をは)” の例文
一向ひたぶるしんを労し、思を費して、日夜これをのぶるにいとまあらぬ貫一は、肉痩にくやせ、骨立ち、色疲れて、宛然さながら死水しすいなどのやうに沈鬱しをはんぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
文芸的素質のない人は如何なる傑作に親んでも、如何なる良師に従つても、やはり常に鑑賞上の盲人にをはる外はないのであります。
文芸鑑賞講座 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
上りをはつて一休みしながら、下までの深さを考へると、箱根の大路から堂ヶ島へ下りる位、或はそれより一二丁少しくらゐのものであつた。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
其論文の構造は如何にも華麗にしてあたか蜃気楼しんきろうの如くなれども堅硬なる思想の上に立たざるが故に、一旦破綻はたんを生ずれば破落々々となりをはる者あり。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
三年間休んだのは、右腕を切られた後の養生と、左腕を自由に使ひこなす迄の練習期間で、それがをはると再び百軒一萬兩の大願へ驀進ばくしんしたのでした。
十二日の旅がをはると、漸く薔薇のにほひがし始めた。それからぢきに、シバの市をめぐつてゐる庭園が見え出した。
バルタザアル (新字旧仮名) / アナトール・フランス(著)
と立ちつゞく小家こいへの前で歌つたが金にならないと見たか歌ひもをはらず、元の急足いそぎあし吉原土手よしはらどてはうへ行つてしまつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
この教育の六年の間、猶書かまほしき事なきにあらねど、今より顧みれば、皆流れて毒水一滴となりをはんぬ。
余は二作を読みをはりける後、しくも実想相分るゝ二大家の作に同致アイデンチヽイの跡瞭然見る可き者あるを認めぬ。
何事も自分には話してくれはしないから解る筈もない。何か自分には隠して居るのではなからうか……。彼の女は、五六日前に読みをはつた藤村の「春」を思ひ出した。
あはれ暮風一曲の古調に、心絃挽歌しんげんばんか寥々れうれうとして起るが如く、一身ために愁殺されをはんぬるの時、堤上に石と伏して幾度か狂瀾の飛沫を浴びたるも、我と此古帽なりき。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
用意よういをはればたゞちにはしりて、一本榎いつぽんえのきうろより數十條すうじふでうくちなはとらきたり、投込なげこむと同時どうじ緻密こまかなるざるおほひ、うへにはひし大石たいせきき、枯草こさうふすべて、したより爆※ぱツ/\けば
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
自分が久しぶりで歸つた故郷の第一日は、かくて不愉快なものになりをはつた。新聞社へ送る難詰文を書き終り、手帳をとぢて寢臺に入つても、安らかに眠る事は出來なかつた。
目元めもと宿やどれるつゆもなく、おもりたる決心けつしんいろもなく、微笑びせうおもてもふるへで、一通いつゝう二通につう八九通はつくつうのこりなく寸斷すんだんをはりて、さかんにもえ炭火すみびなか打込うちこみつ打込うちこみつ
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
したゝをはりてこの一通の段落を見るに「と存候ぞんじそろ」の行列也ぎやうれつなりさらに一つを加へて悪文あくぶん存候ぞんじそろ
もゝはがき (新字旧仮名) / 斎藤緑雨(著)
大磯おほいそちかくなつてやつ諸君しよくん晝飯ちうはんをはり、自分じぶんは二空箱あきばこひとつには笹葉さゝつぱのこり一には煮肴にざかなしるあとだけがのこつてやつをかたづけて腰掛こしかけした押込おしこみ、老婦人らうふじんは三空箱あきばこ丁寧ていねいかさねて
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
わが「松浦あがた」の記はまさにをはるといへども、なほひそかに飽かぬここちのとどめがたきものあり、そは人の未だこの地に遊びて、爽快なる大気のうちに嘯きしことを聞くの少なきを悲むがために。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
五月十日 朝浣腸しをはりて少し眠る 心地僅ニよし
牡丹句録:子規病中記 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
食事がをはつて、彼女が、伝票を持つて行くと
けむり(ラヂオ物語) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
あはれや千尋せんじんの底の藻屑となりをはんぬ。
新頌 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
とかくにごうをはりたり。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
宮は奥より手ラムプを持ちて入来いりきにけるが、机の上なる書燈をともをはれる時、をんなは台十能に火を盛りたるを持来もちきたれり。宮はこれを火鉢ひばちに移して
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
若し今日こんにちの社会制度に若干じやくかんの変化を生じたるのち、あらゆる童子の養育は社会の責任になりをはらん、この傾向の今日こんにちよりも一層増加するは言ふを待たず。
娼婦美と冒険 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
主人御名前を隱しをはせたと思つたのが拙者の淺墓あさはかさだ、——それは兎も角、あの謎の文句を、立歸つて主人主計樣に御目にかけたところ、御病中ながら以ての外の御立腹。
介の維幾、息男為憲を教へずして、兵乱に及ばしめしのよしは、伏して過状を弁じをはんぬ。将門本意にあらずといへども、一国を討滅しぬれば、罪科軽からず、百県に及ぶべし。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
爾後じご世界の歴史は匇々さうさう兵馬の声を載せて其鉄筆に五百有余頁を記しをはんぬ。長くも亦短かゝりし一歳半の日子よ。海に戦へば海に、陸に闘へば陸に、皇軍の向ふ所常に勝てり。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
しづかにあしきよをはりていざとばかりにいざなはれぬ、流石さすがなり商賣しやうばいがらさんとして家内かないらす電燈でんとうひかりに襤褸つゞれはりいちじるくえてときいま極寒ごくかんともいはずそびらあせながるぞくるしき
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
アヌンチヤタが痍負ておひたるベルナルドオにおしまざりし接吻は、今おもふも猶胸焦がる。サツフオオの美はアヌンチヤタに似て、その戀情の苦は我に似たり。波濤はこの可憐なる佳人を覆ひをはんぬ。
おのおのその手に在るを抜きて、男は実印用のを女の指に、女はダイアモンド入のを男の指に、をはりてもなほ離れかねつつ、物は得言はでゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ひるごろ茶のにパンと牛乳をきつをはり、まさに茶を飲まんとすれば、忽ち大震のきたるあり。母と共に屋外をくぐわいづ。
娘お秀は平次の情けに護られて、からくも繩目をまぬかれましたが、八五郎の心持を無視して、何處へともなく姿を隱してしまつたのです。多分有髮うはつあまで一生ををはるつもりでせう。
将門背走相防ぐあたはざるの間、良兼の為に人物を殺損奪掠さつそんだつりやくせらるゝのよしは、つぶさに下総国の解文げもんに注し、官に言上ごんじやうしぬ、こゝに朝家諸国にせいを合して良兼等を追捕す可きの官符を下されをはんぬ。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
嗚呼あゝ、此拿破里の市も、今よりは同じ夢中の物となりをはるならん。
が、これが感服それ自身にをはる感服でない事は、云ふまでもない。彼はこの後で、すぐに又、切りこんだ。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
さア、私を縛つて下さい。お舟さんに罪はない、——私も隱せるものなら隱しをはせるつもりだつたが、お舟さんが私をかばつて、自分で罪を背負しよひさうぢや、もう我慢が出來ない
彼はその音楽のをはるのを待ち、蓄音機の前へ歩み寄つてレコオドの貼り札をしらべることにした。
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
忠實さうな老爺が、話をはつて到頭ボロボロと泣き出して了ひました。
されど予が身辺の事情は遂に予をして渡英の計画を抛棄はうきせしめ、加之しかのみならず予が父の病院内に、一個新帰朝のドクトルとして、多数患者の診療に忙殺さる可き、退屈なる椅子にらしめをはりぬ。
開化の殺人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
言葉がをはらぬうちに、女の姿は、路地の闇にヒラリと飛込みました。
若しこの詩人の足あとを辿たどる多少の力を持つてゐたらば、——彼はデイヴアンを読みをはり、恐しい感動の静まつた後、しみじみ生活的宦官くわんぐわんに生まれた彼自身を軽蔑せずにはゐられなかつた。
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「大きな聲で怒鳴れ。眞晝の横山町だ、逃げをはせるわけはない」
これは又同氏の作品を時々平板へいばんをはらせてゐる。が、この一点に注目するものはかう云ふ作品にも満足するであらう。世人の注目をかなかつた、「廿代一面にじふだいいちめん」はかう云ふ作品の一例である。
平次の調べはそれでをはつたわけではありません。
その日の調べは、それでをはりました。