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可懐
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なつかし
ふりがな文庫
“
可懐
(
なつかし
)” の例文
旧字:
可懷
千束の寮のやみの
夜
(
よ
)
、おぼろの
夜
(
よ
)
、そぼそぼとふる小雨の夜、狐の声もしみじみと
可懐
(
なつかし
)
い折から、「伊作、伊作」と女の
音
(
ね
)
で、
扉
(
とぼそ
)
で呼ぶ。
開扉一妖帖
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
いや、それは段々お世話にもなつた、
忝
(
かたじけな
)
いと思うた事も
幾度
(
いくたび
)
か知れん、その
媛友
(
レディフレンド
)
に何年ぶりかで逢うたのぢやから、僕も実に
可懐
(
なつかし
)
う思ひました
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
「いっしょにあるいたのも久しぶりだね。今年でちょうど五年目になるかい」とさも
可懐
(
なつかし
)
げに話しかける。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
文箱
(
ふばこ
)
の中から出ましたのは、
艶書
(
ふみ
)
の束です。奥様は
可懐
(
なつかし
)
そうにそれを
柔
(
やわらか
)
な頬に
磨
(
す
)
りあてて、一々
披
(
ひろ
)
げて読返しました。中には草花の色も
褪
(
さ
)
めずに押されたのが入れてある。
旧主人
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
山伏は
大跨
(
おおまた
)
で、やがて
麓
(
ふもと
)
へ着いた時分、と、
足許
(
あしもと
)
の杉の
梢
(
こずえ
)
にかかった
一片
(
ひとひら
)
の雲を透かして、里
可懐
(
なつかし
)
く麓を望んだ……時であった。
星女郎
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
今は
可懐
(
なつかし
)
き顔を見る能はざる失望に加ふるに、この不平に
遭
(
あ
)
ひて、しかも言解く者のあらざれば、彼の
慍
(
いかり
)
は野火の飽くこと知らで
燎
(
や
)
くやうなり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
移り気も一概には退けられない。不義する位のものは、何処かに人の心を引く
可懐
(
なつかし
)
みもある。
刺繍
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
寂
(
さび
)
しい
一室
(
ひとま
)
に、ひとり
革鞄
(
かばん
)
と
睨
(
にら
)
めくらをした沢は、
頻
(
しきり
)
に
音訪
(
おとな
)
ふ、
颯
(
さっ
)
……颯と云ふ
秋風
(
あきかぜ
)
の
漫
(
そぞ
)
ろ
可懐
(
なつかし
)
さに、窓を
開
(
あ
)
ける、と
冷
(
ひややか
)
な峰が
額
(
ひたい
)
を圧した。
貴婦人
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
居
(
を
)
る所は陰風常に
廻
(
めぐ
)
りて白日を見ず、行けども行けども
無明
(
むみよう
)
の
長夜
(
ちようや
)
今に到るまで一千四百六十日、
逢
(
あ
)
へども
可懐
(
なつかし
)
き友の
面
(
おもて
)
を知らず、
交
(
まじは
)
れども
曾
(
かつ
)
て
情
(
なさけ
)
の
蜜
(
みつ
)
より甘きを知らず
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
忘れはしない、半輪の五日の月が黒雲を下りるように、荘厳なる銀杏の枝に、梢さがりに
掛
(
かか
)
ったのが、
可懐
(
なつかし
)
い亡き母の乳房の輪線の面影した。
売色鴨南蛮
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
実に
可懐
(
なつかし
)
かつたのです、顔を見ると手を
把
(
と
)
つて、
直
(
たゞち
)
に
旧交
(
きふこう
)
が
尋
(
あたゝ
)
められると
云
(
い
)
ふ
訳
(
わけ
)
で、
其頃
(
そのころ
)
山田
(
やまだ
)
も
私
(
わたし
)
も
猶且
(
やはり
)
第二中学時代と
易
(
かは
)
らず
芝
(
しば
)
に
住
(
す
)
んで
居
(
ゐ
)
ましたから、
往復
(
わうふく
)
ともに手を
携
(
たづさ
)
へて
硯友社の沿革
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
惚れたと云うのが
不躾
(
ぶしつけ
)
であるなら、
可懐
(
なつかし
)
いんです、
床
(
ゆかし
)
いんだ、
慕
(
したわ
)
しいんです。……私に一人の姉がある。姉は人の
妾
(
めかけ
)
だった。
日本橋
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
ただあの
狆
(
ちん
)
ひきというのだけは形も
品
(
しな
)
もなくもがな。
紙雛
(
かみひいな
)
、
島
(
しま
)
の雛、
豆雛
(
まめひいな
)
、いちもん
雛
(
びな
)
と数うるさえ、しおらしく
可懐
(
なつかし
)
い。
雛がたり
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
分けて、
盂蘭盆
(
うらぼん
)
のその月は、
墓詣
(
はかもうで
)
の田舎道、寺つづきの草垣に、線香を片手に、このスズメの蝋燭、ごんごんごまを摘んだ思出の
可懐
(
なつかし
)
さがある。
二、三羽――十二、三羽
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
みちみち
可懐
(
なつかし
)
い
白山
(
はくさん
)
にわかれ、
日野
(
ひの
)
ヶ
峰
(
みね
)
に迎えられ、やがて、越前の
御嶽
(
みたけ
)
の
山懐
(
やまふところ
)
に
抱
(
だ
)
かれた事はいうまでもなかろう。——武生は昔の
府中
(
ふちゅう
)
である。
栃の実
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
(
可懐
(
なつかし
)
いわ、若旦那、盲人の悲しさ顔は見えぬ。触らせて下され、つかまらせて下され、
一撫
(
ひとな
)
で、撫でさせて下され。)
歌行灯
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
嫋娜
(
なよやか
)
に出されたので、ついその、
伸
(
のば
)
せば
達
(
とど
)
く、手を取られる。その手が消えたそうに我を忘れて、
可懐
(
なつかし
)
い
薫
(
かおり
)
に包まれた。
沼夫人
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
……ところが、その後
祖母
(
おばあさん
)
の亡くなった時と、妹が婚礼をした時ぐらいなもので、
可懐
(
なつかし
)
い姉は、毎晩夢に見るばかり。……私には逢ってくれない。
日本橋
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
可懐
(
なつかし
)
いその姿を見るのも、またこの旅の一興に
算
(
かぞ
)
えたのであったから——それを思出して
窺
(
うかが
)
ったが……今日は見えぬ。
星女郎
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
何ですか、
可懐
(
なつかし
)
くって、身に染みてならないのに、少々
仔細
(
しさい
)
が有りましてね、もうその方ともこれっきり、お目に掛られないかも知れなくなったの。
日本橋
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
人に狩り取られて、親がないか、夫がないか、
孤
(
みなしご
)
、
孀婦
(
やもめ
)
、あわれなのが、そことも分かず
彷徨
(
さまよ
)
って来たのであろう。人
可懐
(
なつかし
)
げにも見えて近々と寄って来る。
黒百合
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
騎馬の将軍というより、毛皮の外套の紳士というより、遠く消息の断えた人には、その
僧形
(
そうぎょう
)
が
尚
(
な
)
お
可懐
(
なつかし
)
い。
菊あわせ
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
青苔
(
あおごけ
)
の
緑青
(
ろくしょう
)
がぶくぶく
禿
(
は
)
げた、湿った
貼
(
のり
)
の香のぷんとする、山の書割の立て掛けてある暗い処へ
凭懸
(
よっかか
)
って、ああ、さすがにここも都だ、としきりに
可懐
(
なつかし
)
く
熟
(
じっ
)
と
視
(
み
)
た。
南地心中
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
嬉
(
うれし
)
さ、おん
可懐
(
なつかし
)
さを存ずるにつけて……夜汽車の和尚の、
室
(
へや
)
をぐるりと廻った姿も、同じ日の事なれば、
令嬢
(
おあねえさま
)
の、袖口から、いや、その……あの、絵図面の中から
白金之絵図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
近常さんは、はッと涙をお流しなすったそうですが、もうただ悲しいばかりの涙じゃアありません。
可懐
(
なつかし
)
い、恋しい、嬉しい、それに強さ、勇ましさもまじったのです。
ピストルの使い方:――(前題――楊弓)
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
と、一年越、
十年
(
ととせ
)
も恋しく
百年
(
ももとせ
)
も
可懐
(
なつかし
)
い声をかけて、看護婦の
傍
(
かたわら
)
をすっと抜けて
真直
(
まっすぐ
)
に入ったが
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
やがて
国許
(
くにもと
)
へ立帰る侍が、大路の棟の鬼瓦を
視
(
なが
)
めて、
故郷
(
さと
)
に残いて、月日を過ごいた、女房の顔を
思出
(
おもいい
)
で、
絶
(
たえ
)
て久しい
可懐
(
なつかし
)
さに、あの鬼瓦がその顔に瓜二つじゃと申しての
白金之絵図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
梓が上京して後東京の地において
可懐
(
なつかし
)
いのは湯島であった。湯島もその
見晴
(
みはらし
)
の鉄の欄干に
凭
(
よ
)
って、升形の家が取囲んでいる天神下の一
廓
(
かく
)
を
詠
(
なが
)
めるのが最も多く可懐しかった。
湯島詣
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
些
(
ち
)
と荒唐無稽に過ぎるようですが、
真実
(
まったく
)
で、母
可懐
(
なつかし
)
く、妹恋しく、唯心も
空
(
そら
)
に
憧憬
(
あこが
)
れて、ゆかりある女と言えば、日とも月とも思う年頃では、全く
遣
(
や
)
りかねなかったのでございます。
甲乙
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
伏屋
(
ふせや
)
が
門
(
かど
)
の
卯
(
う
)
の花も、幽霊の
鎧
(
よろい
)
らしく、背戸の井戸の山吹も、
美女
(
たおやめ
)
の名の
可懐
(
なつかし
)
い。
星女郎
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
芋莄
(
ずいき
)
の
靡
(
なび
)
く様子から、枝豆の実る処、ちと
稗蒔
(
ひえまき
)
染みた考えで、
深山大沢
(
しんざんだいたく
)
でない処は
卑怯
(
ひきょう
)
だけれど、
鯨
(
くじら
)
より
小鮒
(
こぶな
)
です、
白鷺
(
しらさぎ
)
、
鶉
(
うずら
)
、
鷭
(
ばん
)
、
鶺鴒
(
せきれい
)
、
皆
(
みん
)
な我々と
知己
(
ちかづき
)
のようで、閑古鳥よりは
可懐
(
なつかし
)
い。
沼夫人
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
若狭鰈
(
わかさがれい
)
——大すきですが、それが
附木
(
つけぎ
)
のように凍っています——
白子魚乾
(
しらすぼし
)
、
切干大根
(
きりぼしだいこん
)
の酢、椀はまた白子魚乾に、とろろ昆布の吸もの——しかし、何となく
可懐
(
なつかし
)
くって涙ぐまるるようでした
雪霊続記
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
折からにつけ忘れませぬは、亡き師匠、かつは昔勤めました舞台の
可懐
(
なつかし
)
さに、あの日、その邸の用も首尾すまいて、芝の公園に参って、もみじ山のあたりを
俳徊
(
はいかい
)
いたし、何とも涙に暮れました。
白金之絵図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
湯上りの湯のにおいも
可懐
(
なつかし
)
いまで、ほんのり人肌が、
空
(
くう
)
に来て
絡
(
まつわ
)
った。
鷭狩
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
渠
(
かれ
)
は
高野山
(
かうやさん
)
に
籍
(
せき
)
を
置
(
お
)
くものだといつた、
年配
(
ねんぱい
)
四十五六
(
しじふごろく
)
、
柔和
(
にうわ
)
な、
何等
(
なんら
)
の
奇
(
き
)
も
見
(
み
)
えぬ、
可懐
(
なつかし
)
い、おとなしやかな
風采
(
とりなり
)
で、
羅紗
(
らしや
)
の
角袖
(
かくそで
)
の
外套
(
ぐわいたう
)
を
着
(
き
)
て、
白
(
しろ
)
のふらんねるの
襟巻
(
えりまき
)
を
占
(
し
)
め、
土耳古形
(
とるこがた
)
の
帽
(
ばう
)
を
冠
(
かむ
)
り
高野聖
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
「ああ、お
可懐
(
なつかし
)
い。思うお
方
(
かた
)
の御病気はきっとそれで
治
(
なお
)
ります。」
薬草取
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
「勝手が違ったね、……それでもここが
可懐
(
なつかし
)
いや。」
卵塔場の天女
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
小狗の
戯
(
たわむれ
)
にも
可懐
(
なつかし
)
んだ。
幼心
(
おさなごころ
)
に返ったのである。
みさごの鮨
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
これですもの、
可懐
(
なつかし
)
さはどんなでしょう。
雪霊記事
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
夫人
可懐
(
なつかし
)
い、嬉しいお名、忘れません。
天守物語
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
さて
経蔵
(
きょうぞう
)
を見よ。また
弥
(
いや
)
が上に
可懐
(
なつかし
)
い。
七宝の柱
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
夫人 私もお
可懐
(
なつかし
)
い。——
天守物語
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
梓も
可懐
(
なつかし
)
げに
頷
(
うなず
)
いて
湯島詣
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
可懐
(
なつかし
)
さに
振返
(
ふりかえ
)
ると
薬草取
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
可
常用漢字
小5
部首:⼝
5画
懐
常用漢字
中学
部首:⼼
16画
“可懐”で始まる語句
可懐味