不断ふだん)” の例文
旧字:不斷
「アア、それなれば、粗末な不断ふだんにはきますのが見えないのでございます。それと、ショールと小さい網の手提てさげがなくなっております」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
吾々が不断ふだん用いてさえ大変に便利なのを覚えます。見ても美しいこういうものを、必ず行商の持物にするということに心を惹かれます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
運動で鍛えた身体であったが、中年の頃赤痢にかかってから不断ふだん腸の工合が悪かった。留学中など始終これで苦しみ通していた。
工学博士末広恭二君 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その力を自分の不断ふだんの力と一緒にして自分の仕事任務をさせて貰うとき、私たちはわれ知らず、自分でも驚くほどの事をって退けます。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「これ、二つでたった五十銭さ。なに、これでも不断ふだんめていちゃすぐげるけど、着更えした時だけだったらちょっとだまかせるからね」
へゝゝ不断ふだんやりつけてるもんですから……(一くちんで猪口ちよこを下に置き)有難ありがたぞんじます、どうも……。小「さめないうちにおひよ、おわんを。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
……もう不断ふだん、本場でうまいものをあがりつけてるから、田舎料理なんぞお口には合わん、何にもらない、ああ、らないとも。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「代さん、あなたは不断ふだんからわたくしを馬鹿にして御出おいでなさる。——いゝえ、厭味いやみを云ふんぢやない、本当の事なんですもの、仕方がない。さうでせう」
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「さア、不断ふだんだって、何処へどう行っちゃうか分らない人達ですからね、軍夫にとられたり、鉱山やまへ送られたり……」
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
「それももつと不断ふだんに行かなけあ。余り勿体をつけすぎる。日本人の頭はやつぱりバネが利いてゐないんだよ。」
女流作家 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
一葉は、あの細っこい体で、一文菓子いちもんがしの仕入れにも行くのだそうだが、客好きで、眉山びざんなどから聞くと不断ふだんは無口だが、文学談になると姐御あねごのようになる。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「隣り近処も、不断ふだんつき合いをしていないだろうからな。まア病気だか何だか、様子を見てからにしよう。」
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
本家から持ち出したものは、少しずつ本家へかえって往った。新家は博徒破落戸ならずものの遊び所になった。博徒の親分は、人目を忍ぶに倔強な此家を不断ふだんの住家にした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
でも不断ふだんお世話になるお店のことだし、ポンポン断るわけにも行かなくて、頭痛に病んでいましたよ
大原御幸おほはらごかうのところへ行つて、少しも筆が進まなくなつて、困り果てて居るところで、そのうち、突然、インスピレエシヨンを感じて、——いらか破れてはきり不断ふだんかう
一人の無名作家 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
不断ふだんは、細々こまごまとした用事を語り、席順がどうなったとか、先生の特長または欠点がどうとか、新しい級友の名前、下着類の状態、さては、よく眠るとか、よく食うとか
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
近処きんじょのものは、折ふししからぬおうわさをする事があって、冬の夜、周囲まわりをとりまいては、不断ふだんこわがってる殿様が聞咎ききとがめでもなさるかのように、つむりを集めて潜々声ひそひそごえ
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
不断ふだんから冷静を自慢している一人の男が、咄々とつとつとして、こんな見解をのべたのであった。
とお父さんはようやく不断ふだんの調子にもどって、お学友の次第をくわしく話して聞かせた。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それも浜屋敷と共に焼けたのである。それから火事のあつた年の十二月に愛宕下上屋敷の普請が出来て、亀千代はそこへ移つた。これから伊達家では不断ふだん上屋敷に住むことになつたのである。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ただの木綿の襦袢に取替え、ストーブも余りに焚かぬようにして、洋服は馬に乗る時ばかり、騎馬の服とめて、不断ふだんは純粋の日本の着物を着て、寒い風が吹通ふきとおしても構わず家にも居れば外にも出る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
不断ふだんくゆり、内陣ないぢんたふとさ深さ
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それ故、不断ふだん使いにするもの、誰でも日々用いるもの、毎日の衣食住に直接必要な品々。そういうものを民藝品と呼ぶのです。
民芸とは何か (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
これよりして、くちまでの三里余りよは、たゞ天地てんちあやつらぬいた、いはいしながれ洞窟どうくつつてい。くもれても、あめ不断ふだんるであらう。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
不断ふだん今頃いまごろもううちかへつてゐるんだらう。此間このあひだ僕がたづねた時は大分だいぶおそかつた様だが」と聞いた。すると、平岡は矢張やはり問題を回避くわいひする様な語気で
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
不断ふだんから人様の合力で飯を喰ってるものにさせるが宜い、長いようでも日脚は早い、こんなことをいってると刀豆が段々虫に喰われてしもうようだ、やれやれ。
厄払い (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「それじゃお君をうらんでいる者の心当りがあるだろう、——お君は不断ふだんそんな話をしなかったのか」
生徒に大原御幸おはらごかうの講義をしてゐるところで、先生が、この——きり不断ふだんかうき……と云ふやうな語句は、昔からその出所も意味も解らないものとされて居ると云ふと
一人の無名作家 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
おゝ突当つきあたりやがつて、けろい、盲人めくら突当つきあたやつるかい。近「いてるぢやアないか。梅「ヘヽヽ今日けふきましたんで、不断ふだんけてるもんですから。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
立って電燈を点じる足元へ茶ぶ台を持ち運ぶ女の顔を見ると、それは不断ふだん使っていた小女こおんなではなくて、通夜つやの前日手不足のため臨時に雇入れた派出婦であるのに気がついた。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
不断ふだんの川手氏なれば、この不思議な地下道を見て、忽ち警戒心を起す筈であった。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
不断ふだんはずいぶんにくらしい子ですが、こうなるとかわいそうでございますわ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
これを防ぐためこの頃行われ始めた方法は、海岸ならばそこに繋留した灯台船の底に鳴鐘ベルを附け、不断ふだんこれを鳴らしている。船の方では船底に仕掛けた微音機マイクロフォンでこの音を聞くという細工である。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
奉仕は匿れ自我があらわではないか。よし用いられるとも、あの民衆に役立つものであろうか。また日々の不断ふだんづかいに堪えるものであろうか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
をんなこゝろがあつてもなくても、わたし亭主ていしゆ一人ひとりである。そのでんぶ、焼海苔やきのりなどとなふるものをしたゝかれたおほバスケツトがあるゆゑんである。また不断ふだんちがふ。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
初めて東京へ来るとき、東京で流行はやらないような手縞の着物を残らず売り払って来てから、不断ふだん着せるものに不自由したことが、ひどく頭脳あたまみ込んでいた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私が不断ふだんからひねくれた考えで彼女を観察しているために、そんな事もいうようになるのだとうらみました。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いかにも不断ふだんから師匠思いのお前さん故さぞ御心配の事だろうと重々じゅうじゅうお察し申します。わしなぞは申さば柳亭翁とは一身同体。今日此頃このごろでは五渡亭国貞といえば世間へも少しは顔の売れた浮世絵師。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
代助はまたちゝからばれた。代助には其用事が大抵わかつてゐた。代助は不断ふだんから成るべくちゝけてはない様にしてゐた。此頃このごろになつては猶更おくかなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いいえ、あの御幣は、そんなおどかしぢやありませんの。不断ふだんは何にもないんださうですけれど、二三日前、誰だか雨乞あまごいだと言つて立てたんださうですの、此のひでりですから。」
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
夢に文鳥を背負しょんだ心持は、少し寒かったがねぶってみれば不断ふだんよるのごとく穏かである。
文鳥 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お祭といっているが春秋二季の大式日だいしきじつ、月々の命日は知らず、不断ふだん、この奥の院は、長々と螺線らせんをゆるく田畝でんぽの上にめぐらした、処々ところどころ萱薄かやすすき、草々の茂みに立ったしるべの石碑を
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
門辺かどべにありたる多くのども我が姿を見ると、一斉いつせいに、アレさらはれものの、気狂きちがいの、狐つきを見よやといふいふ、砂利じやり小砂利こじやりをつかみて投げつくるは不断ふだん親しかりし朋達ともだちなり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
追いついて見ると、小路と思ったのは露次ろじで、不断ふだんの自分なら躊躇ちゅうちょするくらいに細くて薄暗い。けれども女は黙ってその中へ這入はいって行く。黙っている。けれども自分に後をけて来いと云う。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかしお嬢さんは私の顔色を見て、すぐ不断ふだんの表情に帰りました。急用ではないが、ちょっと用があって出たのだと真面目まじめに答えました。下宿人の私にはそれ以上問い詰める権利はありません。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
池の周囲まわりはおどろおどろと蘆の葉が大童おおわらわで、真中所まんなかどころ河童かっぱの皿にぴちゃぴちゃと水をめて、其処を、干潟ひがたに取り残された小魚こうおの泳ぐのが不断ふだんであるから、村の小児こどもそでって水悪戯みずいたずらまわす。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
石橋の上に立って下を見ると、黒い水が草の間からされて来る。不断ふだん黒節くろぶしの上を三寸とはえない底に、長いが、うつらうつらとうごいて、見ても奇麗きれいな流れであるのに、今日は底から濁った。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのほかに何も見えなかった。やがて右へ切れて堤のようなものをだらだらと下りる心持がしたが、それも六七歩をえると、靴を置く土の感じが不断ふだんに戻ったので、また平地ひらちへ出たなと気がついた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)