湯呑ゆのみ)” の例文
間もなく又一人、前よりも美しい娘が入来って枕頭に水入の銀瓶と湯呑ゆのみとを置いて行くのであった。これも勿論もちろん小笠原流であった。
丹那山の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
と投出すやうに謂ツて湯呑ゆのみを取上げ、冷めた澁茶しぶちやをグイと飮む。途端とたん稽古けいこに來る小娘こむすめが二三人連立つれだツて格子を啓けて入ツて來た。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
彼は其所にある塩煎餅しおせんべいを取ってやたらにぼりぼりんだ。そうしてその相間あいま々々には大きな湯呑ゆのみへ茶を何杯もえて飲んだ。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「今入れているじゃありませんか、性急せわしないだ」と母は湯呑ゆのみ充満いっぱいいでやって自分の居ることは、最早もう忘れたかのよう。二階から大声で
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
さっぱりした藍で花を描いた茶碗とお湯呑ゆのみをくれましたが、二十日もこんどは白いところに清々しくはあるが赤や金の入った蘭の花のお茶碗と
湯呑ゆのみ獅子ししの尾にこの赤を使ってあったが、余り立派なので、買いたくてたまらなかったが、五円いくらというので、して帰ったのを覚えている。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
これも片田舎で出来る事ですが玉子一個ひとつの白身ばかりへ少しの砂糖を混ぜて、極く大きな湯呑ゆのみかあるいはコップの中へ入れて、茶筅ちゃせんかササラか五
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
曙山さんは立ちながら腰をかがめて、お猪口ちょこでなく、そばの湯呑ゆのみをとってお酒をついで、ごくごくと飲みほした。
「松山が気をゆるしているとすれば、彼の湯呑ゆのみへみどりが毒薬を入れることは訳のないことだ。君、松山のつかった湯呑について分析を頼んでほしいね」
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
流石さすがに疲れが出たのであろう、かたわらの冷えた大湯呑ゆのみをとり上げると、その七八分目まで一思いにあおって、そのまま座を立った。風はいつの間にかやんでいる。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
食物はぐるりにそれ/″\渡された。水を飮みたい者は、湯呑ゆのみがみんなに共通であつたから一口づゝ飮んだ。
種彦は半ば呑掛のみかけた湯呑ゆのみを下に置くと共に墨摺すみする暇ももどかしに筆をったがやがて小半時こはんときもたたぬうちに忽ち長大息ちょうたいそくもらしてそのまま筆を投捨ててしまった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と言う、自分の湯呑ゆのみで、いかにも客の分といっては茶碗一つ無いらしい。いや、粗いどころか冥加みょうが至極。も一つ唐草からくさすかし模様の、硝子ビイドロの水呑が俯向うつむけに出ていて
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
奥の方からは下女が茶を汲んだ湯呑ゆのみを盆に載せて、それを真勢さんや捨吉のところへも配りに来た。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そして、看板女かんばんのおきんに茶をくませて出したが、その湯呑ゆのみの下に、案の条、二朱包んであった。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
中から一人が伸び出して息子から古ぼけた湯呑ゆのみが渡されました。はたのものが勿体もったい振った声をして
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ですが好んで作る急須きゅうす湯呑ゆのみなどは、形が崩れてしまい、品物としては上出来とは申されません。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
わたしうちて、さけを一ぱいせといふゆゑ、一がふけてしますると、湯呑ゆのみで半分もまないうちに、しぶつらをして、これまでにんなしぶさけんだ事がないといひましたから
詩好の王様と棒縛の旅人 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
兵馬は手酌で、前にあった湯呑ゆのみへ酒を注ぐと、ぐいぐいつづけさまにあおりつけたが
初午試合討ち (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いまにあのかた出世しゆつせをなさるに相違さうゐない、其時そのときはおまへこと奧樣おくさまとでもいふのであらうにいまつからすこをつけてあししたり湯呑ゆのみであほるだけはめにおしひとがらがわるいやねとふもあり
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すると、その連中の中に、この事を口惜くやしがり、富五郎の芸をそねむものがあって、ひそか湯呑ゆのみの中に水銀をれて富五郎に飲ませたものがあったのです。そこは素人の悲しさに、湯くみがない。
上を向いて息を吸わぬように心がけて、まず、あたりを撫で廻してみると、やわらかい友禅の炬燵こたつぶとん——ぬくみがある——四、五冊の草双紙——コロコロと湯呑ゆのみ茶碗が手にふれて転がった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一緒に食べ物に箸を突っ込んだり、一つ湯呑ゆのみで茶を呑んだりした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お茶の土瓶どびん湯呑ゆのみのひっくりかえったのや、……
六月 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
猪口ちよくでなしに、その湯呑ゆのみに為やう」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
替え立ての畳の上に、丸い紫檀したん刳抜盆くりぬきぼんが一つ出ていて、中に置いた湯呑ゆのみには、京都の浅井黙語あさいもくごの模様画が染め付けてあった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
流石さすがに疲れが出たのであらう、かたわらの冷えた大湯呑ゆのみをとり上げると、その七八分目まで一思ひにあおつて、そのまま座を立つた。風はいつの間にかやんでゐる。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
この特徴は、手にさわると、ぼつぼつするように絵の具を盛りあげて、こってりと花などを一面に書きうずめてあるもので、よく湯呑ゆのみの内部などにこまかい字が一杯書いてある。
九谷焼 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
茶碗、湯呑ゆのみ、皿、小鉢、土瓶、土鍋どなべ等、家庭で一番つかうものを石見では見捨てている。
雲石紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「アラ。病気や何かで、すっかり忘れていたわ。」と君江は棚の上に載せたままにして置いた角壜かくびんの火酒を取りおろして湯呑ゆのみにつぎ、「グラスがないからこれで我慢して下さい。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
後見役こうけんやくには師匠筋の太夫、三味線きがそろって、御簾みすが上るたびに後幕うしろまくが代る、見台けんだいには金紋が輝く、湯呑ゆのみが取りかわる。着附きつけにも肩衣かたぎぬにもぜいを尽して、一段ごとに喝采かっさいを催促した。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
クツシヨンに胡坐あぐらで、湯呑ゆのみにつぐと、ぷンとにほふ、と、かなでけばおなじだが、のぷンが、なまぐさいやうな、すえたやうな、どろりとくさつた、あをい、黄色きいろい、なんともへない惡臭わるくささよ。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その話は、茶の間へ入って、博士の前におかれた湯呑ゆのみの中の茶が冷えるまでもつづいたが、隆夫の母親には、博士の話すことがらの内容が、ちんぷんかんぷんで、さっぱり分からなかった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
背の高い女の子は出て行つて、めい/\、私には何だかわからないが何人前もの食物を載せた、そしてそれ/″\のお盆のまん中に、水差みづさし湯呑ゆのみが載つてゐるのを持つて直ぐに戻つて來た。
今にあの方は出世をなさるに相違ない、その時はお前の事を奥様とでもいふのであらうに今つから少し気をつけて足を出したり湯呑ゆのみであほるだけはめにおし人がらが悪いやねと言ふもあり
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もちろんかんはできない、冷やのまま飲み始めていたらしく、猪之は坐るとすぐに、湯呑ゆのみに残った酒を飲んで、それを登に差した。おれはだめだ、と登は手を振り、話というのを聞こう、と云った。
良雪はふとい喉をあおに伸ばしてひざをたたいた。天井で笑っているような愉快な声が部屋にいっぱいになった。そして、内蔵助の杯へは注がないで、銚子の酒を自分の湯呑ゆのみにあけて飲んでしまった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
珈琲がよく出た時分湯呑ゆのみ一杯の湯をして角砂糖を入れて牛乳でもクリームでもコンデンスミルクでも加えてそれを硝子壜がらすびんに入れて井戸の中へるしておいても氷へ漬けておいてもようございます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
藤蔓ふじづるの着いた大きな急須きゅうすから、胃にも頭にもこたえない番茶を、湯呑ゆのみほどな大きな茶碗ちゃわんいで、両人ふたりの前へ置いた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
苦りきったかげが唇をかすめたが、湯呑ゆのみの銀のふたをとって、お茶を飲んでしまった。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「はい。ただ今御新造様ごしんぞさまももうお休みになるからと表の戸閉りをなすっていらっしゃいます。」と女は漆塗うるしぬりふたをした大きな湯呑ゆのみ象牙ぞうげはしを添えた菓子皿とを種彦の身近にすすめて
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
水甕みずがめ、酒甕、大壺、小壺、鉢、土瓶、急須、茶碗、徳利、花立はなたて湯呑ゆのみ、皿、擂鉢すりばち、植木鉢、水注みずつぎ等々々。その範囲はいたく広い。小さな窯場でこれほど多様なものを造る所も珍らしい。
日田の皿山 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
朝の水浴みずあびをし、それから食事をすませて、あとは故郷の山でつんだ番茶を入れた大きな湯呑ゆのみをそばにおいて、ラジオのニュース放送の抜萃ばっすいを聞き入っているとき、カユミ助手が入って来て
断層顔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その茶の間の一方に長火鉢を据えて、うしろに竹細工の茶棚を控え、九谷焼、赤絵の茶碗、吸子きゅうすなど、体裁よく置きならべつ。うつむけにしたる二個ふたつ湯呑ゆのみは、夫婦めおと別々の好みにて、対にあらず。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……そうはらえると、銅提ひさげが新たに榾火ほたびから取下ろされて、赤膚焼あかはだやきの大湯呑ゆのみにとろりとした液体が満たされたのを片手にひかえて、折からどうと杉戸をゆるがせた吹雪ふぶきの音を虚空こくうに聴き澄ましながら
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
栄子は「ひやのほうがあとまできいていい」と云い、一升壜からじかに湯呑ゆのみへ酒を注いだ。私はそれを見て、自分の燗徳利かんどくりだけは確保しなければならないと決意し、それを自分の前へしっかりとえた。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そこから茶の間へ来て、何という目的もなく、鉄瓶てつびんの湯を湯呑ゆのみついで一杯呑みました。それから玄関へ出ました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あんらあがみ(油甕)、あんびん(水甕)、ちゅうかあ(酒土瓶どびん)、からから(酒注)、わんぶう(鉢)、まかい(わん)、その他、壺、皿、徳利とっくり花活はないけ香炉こうろ湯呑ゆのみ、等色々の小品が出来る。
現在の日本民窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
見ますとね、下の店前みせッさきに、八角の大火鉢を、ぐるりと人間のいわのごとく取巻いて、大髻おおたぶさの相撲連中九人ばかり、峰をそばだて、谷をひらいて、湯呑ゆのみあおり、片口、丼、谷川の流れるように飲んでいる。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……さうはらゑると、銅提ひさげが新たに榾火ほたびから取下ろされて、赤膚焼あかはだやきの大湯呑ゆのみにとろりとした液体が満たされたのを片手にひかへて、折からどうと杉戸をゆるがせた吹雪ふぶきの音を虚空こくうに聴き澄ましながら
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)