あわ)” の例文
清兵衛せいべえは、うき足立った敵陣へ、まっしぐらに、朝月あさづきをおどりこませ、左右につきふせた敵兵のこしをさぐり、一ふくろあわを発見すると
三両清兵衛と名馬朝月 (新字新仮名) / 安藤盛(著)
その中に胡麻ごまきびあわや竹やいろいろあったが、豆はどうであったか、もう一度よく読み直してみなければ見落したかもしれない。
ピタゴラスと豆 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ところが、官の廩倉りんそうも公卿の私物もほとんど他へ移されており、疎開民家ときてはなおさらで一ト釜のあわすら残してはいなかった。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
慈善と教育との美名のもとに弱い家業の芸人をおどしつけて安く出演させ、切符の押売りで興行をすれば濡手ぬれてあわ大儲おおもうけも出来る。
鍋のふたを取って、あわか、ひえか、雑炊か知らないが、いずれ相当のイカモノを食わせるだろうと思ったところが、鍋の方は問題にしないで
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
高冷地だから米は作れないが、土を運びこむことができれば、あわ、もろこし、蕎麦そばきびなどは作れる、麦も作れるかもしれない。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それに引きかえ、このの国の難波なにわのさぶしさはしのんでも、きょうあすのあわをさがすのにもほとほと永い間のことですもの。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
一個の蟇口、十円足らずの金銭がこうして二つの魂を奪い、生命をさらっていくのかと思いますと、はだえあわの噴くのを覚えます。
錯覚の拷問室 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
かかる山懐やまふところにも焼畑はあって、憐れげな豆やあわが作られている。そのまた奥には下駄を造る小屋もある。山人の生活は労多きものである。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
子を養うためには滋養物が入用なためか、または気にいった動物質の食料が夏は豊富だからか、あわいてっても嬉しそうな声は聴かない。
男の裸のくびは蒼白くあわが立っていた。僕の方に身体をすり寄せて来た。今度は男の体が小刻みに動いていた。僕が聞いた。
(新字新仮名) / 梅崎春生(著)
そこでみんなはあわつぶのコップで舶来ウィスキーを一杯ずつ呑んで、くらくら、キーイキーイと、ねむってしまいました。
カイロ団長 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
水入みずいれ餌壺えつぼ引繰返ひっくりかえっている。あわは一面に縁側に散らばっている。留り木は抜け出している。文鳥はしのびやかに鳥籠のさんにかじりついていた。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もちろん飛騨越ひだごえめいを打った日には、七里に一軒十里に五軒という相場、そこであわの飯にありつけば都合もじょうの方ということになっております。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
骨を折らないで手っとり早くれ手であわもうけがしたいというんです! みんな据えぜん目当ての生活をしたり、人のふんどしで相撲を取ったり
あわく音 炉ばたで寝そべっているときなど、ふと地下で盛んに粟なぞ搗いている音が聞えてくることがある。そういう年は豊年だなどという。
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
家の南側のまばらな生垣いけがきのうちが、土をたたき固めた広場になっていて、その上に一面にむしろが敷いてある。蓆には刈り取ったあわの穂が干してある。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あわ蕎麦そばの畑がみちの左右にあった。畑のしもの方には、人家の屋根がそこに一軒ここに二軒と云うように見えだした。
怪人の眼 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
パリスカスは、全身のはだあわを生じて、逃出にげだそうとする。しかし、彼の足は、すくんでしまう。彼は、まだ木乃伊の顔から眼をはなすことが出来ない。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
五文だけのあわを食う小鳥を捨ててしまうこと、裾衣をふとんにしふとんを裾衣に仕立て直すこと、正面の窓の明りで食事をして蝋燭ろうそくを倹約することなど。
そのわきには焦茶こげちゃ色のあわ畑とみずみずしいきび畑がみえ、湖辺の稲田は煙るように光り、北の岡の雑木の緑に朱を織りまぜたうるしまでが手にとるようにみえる。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
それはあわおこしを食った子供の口の辺に似ていた。デッキじゅうは石炭だらけであった。その各片はデッキの鋳瘤いこぶのように、デッキへ堅く凍りついていた。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
が、それにしてもあの、小児とも野猿ともつかない怪人物の手裏剣わざには、さすが独剣至妙の刃鬼丹下左膳の膚にさえあわを生ぜしむるにたるものがあった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ことにここは、隣家というものもないふかい海底に、横だおしになっている怪塔ロケットの中です。鬼気はひしひしと迫り、毛孔はあわのつぶのようにたちます。
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
これはむろんつかむ工合いにもよりけりであるが、ここに述べたのはあわとか米とかの例に用いたものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
驚いた彼等は肉をあぶって脂を絞るように、手近の山に火を放って地膚から滲み出した貴い脂をひえあわに変えて、荒んだ淋しい生活を送らなければならなくなった。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
濡手であわのつかみどりと云う幸運なのであろう。人間は生れた時から何かの影響に浮身をやつしている。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
むかし、むかし、あるいえのおくらの中に、おこめって、むぎって、あわって、まめって、たいそうゆたかにらしているおかねちのねずみがんでおりました。
ねずみの嫁入り (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「棕櫚の花が咲いたか。ぢや、下を見てご覧、あわいたやうに綺麗きれいに零れてゐるよ。」と云つた。
夏の夜の夢 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
その辺になお血痕けっこん斑々はんはんとして、滴り落ちているかと疑われんばかり、はだあわの生ずるのを覚ゆる。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
あわ小豆あずき飼馬かいばの料にするとかいうひえなぞの畠が、私達の歩るいて行く岡部おかべの道に連なっていた。花の白い、茎の紅い蕎麦そばの畠なぞも到るところにあった。秋のさかりだ。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
たいてい夏の休暇きゅうかと正月で、もってくる土産みやげも同じだった。二人とも同じものというのではない。大阪の小ツルはあわおこしだし、早苗は高松でかわらせんべいときまっていた。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
男の力がぐっと彼女の上体に加わって、あやうく横へねじ倒されようとしたとき、おのぶは無気味な悪寒おかんに全身あわだつような思いで、倒れながら男の顎を下からつきあげた。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
そして麦とあわと大豆とをかなり高い相場で買って帰らねばならなかった。馬がないので馬車追いにもなれず、彼れは居食いぐいをして雪が少し硬くなるまでぼんやりと過していた。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
第五十 あわの赤飯 普通のお赤飯は誰でも知っていますがこれはササゲ小豆あずき一合を湯煮ゆでて絞ってその汁へ餅粟五合とお米五合と半々の割で一晩漬けて翌日その汁は絞って捨てます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
こう口では云いながら、ひえだのあわだのきびだのを、東巖子は平気で食うのであった。
岷山の隠士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
松、杉、ひのきかし、檞、柳、けやき、桜、桃、梨、だいだいにれ躑躅つつじ蜜柑みかんというようなものは皆同一種類で、米、麦、豆、あわひえきび蕎麦そば玉蜀黍とうもろこしというような物もまた同じ種類であります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「私はこれを持って、毎日市へ出てまいりまして、毎日幾等かの金を取って、それであわを買って、一家十余人がえずこごえずにくらしております。これにうえ越す宝がありましょうか。」
王成 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
倒れるときお庭石にでも打ちつけたものか、脳天がずきりずきりとんでおります。わたくしはその谷間をようようい上りますと、ああ今おもい出しても総身そうみあわだつことでございます。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
聞きていたく打ちおどろき、われもかつてかの楼にて怪異を見たることありしが、今思い出でて肌にあわする心地すとて、前の話をつぶさに語り出でて、なお互いにその月日を問い試みたるに
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
路がようやなるくなると、対岸は馬鹿〻〻しく高い巌壁がんぺきになっているその下を川が流れて、こちらは山が自然に開けて、少しばかり山畠やまばたけが段〻を成して見え、あわきびが穂を垂れているかとおもえば
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お布施のほか割麦ひきわりあるいあわひえなどを貰って、おやまのうちの物を食って居るから、実は何時いつまでも置いて貰いたいと思って居りますうちに疵も癒り、或日あるひ惠梅比丘尼は山之助と隣村まで参りまして
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それは一つ一つ、血みどろで、隠険で、邪悪で、一読肌にあわを生じるていの、無気味ないまわしいものばかりであったが、それがかえって読者を惹きつける魅力となり、彼の人気は仲々衰えなかった。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
むさぼり民はとうす、争訟やまず、刑罰たえず、かみおごしもへつろうて風俗いやし、盗をするも彼が罪にあらず、これを罰するは、たとえば雪中に庭をはらい、あわをまきて、あつまる鳥をあみするがごとし。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
洋燈らんぷつけて戸外そといずれば寒さ骨にむばかり、冬の夜寒むに櫓こぐをつらしとも思わぬ身ながらあわだつを覚えき。山黒く海暗し。火影ほかげ及ぶかぎりは雪片せっぺんきらめきてつるが見ゆ。地は堅く氷れり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
夫婦に三人の子供あれば一日に少なくも白米一升五合より二升は入用なるゆえ、現に一月二、三斗の不足なれども、内職の所得しょとくを以てむぎを買いあわを買い、あるいかゆ或は団子だんご様々さまざま趣向しゅこうにてしょくす。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
何といわれるかと思って、私の全身にはあわが生じたくらいでした。
体格検査 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
アルマイトのふたをめくり、いつものとおり細いイカの丸煮が二つと、あわの片手にぎりほどのかたまりが六つ、コソコソと片寄っている中身を見たとき、ぼくの舌は、ごく自然にぼくを裏切ってしまっていた。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
歩行し得ざる事ここに五旬、体温高き時は三十九度に上り低き時は三十五度七分にくだる。たちまち寒くしてあわ肌に満ち、たちまち熱くして汗胸をうるおす。しかも一日も精神の不愉快を感じたる事なし。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「そりゃ、もう、いっぱい——れ手にあわでさあ」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)