さい)” の例文
「昔いた女中頭の清というのが又来て総取締りをやっています。社長の気に入りですから、都合が好いです。さいも時々見に行きます」
人生正会員 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
さいの出た跡で、更に酒を呼んだ宗右衛門は、気味の悪い笑顔えがおをして五百を迎える。五百はしずか詫言わびごとを言う。主人はなかなかかない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
見られ下谷山崎町家持五兵衞せがれ五郎藏其方とし何歳なんさいになるやまたさいはあるかと尋ねらるゝに五郎藏はひよくりと天窓あたまあげじろ/\四邊あたり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
婦人は鼻をつまらせつつしみじみ話す。自分は床柱とこばしらにもたれてぼんやりきいている。さいかしらをたれている。日はいつか暮れてしもうた。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
元来自分とさいと重吉の間にただ「あのこと」として一種の符牒ふちょうのように通用しているのは、実をいうと、彼の縁談に関する件であった。
手紙 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
留守中るゐちうこれは失禮しつれいでした。さいませんので、女中ぢよちうばかり‥‥や、つまらんもの差上さしあげて恐縮きようしゆくしました』と花竦薑はならつきやう下目しためる。
そんな者と話の合いようが無かろうじゃないか。ああ、年甲斐がいもない、さいというものは幾人いくたりでも取替えられる位の了見でいたのが大間違。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「およそ人心じんしんうちえてきのこと、夢寐むびあらわれず、昔人せきじんう、おとこむをゆめみず、おんなさいめとるをゆめみず、このげんまことしかり」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
と、随喜渇仰ずいきかつごうの有様なのだ。そこでそのさいのろ振りがまた、さあ町じゅうのいい笑い草となった。いや岡焼きも手つだっていよう。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
天保てんぽう十四年生まれの母上の方が明治十二年生まれのさいよりも育児の上においてむしろ開化主義たり急進党なることこそその原因に候なれ
初孫 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
またその時予がさいむかって、今日福沢諭吉は大丸だいまるほどの身代しんだいに成りたれば、いつにても予が宅に来て数日逗留とうりゅうし、意をなぐさめ給うべしとなり。
「大きに御尤ごもつともだ。だが下婢げぢよ下婢げぢよさいさいさ。下婢げぢよで用が足りる位なら、世間の男は誰だツてうるさいさいなんか持ちはしない。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
もしさいがいつまでも色男をこしらえなかったら、わたしはおそらく自分から、色男を引っ張って来てやるだろうと思いますよ。
つまり、余り突然だと云うのだね、さいの心持で云えば、斯う云うことを云う前に、何とか、前からのことの定りがつくべきであると云うのだ。
二つの家を繋ぐ回想 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
早い話が、わざわざおいでなすったんで、茶でも進ぜたい、進ぜたい、が、早い話が、家内に取込みがある、さいが煩うとる。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのゆうべ妾はついに藤井夫婦に打ち明けて東上の理由を語りぬ。さいは深く同情を寄せくれたり、藤井も共に尽力じんりょくせんと誓いぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
到底どうせもらう事なら親類なにがしの次女おなにどのは内端うちば温順おとなしく器量も十人なみで私には至極に入ッたが、このを迎えてさいとしては
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
貫く根元ねもとから。それから、行つて見たかや田沢たざはうみへ、そこの浮木うきぎの下のみづ。かういふのは幾らでも出ます。校歌の方は一遍さいに書かせてみます
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
移住後は滋養の為めとて在東京周助さいより蒲焼及び鯛サワラ等の味噌漬其他舶来品の滋養物を絶えず送られて好みつつ喰するも、次第に衰弱せり。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
主人のさいは長二郎に女房の世話を致したいと申して居りましたから、わたくしの考えますには、其の事を長二郎に話しましたのを長二郎がおかしくさとって
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
常に山頂の風力の強暴なるに似ず、日光のほがらかなるを見て、時としてさいなどはもし空気が目に見ゆるものならば、このはげしき風を世人せじんに見せたし
「千枝子さんは旦那様思いだから、自然とそんな事がわかったのでしょう。」——僕のさいなぞはその当座、こう云ってはあいつをひやかしたものだ。
妙な話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さいにして呉れ、妻にして呉れ」と、いつに無くこは張つたからだを、幾度も、かの女は義雄に投げつけた。「して呉れんと、殺すぞ」ともおどかした。
とうしょうさいというて、盗み食いする味は、また別じゃというほどに、人の女房とても捨てたものではない。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
第一、私は一生さいといふ者はして持たん覚悟なので。御承知か知りませんが、元、私は書生でありました。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
彦右ヱ門并に馬一疋即死そくしさい嗣息せがれは半死半生、浅右ヱ門は父子即死、さいうつばりの下におされて死にいたらず。
だッて牢屋には肝腎かんじんの藻西太郎が居るだろうじゃ無いか細「でも貴方、藻西に逢た所で別に利益はなかッたでしょう、それよりは何故直に藻西太郎の宅へ行きそのさいを ...
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
その宿直室には、校長の安藤が家族——さいと二人の小供——と共に住んでゐる。朝飯あさめし準備したくが今漸々やうやう出来たところと見えて、茶碗や皿を食卓ちやぶだいに並べる音が聞える。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
是等を見る時は、小生のさいが貞操を守りし者なること十分に証明せらるるものと存ぜられ候。嗚呼我が愛する妻よ、御身は小生が先立ちて死することを許さる可く候。
「……で甚だ恐縮な訳ですが、さいも留守のことで、それも三四日中には屹度帰ることになって居るのですから、どうかこの十五日まで御猶予願いたいものですが、……」
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
とても帰られなくなりて今欧洲の大都たいとに遊ぶ人の心の如くに日本を呪詛じゅそせしものと存候このつぎ御来遊のせつは御一所に奈良へ出かけたきものに候さいよりよろしく 匆々
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
それだからヂックを勤めたカアソンという役者が、批評家に智恵ちえを附けられて、ジックは牧師のさいを愛しているので、それで牧師の身がわりに立ったということにした。
夫人の一人は士官のさいで、今一人は地主の妻である。三人目の女は地主の同胞どうはうで未婚の娘である。さて四人目の女が一度離婚したことのある人で、器量が好くて財産がある。
どうぞわたくしにもおゆるし下さい。わたくしはあの男を水の中から救ひ出しながら、さいリイケを辱めた奴だと気が附くや否や、それが厭になつて、復讐をしようと思ひました。
さいなせるくらいなら、まア、どうなってもいいや、そのっててやろうよ。」
ひてシバルリイを我が平民界の理想に応用せんとせば、侠と粋(侠客の恋愛に限りて)とを合せ含ましめざる可からず、侠客のさいを取りて研究せば、得るところあらむ。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
それから見るとおとよさんなんかは、こうと思い定めた人のために、どこまでも情を立てて、親にてられてもとまで覚悟してるんだから、実際さいにも話して感心していますよ
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
あの服部の浪子をさいにしてから。うちへかえってもかんがえるようなことはないのさ。何か読書でもしていて気の尽きる時には。琴をかせたり茶を入れさせたり。少しは文学の相談もしたり。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
隣室で小供といっしょに寝ていたさいが、昨夜ゆうべ遅くお客さんがありましたね、長いこと何か話してましたね、それからお客さんのかえりに、貴方あなたがお客さんに挨拶あいさつをして、玄関の戸を締めたことを
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
かれは、そつとわたしに耳打ちして、さいが鳥を食ふのが殆ど病気であること、先日はニイスあたりの白魚といふ渉水禽みづどりをとりよせたことなど、自慢らしく言つてかへつていつた。するとなぜだらう。
希臘十字 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
僕がつき心を怡ましむるに足る情人と云つたのは此女だ。名はジユリエツトと云つて、フランス産である。同胞の女がアメリカ人のさいになつてゐる。僕は去年ボスポルスに旅行した時出逢つたのだ。
不可説 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
「だって、お前が優しいさいだと云うことをさ」と、ボブは答えた。
出てから、しばらくはあの娘の生れたことも知らなかったくらいで、私なぞもごく幼さい時から別れていましたんで、さいなぞは、あの娘が母と一緒に上京してきた時になって、はじめてこんな妹があったのかと、驚いたくらいでしてね……
草藪 (新字新仮名) / 鷹野つぎ(著)
幸に妙了の女姪めいが一人富田十兵衛とみたじゅうべえというもののさいになっていて、夫に小母おばの事を話すと、十兵衛は快く妙了を引き取ることを諾した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
つけられしかば斯の如くあとへ廻されしなりればまづ再び馬鹿子息ばかむすこ五郎藏をたゞさんと思はれ越前守殿コリヤ五郎藏其方のさいは何故なんぢいへ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
第一かけた当人がわがさいであるという事さえさとらずにこちらからあなたという敬語を何遍か繰返したくらい漠然ぼんやりした電話であった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おっかさまは、千々岩はあの山木と親しくするから、お豊をさいにもらったらよかろうッて、そうおっしゃっておいでなさいましたよ」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「会社のものばかりなら何うでも構いませんが、わきからも大勢見えるのです。しかしさい御幣ごへいを担ぎますから、仰せに従いましょうかな」
女婿 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
まして品行みもちの噂でも為て、忠告がましいことでも言おうものなら、母は何と言って怒鳴るかも知れない。さいが自分を止めたも無理でない。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
何故なぜ?………おれだツて其樣そんなに非人情ひにんじやうに出來てゐる人間ぢやないぞ。偶時たまにはさいの機嫌を取ツて置く必要もある位のことは知ツてゐる。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)