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朝顏
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あさがほ
椿の
梢には、つい
此のあひだ
枯萩の
枝を
刈つて、その
時引殘した
朝顏の
蔓に、
五つ
六つ
白い
實のついたのが、
冷く、はら/\と
濡れて
行く。
夏になるとコスモスを
一面に
茂らして、
夫婦とも
毎朝露の
深い
景色を
喜んだ
事もあるし、
又塀の
下へ
細い
竹を
立てゝ、それへ
朝顏を
絡ませた
事もある。
筆の
軸は
先の
方だけを
小刀か
何かで
幾つにも
割りまして、
朝顏のかたちに
折り
曲げるといゝのです。
狹苦しいにしてもきちんとした
傭人部屋の
周圍の
土に
箒目を
入れて
水でも
打つて
見たり、
其處らで
作る
朝顏の
苗を
貰つてどんな
姿にも
鉢へ
植て
見たりして
居ると
奉公が
辛くも
思はないのであつた。
庭はさながら
花野也。
桔梗、
刈萱、
女郎花、
我亦紅、
瑠璃に
咲ける
朝顏も、
弱竹のまゝ
漕惱めば、
紫と、
黄と、
薄藍と、
浮きまどひ、
沈み
靡く。
その
受口へ
玉のやうにふくらめた
酸醤をのせ、
下から
吹きましたら、
輕い
酸醤がくる/\と
舞ひあがりました。そして
朝顏なりの
管の
上へ
面白いやうに
落ちて
來ました。
裳を
曳く
濡縁に、
瑠璃の
空か、
二三輪、
朝顏の
小く
淡く、
其の
色白き
人の
脇明を
覗きて、
帶に
新涼の
藍を
描く。
月のはじめに
秋立てば、あさ
朝顏の
露はあれど、
濡るゝともなき
薄煙、
軒を
繞るも
旱の
影、
炎の
山黒く
聳えて、
頓て
暑さに
崩るゝにも、
熱砂漲つて
大路を
走る。
……
垣の
卯の
花、さみだれの、ふる
屋の
軒におとづれて、
朝顏の
苗や、
夕顏の
苗……
赤い
額、
蒼い
頬——
辛うじて
煙を
拂つた
絲のやうな
殘月と、
火と
炎の
雲と、
埃のもやと、……
其の
間を
地上に
綴つて、
住める
人もないやうな
家々の
籬に、
朝顏の
蕾は
露も
乾いて
萎れつゝ
この
朝顏、
夕顏に
續いて、
藤豆、
隱元、なす、さゝげ、
唐もろこしの
苗、また
胡瓜、
糸瓜——
令孃方へ
愛相に(お)の
字をつけて——お
南瓜の
苗、……と、
砂村で
勢ぞろひに
及んだ、
一騎當千
……
昨夜、
戸外を
舞靜めた、それらしい、
銀杏の
折れ
枝が、
大屋根を
越したが、
一坪ばかりの
庭に、
瑠璃淡く
咲いて、もう
小さくなつた
朝顏の
色に
縋るやうに、たわゝに
掛つた
葉の
中に、
一粒
狹い
町に
目まぐろしい
電線も、
銀の
絲を
曳いたやうで、
樋竹に
掛けた
蜘蛛の
巣も、
今朝ばかりは
優しく
見えて、
青い
蜘蛛も
綺麗らしい。
空は
朝顏の
瑠璃色であつた。
欄干の
前を、
赤蜻蛉が
飛んで
居る。
苗屋が
賣つた
朝顏も、もう
咲くよ。