-
トップ
>
-
省愼
賣に參らんと
今質より受出して來たる
衣服并に
省愼の大小を
帶し立派なる
出立に支度なして居たる處へ同じ長家に居る
彼張子の
釣鐘を
不時の
大騷動に、
愕き
目醒めたる
春枝夫人は、かゝる
焦眉の
急にも
其省愼を
忘れず、
寢衣を
常服に
着更へて
居つた
爲めに、
今漸く
此處まで
來たのである。
見るより
私は
省愼み置たるとは
是又僞りなるべし大方皆
盜み取たる物ならん茲な
大盜人めと樣々に
惡口なしければ元より
武道を
琢く大橋文右衞門
賊名を
晴されよと云つゝ
豫て
省愼み
置たる
具足櫃并びに
差替の大小までも取出し此通り
國難の時の用意も致し居る拙者なり他人の物を