷ちょんまげで、頭痛がすると見え手拭で鉢巻はちまきをしているが
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
玄関から座敷へ通つて見ると、寺尾は真中まんなかへ一貫ばりの机を据ゑて、頭痛がすると云つて鉢巻はちまきをして、腕まくりで、帝国文学の原稿をいてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
すると、このときまでだまっていたチョビ安、街の所作事から帰ったままの着つけでいたが、肩の手拭を取って、いきなりねじり鉢巻はちまきをしだした。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
とんとんと土をふんで、林檎りんごのように赤くて丸い顔をした鉢巻はちまきすがたの少年が、にっこりと窓の外から顔を出した。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「署長ご健勝で。」署員たちが向ふ鉢巻はちまきをしたり棍棒こんぼうをもったりしてかけ寄った。署長は痛いからだを室から出た。
税務署長の冒険 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
月琴げっきんの師匠の家へ石が投げられた、明笛みんてきを吹く青年等は非国民としてなぐられた。改良剣舞の娘たちは、赤きたすき鉢巻はちまきをして、「品川乗出す吾妻艦あずまかん」とうたった。
僕はM子さんの女学校時代にお下げに白いうし鉢巻はちまきをした上、薙刀なぎなたを習ったと云うことを聞き、定めしそれは牛若丸うしわかまるか何かに似ていたことだろうと思いました。
手紙 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たすき鉢巻はちまき股立ももだち取って、満身に力瘤ちからこぶを入れつつ起上たちあがって、右からも左からも打込むすきがない身構えをしてから、えいやッと気合きあいを掛けて打込む命掛けの勝負であった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
そして鉢巻はちまきの下ににじんだ汗を袖口そでぐちぬぐって、炊事にかかった妻に先刻の五十銭銀貨を求めた。妻がそれをわたすまでには二、三度横面よこつらをなぐられねばならなかった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
とうやん、はあめにしなんせ」と常吉が鉢巻はちまきを取った時には、もう馬の影も地に写らなかった。自分は何時間おったか知らぬ。鳥貝の白帆もとくにいなくなっている。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
男の子は女の子よりも少く、たいてい黒か白かのパンツをはき、手拭てぬぐひで頭に鉢巻はちまきをしてゐます。
プールと犬 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
この色がえてよかろうという母のこころ遣いから、朱いろ、総塗り、無紋の竹胴たけどうをきっちりと胸につけて、下着も白の稽古けいこ襦袢じゅばん鉢巻はちまきも巾広の白綸子しろりんずはかまも白の小倉袴こくらばかま
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
じいさま、彼所あそこゆる十五、六さいくらい少女しょうじょなんと品位ひん様子ようすをしてることでございましょう。衣裳いしょうしろ羽根はねしろ、そしてしろひもひたい鉢巻はちまきをしてります……。
次は大井と庄司とでおの/\小筒こづゝを持つ。次に格之助が着込野袴きごみのばかまで、白木綿しろもめん鉢巻はちまきめて行く。下辻村しもつじむら猟師れふし金助きんすけがそれに引き添ふ。次に大筒おほづゝが二挺とやりを持つた雑人ざふにんとが行く。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
赤い鉢巻はちまきをして、元気な顔をしていた。鳩の巣箱のような基金箱を胸にかかえて人々の間を回ると、めいめいがま口をあけて待っていた。近づくと我も我もと箱の中へ手がのびた。
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
男は股引ももひきに腹かけ一つ、くろ鉢巻はちまき経木きょうぎ真田さなだの帽子を阿弥陀あみだにかぶって、赤銅色しゃくどういろたくましい腕によりをかけ、菅笠すげがさ若くは手拭で姉様冠あねさまかぶりの若い女は赤襷あかだすき手甲てっこうがけ、腕で額の汗を拭き/\
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかし頭へ金属の鉢巻はちまきをしてまでも聞きたいと思うものはめったにないようである。
路傍の草 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
……かぶつて居たとすれば、男の児だらうが、青い鉢巻はちまきだつけ。……麦藁むぎわらに巻いたきれだつたらうか、其ともリボンか知ら。色は判然はっきり覚えて居るけど、……お待ちよ、——とうだから。……
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
揃いの浴衣に黄色く染めた麻糸に鈴を付けたたすきをして、真新しい手拭を向う鉢巻はちまきにし、白足袋しろたびの足にまでも汗を流してヤッチョウヤッチョウと馳け出すと背中の鈴がチャラチャラ鳴った。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
どうするって、姉さん、あたしはこれで鉢巻はちまきをたくさんこしらえるつもりなの。白絹の鉢巻は勇しくって、立派な親分さんみたいに見えるわよ。お父さんも、お仕事の時には絹の白鉢巻を
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
開店の朝、向う鉢巻はちまきでもしたい気持で蝶子は店の間に坐っていた。午頃ひるごろ、さっぱり客が来えへんなと柳吉は心細い声を出したが、それに答えず、眼をさらのようにして表を通る人を睨んでいた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
汗ではだに粘り着いた服を、皮をぐように頭からすっぽり脱ぎ、ブルーマー一つの素っ裸になって洗面所へ隠れたが、しばらくすると手拭てぬぐい鉢巻はちまきをし、湯上り用タオルを腰に巻いて出て来て
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
写楽の似顔絵を熟視せよ。松本幸四郎まつもとこうしろう高麗格子こうらいごうし褞袍どてら鉢巻はちまきして片手の指先にぼんやりと煙管きせるささへさせたるが如き、錦絵の線と色とが如何いかによく日本人固有の容貌ならびに感情を描出えがきいだせるか。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
女房に死なれてから、ひどくボケたような父親は、白髪頭に鉢巻はちまきを締めてしわで小さくなったような人の好い顔をあげて云うのだった。前歯がほとんどないので「フア、フア」という風にきこえる。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
浴衣ゆかたの腕をまくり、その頃はまだ珍らしい腕輪を見せ、やや長めの断髪の下から、水入りの助六すけろく(九代目市川団十郎歌舞伎十八番)のような鉢巻はちまき手拭てぬぐいでして、四辺あたりをすこしもはばからなかった。
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
丁度彼の前にあったのは、一人の醜い一寸法師の娘が、印半纒しるしばんてんを着て、鉢巻はちまきをして、手踊りを踊っている絵であったが、その娘の厚ぼったい唇が、遠くの街燈の光を受けて、薄気味悪く笑っていた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
むか鉢巻はちまき、そろひの半被はつぴ
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
着物も白、帯も白、鉢巻はちまきも白、すべて白ずくめな山の巡礼者と前後して、やがて半蔵も禰宜の家の人たちに別れを告げて出た。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
先生の家は先生のフラネルの襯衣シャツと先生の帽子——先生はくしゃくしゃになった中折帽なかおれぼうに自分勝手に変な鉢巻はちまきを巻き付けてかむっていた事があった。
頭部には鉢巻はちまきのようにぐるぐる繃帯ほうたいを巻きつけ、その上にのせていた黒い中折帽子なかおれぼうしをとって、蜂矢にあいさつした。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
にわかにがらんと明るくなりました。そこは広い室であかりもつき砂がきれいにならされていましたがその上にそれはもうとてもおそろしいちょうざめが鉢巻はちまきをしてていました。
サガレンと八月 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
かけつづく面々めんめんには、忍剣にんけん民部みんぶ蔦之助つたのすけ、そして、女ながらも、咲耶子さくやこまでが、筋金入すじがねいりの鉢巻はちまきに、鎖襦袢くさりじゅばんはだにきて、手ごろの薙刀なぎなたをこわきにかいこみ、父、根来小角ねごろしょうかくのあだを
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たくましい赤黒い顔に鉢巻はちまきをきつくしめて、腰にはとぎすましたかまが光っている。
花物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
品川堀を渡って、展望台の方へ行くと、下の畑で鉢巻はちまきをした禿頭はげじいさんが堆肥つくておけかついで、よめか娘か一人の女と若い男と三人して麦蒔むぎまきをして居る。爺さんは桶をろし、鉢巻をとって、目礼もくれいした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と言って笑い、鉢巻はちまきの結び目のところあたりへ片手をやった。
メリイクリスマス (新字新仮名) / 太宰治(著)
時には肩に掛けたたすきの鈴を鳴らし、黄色い団扇うちわを額のところに差して、後ろ鉢巻はちまき姿で俵天王たわらてんのうを押して行く子供の群れが彼の行く手をさえぎった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
邪魔ならまたると云ふと、帰らんでもいゝ、もう今朝けさから五五ごご、二円五十銭丈かせいだからと云ふ挨拶であつた。やがて鉢巻はちまきはづして、はなしはじめた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
手ぬぐいを首に巻きつけて行くもののあとには、火の用心の腰巾着こしぎんちゃくをぶらさげたものが続く。あるいは鬱金うこん浅黄あさぎ襦袢じゅばん一枚になり、あるいはちょんまげに向こう鉢巻はちまきという姿である。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そばへ行くと、飛んだりたりする。馬がこわがるからだと云って、手拭てぬぐい眼隠めかくしをして、支那の小僧が両手でくつわをしっかり抑えている。遠くから見ると、馬が鉢巻はちまきをしたようでおかしかった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)