姿見すがたみ)” の例文
部屋へやの隅に据えた姿見すがたみには、西洋風に壁を塗った、しかも日本風の畳がある、——上海シャンハイ特有の旅館の二階が、一部分はっきりうつっている。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ひと身體からだ一部分いちぶぶんを、何年なんねんにもないでます場合ばあひおほいから……姿見すがたみむかはなければ、かほにもはないと同一おなじかもれぬ。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ガラス窓と隣合せて、大きな姿見すがたみかかっている。珠子はその前に立って、又しても我が裸身に見入りながら、手や足を色々に動かして見た。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
二人ふたり姿見すがたみの前に立った時、すっかり悲観してしまった。めいめい、自分だけはそんなでもなかろうと思っていたのである。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
宗助そうすけおほきな姿見すがたみうつ白壁しらかべいろなゝめにて、ばんるのをつてゐたが、あまり退屈たいくつになつたので、洋卓テーブルうへかさねてあつた雜誌ざつしけた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
梅喜ばいきさん、此方こつちへおでよ。梅「へえ……こゝに大層たいそう人が立つてゐますな。近「なにりやア此方こつちの人がうつるんだ、向うに大きな姿見すがたみが立つてゐるのさ。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
だが子供心に、妙なへだてをつけたもので、鏡は顏を見るものとしてで、姿見すがたみの前にくると別な氣分です。
鏡二題 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
父のいつもおもかげうつし給ひし大きな姿見すがたみもろとも、蒲団ふとんになとくるませて通運に出さすべく候。
ひらきぶみ (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ラ・ベルがこう心におもいながら、ふと、そこの姿見すがたみをのぞいたとき、ちょうど、父親のうちへかえったところが、そこに、うつりました。姉たちが、出むかえに出て来ました。
僕はその時、細君の横手になった大きな姿見すがたみの中へ顔を出していたが、二人とも見なかったのだ、それから五六日った、奴さんとろとろねむっていて、眼を開けてみると、また細君がいない
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
につらき夜半よは置炬燵おきごたつ、それはこひぞかし、吹風ふくかぜすゞしきなつゆふぐれ、ひるのあつさを風呂ふろながして、じまいの姿見すがたみ母親はゝおやづからそゝけがみつくろひて、ながらうつくしきをちて
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
小形のいはゆる「姿見すがたみ」を懸け連ねてあつた。
彼は決心して姿見すがたみの横に立ったまま、階子段はしごだんの上を見つめた。すると静かな足音が彼の予期通り壁の後で聴え出した。その足音は実際静かであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ぬまうへはなれるときあみそゝいでちるみづひかり、かすみかゝつたおほき姿見すがたみなかへ、うつすりとをんな姿すがたうつつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そういう理由から、私は覗き眼鏡の一端を、浴場の中へではなく、そのぎのになっている、大きな姿見すがたみのある、脱衣場にとりつけようと、決心したものであります。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
姿見すがたみの前にすくんだ彼女は当惑のまゆを寄せた。仕方がないので、今がけだから、ゆっくり会ってはいられないがとわざわざ断らした後で、彼を座敷へ上げた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
姿見すがたみおもかげ一重ひとへ花瓣はなびら薄紅うすくれなゐに、おさへたるしろくかさなりく、蘭湯らんたうひらきたる冬牡丹ふゆぼたんしべきざめるはぞ。文字もじ金色こんじきかゞやくまゝに、くちかわまたみゝねつす。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二階は三室みまに分れていて、その全体を一人娘の三千子が占領していた。部屋の様子で三千子が余り几帳面きちょうめんなたちでないことが察せられた。化粧室には姿見すがたみの前に様々な化粧道具が乱雑に並んでいた。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
揚場あがりば奧方おくがたは、小兒こどもはう安心あんしんなり。まちくたびれた、とふうで、れいえり引張ひつぱりながら、しろいのをまたして、と姿見すがたみらして、かたはらつた、本郷座ほんがうざ辻番附つじばんづけ
銭湯 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
津田は水盤にあふれる水を眺めていたにちがいなかった。姿見すがたみに映るわが影を見つめていたに違なかった。最後にそこにあるくしを取って頭までいてぐずぐずしていたに違なかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
婦同士をんなどうし見惚みとれたげで、まへ𢌞まはり、背後うしろながめ、姿見すがたみかして、裸身はだかのまゝ、つけまはいて、黒子ほくろひとつ、ひだりちゝの、しろいつけぎはに、ほつりとあることまで、ようつたとはなし
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……はしすべつて、はツとると、こゝに晃々くわう/\としてなめらかなるたま姿見すがたみめた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
を、そつばして、おくすりつゝみつて、片手かたてまる姿見すがたみ半分はんぶんじつて、おいろさつあをざめたときは、わたしはまたかされました。……わたし自分じぶんながら頓狂とんきやうこゑつたんですよ……
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
姿すがたが、みづながれて、やなぎみどり姿見すがたみにして、ぽつとうつつたやうに、ひとかげらしいものが、みづむかうに、きしやなぎ薄墨色うすずみいろつてる……あるひまた……此處こゝ土袋どぶつ同一おなじやうなをとこ
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すそながいたかげに、まる姿見すがたみごとく、八田潟はつたがたなみ一所ひとところみづむ。
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)