トップ
>
媚
>
こび
ふりがな文庫
“
媚
(
こび
)” の例文
「ぢやア
僕
(
ぼく
)
は帰るよ。もう………。」と
云
(
い
)
ふばかりで
長吉
(
ちやうきち
)
は
矢張
(
やは
)
り
立止
(
たちどま
)
つてゐる。その
袖
(
そで
)
をお
糸
(
いと
)
は軽く
捕
(
つかま
)
へて
忽
(
たちま
)
ち
媚
(
こび
)
るやうに
寄添
(
よりそ
)
ひ
すみだ川
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
あたかもらんまんたる桜の枝が
水面
(
みなも
)
に映っているような、ほんのりと桜色に色づいた顔に、そよ吹く春風をあしらうような
媚
(
こび
)
を見せ
雨月物語:02 現代語訳 雨月物語
(新字新仮名)
/
上田秋成
(著)
つくろわねどもおのずからなる
百
(
もも
)
の
媚
(
こび
)
は、浴後の色にひとしおの
艶
(
えん
)
を増して、
後
(
おく
)
れ毛の雪暖かき
頬
(
ほお
)
に掛かれるも得ならずなまめきたり。
書記官
(新字新仮名)
/
川上眉山
(著)
男は小柄な躯つきで、それが女のようにしなしなしてい、気取った
媚
(
こび
)
のある身ぶりで、おそのの
塵除
(
ちりよ
)
け
合羽
(
がっぱ
)
を脱がしてやっていた。
五瓣の椿
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
身綺麗
(
みぎれい
)
にはしていても
髪容
(
かみかたち
)
に
搆
(
かま
)
わない。それなのにあの円顔の目と口とには、複製図で見た
Monna
(
モンナ
)
Lisa
(
リイザ
)
の
媚
(
こび
)
がある。
青年
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
▼ もっと見る
「なりますわ。いつまでも、
屹度
(
きっと
)
……」と、引寄せられたまま、抱擁の力を求めるように
媚
(
こび
)
の謚るる目をあげて男の顔を見上げました。
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
男のくせに、非凡の
媚
(
こび
)
です。聲は
顏容
(
かほかたち
)
に似ぬバリトーンで、少し太く錆びて居りますが、それが又快く異性などに響くのでせう。
銭形平次捕物控:279 持参千両
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
(頼家は
頤
(
あご
)
にて示せば、かつら心得て仮面を箱に納め、すこしく
媚
(
こび
)
を含みて頼家にささぐ。頼家はさらにその顔をじっと視る。)
修禅寺物語
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
媚
(
こび
)
るやうな、
嬲
(
なぶ
)
るやうな、そして
何
(
なに
)
かに
憧
(
あこが
)
れてゐるやうな其の眼……私は
少女
(
せうぢよ
)
の其の
眼容
(
まなざし
)
に
壓付
(
おしつ
)
けられて、我にもなく下を向いて了つた。
虚弱
(旧字旧仮名)
/
三島霜川
(著)
窓からは湖水を渡って、柔かい、人に
媚
(
こび
)
るような空気が吹き入れる。その空気は世界のあらゆる不幸をまるで知らないような空気である。
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
捲毛の泡立つ頭をちょいとかしげて、言葉をにごした女主人は、あとはお察しにまかせる、という風に、
媚
(
こび
)
のある眼まぜをした。
道標
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
「お前はよくそんな事まで覚えてゐるね。」——夫にかう
調戯
(
からか
)
はれると、信子は
必
(
かならず
)
無言の儘、眼にだけ
媚
(
こび
)
のある返事を見せた。
秋
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
子供のうちから新
舞踊
(
ぶよう
)
を習わせられ、レヴュウ・ガールとも
近附
(
ちかづき
)
のある小初は、
媚
(
こび
)
というねたねたしたものを近代的な軽快な魅力に
飜訳
(
ほんやく
)
し
渾沌未分
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
そう言って若い女は、
媚
(
こび
)
を含んだ視線をチラッと大月へ投げると、秋田には見向きもしないで、到頭その儘出て行って了った。
花束の虫
(新字新仮名)
/
大阪圭吉
(著)
流眄、すなわち流し目とは、
瞳
(
ひとみ
)
の運動によって、
媚
(
こび
)
を異性にむかって流し
遣
(
や
)
ることである。その様態化としては、横目、
上目
(
うわめ
)
、
伏目
(
ふしめ
)
がある。
「いき」の構造
(新字新仮名)
/
九鬼周造
(著)
鶴見が離れようとすればするほど
纏
(
まとわ
)
りついてくる女の執拗さにあきれて、女の
媚
(
こび
)
には
応諾
(
おうだく
)
も与えずに、押黙って本を見ていた。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
この時貫一は始めて満枝の
面
(
おもて
)
に
眼
(
まなこ
)
を移せり。
百
(
もも
)
の
媚
(
こび
)
を含みて
睼
(
みむか
)
へし彼の
眸
(
まなじり
)
は、
未
(
いま
)
だ言はずして既にその言はんとせる
半
(
なかば
)
をば
語尽
(
かたりつく
)
したるべし。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
早熟な彼女は、身体こそ少年の様にしなやかであったが、睫毛の長い二かわの目には、已に大人の
媚
(
こび
)
と
潤
(
うるお
)
いをたたえていた。
江川蘭子
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
というのは、そのだぼはぜ嬢が、
愈々
(
いよいよ
)
、
瞳
(
ひとみ
)
に
媚
(
こび
)
をたたえて、「けっして、助平とは思わないでね」とウインクをするのです。
オリンポスの果実
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
さう云つて、
嫣然
(
えんぜん
)
と笑ひながら、青年の顔を覗き込む瑠璃子夫人の顔には、女王のやうな威厳と娼婦のやうな
媚
(
こび
)
とが、二つながら交つてゐた。
真珠夫人
(新字旧仮名)
/
菊池寛
(著)
特に相手が、嘘をつくことの平気な、
媚
(
こび
)
を以て男に対しようとするような女である場合に、その事実は明らかであった。
自己の肯定と否定と
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
人を悩殺する
媚
(
こび
)
がある。
凡
(
すべ
)
て盛りの短い
生物
(
いきもの
)
には、生活に対する飢渇があるものだが、それをドリスは強く感じている。
世界漫遊
(新字新仮名)
/
ヤーコプ・ユリウス・ダビット
(著)
覚えたばかりのような
媚
(
こび
)
のある目を向けて、恥かしそうに平七の顔を見あげると、また恥かしそうにお雪は顔を伏せた。
山県有朋の靴
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
美貌に眼をつけた上級生が無気味な
媚
(
こび
)
で近寄ってくると、かえってその愛情に
報
(
むく
)
いる方法を知らぬ奇妙な
困惑
(
こんわく
)
に
陥
(
おちい
)
った。
雨
(新字新仮名)
/
織田作之助
(著)
ものして
婦女童幼
(
ふじょどうよう
)
に
媚
(
こび
)
んとする世の
浅劣
(
せんれつ
)
なる
操觚者流
(
そうこしゃりゅう
)
は此の灯籠の文を
読
(
よみ
)
て圓朝
叟
(
おじ
)
に
耻
(
はじ
)
ざらめやは
聊
(
いさゝか
)
感ぜし所をのべて序を
乞
(
こ
)
わるゝまゝ記して与えつ
怪談牡丹灯籠:01 序
(新字新仮名)
/
坪内逍遥
(著)
自分はお兼さんの
愛嬌
(
あいきょう
)
のうちに、どことなく
黒人
(
くろうと
)
らしい
媚
(
こび
)
を認めて、急に返事の調子を狂わせた。お兼さんは
素知
(
そし
)
らぬ風をして岡田に話しかけた。——
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
酒と
媚
(
こび
)
の附属する料理店で、お客であって株主でもある人たちは、一番やすく遊んで食べて、利益も得ている、その株主の一人で柳原さんもあったのだ。
柳原燁子(白蓮)
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
藥指は
此家
(
このや
)
の娘、身輕な小意氣なヅエルビイヌ、奧樣がたへは
笹縁
(
さゝべり
)
のれいすも賣るが、殿御に
媚
(
こび
)
は賣り申さぬ。
五本の指
(旧字旧仮名)
/
ルイ・ベルトラン
(著)
余は到つて臆病なりしかばかかる時は常に両人中余の尤も
懼
(
おそ
)
るる方に附き
随
(
したが
)
ひて
媚
(
こび
)
を献じてその機嫌を取れり。
二葉亭四迷の一生
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
「あらそう、それは残念ね」彼女は
媚
(
こび
)
るように笑いかけたが、「それではお別れにしましょうか。ごめんなさいよ。左様なら……さあ私達は参りましょう」
人間製造
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
だからめたん子は町の片側を歩いてゆき、溝板があればその溝板づたひに行くのである。それだけでも、仲間を恐れることを仲間に知らせたい、
媚
(
こび
)
であつた。
めたん子伝
(旧字旧仮名)
/
室生犀星
(著)
で、
辷
(
すべ
)
らした
白
(
しろ
)
い
手
(
て
)
を、
若旦那
(
わかだんな
)
の
胸
(
むね
)
にあてて、
腕
(
うで
)
で
壓
(
お
)
すやうにして、
涼
(
すゞし
)
い
目
(
め
)
で
熟
(
じつ
)
と
見
(
み
)
る。
其
(
そ
)
の
媚
(
こび
)
と
云
(
い
)
つたらない。
妖艷無比
(
えうえんむひ
)
で、
猶
(
なほ
)
且
(
か
)
つ
婦人
(
ふじん
)
の
背
(
せ
)
を
抱
(
だ
)
いて
居
(
ゐ
)
る。
みつ柏
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
肩をそびやかして
諂
(
へつら
)
い笑い、巧言令色、太鼓持ちの
媚
(
こび
)
を献ずるがごとくするはもとより厭うべしといえども、苦虫を噛み潰して熊の
胆
(
い
)
をすすりたるがごとく
学問のすすめ
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
「
二十歳
(
はたち
)
から呑んだらえゝ、十七ではまだ早い。」と、お駒は圓い眼に
媚
(
こび
)
を
湛
(
たゝ
)
へて
嘲弄
(
からか
)
ふやうに言つた。
天満宮
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
透
(
す
)
き
徹
(
とお
)
るような皮膚をしたしなやかな彼女の手、赤い花片に似た薄い受け
唇
(
くちびる
)
、黒ダイヤのような美しい目と長い
睫毛
(
まつげ
)
、それに
頬
(
ほお
)
から口元へかけての曲線の悩ましい
媚
(
こび
)
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
幕が
明
(
あ
)
くと登場時間を待つ俳優がモリエエル夫人を取巻いて居る。いろんな諸侯が楽屋へ来て美しい夫人に
媚
(
こび
)
を呈して
行
(
ゆ
)
く。七十近い老文豪コルネエユ迄が出て来る。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
そして、しょうことなく、だらしなく読者に
媚
(
こび
)
を呈して、嘘をとりまぜた考えが虚空に消えてゆく。
新版 放浪記
(新字新仮名)
/
林芙美子
(著)
とニッコリ白い歯を見せた未亡人の眼に含まれた
媚
(
こび
)
……それをどうしても飲まぬと云い張った時、飲まされた「酔いざまし」の水薬の冷たくてお
美味
(
い
)
しかったこと……。
あやかしの鼓
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
名「いえ中々
一国
(
いっこく
)
もので、少しも人に
媚
(
こび
)
る念がありませんから、
今日
(
こんにち
)
直
(
すぐ
)
と申す訳には参りません」
菊模様皿山奇談
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
彼は
媚
(
こび
)
を含んだ美しい眼で
微笑
(
ほほえ
)
み、つとめて悔悟の様子を装い、他のことを考え、首肯し、感謝し、そしてしまいにはいつも、兄のどちらかから金をしぼり取っていた。
ジャン・クリストフ:05 第三巻 青年
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
我が夫人に於けるも亦これに似たるなるべし。
前
(
さき
)
の事ありしより、我が夫人を見る目は昔に同じからで、その
豐
(
ゆたか
)
なる肌、
媚
(
こび
)
ある振舞の
胸騷
(
むなさわぎ
)
の種となりそめしぞうたてき。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
と夫人は
媚
(
こび
)
を含んだ目つきを良人に浴せかけた。三十を越しても努力すれば多少の色気は出る。
或良人の惨敗
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
芝居に出て来るような、
頗
(
すこぶ
)
る概念的な百姓風俗である。贋物に違いない。極めて悪質の押売りである。その態度、音声に、おろかな
媚
(
こび
)
さえ感ぜられ、実に胸くそが悪かった。
善蔵を思う
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
藤沢は、岡本吾亮の不機嫌な顔に
媚
(
こび
)
笑いをむけながらこう言って、その場を逃げたのだった。
熊の出る開墾地
(新字新仮名)
/
佐左木俊郎
(著)
戯れに棒振りあげて彼の頭上に
翳
(
かざ
)
せば、笑うごとき
面持
(
おももち
)
してゆるやかに歩みを運ぶ
様
(
さま
)
は主人に叱られし犬の尾振りつつ逃ぐるに似て異なり、彼はけっして
媚
(
こび
)
を人にささげず。
源おじ
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
われわれが「価値」に
媚
(
こび
)
を送る間は、われわれは「表現」に
跪拝
(
きはい
)
しなければならぬだろう。
二十歳のエチュード
(新字新仮名)
/
原口統三
(著)
媚
(
こび
)
をささげて足元にまつわるを眼もて制し。小腰をかがめてそが
頭
(
かしら
)
をかいなでつつ聞けば。
藪の鶯
(新字新仮名)
/
三宅花圃
(著)
思出し笑いに、
凄味
(
すごみ
)
というようなものが加わって、その眼の中にいっぱいの
媚
(
こび
)
が流れる。
大菩薩峠:26 めいろの巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
一段の
媚
(
こび
)
を含んだような牝馬の声が復た聞える。源の馬は夢中になって嘶きかわした。
藁草履
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
あれらの心は
幾様
(
いくよう
)
にも働くことができるようにできている。自分に対すると同じような
媚
(
こび
)
と笑いと
情
(
なさけ
)
とをすぐ隣の室で他の男に与えているのだ。忘れても行かん。忘れても行かん。
田舎教師
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
媚
漢検1級
部首:⼥
12画
“媚”を含む語句
媚態
柔媚
媚笑
媚色
媚態的
艶媚
明媚
媚薬
風光明媚
嬌媚
媚言
佞媚
媚藥
媚沢山
妍媚
百媚
阿媚
媚々
狐媚狐惑
敵媚
...