ねら)” の例文
「構はないとも、ねらはれてるのは聟だらう。その聟が此處に居るんだもの、平次がう附いてゐるほど確かなことはないぢやないか」
そして、いちばん大きくともっているランプにねらいをさだめて、力いっぱい投げた。パリーンと音がして、大きい火がひとつ消えた。
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
そこでこの渡洋潜波艇は、海面とすれすれの浅い水中を快速で安全に突破するもので、つまり水上と防潜網との隙間すきまねらうものである
九州きうしうさるねらふやうなつまなまめかしい姿すがたをしても、下枝したえだまでもとゞくまい。小鳥ことりついばんでおとしたのをとほりがかりにひろつてたものであらう。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして二人一緒に鉄砲のねらいをつけて、打ち放しました。二羽の椋鳥がひらひらと落ちてきました。二人はそれを拾い上げました。
狸のお祭り (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
二十日の後、いっぱいに水をたたえたさかずきを右ひじの上にせて剛弓ごうきゅうを引くに、ねらいにくるいの無いのはもとより、杯中の水も微動だにしない。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
少年はずこの店にはいり、空気銃を一つとり上げて全然無分別むふんべつまとねらう。射撃屋の店には誰もいない。少年の姿は膝の上まで。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
梶はそんなに反対の安全率の面から探してみた。絶えず隙間すきまねらう兇器の群れや、嫉視しっし中傷ちゅうしょうの起すほのおは何をたくらむか知れたものでもない。
微笑 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「殿様は鉄砲の名人でいらっしゃるから、殿様のねらいで、あれを撃ち落してごらんになれば、直ぐにエタイが知れるでござりましょう」
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
原来彼の黄金丸は、われのみならずかしこくも、大王までを仇敵かたきねらふて、かれ足痍あしのきずいえなば、この山に討入うちいりて、大王をたおさんと計る由。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
短い棒を手にして梯子はしごを登って行って、といの中にすっかりまって巣をねらって、逃げようともしない蛇を、やっと追立ててくれました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
むかし小野浅之丞あさのじようといふ少年があつた。隣家となりの猫が度々たび/\大事なひなを盗むので、ある日築山つきやまのかげで、吹矢で猫をねらうちにした。
マリア・ブルネル夫人と同じ朦朧もうろう状態をねらい、あわよくば、まさに飛び去ろうとする潜在意識を記録させようとしたからなんだよ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
往返わうへんし旅人の懷中ふところねら護摩ごまはひの頭なり因て半四郎が所持の金に目をかけ樣々さま/″\にして終に道連となりしかば此夜このよ何卒なにとぞして半四郎の胴卷どうまき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
基経は何時かは茅原かやはら猟夫さつお太刀たちを合わすようなことになりはしないかと、二人がねらい合っている呼吸いきづかいを感じずにいられなかった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
全体に縹渺ひょうびょうとした詩境であって、英国の詩人イエーツらがねらったいわゆる「象徴」の詩境とも、どこか共通のものが感じられる。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
で、そっちを見ないようにして、上の土人が網を受取っているひまねらって、鋏をあげ、えらいいきおいでそいつを目がけて飛びついて行きました。
椰子蟹 (新字新仮名) / 宮原晃一郎(著)
無理想で、amoralアモラル である。ねらわずに鉄砲を打つほど危険な事はない。あの男はとうとう追躡ついじょう妄想で自殺してしまった。
沈黙の塔 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
従而したがって小説の文章はAとして直接の効果をねらうよりもAとして間接に働き、直接の効果を殺して余裕ある歩みを運ぶことが多い。
わたしはかねてから西村に対する復讐の機会をねらっていたところですからたちまち承知して、あのような騒動を起こしました。
ちょっと向うがこちらの気に負けて静止した時をいっせずねらわなければげてしまう。この感じは、実は研究全体についてもいえるのである。
実験室の記憶 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ねらったのであるその点は理性的打算的であったさればある場合には負けじ魂がかえって貪慾どんよくに変形し門弟よりちょうする月謝やお膝付ひざつきのごとき
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
喧嘩渡世の看板に隠れ、知らずのお絃の嬌笑きょうしょうきもたまを仲に、ちまた雑踏ざっとうから剣眼けんがんを光らせて、随時随所に十七人の生命をねらうことになった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一羽の雉子きじを見つけて鉄砲のねらいを定め、まさに打ち放そうとするときに、不意に横合よこあいから近よってこの男の右腕を柔かに叩く者があった。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
雪解を待つて鱒は上つて来るといふ事を聞いてゐたが、彼はいまそれをねらつてゐるのらしい。やがて、また一人あらはれた。
渓をおもふ (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
食器台の上の果物皿からリンゴを取ってポケットにいっぱいつめ、今のところはそうきちんとねらいをつけずにリンゴをつぎつぎに投げてくる。
変身 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
「なかなか器用きようには作者のねらったところは一貫しています」と、天神さまみたような顔つきの人が熱心な口調くちょうで口を出した。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
我はロムバルディアの者にて名をマルコといへり、我よく世の事を知り、今はひとりだにねらふ人なき徳を慕へり 四六—四八
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
つまり、すべてはたましいたましい交通こうつうねらったもので、こればかりはじつなんともいえぬほどうま仕組しくみになってるのでございます。
自分たちでやって見たが、ねっから遊惰ゆうだな男たちには、堅い土がいくらも掘りかえされないので、大っぴらに父の留守をねらっては払いさげをやる。
うわさによるとちかごろ彼女は欧羅巴ヨーロッパの小国のプランセスの位置をねらつてゐるさうだ。これがこのごろ金のある亜米利加女の発達した慾望ださうだ。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
僕におとされたんだ。恨め! 恨め! 僕も地獄に行く! こういう決意をしてから僕はたびたび死ぬ時をねらった。そうしてついに決行したのだ。
黄昏の告白 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
人の心に取入るには、強盗に這入るような事をしなくてはならない。人の防禦ぼうぎょしない折をねらっていて、奇襲をやらなくちゃあならない事もある。
城下から山へ来るのではなく自分は木小屋に住んでいて絶えず部落の動静をうかがい乗ずべき隙をねらっているのです。……
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
大變たいへん差支さしつかへるわ』とあいちやんはいそいでつて、『たまごなどねらつちやなくつてよ、そんな、そんなたまごなんてしかないわ。なまなものいやなこッた』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
云いながら、賊はゆっくりねらいを定めて、今飛降りようとする明智の右足を撃った。バンという変な音。だが、タイヤが破れた音ほど高くはない。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
光秀は焦躁しょうそうした。馬を曳かせてまたがると、自身、本陣を出て、濠ばたを半巡した。たちまち城のほうから彼をねらって小銃弾や矢が集まってくる。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてろくでもない平凡な俗事に頭を煩わすことが多過ぎる。美しずくめばかりをねらっている小生の生活とは、どうやら別世界を歩んでいるようだ。
小生のあけくれ (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「あなたはあのダイヤモンドをねらっているのね。けれどもあのダイヤモンドだって、いわくつきの代物よ。ちょうさんのものをあなたのお父さんが……」
宝石の序曲 (新字新仮名) / 松本泰(著)
ちょうど、このとき、どこにいて、ねらっていたものか、もう一子供こどもがったとき、一白鳥はくちょうが、たくみに子供こどもをくわえてしまいました。
魚と白鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれども、あせりすぎて、よくねらいをつけるひまがありませんでしたから、まとがはずれてしまいました。そのあとから、また一飛んできました。
隼はためらうように、じっと同じ高さのところを飛んでいる。恐らく、彼は鐘楼の雄鶏おんどりねらっているだけなのかも知れない。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
「意外じゃ! 意外じゃ、実に意外じゃ。いやさすがは長門守どの、ねらう対手がお違い申すわい、それにしても——」
わしは、船医に化けて、この虎丸タイガーまるに雇われ、横浜から乗船した。そして、生体解剖せいたいかいぼうの実験の機会チャンスねらっていたのじゃ。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
其の一番下の一合入の盃をとってポーンと投付けると文治郎も身をかわしてけたが、投げる者も大伴蟠龍軒、ねらたがわず文治郎の月代際さかやきぎわへ当ると
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
……われを忘れて立上った。爪先走りに切戸のかたわらに駈け寄って、白木の膳を差入れている、赤い、丸々と肥った女の腕をねらいすまして無手むずと引っ掴んだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
国籍不明の「巴里の影」の一つになりすました気で大いに無頼な自己陶酔にひたっている最中、先方にしてみれば何もそこをねらったわけじゃあるまいが
私がもし秦の始皇帝ならば、くべき書、うずむべきあなはいかほどあるか。私は相応に知っている。決して文芸に就いては風俗壊乱のみをねらうべきでない。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
彼は影のうちに潜んでる神秘を恐れた、生命にねらい寄ってるように思われる邪悪な力を、怪物らのうごめきを。
で、与兵衛は其中の一番大きい親猿をつてやらうと思つて、ねらひを定めて、ドーン! と一発射ちました。
山さち川さち (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)