しち)” の例文
うりに參らんといましちより受出して來たる衣服いふくならび省愼たしなみの大小をたいし立派なる出立いでたちに支度なして居たる處へ同じ長家に居る彼張子かのはりこ釣鐘つりがね
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
友達はそれをしちに入れて一時をしのいだ。都合がついて、質を受出うけだしてかへしにた時は、肝心の短銃ピストルの主はもう死ぬ気がなくなつて居た。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
可笑おかしきは合祀先の神社の神職が、神社は戻るとも神体は還しやらずとて、おのれをその社の兼務させくれるべきしちに取りおる。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
「お綱はしちにとりましたぞ、この周馬がな。ところで、あとのご相談、どういうご希望があらっしゃるか、ここで聞こうじゃござらぬか」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
己を悩ましたしちの、ラシイヌの一巻は依然として己の手のうちに残ったのである。そして又己を悩まさなくては済まないだろう。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その翌日、着物をしちに入れたりなんかして若干の金の工面くめんをして、賢の入学に必要なものを買いに、父は賢をつれて町に出た。
「僕は、なにしろ、かに缶詰かんづめで失敗したから、何にもない。洋服が一着あるのだけれど、移転ひっこしの金が足りなかったから、しちに入れてしまった。」
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
弥ざゑもんはからず十両の金をしち入れせし田地をもうけもどし、これよりしば/\さいはひありてほどなく家もあらたに作りたていぜんにまさりてさかえけり。
節季師走せっきしわすにはなる。幽霊だって気が気じゃあねえ。家のものだってしちに置こうし、よそから預かっている物だって古道具屋にも売ろうじゃあねえか。
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
狡辛こすからく世を送っているものだから、め込む目的あてがない時はしちに入れたり、色気の見える客が出た時は急に質受けしたり、十余年の間というものは
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それでもりやにつたか、おつかゞものはみんなわれがもんだかんな、がだとなりやいくこまつたつて、はあけつしてしちになんざかねえから
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
わしも若い時ゃ芝居がでえすきでね、大白猿だいはくえん鼻高はなたか盛んの頃には、薬箱をしちに置いても出かけたもんだがね、近頃、江戸も役者の粒がぐっと落ちやした。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
クレーグ船長はきっと死んでいる。それであるから、われわれに脱出の機会があるにもかかわらず、ここにぐずぐずしているのはくだらなくみんな生命いのちしち
「何を言やがる、しちの流れ月が来るたびに、——金持に生れりゃ良かった——って言ったじゃないか」
お千代はこの間から、しちに入っている衣類の中で、どうしても流してしまいたくないと思うものがあるので、せめて利子の幾分でも入れて置きたいと思案に暮れていた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一と月ほど経ってから読んだかとくと、何だかしちくどくて面倒臭いもんだといってろくすっぽ読んでいなかった。三月みつきほどしてから会った時もやはり読んでいなかった。
それでも江戸っ子は狂喜して、それがためにしちまで置いたというから大したものだ。
いなせな縞の初鰹 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
味噌みそ小買こがひをするは、しちをおくほど恥辱ちじよくだと風俗ふうぞくなりしはずなり。豆府とうふつて半挺はんちやう小半挺こはんちやうとてる。菎蒻こんにやく豆府屋とうふやにつきものとたまふべし。おなじなか菎蒻こんにやくキツトあり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あっしゃァ質屋しちやしちと、万金丹まんきんたんたんだけしきゃけやせんが、おせんは若旦那わかだんなのお名前なまえまで、ちゃァんと四かくけようという、水茶屋女みずぢゃやおんなにゃしいくらいの立派りっぱ手書てがき。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
チャンと自分の金の出来るまで待て居る。れから又私はしちおいたことがない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「アハハハハ、貧乏人のしちで上げ下げが怖ろしい」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
天使のしちを持っているわけになりまする。
しちに置いたら、何両貸す事かの。」
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
小夜衣さよぎぬと改めしか是も突出つきだし其日より評判もつともよかりければ日夜の客絶間たえまなく全盛ぜんせい一方ならざりけり茲に神田三河町にしち兩替渡世を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「いかに光秀なればとて、自身の老母をしちとして、この城内へあずけておきながら、この秀治に危害を加えるはずはあるまい。安心せい」
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
弥ざゑもんはからず十両の金をしち入れせし田地をもうけもどし、これよりしば/\さいはひありてほどなく家もあらたに作りたていぜんにまさりてさかえけり。
殊に銀を貰ってすぐに逃げて帰るのも気が咎めるので、彼はおちつかない心持ちを無理に押し付けて、しちに取られた人のようにおとなしく坐っていた。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「おい、あんまり引張るなよ、しちの値がさがらあな、着物を引張らなくっても文句は言えそうなもんだ」
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「佐久間町二丁目の伊勢屋、——親分も知つてるでせう、界隈かいわい一番の物持で、兩替屋の組頭。しちも扱つてゐるが、こちとらが腹掛や股引もゝひきを持ち込むやうな店ぢやねえ」
し大王首計しゅけいの者をりたまい、護衛の兵を解き、子孫をしちにし、骨肉猜忌さいきうたがいき、残賊離間の口をふさぎたまわば、周公とさかんなることを比すべきにあらずや。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
傘もなし下駄げたもなかったが、しちを受け出さねばならぬので買うわけには行かず、びしょびしょと雨に濡れつつ、低い下駄ではねをあげながら巣鴨すがもの久能さんの家まで歩いて行った。
これさうだことしてお内儀かみさんとこへも小作こさくさがりつてねえでまねえんですが、かゝあ單衣物ひてえものしちえてたのしてつたんでがすがね、はたけへなんぞんのにやあんまものなんだが
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
表通のいい家はなかなか入れてくれないし、それに、どのみちカッフェー向きの着物が入用いりようですからね。差当りそれが一番困ります。しちから出したところで、あれは種子さんの物でしょう。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
夫人がなんと思おうと構うことは無い。とにかく箱根を去る。そしてこれを機会にして、根岸との交通をってしまう。あのしちのようになっているラシイヌのしゅうを小包で送り返して遣る。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
みちすがらも、度々たびたび頂戴ちょうだいゆえに、猿の面も被ったまま、脱いでは飲み被っては飲み、しち出入だしいれのせわしい酒じゃな。あはははは。おおおお、たつくち清水しみずより、馬の背の酒は格別じゃ、甘露甘露。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あたゝかかす事ならずかねて金二分に質入しちいれせし抱卷かいまき蒲團ふとんあれども其日を送る事さへ心にまかせねばしちを出す金は猶更なほさらなく其上吉之助一人口がふゑ難儀なんぎの事故夫婦はひざ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
がんどう返しのおとあなちた、お綱の身をしちにとって、その交換条件に、得意なものをかせとは、一体なんのことかしら? ……と旅川の顔をみつめ返した。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
差し当りお津賀の着物でもしちに入れて、なんとか融通して貰おうと存じまして、その明くる晩出直して相談にまいりますと、剣もほろろの挨拶で断わられました。
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
相模屋へ奉公してから十年、若い時フトした間違いでしちに取られた田地をけ戻そうと、私は必死に働きました。旦那の総兵衛様は、私にとっては二代の主人でございます。
「それでもばしてからしちながれだなんち味噌みそたるつたな、麩味噌ふすまみそ佳味うまかねえがいまぢやそんでもおつけへるこたへんのよ」卯平うへい自分じぶん手柄てがらでもかたるやうないひかたであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
わたくしは池田氏の事を問うたのに、何故なにゆえに如電さんは平井氏の事を以て答えたか。それには理由がある。平井東堂の置いたしちが流れて、それを買ったのが、池田京水の子瑞長ずいちょうであったからである。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
人のものしちに置きけり暮の秋
自選 荷風百句 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「この玉璽をしちとしてお手にあずけておきますから、願いの儀を、どうかお聞き届けくださいまし」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こいつがどうしてズウフラなんぞを持っていたかと云うと、自分の店でしちに取った品です。
「在所へ帰ってしちに入れた田地を請出うけだし、年を取った母にも安心させたいから、それを返して下さいと、一年も前から二三度主人に掛け合いましたが、主人はどうしたことか返してくれません」
「だまれっ。李司馬りしばのほうでは、天子をさえ捕えてしちとしているではないか。それをもって、彼は強味としているゆえ、此方もまた、群臣を質として召捕っておくのだ」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「在所へ歸つてしちに入れた田地を請出うけだし、年を老つた母にも安心させたいから、それを返して下さいと、一年も前から二三度主人にかけ合ひましたが、主人はどうしたことか返してくれません」
「いいえ、もうしちに入れてしまいました」
半七捕物帳:27 化け銀杏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
まさか妙齢の処女おとめが、馬に乗ってしち入れにも来まいに、一体なんだろうと立ち止まる者を残して、乗りすてた駒を塗籠ぬりごめさくつなぎ、美女と侍は暖簾口のれんぐちから戸のなかに消え込みました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
相模屋へ奉公してから十年、若い時フトした間違ひでしちに取られた田地を