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疎
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まばら
ふりがな文庫
“
疎
(
まばら
)” の例文
斷崖の一隅に
龕
(
がん
)
の形をなしたる低き岸あり。灌木
疎
(
まばら
)
に生じて、深紅の花を開ける草之に
雜
(
まじ
)
れり。岸邊には一隻の帆船を繋げるを見る。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
だんだん木が
疎
(
まばら
)
になって、
木床
(
きどこ
)
峠へ出る往来が近くなった。右手の前方に、桜島が、朗らかな初夏の空に、ゆるやかに煙をあげていた。
南国太平記
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
やがて寺の門の空には、
這
(
は
)
い
塞
(
ふさが
)
った雲の間に、
疎
(
まばら
)
な星影がちらつき出した。けれども甚太夫は塀に身を寄せて、
執念
(
しゅうね
)
く兵衛を待ち続けた。
或敵打の話
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
またいつか、人足もややこの
辺
(
あたり
)
に
疎
(
まばら
)
になって、薬師の御堂の境内のみ、その中空も汗するばかり、油煙が低く、
露店
(
ほしみせ
)
の
大傘
(
おおがらかさ
)
を圧している。
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
この木犀は
可成
(
かなり
)
の古い幹で、細長い枝が四方へ延びていた。それを境に、
疎
(
まばら
)
な竹の垣を
繞
(
めぐ
)
らして、三吉の家の庭が形ばかりに区別してある。
家:02 (下)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
▼ もっと見る
そんな中に、
櫨
(
はぜ
)
の樹のみは、晩秋から初冬にかけての日光を、自分ひとりで飲み飽きたかのやうに、
疎
(
まばら
)
に残つた葉が真赤に酔ひ
熱
(
ほて
)
つてゐる。
独楽園
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
いと高き價を拂ひて武器を新にしたるクリストの軍隊が、旗の
後
(
うしろ
)
より、遲く、
怖
(
お
)
ぢつゝ、
疎
(
まばら
)
になりて進みゐしころ 三七—三九
神曲:03 天堂
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
下には
張物板
(
はりものいた
)
のような細長い庭に、細い竹が
疎
(
まばら
)
に生えて
錆
(
さ
)
びた
鉄灯籠
(
かなどうろう
)
が石の上に置いてあった。その石も竹も
打水
(
うちみず
)
で皆しっとり
濡
(
ぬ
)
れていた。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
或
(
あるひ
)
は飲過ぎし年賀の
帰来
(
かへり
)
なるべく、
疎
(
まばら
)
に寄する
獅子太鼓
(
ししだいこ
)
の
遠響
(
とほひびき
)
は、はや今日に尽きぬる
三箇日
(
さんがにち
)
を惜むが如く、その
哀切
(
あはれさ
)
に
小
(
ちひさ
)
き
膓
(
はらわた
)
は
断
(
たた
)
れぬべし。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
外を見ると、窓のぢき前の、黒ぼけた屋根に張つた蜘蛛の巣に、
疎
(
まばら
)
に溜る程の小雨が、絶え間もなくじめ/″\降り頻つた。
金魚
(旧字旧仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
彼が、待ちあぐんでゐる裡に、聴衆は降り切つてしまつたと見え、下足の前に佇んでゐる人の数がだん/\
疎
(
まばら
)
になつて来た。
真珠夫人
(新字旧仮名)
/
菊池寛
(著)
曲りくねって
行
(
ゆ
)
くうちに、
小川
(
こがわ
)
に掛けた板橋を渡って、
田圃
(
たんぼ
)
が半分町になり掛かって、掛流しの折のような新しい家の
疎
(
まばら
)
に立っている
辺
(
あたり
)
に出た。
青年
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
疎
(
まばら
)
に植えられた生垣越しに
覗
(
のぞ
)
き見ると、それは二階建の洋風造りで、あか抜けのした
瀟洒
(
しょうしゃ
)
な様子が、
一寸
(
ちょっと
)
、鷺太郎に舌打ちさせるほどであった。
鱗粉
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
家並
(
やなみ
)
も小さく
疎
(
まばら
)
になって、どこの門ももう戸が閉っている。ドーと遠くから響いてくる音、始めは気にも留めなかったが、やがて海の音と分った。
世間師
(新字新仮名)
/
小栗風葉
(著)
頂上に近く立木が
疎
(
まばら
)
になると笹が殊に深くなって、全く目隠しをされてしまった。開いているのは頭の上ばかりだ。漠然と空を見上げては足を運ぶ。
秋の鬼怒沼
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
蒸暑い夏の
夜
(
よ
)
には、
疎
(
まばら
)
な窓の
簾
(
すだれ
)
を越してこういう人たちの家庭の秘密をすっかり
一目
(
ひとめ
)
に
見透
(
みすか
)
してしまう事がありました。今でも多分変りはあるまい。
監獄署の裏
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
髷切りの噂に
脅
(
おび
)
えて、更けると人足も
疎
(
まばら
)
になり、僅かに威勢の良い四つ手が、思い出したように宙を飛んで来ます。
銭形平次捕物控:174 髷切り
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
人ようよう散じて後れ帰るもの
疎
(
まばら
)
なり。向うより勢いよく馳せ来る馬車の上に端坐せるは
瀟洒
(
しょうしゃ
)
たる白面の貴公子。
半日ある記
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
黒々と日に焼けた角張った顔、重々しく太った鼻、頭の地にぴったり貼り付いた様に生えて居る細い縮れて
疎
(
まばら
)
な髪、其等は皆蕙子に不吉な連想を起させた。
お久美さんと其の周囲
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
額が
禿
(
は
)
げあがった、この
大兵
(
たいひょう
)
な老人は、
疎
(
まばら
)
にはなったが丈夫そうな歯を
剥
(
む
)
き出して、元気よく宮内を待遇した。
討たせてやらぬ敵討
(新字新仮名)
/
長谷川伸
(著)
林を拓いて出来た新開地だけに、いずれも古くて三十年二十年前
株
(
かぶ
)
を分けてもらった新家の部落で、粕谷中でも一番新しく、且人家が
殊
(
こと
)
に
疎
(
まばら
)
な方面である。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
他
(
た
)
の
雜木
(
ざふき
)
は
其
(
そ
)
の
葉
(
は
)
をからりと
落
(
おと
)
して
其
(
そ
)
の
梢
(
こずゑ
)
よりも
遙
(
はるか
)
に
低
(
ひく
)
く
垂
(
た
)
れて
居
(
ゐ
)
る
西
(
にし
)
の
空
(
そら
)
の
明
(
あか
)
るい
入日
(
いりひ
)
を
透
(
すか
)
して
見
(
み
)
せるやうに
疎
(
まばら
)
に
成
(
な
)
るのに、
確乎
(
しつか
)
としがみついて
離
(
はな
)
れない。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
暴風降雪の過ぎ去った跡でさえなお雪を持て来る雲か、ただしは暴風を追う雲かは知らぬが、
疎
(
まばら
)
に飛んで居るその下にごく細かな雪が煙のように
飜
(
と
)
んで居ます。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
そうして、奴国の宮を、吹かれた火の子のように八方へ飛び散ると、次第に
疎
(
まばら
)
に拡りながら
動揺
(
どよ
)
めいた。
日輪
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
頼家は悲劇の
俳優
(
やくしゃ
)
です。悲劇と
仮面
(
めん
)
……私は
希臘
(
ギリシャ
)
の悲劇の神などを聯想しながら、ただ
茫然
(
ぼんやり
)
と歩いて行くと、やがて塔の峰の
麓
(
ふもと
)
に出る。畑の間には
疎
(
まばら
)
に人家がある。
修禅寺物語:――明治座五月興行――
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
灰色になった
疎
(
まばら
)
な口髭をいじった、「——クリスチァンであろうと、多神教徒であろうと、なにか一つ信仰をもっているということだけでいいんじゃあないのかね」
おごそかな渇き
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
鮮色樫がもっと
疎
(
まばら
)
に生えていて、
恰好
(
かっこう
)
も大きさももっと森林樹らしく見える部分へ入り込んでいた。
宝島:02 宝島
(新字新仮名)
/
ロバート・ルイス・スティーブンソン
(著)
夜が明けかけて星の
疎
(
まばら
)
になった空が眼についた。彼は刀を拾って田の畔へあがり小さな路へ出た。
八人みさきの話
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
彼はある怖ろしい予感に脅かされながら、
疎
(
まばら
)
な木立を
背景
(
バック
)
にした共同椅子の前へ出ると、コルトンが草の上へ俯せになって
仆
(
たお
)
れていた。其辺にはまだ火薬の臭が漂っていた。
P丘の殺人事件
(新字新仮名)
/
松本泰
(著)
門に入ると
疎
(
まばら
)
な竹垣から、内の心持の好い庭が透けて見えた。印判屋の教へてくれた銀杏樹は、家の屋根に隱れて繁つた梢のみがそこに見られた。また右の方には小さな木戸があつた。
少年の死
(旧字旧仮名)
/
木下杢太郎
(著)
屋根が低くて廣く見える街路には、西並の家の影が
疎
(
まばら
)
な鋸の齒の樣に落ちて、處々に馬を
脱
(
はづ
)
した荷馬車が片寄せてある。鷄が幾群も、其下に出つ入りつ、
零
(
こぼ
)
れた米を土埃の中に漁つてゐた。
鳥影
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
はだかった胸と、
露
(
あら
)
わになった両脚を吹く涼しい風を感じながら、遠く近くから
疎
(
まばら
)
に聞こえて来るツクツク法師の声に耳を傾けていた。
山中
(
やまじゅう
)
の静けさがヒシヒシと身に
泌
(
し
)
み透るのを感じていた。
笑う唖女
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
この周囲には
何方
(
どちら
)
を見てもけわしい高い山がつづいて、この広い野を取りかこんでいる。そしてところどころに家が一軒二軒見えるほかには、雪が白々と日に照らされていて、人の影も
疎
(
まばら
)
である。
帰途
(新字新仮名)
/
水野葉舟
(著)
そうして、
山榛
(
やまはん
)
の木、
沢胡桃
(
さわくるみ
)
などが、
悄然
(
しょうぜん
)
と、荒れ沢の中に散在している。栂、樅、
唐檜
(
とうひ
)
、白樺などは、山の
崕
(
がけ
)
に多く、水辺には、川楊や、土俗、水ドロの木などが、
疎
(
まばら
)
に、翠の髪を
梳
(
くしけず
)
っている。
白峰山脈縦断記
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
その内に一行はヴアロンカ川を渡つて、
鴫打
(
しぎう
)
ちの場所へ
辿
(
たど
)
り着いた。
其処
(
そこ
)
は川から遠くない、雑木林が
疎
(
まばら
)
になつた、湿気の多い草地だつた。
山鴫
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
やがて二階屋が建続き、町幅が糸のよう、月の光を
廂
(
ひさし
)
で
覆
(
おお
)
うて、両側の暗い軒に、
掛行燈
(
かけあんどん
)
が
疎
(
まばら
)
に白く、枯柳に星が乱れて、壁の
蒼
(
あお
)
いのが処々。
歌行灯
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
彼が、待ちあぐんでいる
裡
(
うち
)
に、聴衆は降り切ってしまったと見え、下足の前に
佇
(
たたず
)
んでいる人の数がだん/\
疎
(
まばら
)
になって来た。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
そこで長蔵さんに
尾
(
つ
)
いて、横町を曲って行くと、一二丁行ったか行かないうちに町並が急に
疎
(
まばら
)
になって、所々は
田圃
(
たんぼ
)
の片割れが細く透いて見える。
坑夫
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
髷切りの噂に
脅
(
おび
)
えて、更けると人足も
疎
(
まばら
)
になり、僅かに威勢の良い四つ手が、思ひ出したやうに宙を飛んで來ます。
銭形平次捕物控:174 髷切り
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
荒模様であった空は、夜が明けると少し
穏
(
おだやか
)
になって、風は強いが雨脚は
疎
(
まばら
)
になった。七月二十四日の朝である。
秩父宮殿下に侍して槍ヶ岳へ
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
その
疎
(
まばら
)
な枝と枝の間を通して、千村の
旧
(
ふる
)
い部屋の窓や、その下の方の
珈琲店
(
コーヒーてん
)
の
暖簾
(
のれん
)
や、食事の
度
(
たび
)
に千村が通って来た町の道路などをよく見ることが出来た。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
昨日は人の波打ちしコルソオの大道には、往き交ふ人
疎
(
まばら
)
にして、白衣に
藍
(
あゐ
)
色の縁取りしを
衣
(
き
)
たる懲役人の一群、
霰
(
あられ
)
の如く散りぼひたる石膏の
丸
(
たま
)
を掃き居たり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
並んだ隣の家の、同じ板塀を前にした小庭との堺には、開き戸の附いた、人の腰までしかない
疎
(
まばら
)
な竹垣が劃されてゐるだけで、縁側から覗けば、向うの方も見え續く。
女の子
(旧字旧仮名)
/
鈴木三重吉
(著)
狭い道で、右側は
疎
(
まばら
)
な竹垣、竹垣の彼方に相当な距離をおいて三階建の大きな木造屋がある。門に白十字と書いた札が出て居る。なる程これは悪くない場所だと思った。
日記:15 一九二九年(昭和四年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
その葦の枯葉が池の中心に向って次第に
疎
(
まばら
)
になって、只
枯蓮
(
かれはす
)
の
襤褸
(
ぼろ
)
のような葉、海綿のような
房
(
ぼう
)
が
碁布
(
きふ
)
せられ、葉や房の茎は、種々の高さに折れて、それが鋭角に
聳
(
そび
)
えて
雁
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
見る見る老女の
怒
(
いかり
)
は激して、
形相
(
ぎようそう
)
漸くおどろおどろしく、
物怪
(
もののけ
)
などの
凴
(
つ
)
いたるやうに、一挙一動も全くその人ならず、足を踏鳴し踏鳴し、白歯の
疎
(
まばら
)
なるを
牙
(
きば
)
の如く
露
(
あらは
)
して
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
坂をおりきった林の中に農家があり、老人夫婦が白菜畑へ
鍬
(
くわ
)
を入れていた。老人は
垢
(
あか
)
だらけの
疎
(
まばら
)
な茫髪に、継ぎはぎだらけの
布子
(
ぬのこ
)
に
股引
(
ももひき
)
をはき、老婆はくの字なりに腰が曲っていた。
おごそかな渇き
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
間もなく高台を通り過ぎ、矮生の松が
疎
(
まばら
)
にちらほらと生えている低い砂地のそばをどんどん進み、やがてそこもまた通り越して、島の北の端をなしている岩山の角を𢌞ってしまった。
宝島:02 宝島
(新字新仮名)
/
ロバート・ルイス・スティーブンソン
(著)
そこは栃木県の某温泉場で、下には
澄
(
す
)
みきったK川の流れがあって、対岸にそそりたった山やまの緑をひたしていた。
松
(
まつ
)
杉
(
すぎ
)
楢
(
なら
)
などの
疎
(
まばら
)
に生えた林の中には、落ちかかった
斜陽
(
ゆうひ
)
が
微
(
かすか
)
な光を投げていた。
藤の瓔珞
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
日本一の大原野の一角、木立の中の家
疎
(
まばら
)
に、幅広き街路に草
生
(
は
)
えて、牛が啼く、馬が走る、自然も人間もどことなく
鷹揚
(
おうよう
)
でゆったりして、道をゆくにも内地の都会風なせせこましい歩きぶりをしない。
初めて見たる小樽
(新字新仮名)
/
石川啄木
(著)
疎
常用漢字
中学
部首:⽦
12画
“疎”を含む語句
疎々
疎遠
気疎
疎髯
疎通
疎忽
疎漏
疎懶
疎外
疎略
空疎
疎濶
疎匆
疎雑
佳人意漸疎
可疎
疎林
疎開
疎隔
疎末
...