くわだ)” の例文
今の人民の世界にいて事をくわだつるは、なお、蝦夷地えぞちに行きて開拓するが如し。事の足らざるはうれいに非ず、力足らざるをうれうべきなり。
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
舌は縛られる、筆は折られる、手も足も出ぬ苦しまぎれに死物狂しにものぐるいになって、天皇陛下と無理心中をくわだてたのか、否か。僕は知らぬ。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
十万年に一度あらわるる怖ろしい化生けしょうの者じゃ。この天竺の仏法をほろぼして、大千だいせん世界を魔界の暗闇におとそうとくわだつる悪魔の精じゃ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私は秩序を立てて東京中の寺院を歴訪しようという訳でもなく、またいて人の知らない寺院をさがし出そうとくわだてている訳でもない。
諸君は諸君の机上を飾っている美しい詩集の幾冊を焼き捨てて、諸君のくわだてた新運動の初期の心持に立還たちかえってみる必要はないか。
弓町より (新字新仮名) / 石川啄木(著)
世帯の苦労に、しいたげ抜かれたお関が、倅の憂鬱症を救う唯一の道として、母子心中をくわだてたことも、また考えられない節ではありません。
私がどんなに苦しんだか、色々な馬鹿馬鹿しいくわだてをやったか。今にすっかり白状する。ウフフフフフフ、あなたはきっと驚く。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何でも政治向のことで上方では騒動があって、謀叛むほんくわだてた一味の中には、殺人ひとごろしまでしながら網をくぐって、西国へ逃げた者があるそうだ。
風呂供養の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
敵の攻撃は第一岬要塞附近に集中せられ、強行上陸をくわだつるものと思わる。って、わが軍は、全力をあげて守備を固くし、敵を撃退すべし
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小田原北条の死間しかん(わざと斬られる間者)のたくみか、それともまことに尾越どのにご謀叛のくわだてがあるか、殿このたびの御出馬直前より
城を守る者 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ここで兵馬は衣裳を改めて、床の間を前に端坐して、この、まだるい、悪寒おかんの、悪熱おねつの身を、正身思実しょうじんしじつの姿で征服しようとくわだてたのらしい。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
事実、にんじんは、水をいれたバケツで自殺をくわだてる。彼は、勇敢に、鼻と口とを、その中へじっと突っ込んでいるのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
(すべてその人博聞強記にして、かの国多学の人と聞こえて、天文、地理の事に至っては、われらくわだて及ぶべしとも覚えず)
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは三年の前、小畑とゆうなるうたしるさんとくわだててつづりたるが、その白きままにて今日まで捨てられたるを取り出でて、今年の日記書きて行く。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
十年来、衛は南子夫人の乱行を中心に、絶えず紛争ふんそうを重ねていた。まず公叔戍こうしゅくじゅという者が南子排斥をくわだてかえってそのざんに遭って魯に亡命する。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
學問がくもんなく分別ふんべつなきものすらくわだつることを躊躇ためろふべきほどの惡事あくじをたくらましめたるかをあらはすはけだしこのしよ主眼しゆがんなり。
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
しなしたり! とかれはますますあわてて、この危急に処すべき手段を失えり。得たりやと、波と風とはますますれて、このはしけをばもてあそばんとくわだてたり。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
古事記や書紀の編纂へんさんがこの時期に行われたのも、天皇家の日本支配を正統づける文献が必要であった為であり、その必然の修史事業のくわだてによっても
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
一筋にして神のくによりでおる! ……われらが今回のくわだてこそは、この大本おおもとに返さんと、中頃大本をあやまったるところの、越権専横の武臣北条を
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さる四月二十四日東京を発して当県に来る事となりました、劍山に登らんとくわだてましたのは七月の二日で、ず芦峅村におもむき人夫をやとおうと致しましたが
越中劍岳先登記 (新字新仮名) / 柴崎芳太郎(著)
是とてもめて引いてくるほどの流れが無ければ、小さな島々の住民にはまずくわだてられないことであった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼は今度は同じ項式の分解を三角法によってなしげようとくわだてた。彼の頭の中にはこの難問題の解決に役立つかとおもわれるいくつかの定理が隠見した。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさいまこのたうちゆうひそめてかねくわだつるといふ、軍事上ぐんじじやう大發明だいはつめい着手ちやくしゆしてるのではあるまいか。讀者どくしや諸君しよくんおそらく此邊このへん想像さうぞうくだらう。
それゆえに氏は、親同胞にも見放され、妻にも愛の叛逆をくわだてられ、随分、にがつらい目のかぎりを見ました。
すべての実験は必ず家兎を麻酔せしめて行いましたが、いかに人類を救うためにくわだてられた実験とはいえ、今から思えば家兎に対して申訳ない思いが致します。
人工心臓 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
こういって、むらひとは、平地へいちといわず、山地さんちといわず、なしの栽培さいばいして、これを名産めいさんにしようとくわだてました。やがてこのむらは、なしの名産地めいさんちとなりました。
ここにおいてかせっかく降りようとくわだてた者が変化して落ちる事になる。この通り鵯越ひよどりごえはむずかしい。猫のうちでこの芸が出来る者は恐らく吾輩のみであろう。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
過般さきごろ治安維持法の改正の時にも新聞・雑誌の多くは反対であった。国をくつがえし、国家を滅すことをくわだつる者に極刑を加えることがなぜ悪いのかわが輩には判らない。
年よりもふけた、彼の顔は、この頃の心労で一層しわを増している。——林右衛門のくわだては、彼も快くは思っていない。が、何と云っても相手は本家からの附人つけびとである。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わがくにの園芸家がこれに着目ちゃくもくし、大いにその品種の改良をくわだてなかったのは、だいなる落度おちどである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
或は西南の騒動そうどうは、一個の臣民しんみんたる西郷が正統せいとうの政府に対して叛乱はんらんくわだてたるものに過ぎざれども、戊辰ぼしんへんは京都の政府と江戸の政府と対立たいりつしてあたかも両政府のあらそいなれば
現にかわやに入りて、職業用の鋏刀はさみもて自殺をくわだてし女囚をば妾もの当りに見て親しく知れりき。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
成経 母は父の安否あんぴばかり心配して泣いていました。そしてなぜわしがかかる恐ろしいことをくわだてたかをかきくどきました。父はその朝院に出仕しゅっしする途中をとらえられたのです。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
二里も隔った停車場までのみちすがら俥夫はしきりに村の話をして聞かせたが、それによると、隣県の者が近いうちに乗合馬車をこの近所の国道へ通そうとくわだてているそうである。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
一種の思想をもって世渡りをくわだてる者は、同じ思想をいだいている人のうちにはもっともよく受けいれられて、いわゆる調子よく世渡りもできるが、異なった思想を抱いている者
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
雨はますますはげしくなり、かみなりはまるで空の爆破ばくはくわだて出したよう、空がよくこんなあばれものを、じっとかまわないでおくものだと、不思議ふしぎなようにさえガドルフは思いました。
ガドルフの百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
ルーブル紙幣の密輸出をくわだてる支那人があるのを、ワーシカはいまいましく思った。
国境 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
するとまもなく、さきに日向ひゅうがでお生まれになった多芸志耳命たぎしみみのみことが、おはらちがいの弟さまの日子八井命ひこやいのみことたち三人をお殺し申して、自分ひとりがかってなことをしようとおくわだてになりました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
その上、王子が帰られたのを喜びに出て来る強い家来けらい達が、皆して国王のくわだてに賛成しまして、すぐにも魔法使い退治たいじの用意にかかろうとしていました。もうどうにも出来ませんでした。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
飛んだことになってしまったと、今夜のくわだてを今さら悔むような心持になった。しかもそんな愚痴を云っている場合ではない。
半七捕物帳:69 白蝶怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一方は何か異端が来て、陰謀のくわだてをしているのではないかという疑惑と、その背後には、有力なる官辺の影と、迷信の力が無いではない。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この電話のうちに警察では直ちに手配して、電話を掛けている密告者の逮捕をくわだてたが、向うもさる者で、僅か二分間で電話を切ってしまった。
獏鸚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
異日、印を奪わん為、洛陽の帰途をち、公を苦しめたるものは袁紹えんしょう謀事はかりごとなり。今また、劉表と議し、江東を襲って、公の地をかすめんとくわだつ。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし彼らは他人の私行を新聞に投書して復讐をくわだてたり、正義人道を名として金をゆすったり人を迫害したりするような文明の武器の使用法を知らない。
の社でも今の樣に破格の優遇はして呉れなかつたが、其代り私は一日として心の無聊を感じた事が無い。何か知らくわだてる、でなければ、人の企てに加はる。
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
東京に用しに行こうとくわだてているものもある、月の初めから正午ひるぎりになっていたが、前期の日課点を調べるので、教員どもは一時間二時間を教室に残った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
千々ちゞこゝろくだいた揚句あげくつひにあんなめうことたくして、私共わたくしども弦月丸げんげつまる乘組のりくことめやうとくわだてたのです。
春秋に富めるうちは自己が専門の学業において何者をか貢献せんとする前、先づ全般に通ずるの必要ありとし、古今上下数千年の書籍を読破せんとくわだつる事あり。
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
たちは、りんごのはなからいた、北海ほっかいなかにあるうつくしいしまかって、大旅行だいりょこうくわだてることを決議けつぎしたのでした。そして、そのことをはなかってはなしました。
北海の波にさらわれた蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
騒擾そうじょうなどくわだてる様子もなく、それに見境もなく火を放って、江戸の町人を苦しめるということは切支丹にしてもありそうもないことのように考えられるのでした。