よう)” の例文
彼も亦相当の資産をようし、諸方の会社の株主となって、その配当けで、充分贅沢ぜいたくな暮しを立てている、謂わば一種の遊民ゆうみんであった。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、甘く見た華雄軍は、そのようする洛陽の精兵を挙げて、孫堅の一陣を踏みちらし、勢いに乗って汜水関しすいかんの守りを出たものであった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
花下かかに緑色の一子房しぼうがあって、直立し花をいただいている。子房には小柄しょうへいがあり、その下に大きな二枚の鞘苞しょうほうがあって花をようしている。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
相馬からの路をようして月輪組を斬殺した次第を物語り、忠相は、泰軒の留守にお艶の身柄を出入りの大工棟梁伊兵衛なる者に預け
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その時、窓の外が急に、ざわめき出したのを、見やると、一群の人数がののしりながら、何者かをようしてこのところへ入って来るのを認める。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
石井三右衞門といへば、諸大名方に出入りするお金御用達、何萬兩といふ大身代をようして、町人ながら苗字帶刀めうじたいたうを許されて居る大商人です。
ソレデ彼女ガ便所カラ出テ来タトコロヲ廊下ニようシテ話シタノデス。私ハソコデ出来ル限リ彼女ノ心ヲ戻スヲウニ申シマシタ。
彼が殺したか (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
まさしく瑠璃るりの、群青ぐんじょう深潭しんたんようして、赤褐色の奇巌きがん群々むれむれがかっと反射したところで、しんしんとみ入るせみの声がする。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
一、空想によりて俳句を得んとするには、兀坐ごつざ瞑目めいもくして天上の理想界をえがき出すも可なり。机頭きとう手炉しゅろようして過去の実験を想ひ起すも可なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「馬車が出ます/\」と、炉火ろくわようしてうづくまりたる馬丁べつたう濁声だみごゑ、闇のうちより響く「吉田行も、大宮行も、今ますぐと出ますよ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
今も七個の窯をようして黒物が焼ける。ただ位が低くいずれも並の雑器であるから、これで苗代川なえしろがわを語る者はない。だがこの方が実は歴史が古い。
苗代川の黒物 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
看護員は犇々ひしひしとその身をようせる浅黄あさぎ半被はっぴ股引ももひきの、雨風に色褪いろあせたる、たとへば囚徒の幽霊の如き、数個すかの物体をみまはして、ひいでたるまゆひそめつ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
僕等はとうとう最後の幕まで、——カルメンの死骸しがいようしたホセが、「カルメン! カルメン!」と慟哭どうこくするまで僕等のボックスを離れなかった。
カルメン (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
一本の太い鉄柱をようして数人すにんの人が立っていて、正作は一人その鉄柱の周囲を幾度いくたびとなく廻って熱心に何事かしている。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
露国ろこくは、五ヶ年計画完成し、世界第一の大陸軍をようして、黒竜江こくりゅうこうを渉り、日本の生命線満洲一帯を脅かそうとしている。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
百万の富をようして、その衣食住はほとんど完全の域に達している人びとでも、またかの律僧や禅家などのごとく
死刑の前 (新字新仮名) / 幸徳秋水(著)
彼にたゞ一つの取柄とりえと云えば、非常に健康に恵まれていたことで、肉体的精力がりんを絶していたであろうことは、そう云う高齢で二十何歳と云う夫人をよう
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「発見までには二十億ドルをついや」し「六万五千を超える」技術作業員をようした大工場の作業が、極秘に進められていようとは夢にも考えていなかったのである。
原子爆弾雑話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
あるいは石段をくだるやいなむかえのものにようせられて、あまりの不意撃ふいうちに挨拶さえも忘れて誰彼の容赦なく握手の礼を施こしている。出征中に満洲で覚えたのであろう。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたしはかつて愛誦あいしょうした『春濤詩鈔しゅんとうししょう』中の六扇紅窓掩不開——妙妓懐中取煖来という絶句をおもい起すと共にようせざるもパンを抱いて歩めばまた寒からずと覚えず笑を
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
また西郷南洲さいごうなんしゅう廟堂びょうどうより薩南さつなんに引退した時の決心、また多数にようせられ新政厚徳こうとくはたぐるに至った心中は、おそらくはその周囲におった人にも分からなかったであろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
多年の競争相手だった米国コリンス会社を完全にノックアウトした(一八五八年)ほどの実力——柄は小さいがサーヴィスは満点という娘盛りの一大船隊をようして控えていた。
黒船前後 (新字新仮名) / 服部之総(著)
苅賀の家は組屋敷の中にあり、支配役のことで、厩や長屋や三棟の土蔵などをようして、なかなか堂々たる構えであった。……由平二は在宅で、すぐに又四郎と客間で対坐した。
百足ちがい (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
酔払った連中は、二つ返事で銘々めいめい美女をあいようし、威勢いせいよくシャムパングラスを左手にささげ立ったところを、ポッカアンとマグネシュウムがはじけて一同、写真に撮られてしまいました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
晏子あんしせいしやうり、づ。その(五六)ぎよつま(五七)門間もんかんより其夫そのをつとうかがふ。其夫そのをつとしやうぎより、(五八)大蓋たいがいようし、(五九)駟馬しばむちうち、(六〇)意氣揚揚いきやうやうとしてはなは自得じとくせり。
余は母屋おもやようして、ほんを見ながら時々書院のさゞめきに耳傾ける。一曲終る毎に、入り乱れたほめ言葉が聞こえる。曲中ながら笑声が起る。二時間ばかりも過ぎた。茶菓が運ばれた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
室内の温気うんきの耐へ難きに、吾はそつと此処を滑り出でゝ喫煙室の方に行きぬ。婦人室の前を過ぐる時、不図ふと室内を見入れたれば、寂々せき/\たる室の一隅の暖炉をようし首をあつめて物語る二人の美人。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
かつての「五けん茶屋」の「万梅」「大金」を除いたあとの三げん、「松島」は震災ずっと以前すでに昔日のおもかげを失った、「草津」「一直」はただその尨躯ぼうくようするだけのことである。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
門の外にはいかめしく武装した清盛きよもりの兵士らがわしの車をようして待っていた。彼らのある者はつるぎやりをこわれるほどたたいて早く早くとうながしていた。妻はまっさおな顔をしてふるえていた。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
しかしてこの湖水をようしてずらりとならべる雪峰は天然の白衣観音びゃくいかんのんあるいは妙音菩薩みょうおんぼさつが無声の音楽をろうして毘婁遮那びるしゃな大仏に供養するかのごとく、実に壮快なる天然の曼陀羅まんだらを現わして居るのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
たまたま男の継嗣は長寿にめぐまれず、幼児をようして女帝の摂政せっしょうがつづいたとはいえ、その成人にあらゆる希願と夢を托して、一方に朝家の勢力、日本支配は着々と進み、すべては順潮であった。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
この艱難かんなん余所よそにして金が調ととのえりといいては青楼せいろうに登り絃妓げんぎようしぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
月照船頭に立ち、和歌を朗吟して南洲に示す、南洲首肯しゆかうする所あるものゝ如し、遂に相ようして海にとうず。次郎等水聲起るを聞いて、倉皇さうくわうとして之を救ふ。月照既に死して、南洲はよみがへることを得たり。
手に幼君をようして終夜家外に立詰めなりしと云う話がある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
搦手からめては紀伊、葛城かつらぎ山脈などの山波をようし、いたるところの前哨陣地から金剛の山ふところまで、数十の城砦じょうさいを配していたことになる。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
言いわけをしても、この騒ぎで聞き入れられず、ぜひなく多数にようせられて、行くところまで行こうという気になっているもののようです。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これは葉腋ようえきにある芽をようしているその鱗片りんぺん最外さいがいのものが大いに増大し、大いに強力となってついにトゲにまで進展発育したものにほかならなく
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
これが数十名をようして着府すると同時に、左膳は一気に栄三郎方をもみつぶして坤竜丸を入手しようとくわだてている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
もしそれでも得られるとすれば、炎天に炭火をようしたり、大寒に団扇うちわふるったりするせ我慢の幸福ばかりである。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
僕は里子をようして泣きました。幾度も泣きました。僕もた母と同じく物狂ものぐるおしくなりました、あわれなるは里子です。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
小門、外より押されて数名の黒影は庭内にあらはれぬ、きなるは母のお加女なり、中にようされたるは姉の梅子なり、他は大洞よりのびとにやあらん
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
帆村探偵は、改めて電話を署にかけると、彼等の帰宅をようして、即刻そっこく現場へ連れ戻ってほしいと希望をのべたのであったが、それは直ぐさま承諾された。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それにつられて昇って来る犠牲者を、塔中の暗闇にようして殺害しようという、恐ろしい企らみではないだろうか。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
有り餘る身上しんしやうようしながら、當主の丹右衞門は女道樂から、書畫道樂普請道樂、揚弓から雜俳ざつぱい、小唄三味線の諸藝に至るまで、あらゆる道樂に凝つて稼業が面倒臭くなり
道也どうや先生長い顔を長くして煤竹すすだけで囲った丸火桶まるひおけようしている。外を木枯こがらしが吹いて行く。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
容易に敵のうかがい知り得ない峡谷きょうこくの間に六十有余年も神璽をようしていたと云う。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それより徒歩して東雲しののめ新聞社に至らんとせるに、数万すまんの見物人および出迎人にて、さしもに広き梅田停車場ステーションもほとんど立錐りっすいの地を余さず、妾らも重井、葉石らと共に一団となりて人々にようせられ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
国としても南北に広い面積をようします。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
下品な海員ごのみの音楽バンドにホールを鳴らして、彼もまた、特殊な寵愛をかけている何とかいう若い妓をようして客と共に踊っていた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また飛行機が低空を飛んできて、博士邸の真上を飛び去ったかと思った途端、城のように高い壁にようせられた正門の鉄扉に何かが当ってガーンと鳴り響いた。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)