伏見ふしみ)” の例文
苦労の中にもたすくる神の結びたまいし縁なれや嬉しきなさけたねを宿して帯の祝い芽出度めでたくびし眉間みけんたちましわなみたちて騒がしき鳥羽とば伏見ふしみの戦争。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
幕府はそこで、後深草院に同情申し上げて、その皇子を後宇多天皇の皇太子に立て奉り、ついで位につかれたのが伏見ふしみ天皇である。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
文久二年の春の伏見ふしみ寺田屋てらだや騒動、夏の幕政改革、秋の再勅使東下——その結果将軍家は攘夷期限奉答のため上洛することとなり
新撰組 (新字新仮名) / 服部之総(著)
そこで今度は、芭蕉の死骸を船に乗せて伏見ふしみへ上ぼつてくその途中にシインを取つて、そして、弟子達の心持を書かうとした。
その時、筒井の手がしずかに伸べられ、子供の怖がる眼路めじをふさいだ。伏見ふしみあたりでできる、衣裳の美しい小さい人形であった。
津の国人 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
されば鳥羽とば伏見ふしみの戦争、ついで官軍の東下のごとき、あたかも攘夷藩じょういはんと攘夷藩との衝突しょうとつにして、たとい徳川がたおれて薩長がこれに代わるも
そのほかの人形は——きょう伏見ふしみ奈良なら博多はかた伊勢いせ秋田あきた山形やまがたなど、どなたも御存知のものばかりで、例の今戸焼いまどやきもたくさんあります。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その中で一番筋の立つたのは、もと飯田町の人入稼業で、伏見ふしみ屋傳七の子分——と言つても、庭掃にわはきや飯炊きをしてゐた馬吉といふ男だけ。
いかさまこれならば伏見ふしみから船でおくだりになってそのまま釣殿の勾欄こうらんの下へともづなをおつなぎになることも出来、都との往復も自由であるから
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
例えば京都では伏見ふしみ稲荷いなりは、北野の天神と仲が悪く、北野に参ったと同じ日に、稲荷の社に参詣してはならぬといっていたそうであります。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
同じ役目を持って来ている者は、大阪、伏見ふしみ、洛中洛外、奈良あたりまでわたって、およそ二十二、三名は上洛のぼっている。それ以外は何も知らん
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
伏見ふしみ鳥羽とばたたかいを以て始まり、東北地方に押し詰められた佐幕の余力よりょくが、春より秋に至る間にようやく衰滅に帰した年である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
清水信之助とは伏見ふしみの戦争で同じ隊にいました。彼は勇敢な男で、命知らずという名を取っていました。……そうです。私は彼と一緒に寝ました。
春いくたび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
この時にあたり徳川政府は伏見ふしみの一敗た戦うの意なく、ひたすらあいうのみにして人心すで瓦解がかいし、その勝算なきはもとより明白なるところなれども
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
将軍はすでに伏見ふしみに移った。大坂城を去る日、扈従こじゅうの面々が始めて将軍帰東の命をうけた時は皆おどろいて顔色を失い、相顧みて言葉を出すものもない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
先頃さきごろ大阪おほさかよりかへりしひとはなしに、彼地かのちにては人力車じんりきしやさかんおこなはれ、西京さいきやう近頃ちかごろまでこれなきところ追々おひ/\さかんにて、四百六輌しひやくろくりやう伏見ふしみには五十一輌ごじふいちりやうなりとふ。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
それでは落合太郎君もさそおうではないかと言って、そのころ真如堂しんにょどうの北にいた落合君のところを十時ごろに訪ねた。そうして三人で町へ出て、伏見ふしみに向かった。
巨椋池の蓮 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
伏見ふしみから京街道きやうかいだう駕籠かごくだつて但馬守たじまのかみが、守口もりぐち駕籠かごをとゞめ、しづかに出迎でむかへの與力等よりきらまへあらはれたのをると眞岡木綿まをかもめん紋付もんつきに小倉こくらはかま穿いてゐた。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
連れし小者こものの買はんとせしに、これは山城やましろ伏見ふしみにて作りし物にて、当店の看板なればと、迷惑顔めいわくがおせし事ありしが、京より下り来し品も、江戸に多くありけるものと見えたり。
江戸の玩具 (新字旧仮名) / 淡島寒月(著)
京都伏見ふしみの弁当仕出し屋の二階に住んでいた頃は最も太平楽、利根川べりの取手とりでにいた時は水だけ飲んで暮さねばならないことが時々あったが、その思い出も楽しいものだ。
青い絨毯 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
竹田街道の立場茶屋たてばぢゃやの変事も、何事もなく済みまして、無事わたしたちは伏見ふしみに着きました。
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「夜を春に」の句は、伏見ふしみの芝居が夜を昼のようにともし連ねている、というのであります。
俳句とはどんなものか (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
巨椋おほくら入江いりえとよむなり射部人いめびと伏見ふしみ田居たゐかりわたるらし 〔巻九・一六九九〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
やはりもとは伏見ふしみ少将しょうしょうといった、これもえらい人のたねだということがかりました。
一寸法師 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
今も変らぬ柴舟しばぶねが、見る/\橋の下を伏見ふしみの方へ下って行く。朝日山から朝日が出かゝった。橋を渡ってまだ戸を開けたばかりの通円茶屋つうえんぢゃやの横手から東へ切れ込み、興聖寺こうしょうじの方に歩む。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
見物なしあとより追付んとて平馬へいま願山ぐわんざんたもとを分ちやが泉州せんしうさかひを心指して行けるに日の中は世間をはゞかるにより夜に入りて伏見ふしみより夜船よふね打乘うちのり翌朝よくてう大坂八軒屋けんやへ着茲にて緩々ゆる/\と休み日のくるるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
菱垣番船ひしがきばんせん伏見ふしみ過所船かしょぶね、七村の上荷船うわにぶね、茶船、柏原船、千石、剣先けんさき麩粕船ふかすぶね
走つて追つかけたのです。走つて走つて一晩走つて居ると、伏見ふしみへ来たのです。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
言捨いひすてて忙しげに走り行く。瀧口、あツとばかりに呆れて、さそくの考も出でず、鬼の如き兩眼より涙をはら/\と流し、恨めしげに伏見ふしみの方を打ち見やれば、明けゆく空に雲行くもゆきのみ早し。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
とうとうほおかぶりをして跣足はだしで——夜じゃったが——伏見ふしみから大阪まで川堤かわどてを走ったこともあったンじゃ。はははは。暑いじゃないか、浪、くたびれるといかん、もう少し乗ったらどうじゃ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
右の燒打をはじめとして、翌年正月の鳥羽とば伏見ふしみの戰ひ、其他すべては「文藝倶樂部ぶんげいくらぶ」の臨時増刊、第九年第二號「諸國年中行事」といふうちに、「三十五年前ねんぜん」と題して私は委しく話した事がある。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
〔評〕兵數はいづれかおほき、器械きかいは孰れかせいなる、糧食りやうしよくは孰れかめる、この數者を以て之をくらべば、薩長さつちやうの兵は固より幕府に及ばざるなり。然り而して伏見ふしみの一戰、東兵披靡ひびするものは何ぞや。
こうして兼山から伏見ふしみ、伏見から広見ひろみ今渡いまわたりとかっ飛ばすのである。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
天皇、御年五十六歳いそぢまりむつ。御陵は菅原すがはら伏見ふしみをか一四にあり。
と同盟し、与一はその主張を示して淀の城へ籠り、赤沢宗益は兵を率いて伏見ふしみ竹田口たけだぐちへ強請的に上って来た。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そして伏見ふしみで船を上ったのでござりましたがはじめはそこが伏見の町だということも知りませなんだ
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この時に当りて徳川家の一類に三河みかわ武士の旧風きゅうふうあらんには、伏見ふしみ敗余はいよ江戸に帰るもさらに佐幕さばくの諸藩に令して再挙さいきょはかり、再挙三拳ついにらざれば退しりぞいて江戸城を守り
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
禁闕きんけつを守衛し、官用を弁理べんりし、京都、奈良、伏見ふしみの町奉行を管理し、また訴訟そしょう聴断ちょうだんし、兼ねて寺社の事を総掌そうしょうする、威権かく々たる役目であって、この時代の所司代は阿部伊予守あべいよのかみ
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その次は伏見ふしみの宿屋と大詰おほづめの仇討……。それで十段物がとゞこほりなくまとまるのだ。
近松半二の死 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
京、伏見ふしみさかい、大阪、——わたしの知らない土地はありません。わたしは一日に十五里歩きます。力も四斗俵しとびょうは片手にあがります。人も二三人は殺して見ました。どうかわたしを使って下さい。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
伏見ふしみ鳥羽とばの戦いはすでに戦われた。うわさは実にとりどりであった。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
新銭座しんせんざ有馬ありまと云う大名の中屋敷を買受かいうけて、引移ひきうつるやいなや鉄砲洲は居留地になり、くれば慶応四年、すなわち明治元年の正月早々、伏見ふしみの戦争が始まって、将軍慶喜よしのぶ公は江戸へ逃げて帰り
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)