玲瓏れいろう)” の例文
(一)玲瓏れいろうなる理解力 吾人は彼に於て始めて堅硬なる思想を見るを得たり。彼は其言ふ所を明かに知れるなり、彼の脳髄は整へり。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
超越した八面玲瓏れいろうの働きをするのだぞ……そうして徹底的にやっつけるのだぞ……と改めて自分自身に云い聞かすように考えながら
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「さよう」と冬次郎は頷いたが、今度は憤った眼付きではなく、期するところある希望に燃えた、玲瓏れいろうとした眼付きで熊太郎を見詰め
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
改札口かいさつぐちつめたると、四邊あたりやまかげに、澄渡すみわたつたみづうみつゝんで、つき照返てりかへさるゝためか、うるしごとつややかに、くろく、玲瓏れいろうとして透通すきとほる。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……玲瓏れいろうと云うか崇厳と云うか、とにかく、あれはもと秋津島あきつしまの魂の象徴だ。……儂はもう文麻呂の奴に早くみせてやりたくてな。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
玲瓏れいろうとして銀盤上に玉を転ずるようだ。それに音色が緻密で華かで、情熱があって、少し固くはあるがコントロールがいかにも自在だ。
しかし見識けんしきある彼の特長として、自分にはそれが天真爛漫てんしんらんまんの子供らしく見えたり、または玉のように玲瓏れいろうな詩人らしく見えたりした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その誘惑は、玲瓏れいろうに引き緊まった処女の千浪の比ではない——何んという明けッ放しな、そして女の爛熟しきった麻酔だろう。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一たい此処にも月夜はあるが玲瓏れいろうたる光ではなく、重いどんよりした曇色がかさなり合ってそのため褐色を眺めるような悲しげな面持ちをしている。
みずうみ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
大きい花崗石みかげいしの台に載つた洗面盥には、見よ見よ、こぼれる許り盈々なみなみと、毛程の皺さへ立てぬ秋の水が、玲瓏れいろうとして銀水の如く盛つてあるではないか。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
舷に倚りて水を望めば、一塊の石、一叢の藻、歴々として數ふべく、晴れたる日の空氣といへども、恐らくはこの玲瓏れいろう透徹なからんとぞおもはるゝ。
玲瓏れいろう玉を磨き上げたような容貌と相俟あいまって寸分の身揺ぎもしなかったが、世間に秘められた裏面の生活においては
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
この大いなる悲しみが、何か私を玲瓏れいろうたるものに浄化してくれ、心と体に堆積たいせきしていた不潔な分子を、洗い清めてくれたことは云うまでもありません。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
芳紀まさに十七歳、無論のこと玲瓏れいろうたまをあざむく美少女です。名も亦それにふさわしい、菊路というのでした。
随って商売上武家と交渉するには多才多芸な椿岳の斡旋とりもちを必要としたので、八面玲瓏れいろうの椿岳の才機は伊藤を助けて算盤玉以上に伊藤をもうけさしたのである。
ブライトの二氏をして古今の政治演劇中にいまだかつて見ざるかのシェイクスピアの玲瓏れいろうなる脳中にすら浮かみ来たらざる新趣向・新脚色の技を演ぜしめ
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
このときは物々が皆生きて、それが皆俳句そのものであるようなきわめて玲瓏れいろう透徹な感じがして、とりあえずその心持を言い表したのが、この句であります。
俳句の作りよう (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
今日やうやく一月のなかばを過ぎぬるに、梅林ばいりんの花は二千本のこずゑに咲乱れて、日にうつろへる光は玲瓏れいろうとして人のおもてを照し、みちうづむる幾斗いくと清香せいこうりてむすぶにへたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
諸君は、わたしをしょうのない夢想家だと笑うかもしれないが、ともかくもその靄が消えるとともに、彼女の顔も玲瓏れいろうたる鏡のなかへ消え失せてしまったのである。
誠心は隠すところなく八房に与へたり、而して不穢不犯、玲瓏れいろうたるチヤスチチイの処女、禍福の外に卓立し、運命の鉄柵を物ともせざるは、にこの馬琴の想児なり。
殊に晩年の源之助は、実にあきらめきった解脱し切ったような、玲瓏れいろうな人柄になっていたらしい。
役者の一生 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
実際ヴォルテーアのうたったように、神の声と共に渾沌こんとんは消え、やみの中に隠れた自然の奥底はその帷帳とばりを開かれて、玲瓏れいろうたる天界が目前に現われたようなものであったろう。
科学者と芸術家 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
例の奇癖きへきかういふ場合ばあひにもあらはれ、若しや珍石ちんせきではあるまいかと、きかゝへてをかげて見ると、はたして! 四めん玲瓏れいろうみねひいたにかすかに、またと類なき奇石きせきであつたので
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
些の誤解や喰いちがいやの生じないように、波浪の間に在るからこそ、互の生活こそは玉の如き玲瓏れいろうさにおこうと努めて来ていて、それは実現されていると思いこんでいた。
微かな月光が、城下の街を玲瓏れいろうと澄み渡る夜の大気のうちに、墨絵のごとく浮ばせている。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
鳴神なるかみのおとの絶間たえまには、おそろしき天気におくれたりとも見えぬ「ナハチガル」鳥の、玲瓏れいろうたる声振りたててしばなけるは、淋しき路をひとりゆく人の、ことさらに歌うたふたぐいにや。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
玲瓏れいろうと頭上に輝き渡り、荒川の激湍げきたんいわほえて、眼下に白玉を砕く、暖き春の日ならんには、目を上げて心酔ふべき天景も、吹き上ぐる川風に、客は皆な首を縮めて瞑黙めいもく
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
仙人のごとき仏のごとき子供のごとき神のごとき曙覧は余は理想界においてこれを見る、現実界の人間としてほとんど承認するあたわず。彼の心や無垢むく清浄、彼の歌や玲瓏れいろう透徹。
曙覧の歌 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
『踏絵』の和歌うたから想像した、火のような情を、涙のように美しく冷たいからだで包んでしまった、この玲瓏れいろうたる貴女きじょを、貴下あなたの筆でいかしてくださいと古い美人伝では、いっている。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
かの女の雪膚の如き玲瓏れいろうな性情に於て対象に立ち完全そのものの張り切り方で立ち向われて来るときの、こなたの恥さえ覚えるばかりの手持無沙汰を想像するとき、やはり到底
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
だから何の作為もなしに、一切の言動がせつに当り、玲瓏れいろうとして全一の姿にまとまるのだ。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
月光は玲瓏れいろうとして、すみずみまでもあかるく照らし出した。ちょうど真夜中ちかいと思われるころ、あるじの僧が寝間から出てきて、あわただしくなにかさがしものをはじめた。
つねに必ずかのアリエルの如く、玲瓏れいろうとして澄明なる一物が軽くわたしの背をゆすぶるのです。即ち知る、あなたと凡ての造物との間には、不思議な連鎖がつながっているのです。そうです。
この玲瓏れいろうとして充実せる一種の意識、この現世うつしよの歓喜と倫を絶したる静かにさびしく而かも孤独ならざる無類の歓喜は凡そ十五分時がほども打続きたりとぼしきころ、ほのかに消えたり。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
ただ、動かないのは、玲瓏れいろうたる天上の月の影でありまして、この通り照り渡っている良夜でありましたから、光はいよいよえに冴えて、この場の光景を照らし残すところはありません。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そしてこの谷を渉るには殊に玲瓏れいろう透徹した縦断の太い丈夫な綱が必要である。
心理の縦断と横断 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
岩橋ポン・ド・ロオシュも、斜面も、はるか向うの断崖も、すべての物象はたがいにぼんやりとした影を投げ合いながら、碧玉髄へきぎょくずいのように玲瓏れいろうと輝きわたり、同じような色の模糊たる空間の中へ溶け込んでいる。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
たれたる形状かたち蝋燭らふそくのながれたるやうなれど、里地さとちのつらゝとたがひて屈曲くつきよく種々しゆ/″\のかたちをなして水晶すゐしやうにてたくみに作りなしたるがごとく、玲瓏れいろうとして透徹すきとをれるがあさひかゞやきたるはものにたぐふべきなしと
卑弥呼のめでたきまでに玲瓏れいろうとした顔は、しばらく大兄をにらんで黙っていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
初は隣家の隔ての竹垣にさえぎられて庭をなかばより這初はいはじめ、中頃は縁側へのぼッて座舗ざしきへ這込み、稗蒔ひえまきの水に流れては金瀲灔きんれんえん簷馬ふうりん玻璃はりとおりてはぎょく玲瓏れいろう、座賞の人に影を添えて孤燈一すいの光を奪い
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
俗にいわゆる色気である。これが亢進こうしんして、心眼の玲瓏れいろうおおい、ために幾多の聖賢哲人をも、政治家立法者をも手古摺てこずらせ、その判断を誤らせて、大切なる人生をも解釈し得ざらしめたのである。
現代の婦人に告ぐ (新字新仮名) / 大隈重信(著)
鈴のような声で家娘がしずかにこうさえぎった、まことに玲瓏れいろう玉のごとく、清高せいこうにして幽艶ゆうえんなる声だ、父親はぴったりと黙ったし、客たちは粛然とひざを正し敬恭のあまり畳へ手を突いた者さえある
よく見ると、そのようにおおらかな、まるで桃太郎のように玲瓏れいろうなキリストのからだの、その腹部に、その振り挙げた手の甲に、足に、まっくろい大きい傷口が、ありありと、むざんに描かれて在る。
俗天使 (新字新仮名) / 太宰治(著)
われは玲瓏れいろうたる身一つにてのがでぬ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
玲瓏れいろうと透き徹った身の上とは思わぬ。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
玲瓏れいろうたり、燦爛さんらんたり、不尽ふじの山
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
きしやは銀河系の玲瓏れいろうレンズ
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
けるいぬほふりて鮮血せんけつすゝること、うつくしくけるはな蹂躙じうりんすること、玲瓏れいろうたるつきむかうて馬糞ばふんなげうつことのごときは、はずしてるベきのみ。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
モーツァルトの邪念のない玲瓏れいろうたる音楽を聴いて、誰がいったいモーツァルトが金のために書いたと思う者があるだろう。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
円満玲瓏れいろうたる君子の姿! それが富岳の山容である。犬といえども鳥といえども、息を引き取ろうとする時には、必ず死場所を探すものである。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)