到頭たうとう)” の例文
「まあ其麽そんなことゆはねえで折角せつかくのことに、勘次かんじさんもわる料簡れうけんでしたんでもなかんべえから」となだめても到頭たうとう卯平うへいかなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
それ大変たいへんだ、しかきみはまだ一めいがあるのが幸福しあはせだ、大原伊丹君抔おほはらいたみくんなど可愛想かあいそうにモルヒネを沢山たくさんませられたもんぢやから、到頭たうとう死んでしまつた。
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
與吉よきち眞面目まじめなのに釣込つりこまれて、わらふことの出來できなかつたおしなは、到頭たうとうほねのある豆腐とうふ注文ちうもんわらはずにました、そして眞顏まがほたづねた。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「これもいまとなつてみれば、んでもない。ふねからうみてようかとおもつたけれど、到頭たうとうまた日本にほんつてかへつた。」
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「ハ、夜中に長い電報が参りましたので、印刷が大層遅くなりました——先生、到頭たうとう戦争をるのでせうか——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
が、それから三日經たないうちに、此一連の事件は、到頭たうとう、最後の破局キヤタストロオフまで行きついてしまつたのです。
ういう塲合ばあひに、いつでもとうさんをれにれるのはあのおひなで、おひなとうさんのために御飯ごはんまでつけてれましたが、到頭たうとうそのばんとうさんはべませんでした。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
併しその事件の蔭にはKのをぢさんが潜んでゐるらしいことは、叔父の口ぶりにつてぼ想像されたので、わたしの稚い好奇心は到頭たうとうわたしをうながしてKのをぢさんのところへはしらせた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
此間このあひだ望蜀生ばうしよくせい故郷こきやうかへり、活東子くわつとうしまたふるはず。幻花子げんくわし相變あひかはらず。それと玄川子げんせんし相手あひてにぼつ/\つて、到頭たうとう鷄屋とりやへいしたまですゝんで、なつころには場所ばしよくなつた。
う云つてね、金田君は身上話を聞いて呉れたお礼だからと、僕が止めるのも聞かずに、到頭たうとう三鞭酒シヤンパンしゆを二本ばかり抜いた。流石さすが西洋通だけあつて葡萄酒だの、三鞭酒なぞの名前はくはしいもんだ。』
一月一日 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
かれが到頭たうとう家屋敷を抵当に取られて、忌々いま/\しさのあまりに、その家に火を放ち、露顕して長野の監獄に捕へらるゝ迄其間の行為は、多くは暗黒と罪悪とばかりで、少しも改善の面影おもかげあらはさなかつたが
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
「さうなんでさ、うまいもんだからわしも到頭たうとうこめぺうそんさせられちやつて」勘次かんじはそれをいふたびさう容子ようすえるのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
医者いしやあをくなつて、さわいだが、かみたすけかやうや生命いのち取留とりとまり、三ばかりでとまつたが、到頭たうとうこしけた、もとより不具かたわ
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そして数回の折衝を重ねた結果、到頭たうとう法廷にまで持出されることになつたのであつたが、法律家の手に移されてからは、問題は一層困難におちいるばかりであつた。
風呂桶 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
継母まゝはゝの兄と云ふのも、みんな有名な御用商人なんだから、賄賂わいろの代りに早速承諾したんだ、所が我が梅子嬢はどうしても承知しないんだ、到頭たうとう梅子さんをいざなひ出して
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
昨日一日のこがらしで、急に枯々な木立も目につき、こずゑも坊主になり、何となく野山の景色が寂しく冬らしくなつた。長い、長い、考へても淹悶うんざりするやうな信州の冬が、到頭たうとうやつて来た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
へえゝ、ふ姿で、したなにか出してますか。婆「おもたいかんむりつてしまひ、軽い帽子ばうしかぶつて、また儀式ぎしきの時にはおかむりなさいます、それに到頭たうとう散髪ざんぱつになツちまひました。 ...
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
勘次かんじつてからおしなその混雜こんざつしたしかさびしい世間せけんまじつて遣瀬やるせのないやうな心持こゝろもちがして到頭たうとう罪惡ざいあく決行けつかうしてしまつた。おしなはらは四つきであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
去れど芳子は一向無頓着むとんちやくに、大勝利を報告する将軍の如くぞ勇める「姉さん、私、今まいことを聴いてよ、篠田さんは到頭たうとうしばられて、牢屋へ行きなさるんですと」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
彼奴の友達の部屋で夜明かし飲んで、朝まで頑張ぐわんばつてみたが、到頭たうとう帰つて来ないんだ。その相手の男も大凡おほよそ見当がついてゐるんだ。此処へも二三度来た歯医者なんだ。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
毎年まいとし降る大雪が到頭たうとうやつて来た。町々の人家も往来もすべて白く埋没うづもれて了つた。昨夜一晩のうちに四尺あまりも降積るといふ勢で、急に飯山は北国の冬らしい光景ありさまと変つたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あれ罷出まかりいでましたが、これも強く逆上ぎやくじやういたしがかすみ、あたまに熱をち、カツカといたしてたまらぬなどまうしてをりまする、それ可愛想かあいそうなのは大原伊丹おほはらいたみで、あれ到頭たうとう生体しやうたいなしで夢中むちゆうります。
華族のお医者 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
木山はその一幕のあひだ到頭たうとう入つて来なかつたが、さうなると晴代も探してあるくのも厭で、知らん振りして次の幕が開くまで座席で筋書を読んで寂しさをまぎらしてゐた。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
席開せきびらきといふので、わたくしもおまねきにあづかつたが、其時そのとき是非ぜひ伊豆屋いづやさんなんぞと一しよに、参席あがつもりでございましたが、残念ざんねんな事には退引のつぴきならぬ要事ようがあつて、到頭たうとう参席あがりませぬでしたが……。
到頭たうとう私はソシアル・ダンスとあかい文字で出てゐる、横に長い電燈を見つけることが出来た。往来に面した磨硝子すりガラスに踊つてゐる人影がほのかに差して、ヂャヅの音が、町の静謐せいひつ掻乱かきみだしてゐた。
町の踊り場 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)