さへづ)” の例文
剪刀はさみの刃音が頭の天辺てつぺんで小鳥のやうにさへづつてゐるのを聞きながら、うと/\としてゐると、突如だしぬけに窓の隙間から号外が一つ投げ込まれた。
助十 手前の方がよつぽど無駄口をいてゐやあがる。河岸の切見世きりみせでぺちやくちやさへづつてゐた癖がぬけねえので、近所となりは大迷惑だ。
権三と助十 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
そのさへづこゑあつらうとしてたがひ身體からだえ飛び越えてるので小勢こぜい雲雀ひばりはすつとおりてむぎすゝきひそんでしまふ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
山の鳥どもも二六九そこはかとなくさへづりあひて、木草の花色々に咲きまじりたる、同じ山里ながら目さむるここちせらる。
されば竹にさへづ舌切雀したきりすゞめ、月に住むうさぎ手柄てがらいづれかはなしもれざらむ、力をも入れずしておとがひのかけがねをはづさせ、高き華魁おいらんの顔をやはらぐるもこれなり。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
さへづるやうに言つて女房は、茶や菓子を運んで來た。狸が腹皷はらづつみを打つてゐる其の腹のところに灰を入れた煙草盆代たばこぼんがはりの火鉢は、前から其處そこにあつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ひとわらふのをるとけだものおほきなあかくちをあけたよとおもつておもしろい、みいちやんがものをいふと、おや小鳥ことりさへづるかトさうおもつてをかしいのだ。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
薄着になつて、急に活々とした娘達のさへづりや、遠い祭太鼓の稽古けいこの音などを聽くと、江戸つ子達の胸はときめきます。
まだ道のほとりには、ぺんぺん草の小さな三角の実が見られ、うすぐもりの空には、季節おくれの雲雀ひばりさへづつてゐた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
しかもあの四十雀しじふからは、その間さへ何羽となく、さながら楊花やうくわの飛びちるやうに、絶えず「きりしとほろ」の頭をめぐつて、嬉しげにさへづかはいたと申す。
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
と言うと、「さへづる春は」(百千鳥ももちどりさへづる春は物ごとに改まれどもわれぞく)とだけをやっと小声で言った。
源氏物語:06 末摘花 (新字新仮名) / 紫式部(著)
最後におもなる女優又來りて、それの詞の韻脚はさへづりにくし、あの韻をば是非とものこゑにして賜はれといふ。
花と、花にそゝぐ雨と、静かな蛙の声と、野にさへづる雲雀の唄と、塵埃を捲きあげる風とを持つて……。または花見る人の群と、雑沓する電車とを持つて……。
解脱非解脱 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
元來ぐわんらい麻雀マアジヤンとはすゞめで、パイのかちおと竹籔たけやぶさへづすゞめこゑてゐるからたといふ語源ごげんしんじるとすれば、やつぱり紫檀したん卓子テーブルでぢかにあそぶといふのが本格的ほんかくてき
麻雀を語る (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
カナリヤは南独逸ドイツなまりまじりの媼の言葉にいつも敏捷びんせふに反応した。この小鳥は既に満十五歳の齢で、片足が利かなくなつてゐた。また、活溌にさへづるやうなことももうなかつた。
日本媼 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
そして部屋の中にも軒端にもいつぱいに眼白籠が懸けてあり、とり/″\にさへづり交してゐた。部屋の中には酌婦あがりとも見らるる色の黒い三十年増が一人坐つて針をとつてゐた。
梅雨紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
すぐうしろの寺の門の屋根やねにはすゞめつばめが絶えなくさへづつてゐるので、其処此処そここゝ製造場せいざうば烟出けむだしが幾本いくほんも立つてゐるにかゝはらず、市街まちからは遠い春の午後ひるすぎ長閑のどけさは充分に心持こゝろもちよくあぢははれた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
小鳥等が今花で眞白になつてゐる果樹園の樹の間にさへづつてゐた。その枝は庭の一方の側をかこんだ塀の上に、白い花環のやうに垂れてゐた。馬車の馬は、時々狹いかこひの中で足踏みをした。
少しあまツたるいやうな點はあツたけれども、調子に響があツて、好くほる、そしてやさしい聲であツた「まるで小鳥がさへづツてゐるやうだ。」と思ツて、周三は、お房の饒舌しやべツてゐるのを聞いてゐると
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
或時もやつて来てその目白が餌を食べたり水を浴びたり高音にさへづつたりしてゐるのを見て、有難い/\これもみな仏の慈悲恩徳のお蔭だといつて、その鳥籠に向つて頻りに合掌念仏したものだつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
かれひるには室内しつないまどからまど往來わうらいし、あるひはトルコふう寐臺ねだいあぐらいて、山雀やまがらのやうにもなくさへづり、小聲こゞゑうたひ、ヒヽヽと頓興とんきようわらしたりてゐるが、よる祈祷きたうをするときでも、猶且やはり元氣げんき
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
彼は路傍の小ざつぱりとした珈琲店コーヒーてん這入はいつた。客は一人も無く暖炉台の上の蓄音器の傍に赤く塗つた鳥籠が置かれ、その中で目白が盛んにさへづつてゐる。彼はちよつと家の小鳥と妻の顔を思ひ出した。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
ともさへづりのかしましきならで客足きやくあししげき呉服店ごふくみせあり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
姿すがたを見せぬ鳥のさへづりの
メランコリア (旧字旧仮名) / 三富朽葉(著)
ふたげば鳥はさへづる。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
小藪でさへづ
朝おき雀 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
はるのやうなだまされて雲雀ひばりは、そつけない三稜形りようけいたねふくれつゝまだ一ぱいしろ蕎麥畑そばばたけやそれから陸稻畑をかぼばたけうへさへづつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
ぼくねむとき、うつとりしてるときなんぞは、みみとこて、チツチツチてママなにかいつてかせますのツてさういふとね、⦅つまらない、そりやさへづるんです。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
はさみの音、水の音、新聞紙を拡げる音、——その音の中にじるのは、籠一ぱいに飛びまはる、お前たちのさへづり声、——誰だい、今親方おやかたに挨拶した新造しんぞは?
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
われはその狐の如く、ハツバス・ダアダアに聞きたるダンテの難をさへづり出し、その代にはいたくペトラルカを讚め稱へき。露肆の主人は聞をはりて。さなりさなり。
「いえ、死ぬ少し前まで、元氣でさへづつて居ましたよ。——お辰がをやると、すぐ死んださうで」
目の前の麦の中から、雲雀ひばりがとび出して、少しあがつていつたかと思ふと、さへづりはじめた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
鶯の昔を恋ひてさへづるはづたふ花の色やあせたる
源氏物語:21 乙女 (新字新仮名) / 紫式部(著)
唯、雲雀ひばりが高くさへづつて空に上つた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
疲れたる鳥はさへづる。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
はる野木のぎにもさへづる。
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
雲雀ひばりさへづ
別後 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
頬白ほゝじろ智恵ちゑのあるとりさしにとられたけれど、さへづつてましたもの。ものをいつてましたもの。
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
鷄の聲、雀のさへづり、曉の空氣は春ながら肌に泌みて、街はもう、彼方此方で起き出した樣子
銭形平次捕物控:311 鬼女 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
薄明い林の中からは、時々風とは云へぬ程の風が、気軽さうなさへづりを漂はせて来た。
山鴫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
鳥はさへづる。
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
門前の雀羅じやくら蒙求もうぎうさへづると説く先生あれば、燎原れうげんを焼く火の如しと辯ずる夫子ふうしあり。
今朝けさ……とふがおひるごろ、炬燵こたつでうと/\してると、いつもさへづる、おてんばや、いたづらツすゞめたちは、何處どこへすツんだか、ひつそりとしづまつて、チイ/\と、あまえるやうに
湯どうふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何處からともなく聞える小鳥のさへづりや、ほんのりとたゞよふ梅の花の匂ひをなつかしむともなく、江戸開府以來と言はれた捕物の名人錢形の平次は、縁側に立つて斯うぼんやり眺めてゐたのです。
それぎり少時しばらくは夕影の木々に、ぱつたりさへづりが途絶えてしまつた。
山鴫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
小鳥が朝のいとなみにいそしむさへづりが聞えます。