不審いぶか)” の例文
『へえ、妙なことが有れば有るものだ。』と敬之進も不審いぶかしさうに、『それで、何ですか、奈何どんな風に君を呼びましたか、其声は。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
あやしや三らう便たよりふつときこえずりぬつには一日ひとひわびしきを不審いぶかしかりし返事へんじのち今日けふ來給きたま明日あすこそはとそらだのめなる
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「田沼様への進物駕籠、何者の大胆が奪ったかと、不審いぶかしく存じておりましたが、それがあなた様と承りまして胸に落ちましてござります」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ノート?」信一郎は、不審いぶかりながら、トランクを掻き廻した。いかにもトランクの底に、三帖綴の大学ノートを入れてあるのを見出した。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
何もるところなく、表門の潜りまで戻って来ると、木村丈八は、まだそこに立っていて、彼の挙動を不審いぶかるように訊ねた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白馬節会あおうまのせちえの白馬を青馬とますを古く不審いぶかしく思うた人少なからぬと見え、平兼盛たいらのかねもりが「ふる雪に色もかはらてくものを、たれ青馬となづそめけん」
君子きみこ不審いぶかしさに母親はゝおや容子ようすをとゞめたとき彼女かのぢよ亡夫ばうふ寫眞しやしんまへくびれて、しづかに、顏色かほいろ青褪あをざめて、じろぎもせずをつぶつてゐた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
あいちやんはなになんだか薩張さつぱり道理わけわからず、『長靴ながぐつにもなれは半靴はんぐつにもなる!』と不審いぶかしげな調子てうし繰返くりかへしました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
主殺しには之無と云は何事ぞや此上如何なる御しかりをかうふりやせんと皆々みな/\やすき心も無き所に越前守殿には大いに不審いぶかられ是吉兵衞久八ことは千太郎を締殺しめころしたる趣きを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
二度び三度び呟き返し、身に味わいしめてから、わたくしはこれが何で人が憧憬するほどの境涯であろうと不審いぶかります。取りも直さず今の自力の気持ではありますまいか。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
山だろう——このあいだの山の旅で、何か知らねえが、おんなを見初みそめて来たのだ、と与助、おかしいが笑いもならず、それにしても、いったい何しに山などへ? と胸の隅で不審いぶかりながら
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
庄太夫が不審いぶかしげにくと光政が
だだら団兵衛 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
不審いぶかしそうに問い返した。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
不審いぶかしゝそれほどまでに御嫌おきらひになるほどならやさしげな御詞おことばなぜおほせおかれけん八重やへおもふもはづかしきまでときうれしかりしを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「ノート?」信一郎は、不審いぶかりながら、トランクき廻した。いかにもトランクの底に、三じょうつづりの大学ノートを入れてあるのを見出みいだした。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「社家へ見えた供の男の口うらが不審いぶかしいので、そっと物陰からおことの容子を見たところ、似ておいでるのに驚かされた」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五郎蔵は、相手の顔を見、不審いぶかしそうに眼をひそめたが、そろりと脇差しを膝へ引き付けると
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
乞ふに内にては大聲おほごゑあげどうれと云て立出る長庵を見るよりはやく千太郎是は/\伯父樣をぢさま此間このあひだは御出下され段々だん/\の御世話忝けなし偖御約束の通り今日參上さんじやう致せしと云ふに長庵いと不審いぶかしげに小首こくび
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
不審いぶかしく思って見た。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
(おや?)と、不審いぶかるほど、いつの間にか、夜になっても、真っ暗な洛東の空に、ポチとあかりが見えるようになっていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
らうかたかはこゝろなければ、一日も百ねんおなおくれども其頃そのころより美尾みを樣子やうすかくあやしく、ぼんやりとそらながめてものにつかぬ不審いぶかしさ。
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
御身はよろず、お慎み深く、近侍の者を憫み、領民を愛撫したもう有様、六十七万石の家国を失いたる無法人とも見えずと人々不審いぶかしく思うこと今に止まず候
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「よくご存知でございますな」こういうと鴫丸は不審いぶかしそうに、金兵衛の顔へ押し据えた眼を、パチリパチリとしばたたいたが、「あなた様はどなた様でございますかな?」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
堪へし昨日きのふの始末さぞさぞ六右衞門殿には不審いぶかしく思はれけん久八は私の爲には命のおやいふべき樣なる恩人おんじんなり是非足下おまへの身の立樣にする程にしばしの内勘辨かんべんして何ぞこらへて下されと久八が前に鰭伏ひれふせば久八は涙を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「えっ。不審いぶかしいことを仰っしゃいます。母上よりのお手紙に接し、主君よりおいとまを乞うて夜を日についでこれへ駈けつけて参りましたものを」
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わすれていだことばもなくよゝときしがおまへさまにそのやうな御覺悟おかくごさせますほどなら此苦勞このくらうはいたしませぬ御入來おいできは不審いぶかしけれど無情つれな御返事おへんじといふにもあらぬを
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
青年は、不審いぶかしげにさう云つた。が、瑠璃子は、聞えないやうに返事をしなかつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「それに致しても」と小一郎は不審いぶかしそうに訊き出した。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
往来の旅人も、この少年が、なにをそんなに狂喜するのかと、眼をそばだてて不審いぶかるほど、彼の足は雀躍こおどりしていた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
青年は、不審いぶかしげにそう云った。が、瑠璃子は、聞えないように返事をしなかった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
小町こまちいろらふ島田髷しまだまげ寫眞鏡しやしんきやう式部しきぶさいにほこる英文和譯ゑいぶんわやく、つんで机上きじようにうづたかけれども此男このおとこなんののぞりてからずか、仲人なかうどもヽさへづりきヽながしにしてれなりけりとは不審いぶかしからずや
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と、薪左衛門は、栞の言葉を、不審いぶかしそうに聞き咎めた。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「さての。……ここでは人眼につくし、邸では家人どもが不審いぶかろうし……。そうだ、甚七、あれへ参ろう」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何人なんびと何用なにようありてひたしといふにや親戚しんせき朋友ほういう間柄あひだがらにてさへおもてそむけるわれたいして一面いちめんしきなく一語いちごまじはりなきかも婦人ふじん所用しよようとは何事なにごとあひたしとは何故なにゆゑ人違ひとちがひとおもへばわけもなければ彼處かしこといひ此處こゝといひまはりし方角はうがく不審いぶかしさそれすらこと不思議ふしぎなるにたのみたきことありあし
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
不審いぶかるよりも、懐しさに胸が迫る。臣下ではあるが、瑤泉院の孤独な女ごころには、内蔵助という者がこの世に在るということだけでも、大きな生きがいであった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又八が不審いぶかって用事を問うと、今、家へ上がっていらっしゃるお客様が、あなたのお友達だそうで、二階からお姿を見かけ、ぜひ引っ張って来いというお吩咐いいつけです、という。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嫁ぐ妙齢としごろもはや過ぎかける片鴛鴦かたおしどりの独り身を、旅人の眼に不審いぶかられながら、むなしく旅に朽ちんとはして——いったい彼女は、この秋を、どこに武蔵の見た月を見ているのだろうか。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母には人一倍、孝心のあつい彼なのに——と、ひそかに不審いぶかる者もあったが、こんどその老母と妻とを洲股城へ呼び迎えるに際しても、父なる人については、何の沙汰も聞えなかった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竹筒の水と松明とを持って早速やって来た百姓は、きのうも今日も、この草庵の修繕に手伝った村の者の一人で、何事があったのかと不審いぶかり顔に、沢庵の後について、林の中へはいって行った。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あまり心地よげに寝ているので、揺り起すのも心なく思われたが、そっと顔を覗いているまに、光悦は自身から眼をさまし、沢庵と武蔵の顔を見くらべて、おや? と不審いぶかるような様子だった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武蔵が不審いぶかり顔に、耕介の顔を見ていると、耕介は首を振って
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不審いぶかるひまに、帯刀たてわきはそこを起って、もう望楼へ上っていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
火の手も煙も見えない叫喚きょうかん旋風つむじを、不審いぶかるように見ていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旅籠のあるじも、村の者も、果てはすこし不審いぶかって彼に訊ねた。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、武蔵が知らないことを、かえって不審いぶかり顔にいう。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
振り顧った鐘巻自斎は、不審いぶかしそうな顔で
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、単純に不審いぶかった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)