ほし)” の例文
自分はどうせ捨てる身だけれども、一人で捨てるより道伴みちづれがあってほしい。一人で零落おちぶれるのは二人で零落れるのよりも淋しいもんだ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
見るなとかたせいせしは如何なるわけかとしきりに其奧の間の見まほしくてそつ起上おきあがり忍び足して彼座敷かのざしきふすま押明おしあけ見れば此はそも如何に金銀を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私は学校の帰途、その店頭に立って「ああ、ほしいなあ」とは思ったが、あたいくと二円五十銭なり。無論、わたしの懐中ふところにはない。
一日一筆 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
梶原が褒美がほしいかといふと「親父の命は、そいつはどうぞ親と御相談なすつて下さいまし、わつちはやつぱりれこ」といひて
あの、船で手を取って、あわれ、生命掛けた恋人の、口ずから、めて、最愛いとしい、と云ってほしい、可哀相とだけも聞かし給え。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
到頭四十銭を取出して、ほしいと思ふ其本を買求めた。なけなしの金とはいひながら、精神こゝろの慾には替へられなかつたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あゝ大層札を持って居るなと思えば、慾張った雲が出て来て、心の月にかゝりますと暗くなります、アヽほしいものだと思うばかりならいゝが
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それほどに、のう、人のほしがる財じや、何ぞえところが無くてはならんぢやらう。何処どこえのか、何でそんなにえのかは学者には解らん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この有様でもお秀は妾になったのだろうか、女の節操みさおうってまで金銭がほしい者が如何して如此こん貧乏まずしい有様だろうか。
二少女 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
彼はただ死刑がこわさに、盗みためた宝石ほしさに夢中になっていて、つい可愛い妻子のことを勘定かんじょうに入れていなかった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
三田も醉つて、もう一滴もほしく無かつた。早く宿へ歸つて寢たいと思ふばかりだつた。外の座敷の雨戸をしめる音が、あてつけがましく聞えて來た。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
與吉よきちはそれがほしくなればちひさなすゝけた籰棚わくだなした。其處そこにはかれこの砂糖さたうちひさなふくろせてあるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
やがてかまどのもとに立しきりに飯櫃めしびつゆびさしてほしきさまなり、娘此異獣いじうの事をかねてきゝたるゆゑ、飯をにぎりて二ツ三ツあたへければうれしげに持さりけり。
英蘭対訳の字書があれば先生なしで自分一人ひとりすることが出来るから、どうか字書をほしいものだといった所で横浜に字書などを売る処はない。何とも仕方がない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
少し我達おれたち利益ためになることをいふと、『中止ツ』て言やがるんだ、其れから後で、弁士の席へ押しかけて、警視庁が車夫の停車場きやくまちに炭火を許す様に骨折てほしいつて頼んでると
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「ああ解りました。では何んですね、食物がほしいって有仰おっしゃるのね?」
人間製造 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
のめ/\と買いもしがたく、買うは一旦の恥買えば永代の重宝、買うべし/\としきりに肚では促すものゝ手は出せない、去るにも去りかねてしばらく佇んで居たが、見た上はほしいがいよ/\急で
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
石段もところどころ崩れ損じた、控綱のほしいほど急ではないが、段の数は、累々と畳まって、半身を、夏の雲にいた、と思うほど、そびえていた。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長「金がほしいくれえなら、此の金を持ってやアしねえ、うぬのような義理も人情も知らねえ畜生の持った、けがらわしい金はらねえ、けえすから受取っておけ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
やがてかまどのもとに立しきりに飯櫃めしびつゆびさしてほしきさまなり、娘此異獣いじうの事をかねてきゝたるゆゑ、飯をにぎりて二ツ三ツあたへければうれしげに持さりけり。
ヱヽと驚く十兵衞がヤアお前は兄の長庵殿何故あつて此のわし切殺きりころすとはサヽては娘を賣つた此の金が初手しよてからほしさに深切しんせつおもてかざつて我を欺むき八ツを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
差迫つて金もほしく、又暑中をつめて勉強した疲勞が氣力を奪つて、只管休息を求める爲め、豫而かねて寄稿の依頼を受けて居た新聞社に持つて行つて、金に換へた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
「ああ、ほしければ上げますよ。丁度ちょうど二輪咲いてるから、お前さんとあたしとで一個ひとつずつ分けようじゃアないか。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
さうして、あによめまく相間あひまはなし相手がほしいのと、それからいざと云ふときに、色々いろ/\用を云ひ付けたいものだから、わざ/\自分を呼びせたに違ないと解釈した。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それともいまこれを此處におけ貴君あなたの三年の壽命いのちちゞめるがよいか、それでも今ぐにほしう御座るかな。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
まあ、蓮華寺では非常にほしがるし、奥様も子は無し、それに他の土地とは違つて寺院てらを第一とする飯山ではあり、するところからして、お志保を手放して遣つたやうな訳さ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
さら豆腐とうふすみからはし拗切ちぎつててはあまりにつめたいので、こしいたみをおもしてちひさななべりてあたゝめた。さうしてはつひぱいさけほしくなつて其處そこでむつゝりと時間じかんつぶした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「エエ、これがほしけりゃくれてやらあ」
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
で、何処どこでも、あの、珊瑚さんご木乃伊みいらにしたような、ごんごんごまは見当らなかった。——ないものねだりで、なおほしい、歩行あるくうちに汗を流した。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云渡して、まとめて三十両の金を出すと、新吉は幸い金がほしいから、兄と縁を切って仕舞って、行通ゆきかよいなし。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そうして、嫂は幕の合間に話し相手がほしいのと、それからいざと云う時に、色々用を云い付けたいものだから、わざわざ自分を呼び寄せたに違ないと解釈した。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
聞て幸ひぎんの松葉のちひさ耳掻みゝかきほししと有る故直段ねだんも安くうり彼是かれこれする中に雨もやみしかば暇乞いとまごひしてかへりけり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「燐寸がほしいの。そんなものは幾許いくらでも上げるけれども、一体どうして今頃こんな所へ来たのさ。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
三田の縁日の晩に、予々かねがねほしいと思っていた長火鉢を買った時は、新吉もおときもすっかり興奮して、帰途はお互に話す声も高くなり、人通の少いところでは固く手を握合った。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
それからわしもおつうがきてえつちもんだからおはりにもりあんすしね、たすきなんぞもほしい/\つちもんだからわしてえな貧乏人びんばふにんにや餘計よけいなもんぢやありあんすがあけえのつてつたんでがさ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
じゃ何だ、医学士はざくざくぎ込む、お夏さんはばらばら遣う、しかも何一つ自分からほしいといったことはないのか。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
只今もっ御新造ごしんぞが無いので何うか一人ほしいと仰しゃるので、僕も種々いろ/\お世話を申して、いのをと思うが、さて何うも長し短しで丁度好いと云うのが無いもので
「お前がそんなにの女がほしければ、わたしがお嫁に貰って上げるよ。」
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もののほしくなった時分でも、また遊びに行ってしまって、父様居ない、というと、いそいそ入って来ちゃあ、私が針仕事をしている肩へつかまって。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いやと云えば殺され、うんと云えば是迄通り出入でいりをさせ、其の上多分のお手当を下さるとの事、お金がほしくはございませんでしたが、全く殺されますのが辛いので
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
見ても、薄桃色に、また青く透明すきとおる、冷い、甘い露の垂りそうな瓜に対して、ものほしげに思われるのを恥じたのであろう。茶店にやや遠い人待石に——
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
斑猫のような毒が入りませんければ、早く吹切ふっきりません、それゆえほしいと申されました事でございまして
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ほしいだけ食べて胃袋を悪くしないようにという御深切でございましょうけれども、わたくしは胃袋へ入ることよりは、に落ちぬことがあるでございますよ。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それがサ間違まちげえで、そうすると其の猟人が駆付けて来て、死骸を見て魂消たまげて、あゝ宇内か知んなかった、己が浪人して居るのを世に出してえと思って金がほしくなったかえ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それに何さ、兄さんとかいう人に存分療治をさせたい、金子かねおのずからほしくなくなるといったような、ね、まあまあ心配をすることはないよ、来たまえ!
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身寄親類ではなし上げる訳は有りませんが、そうして幾らほしいと仰しゃるのでございますえ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
品物といえば釘の折でも、屑屋くずやへ売るのにほしい処。……返事を出す端書が買えないんですから、配達をさせるなぞは思いもよらず……急いで取りに行く。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先方さきでも子供がほしいと思ってるところなんでございますから、相談は直ぐにまとまりまして、お米は越佐の養女に貰われ、夫婦も大層喜び、乳母をかゝえるなど大騒ぎでございます。
なさけなさの遣場やりばのない、……そんな時、世の中に、ただ一人、つらい胸を聞かせたし、聞いてほしし、慰めてももらいたいのは、御新造さんばかりでしょう。
それを私が持って藤屋まで参る途中で災難にって、道で助けられた其のお方が私の旦那で、今では何不足なく何んでもでもほしいものは買って遣るからと仰しゃるから安心して居るわ