珊瑚さんご)” の例文
かつらならではとゆるまでに結做ゆひなしたる圓髷まるまげうるしごときに、珊瑚さんご六分玉ろくぶだま後插あとざしてんじたれば、さら白襟しろえり冷豔れいえんものたとふべきく——
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
万葉集まんようしゅう玉松たままつという形容語があるが、真に玉松である。幹の赤い色は、てらてら光るのである。ひとかかえもある珊瑚さんごを見るようだ。
河口湖 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
その中へはいると、いくつもならんでゐる大きな花瓶くわびんに、珊瑚さんごのやうな花と、黄金のやうな果物のなつてゐる木とがさしてあります。
湖水の鐘 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
「あっ——」というと、夜目にもきわだつ凄艶せいえんな顔がむきだされて、頭巾に飛ばされた珊瑚さんごかんざし、お綱に、もうこれまでと思わせた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつの間にかお辻が丹念に蓄へて置いた珊瑚さんごの根掛けや珠珍の煙草たばこ入れ、大切に掛けおしんでゐた縞縮緬しまちりめんの丹前、娘達の別れがたみの人形
老主の一時期 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
大きな、細い枝を出した珊瑚さんごは、板に坐布団をくくりつけてその上に置き、料理番がこれを東京へ着く迄膝の上に乗せて行った。
彼女はやさしい聲音こわねで僕に語る——あなたが實にうまうつしとつたあの眼で凝と僕を見下して——その珊瑚さんごのやうな唇で、僕に微笑ほゝゑみかける。
ある時そういう珊瑚さんごの標本の写真を見ていたときに、これも何かやはり対流による柱状渦ちゅうじょうかと関係があるのではないかという空想が起こった。
自然界の縞模様 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
其処そこには一ぴきの竜のこま(たつのおとしご)の大きなのが、金銀、珊瑚さんご、真珠などの飾りのついたくらを置かれ、その上には魚の形をした冠に
竜宮の犬 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
見ると珊瑚さんごのようなくちびるが電気でもけたかと思われるまでにぶるぶるとふるえている。まむしねずみに向ったときの舌の先のごとくだ。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
珊瑚さんご象眼ぞうがんと見えるのは寒椿かんつばきの色であろう、二つ三つ四つと紅い色どりが数えられるところになんの鳥か、一羽キキと鳴いて枝をくぐった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
まばたき一つ出来ず、唾液一つ呑み込み得ないままに、その臙脂えんじ色の薄ぼけた頬から、青光りする珊瑚さんご色の唇のあたりを凝視していたのであった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ウーンと、睡り足りた後の快い伸びをすると、手足の下、背中の下で、砂が——真白な花珊瑚さんごの屑がサラサラと軽く崩れる。
珊瑚さんごかんざしもつつましい。よく気を入れて見ると、びんの毛がちとほつれたまま写っている。顔に窶れの見えるのはそのためであるかも知れない。
赤や黒塗のくしに金蒔絵したのや、珊瑚さんごとも見える玉の根掛ねがけもあります。上から下っているのは、金銀紅の丈長たけながや、いろいろの色のすが糸です。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
遠見に淡く海辺風景を油絵で描き、前に小さい貝殼、珊瑚さんごのきれはし、海草の枝などとり集めて配合した上を、厚くふくらんだ硝子で蓋したものだ。
長崎の一瞥 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その頂きに夕日が入り掛りますとツァーラン村の東に列んで居る雪の峰々は夕日の反射で珊瑚さんご色に光って居る素晴らしさ。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ただ、黄昏こうこんと共に身辺を去来して、そが珊瑚さんご念珠こんたつと、象牙に似たる手頸てくびとを、えもならず美しき幻の如く眺めしのみ。
るしへる (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
みどりの髪を肩になびけ、瑠璃るりの翼を背にたたみ、泛子うきをみつめる瞳はつぶらかに玉のごとく、ゆさりと垂れた左右の脛は珊瑚さんごを刻んだかとうたがう。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
夜具の襟でチクリと頬を突かれたものだから、見ると、不思議千万にも、珊瑚さんごの五分玉の銀のかんざしが、夜具の襟の縫目にグッと横に突きさしてあって
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夕陽にすかす位置になつて、桃色珊瑚さんごの美しい腕には、徑一寸ほどの可愛らしい(兎)が青々と彫つてあるのです。
僕の妻君なぞは珊瑚さんごの玉と明石玉あかしだまとを鑑別する事は大層お上手だが魚屋の持って来たたい房州鯛ぼうしゅうだいか三浦鯛か新しいか古いかという事はよく御存知ない。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
唇は珊瑚さんごの色でもなく、顔色は白く優しくもなかつたが、このまるきり違つた東洋のあをぶくれの男が、何となく
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
白牡丹はくぼたんで買ったばかりの古渡こわたりの珊瑚さんごの根掛けや、堆朱ついしゅ中挿なかざしを、いつかけるような体になられることやらと、そんなことまで心細そうに言い出した。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
キザ柹、御所柹ごしょがき美濃柹みのがき、いろいろな形の柹のつぶが、一つ一つ戸外の明りをそのつやつやと熟し切った珊瑚さんご色の表面に受け止めて、ひとみのように光っている。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
美しい下駄げた、博多の帯、縮緬ちりめんの衣裳、綸子りんずの長襦袢、銀の平打ち、珊瑚さんごの前飾り、高価の品物が数々出る。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その杖は多少念入りにこしらえられていて、あまりぶかっこうなほどではなかった。節はみなうまく利用されていて、珊瑚さんごまがいの赤蝋せきろうの杖頭がついていた。
そのチャンチャン坊主の支那兵たちは、木綿もめん綿入わたいれの満洲服に、支那風の木靴きぐつき、赤い珊瑚さんご玉のついた帽子をかぶり、辮髪べんぱつの豚尾を背中に長くたらしていた。
何事の起ったのかと種彦はふと心付けばわがたたずむ地の上は一面に踏砕ふみくだかれた水晶瑪瑙めのう琥珀こはく鶏血けいけつ孔雀石くじゃくせき珊瑚さんご鼈甲べっこうぎやまんびいどろなぞの破片かけらうずつくされている。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
七宝は、金・銀・瑠璃るり硨磲しゃこ碼碯めのう珊瑚さんご琥珀こはくまたは、金・銀・琉璃るり頗棃はり車渠しゃこ・瑪瑙・金剛こんごうである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
町には、貝がらだの、珊瑚さんごだの、極楽鳥ごくらくちょう標本ひょうほんだの、大きな剥製はくせいのトカゲだの、きれいにみがいてあるべっこうガメの甲羅こうらなどを売っていて、みんなほしくなった。
恐竜艇の冒険 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おぬいさんがつき膝をして、少し上眼をつかって、にこやかに客を見上げた。つつましく左手を畳についた。その手の指先がしなやかに反って珊瑚さんご色に充血していた。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
だが、日ざかりの強い日光は、はだかの全身をじりじりとてりつけて、病人からあぶら汗をしぼりださせ、白い珊瑚さんごの砂に反射する日光は、きらきらと目をいるのだ。
無人島に生きる十六人 (新字新仮名) / 須川邦彦(著)
大成はちん姓の家からおさ珊瑚さんごという女をめとったが、大成の母のしんというのは、感情のねじれた冷酷な女で、珊瑚を虐待したけれども、珊瑚はすこしもうらまなかった。
珊瑚 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
あるいは、珊瑚さんごひょうあしか鳥の足、脳や肺臓や腸、それからあらゆる種類の排泄物を思わされる。
あの観音像だけは、是非とも受け出して下さい。あれは、ばばさまからおまもりとして幼少の頃もらったもので、珊瑚さんごに彫ったものですから、一両では安すぎるのです。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
何処まで行つても、採り尽せない貴金属の鉱山であり、採り尽せない珊瑚さんごの海底であらねばならなかつた。しかし、さうした心境は容易に入つて行くことは出来なかつた。
黒猫 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
かつらならではと見ゆるまでに結做ゆひなしたる円髷まるわげの漆の如きに、珊瑚さんご六分玉ろくぶだま後挿うしろざしを点じたれば、更に白襟しろえり冷豔れいえん物のたぐふべき無く、貴族鼠きぞくねずみ縐高縮緬しぼたかちりめん五紋いつつもんなる単衣ひとへきて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そういう偶然に海からゆり上げられるものが、珊瑚さんごや真珠である場合はまれにもなく、ましてや山々の奥から運び出される硬玉こうぎょくでなかったのは、言うまでもないことであろう。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
さる贔屓ひいきよりという名義で、彼自身へは、越後屋えちごや見立ての、名にちなんだ雪に南天の——その南天には、正真の珊瑚さんごを用いたかと思うばかり、染いろも美しい衣裳一かさね。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
痛かったり、つまったりしたのは、お母さんの財布さいふの口のほうで、早苗のために売りにいった珊瑚さんごの玉のついたかんざしは思うで売れず、洋服を買うことができなかったのだ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
赤銅しゃくどう色のぶな、金褐色のくり珊瑚さんご色の房をつけた清涼茶、小さな火の舌を出してる炎のような桜、だいだい色や柚子ゆず色や栗色や焦げ燧艾ほくち色など、さまざまな色の葉をつけてる苔桃こけもも類のくさむら
この七珊瑚さんごたまを貫くのは何の緒か。たれが連れて温泉宿には来ているのだろう。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
衣服は糸織藍万いとおりあいまんあわせに、琉球紬りゅうきゅうつむぎの下着を袷重ねにして、茶献上の帯で、小紋のの一重羽織を着て、珊瑚さんご六分珠ろくぶだま緒締おじめに、金無垢の前金物まえがなものを打った金革の煙草入は長門の筒差つゝざしという
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
又動物の中にだってヒドラや珊瑚さんご類のように植物に似たやつもあれば植物の中にだって食虫植物もある、睡眠すいみんる植物もある、ねむる植物などは毎晩邪魔じゃまして睡らせないとれてしまう
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
水底みなぞこ水漬みづく白玉なる郎女の身は、やがて又、一幹ひともとの白い珊瑚さんごの樹である。脚を根、手を枝とした水底の木。頭に生いなびくのは、玉藻であった。玉藻が、深海のうねりのままに、揺れて居る。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
あかっちゃけた山骨に、偃松の緑をね合せて、峻厳なる三角塔につぼんで、ひんがしの天に参している、その迂廻した峰つづきの、赤沢岳の裏地は、珊瑚さんごのように赤染めになっている、振りかえれば
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
手拭を外した所を見ると髮はぐるぐる卷で、今日は珊瑚さんごのやうな赤い玉のかんざしを一本揷して居る。自分は考へた。お秋さんはまだ年が若いのであるに草履拵で毎日々々仕事に日を暮して居るのである。
炭焼のむすめ (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
六月の氷まゐりぬ深宮しんきうの白の珊瑚さんごのみまくらもとに
舞姫 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
死んで光るものは珊瑚さんごの巣弟アベルが眼の光
真珠抄 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)