遠慮えんりょ)” の例文
「帰りません。しかし僕はもうご遠慮えんりょしない決心ですから、またさっきのようなことになって、安斉先生に追い出されてしまいます」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
すると、こんどは、ポチは、よろこんで、もうだれにも遠慮えんりょもないとおもったごとく、帽子ぼうしをくわえて、がりながら、しました。
頭をはなれた帽子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ついでにこのいえもおまえさんにあずけるから、遠慮えんりょなくまってください。わたしたちは当分とうぶん遠方えんぽうへ行ってらさなければなりません。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「よう来た、よう来た。さあさあ、おあがり。御堂でも庫裡でも遠慮えんりょはいらん。うちのつもりで、すきなところにゆっくりするんじゃ。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
又権力に対する遠慮えんりょや、権力者自身の利益などから、意識的または無意識的に同じ言葉がまるで異なった意味で用いられたり
政治学入門 (新字新仮名) / 矢部貞治(著)
何、遠慮えんりょをしねえで浴びるほどやんなせえ、生命いのちが危くなりゃ、薬をらあ、そのためにわしがついてるんだぜ、なあ姉さん。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし、今日きょうはじめてこの道を歩くことになった五年生たちは、目をぱちくりさせながら、今日仲間入りをしたばかりの遠慮えんりょさで、きいている。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
三四にん先客せんきゃくへの遠慮えんりょからであろう。おきぬがちゃみにってしまうと、徳太郎とくたろうはじくりと固唾かたずんでこえをひそめた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
またなにのぞみがあるなら、いまうち遠慮えんりょなく申出もうしでるがよい。無理むりのないことであるならすべてゆるすつもりであるから……。
それでもし沈むようなことがあったら、わしは燻製となって、君の食卓の皿の上にのってもよろしい。さあ、遠慮えんりょなく、沖合へ主力艦をくりだしたまえ
「ええ、ありがとう。」とって遠慮えんりょしましたら、鳥捕りは、こんどは向うの席の、かぎをもった人に出しました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
モイセイカは今日きょう院長いんちょうのいるために、ニキタが遠慮えんりょしてなに取返とりかえさぬので、もらって雑物ぞうもつを、自分じぶん寝台ねだいうえあらざらひろげて、一つ一つならはじめる。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
するとうらなり君は今日は私の送別会だから、私が先へ帰っては失礼です、どうぞご遠慮えんりょなくと動く景色もない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ゆえに僕は実業にこころざす人に、社会国家をわすれろとは決して言わないけれども、口に出すことだけは遠慮えんりょするほうがよかろうとすすめたいくらいに思っている。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
涼しい食物のさらが五つ六つ並んで、腹の減った小初が遠慮えんりょなく箸を上げていると、貝原はビールの小壜こびんを大事そうに飲んでいる。ぽつぽつ父親のうわさを始めた。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
二十年まえに離別りべつした人でこの家の人ではないけれど、現在げんざいお政の母である以上は、まつりは遠慮えんりょしたほうがよかろうと老人ろうじんのさしずで、忌中きちゅうふだを門にはった。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
遠慮えんりょなく、乗せてもらうと、目貫めぬきの通りにドライブしながら、ぼくの胸にさした日の丸のバッジを見詰みつ
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
「ハハハ、遠慮えんりょにはおよばないさ。黒ん坊は働くために生まれてきたのだから、使ってやれば喜んでいる」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それでも、彼女はまるで隣人りんじん同士のように遠慮えんりょしてしまって、なかなか歩をそろえようとはしなかった。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
公爵夫人は食事の間も、例によってちっとも遠慮えんりょせずに、さかんに食べては、料理をめそやした。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
やはり最初のとおりに行儀よく遠慮えんりょがちにつつましくすわっていた。新聞を読むのに気を取られている乗客たちは、だれ一人この風変りな小さな乗客には目をとめなかった。
蝗の大旅行 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
彼はなぜかはずかしそうに、芭蕉ばしょうをうえるのだといった。その理由はわからないがこの男の前で、いつもあらたに木を植えるときには、なぜか口ごもった遠慮えんりょがちな言い方をしていた。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
されば我輩わがはいもって氏のめにはかるに、人のしょくむのゆえもって必ずしもその人の事に死すべしと勧告かんこくするにはあらざれども、人情の一点より他に対して常に遠慮えんりょするところなきを得ず。
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
遠慮えんりょして云わないこと、前後矛盾むじゅんしていること、何かもぐもぐと云うには云っても息のれる声が聴き取りにくく、いくら問い返しても要領をつかめなかったことなどがたくさんあって
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
せわしい中に、月は遠慮えんりょなく七月に入る。六月は忙しかったが、七月も忙しい。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
空いたおなかかかえながら二人はたった一枚の布団ふとんにくるまって、部屋のすみにちぢこまっていました。あばら家のことですからどこも隙間すきまだらけです。その隙間から吹雪は遠慮えんりょなくき込んで来ます。
神様の布団 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
私は遠慮えんりょなく葉巻を一本取って、燐寸マッチの火をうつしながら
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
子路ほど遠慮えんりょなく師に反問する者もない。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
にまし、あつくなると、はえやが、だんだんおおてきました。はえは遠慮えんりょなく、おじいさんのはげたあたまうえにとまりました。
夏とおじいさん (新字新仮名) / 小川未明(著)
「内藤さん、けっしてご遠慮えんりょはいりませんのよ。今度こそ一晩ゆっくりお母さんのお乳をしあがっていらっしゃい」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
希望どおり彼女が男に生まれていたとしても、今ごろは兵隊墓にいるかもしれないこの若いいのちを、遠慮えんりょもなくうばったのはだれだ。また涙である。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
さッさいなよわしゃんせ。土平どへい自慢じまん人参飴にんじんあめじゃ。遠慮えんりょ無用むようじゃ。わしゃんせ。っておせんにれしゃんせ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
わたくし不躾ぶしつけとか、遠慮えんりょとかったようなことはすっかりわすれてしまい、早速さっそくちかづいて附添つきそいのおじいさんにたずねました。——
「ええ、ありがとう」といって遠慮えんりょしましたら、鳥捕とりとりは、こんどはこうのせきの、かぎをもった人に出しました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そのうちだんだんけるにしたがって、たださえあばらのことですから、そとつめたいかぜ遠慮えんりょなく方々ほうぼうからはいんで、しんしんと夜寒よさむにしみます。
安達が原 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
そのうえに、こんど博士が、大きな金もうけをさせてくれるといったのにたいし、好感こうかんをよせたのだ。村人は、博士をとりまいて、遠慮えんりょのない話をとりかわした。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
うらなり君はおそれ入った体裁で、いえかもうておくれなさるな、と遠慮えんりょだか何だかやっぱり立ってる。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わしの耳には、そのまま仏界ぶつかい妙音みょうおんともきこえたのじゃ。鐘をつくなら、あのようにつきたいものじゃのう。何も遠慮えんりょすることはない。みんなの心得にもなることじゃ。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「ああ。」と云うと、ひしと謙造の胸につけた、遠慮えんりょの眉はあわいをおいたが、前髪は衣紋えもんについて、えりの雪がほんのりかおると、袖に縋った手にばかり、言い知らず力がこもった。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのひっそりした稲妻、その遠慮えんりょがちのひらめきが、同じくわたしの身うちにもひらめいている無言のひそやかな衝動しょうどうに、ちょうど相応ずるもののように思われた。夜が明け始めた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
私達は一緒いっしょになって間もなかったし、多少の遠慮えんりょが私をたしなみ深くさせたのであろうか、その男の白々しらじらとした物云いを、私はいつも沈黙だまって、わざわざ報いるような事もしなかった。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
深川の乳屋ちちやも知ってる人と見え、やあとあいさつして遠慮えんりょもなくあがってきた。
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「もちろん悪いとは知っていますが、どういう因果いんがでありますか、これが私のたしなみです」ということは、常に聞くことなるも、かくのごとき申し訳は人に対し遠慮えんりょ斟酌しんしゃくする言葉に過ぎぬのである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
もちろん佐助は淀屋橋へ行ってからも少しも前と異ったあつかいはされなかったやはりどこまでも手曳きであったその上検校が死んだので再び春琴に師事することになり今は誰に遠慮えんりょもなく「お師匠様」と呼び「佐助」と呼ばれた。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それに、ぼっちゃんの大事だいじ帽子ぼうしをよごしたり、いためたりしては、わるいとおもったので、遠慮えんりょするようにえたのであります。
頭をはなれた帽子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ひところぶことなんぞ、遠慮えんりょしてたまるもんかい。はやってさわらねえことにゃ、おせんちゃんはかえッちまわァ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
と正三君は胸にうかんだままを遠慮えんりょなくあらわした。今朝けさから学友の任務ということを考えていたのである。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
何事なにごともすべてお心易こころやすく、一さい遠慮えんりょてて、くべきことはき、かたるべきことはかたってもらいます。
「いやご遠慮えんりょはありません。どうぞ。わたしはどうも先生の音楽をきかないとねむられないんです。」
セロ弾きのゴーシュ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
それで他人のふところも遠慮えんりょなくのぞきこんで、人のことはいうなといっても平気でいう。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)