しに)” の例文
まア/\死ぬのは何時いつでも死なれるから、わたしも斯うやってお前を助けるからはいざおしになさいと刄物を渡す訳には人情として出来ん
太平楽くな。ええ。このケダモノが……何かあ。貴様がしにさえすれあ二十円取れる。市役所へ五十銭附けて届けれあ葬式は片付く。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
風冷えて鐘の音も清み渡る江村の秋の夕など、雲漏る薄き日ざしに此花の咲くものならんには、我必ずや其蔭に倒れ伏してしにもすべし。
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
珠子はしにもの狂いに目をつむっているつもりでも、恐ろしければ恐ろしい丈け、怖いもの見たさの薄目がひとりでに開いて来る。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
九平 ほかにない、姫川図書め、しにものぐるいに、確にそれなる獅子母衣に潜ったに相違なし。やあ、上意だ、逆賊出合いであえ。山隅九平向うたり。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しにてさきに我に涙を流さしめし汝の顏は、かく變りて見ゆるため、かの時に劣らぬ憂ひを今我に與へて泣かしむ 五五—五七
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
殺す時機じき因果いんぐわづくだが斷念あきらめて成佛じやうぶつしやれお安殿と又切付れば手を合せどうでも私を殺すのか二人の娘にあふまではしにともないぞや/\と刄にすがるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「年長く病みし渡れば、月かさね憂ひさまよひ、ことごとは死ななと思へど、五月蠅さばへなす騒ぐ児等を、うつててはしには知らず、見つつあれば心は燃えぬ」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「こちとらはみんなしにに行くのだぜ。して見ればあれは××××××××××××××そうって云うのだ。こんな安上やすあがりな事はなかろうじゃねえか?」
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
夫は同業に聞ても分ります、幸い伯父は金持ですけれど生て居る中は一文でも貸て呉れず、しにさえすれば其身代がひとりで私しへ転がり込むと思いまして、目
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
なあに構うものか、乃公おれしにも何もせぬからうちのおッさんによろしくいっれ、ただ江戸に参りましたとえばれで分る。鉄屋くろがねやも何とも云うことが出来ぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
何時いつも若い友達と一緒になっていられる幸福のために、かえって、しにもの狂いであった誰彼たれかれなしの過去に、ひたと、おもてをこすりつけられたような思いだった。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「さうさなあ。女房にさられたとか、しにあとで子供があるとか。さもなけりや身がもてないとかだらうね。」
二黒の巳 (新字旧仮名) / 平出修(著)
いつまでもしていずに、早く切上げてしまおうではありませんか。御一しょにしにましょうね。つい今ぐに。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
「我はうるはしき友なれ二七こそ弔ひ來つらくのみ。何ぞは吾を、穢きしに人にふる」といひて、御佩みはかしの十つかの劒を拔きて、その喪屋もやを切り伏せ、足もちてゑ離ち遣りき。
一はしにて、一は生く、この生々死々の際、一国民は時代の車に乗りて不尽不絶の長途を輪転す。
国民と思想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
皇后ジヨセフインに別れた奈破翁ナポレオン一世や、前の夫人にしに別れたモリエエルが常に此処ここへ来てたのしまぬ心を慰めたと云ふ話をしながら、少時しばらく柔かい春の初めの入日いりひてらされて居た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そしてその時わたしは何卒どうぞ貴方のおしになさる時、今一お側へ来たいと心に祈って死にました。それは貴方に怖い思をさせたり、貴方をいじめたりしようというのではございませぬ。
しかし十九の時、しにつぱぐれにつた、あの時のやうな重患でもなかつたので、風邪かぜをひくとき起しやすい肺炎ではあつたが、一週間ばかり寝てゐると、悉皆すつかり好くなつてしまつた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
後の作者は二人がしににゆく姿をえがくが如くに形容して、お染に対しては「おんな肌には白無垢むくや上にむらさき藤の紋、中着なかぎ緋紗綾ひざや黒繻子くろじゅすの帯、年は十七初花はつはなの、雨にしおるる立姿たちすがた
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
常世とこよいのち常世とこよのざざんざ、いたましい松の木よ、おまへの歎は甲斐が無い、いくらおまへがしにたくても、宇宙のおきてが許すまい、獨ぼつちで生きてゆくのさ、おまへをいやがる森のなか
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
我ら意志の深底より世と世のすべて捨去すてさりてのち始めて我らの心霊も独立し世も我らのものとなるなり、しにき、すてて得る、基督教の「パラドックス」(逆説)とはこの事をいうなり
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
梅子はジツと瞑目めいもくしてありしが「婆や、其れ程迄に思つてお呉れのお前の親切は、私、嬉しいともかたじけないとも言葉には尽くされないの、けれど私、何も今日しにに行くと云ふぢやなし」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
親子はえて、しばしがうち一四七しに入りけるが、一四八しののめの明けゆく空に、ふる露のひややかなるにいき出でしかど、いまだ明けきらぬ恐ろしさに、一四九大師の御名みなをせはしくとなへつつ
清少年らの潜水隊は、今朝の決戦で、しにものぐるいの奮闘をした。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
影にそよぐしにびとぐさのやうになまぐさく
青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
凡そみずかしにたる者は汝らくらうべからず。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
とはに若きこの胸に、夫等をしにせず
おもひ切つたるしにぐるひ見よ 邦
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
いたらぬ方は、——しにならし。
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
肺を病む女工故郷へしにに来る
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
草いきれ人しにをると札の立つ
俳人蕪村 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
しにのさかひをまどろみし
疾中 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
けふ見かへせばはぢしに
都喜姫 (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
ひなしにました。
どんたく:絵入り小唄集 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
新「おしよ、しにたい/\って気がひけるじゃアないか、ちっとは看病する身になって御覧、なんだってそんなに死度いのだえ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
君、ふぐでも食ってしによったのかも知れんが。何も毒殺されたという証拠は無いではないか。泰助は死骸しがいの顔を指さして
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
引出し終に表店おもてだなへ出てなりに暮し一度は流行りうかうしけれども元よりおのれに覺えなきわざなれば終には此處の内儀ないぎが藥違ひにて殺されたの彼所の息子むすこ見立違みたてちがひにて苦しみしに
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ソコで毎月生徒のもって来た授業料をき集めて、教師の頭に四両ずついき渡ればしにはせぬと大本だいほんさだめて、その上にお余りがあれば塾舎の入用にすることにして居ました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いつはりつきてぞする何時いつよりかひとふにひとしにせし 〔巻十一・二五七二〕 作者不詳
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
新橋に半玉おしゃくに出たが、美貌びぼうと才能は、じきに目について、九州の分限者ぶげんしゃに根引きされその人にしに別れて下谷講武所したやこうぶしょからまた芸妓げいしゃとなって出たのが縁で、江木衷博士夫人となったのだ。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ことに此老人を殺してそれが為に得の行くのは唯此藻西太郎一人いちにんだ、老人は巨多あまたの財産を持て居て、しにさえすれば甥の藻西へ転がり込む様になって居る、のみならず老人の殺されたのは昨夜の事で
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
フーラー博士は、冷汗ひやあせを流してしにものぐるいである。……
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
影にそよぐしにびとぐさのやうになまぐさく
定本青猫:01 定本青猫 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
御主人は上品なおしにをなさる。
草いきれ人しにをると札の立つ
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しかうしなやみける程にしににけり。
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さらばいざしによとり行け
疾中 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
閻王えんおうの使者に追立てられ、歩むに長き廻廊もしにく身はいと近く、人形室に引入れられて亡き母の存生いまそかりし日を思い出し、下枝は涙さしぐみぬ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此の頃尼がしにやして子供らア字イ書くことがなんねえで、手におえねえが、淋しかんべえが旅金たびがねの出来るまで子供らに字イ書くことをおせえてくんろ
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)