おか)” の例文
奇麗きれいなすきとおった風がやってまいりました。まずこうのポプラをひるがえし、青の燕麦オートなみをたてそれからおかにのぼって来ました。
おきなぐさ (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
おかがると、はるのころは、新緑しんりょく夢見ゆめみるようにけむった、たくさんの木立こだちは、いつのまにかきられて、わずかしかのこっていなかった。
風はささやく (新字新仮名) / 小川未明(著)
その男は、おかをこえて、ブランブルハーストえきからあるいてきたとみえ、あつい手袋てぶくろをはめた手に、黒いちいさなかわかばんをさげていた。
一週間ほどすると、おかの上の銅像どうぞうのあごに、あごひげがくっつけられました。ヘンデル先生は、あごひげをもっていたからでした。
丘の銅像 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
ヘルンが妻を連れ出す所はたいてい多くは寂しい静閑せいかんの所であり、寺院の墓地や、やしきの空庭や、小高い見晴らしのおかなどであった。
動く道路を降りておかになっている一段高い公園みたいなところへあがった。もちろん地中のことだから頭上には天井てんじょうがある。壁もある。
三十年後の東京 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そしてもなく、わたくし住宅すまいとして、うみから二三ちょう引込ひっこんだ、小高こだかおかに、土塀どべいをめぐらした、ささやかな隠宅いんたくててくださいました。
その燕作は、いましも、三人の僧を早く早くとかしながら、朱雀すざく馬場ばばを右にそって、しだいに道をてんおかの方角へとってけている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
桑港フリスコの日当りの好いおかの下に、ぼく達をむかえて熱狂ねっきょうする邦人ほうじんの一群があり、その中に、一人ぽつねんと、たたずんでいる男がいた。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
谷から向うのおかにかけて、麦と稲とが彼の為に一年両度緑になり黄になってくれる。雑木林が、若葉と、青葉と、秋葉と、三度のさかえを見せる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
海の力が、ひじょうに強いために、低いところは、すっかり水の下にかくされてしまって、わずかに、おかや山だけが、海の上につきでています。
藻の間をすくった叉手を、父がおかへほおりあげると、私は網の中から小蝦を拾った。藻とあくたに濡れたなかに、小さな灰色の蝦がピンピン跳ねている。
父の俤 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
それもそのはず、森やみどりのおかのかわりに、地平線に見えるものといえば、ただ灰色の煙突えんとつばかりなのですからね。
私は、おりから夕日が墓石の表にあかあかと照っているそのおかの上にたたずんで脚下にひろがる大大阪市の景観をながめた。
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
……そんなむなしい努力の後、やっと私の頭にうかんだのは、あのお天狗てんぐ様のいるおかのほとんど頂近くにある、あの見棄みすてられた、古いヴィラであった。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
先刻さつき、運動会はつまらないから、此所こゝにゐると、おかの上で答へた時に、美禰子は真面目な顔をして、此上このうへには何か面白いものがありますかと聞いた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
僕達は小川おがわの上のややおかになった灌木かんぼくの下に足を投げ出して二人が知っている「古里」の唄をうたい始めた。
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
それで歩きながらわたしの目は両側りょうがわかぎっているおかや、豊饒ほうじょうな田畑よりも、よけい水の上に注がれていた。
小高いおかの上。丘の向う側には広大な竹林が遠々と連なっているらしい。前面はゆる傾斜けいしゃになっている。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
もう赤楊はんのきの林さえぬければ、「日の村」へ着くはずでした。やがて二人はおかを登って右に曲がろうとすると、そこにまた雄牛が一匹立っているのに出会いました。
おかをこえて、林ぞいの道へ出た。草は白くかれて、落ち葉が風にふかれて追っかけっこをしている。
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
おかあさんのお里の村までは、おかづたいに入江いりえをぐるりとまわっていけば、二あまりありましたが、舟でまっすぐに入江を横ぎっていけば、十四、五ちょうしかありません。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
向こうのおかに現われた敵軍の大勢! 丸二つ引きの旗をへんぽんとひるがえして落日を後ろにおか尖端とっぱな! ぬっくと立った馬上の大将たいしょうはこれ歴史で見た足利尊氏あしかがたかうじである。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
朝から酒を飲みすごし、夕方の四時には、まったく体が動けなくなって、あの広い弥生やよいおかの運動場の上にたおれ、友にたすけられて寄宿寮に運びこまれたこともあった。
私の歩んだ道 (新字新仮名) / 蜷川新(著)
土饅頭どまんじゅうぐらいな、なだらかなおか起伏きふくして、そのさきは広いたいらな野となり、みどり毛氈もうせんをひろげたような中に、森や林がくろてんおとしていて、日の光りにかがやいてる一筋ひとすじの大河が
強い賢い王様の話 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
磐瀬いわせもりは既にいった如く、竜田町の南方車瀬にある。ならしのおかは諸説あって一定しないが、磐瀬の杜の東南にわたる岡だろうという説があるから、一先ひとまずそれに従って置く。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
私の両親ふたおやの墓は、ついこの右の方のおか松蔭まつかげにあるんだが、そこへ参詣おまいりをして、墳墓はかの土に、かおりい、すみれの花が咲いていたから、東京へ持って帰ろうと思って、三本みもとばかりんで
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぶたおかのごとく、雞は城楼じょうろうと見える。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
緑のおかがその声で笑い出す。
笑いの歌 (新字新仮名) / ウィリアム・ブレイク(著)
「や、あれが月待つきまちおかです」
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
西にしおかなる陣すと
騎士と姫 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
おかがあって
貧しき信徒 (新字新仮名) / 八木重吉(著)
つきひかりは、うすあおく、この世界せかいらしていました。なまあたたかなみずなかに、木立こだちも、いえも、おかも、みんなひたされたようであります。
月夜と眼鏡 (新字新仮名) / 小川未明(著)
牧場ぼくじょうのうしろはゆるいおかになって、その黒いたいらな頂上ちょうじょうは、北の大熊星おおくまぼしの下に、ぼんやりふだんよりもひくく、つらなって見えました。
銀河鉄道の夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
とめどのないおやじの話をうちきるように馬車屋が言って、立ちあがると、うすぎたないカーテンのすきまから、おかのほうをのぞいてみた。
おかの上に立って、うつくしい村をながめては、歌にうたい、牧場まきばにいって、やさしいひつじのむれをながめては、をかくのがつねでした。
丘の銅像 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
呂宋兵衛るそんべえは、くろい蛮衣ばんいをふわりとかぶって立ちあがり、早足はやあしの燕作をさきにたたせて、風のごとく、てんおかからけだした。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よ、わが愛する者の姿みゆ。視よ、山をとび、おかおどりこえ来る。わが愛する者はしかのごとく、また小鹿のごとし)
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
わたしの下の方を雲が走っていましたが、長いかげをオーディンの墓、トールの墓、フレイヤの墓と人々が呼んでいる小高いおかの上に投げていきました。
くもったりれたりするそらのぼったり下ったりするおか、緑が茂って、小麦がれて、余の今の周囲も其時にて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その翌日の昼さがり、大隅理学士は矢追村の東にある雲雀ひばりおかという小高い丘陵きゅうりょうをトコトコと登りつつあった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ガンのむれは、もういくくみもいく組も飛んでいきました。みんな空を高く飛んでいきましたが、それでも、「さあ、おかへいくんだ! さあ、丘へいくんだ!」
それから僕は飛鳥の村のほうへ行く道をとらずに、甘橿あまがしおかの縁を縫いながら、川ぞいに歩いてゆきました。ここいらからはしばらく飛鳥川もたいへん好い。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
右手めてはのたりのたりといかにも長閑のどか海原うなばら左手ゆんではこんもりと樹木じゅもくしげったおかつづき、どうても三浦みうら南海岸みなみかいがんをもうすこしきれいにしたような景色けしきでございます。
あとはどこを見まわしても、なだらかなおかがほんのり、うす紫に見えているばかりであります。
あたまでっかち (新字新仮名) / 下村千秋(著)
島を越して向側むかふがはの突き当りが蓊鬱こんもりとどすぐろひかつてゐる。女はおかうへから其くら木蔭こかげを指した。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そんなわけで、木らしい木を見ようとすると、おか見捨みすてて谷間へと下りて行かねばならぬ。
新しい洋服ようふくにからだをつつんで、全校の視線しせんをあびながら、はれの壇上だんじょうに立った光吉こうきちは、まどのそとの冬がれのおかから、母の慈愛じあいのまなこが自分を見まもっていてくれることを
美しき元旦 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
躑躅つつじおか
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
りょうちゃんたちの遠足えんそくは、そうしたおかがあり、はやしがあり、ながれがあり、いけがある、そして電車でんしゃっていける、公園こうえんであったのです。
少年の日二景 (新字新仮名) / 小川未明(著)