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一時
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ひとしきり
ふりがな文庫
“
一時
(
ひとしきり
)” の例文
敏捷
(
すばや
)
い、お転婆なのが、すっと幹をかけて枝に登った。
呀
(
や
)
、松の中に蛤が、明く真珠を振向ける、と
一時
(
ひとしきり
)
、一時、雨の如く松葉が
灌
(
そそ
)
ぐ。
浮舟
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
肩に懸けたる手をば放さで
連
(
しきり
)
に
揺
(
ゆすら
)
るるを、宮は
銕
(
くろがね
)
の
槌
(
つち
)
もて
撃懲
(
うちこら
)
さるるやうに覚えて、安き心もあらず。
冷
(
ひややか
)
なる汗は又
一時
(
ひとしきり
)
流出
(
ながれい
)
でぬ。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
これがために鐘の声は
一時
(
ひとしきり
)
全く忘れられてしまったようになるが、する
中
(
うち
)
に、また突然何かの拍子にわたくしを驚すのである。
鐘の声
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
ちょいちょい立ってはお島を
覗
(
のぞ
)
きに来た人達も、やっと席に落着いて、
銚子
(
ちょうし
)
を運ぶ女の姿が、
一時
(
ひとしきり
)
忙
(
せわ
)
しく
往来
(
ゆきき
)
していた。
あらくれ
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
ずツと
昔時
(
むかし
)
芝
(
しば
)
の
金杉橋
(
かなすぎばし
)
の
際
(
きは
)
へ
黄金餅
(
こがねもち
)
と
云
(
い
)
ふ
餅屋
(
もちや
)
が
出来
(
でき
)
まして、
一時
(
ひとしきり
)
大層
(
たいそう
)
流行
(
はやつ
)
たものださうでござります。
黄金餅
(新字旧仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
▼ もっと見る
一時
(
ひとしきり
)
騒々
(
さう/″\
)
しかつたのが、
寂寞
(
ひつそり
)
ばつたりして
平時
(
いつも
)
より
余計
(
よけい
)
に
寂
(
さび
)
しく
夜
(
よ
)
が
更
(
ふ
)
ける……さあ、
一分
(
いつぷん
)
、
一秒
(
いちびやう
)
、
血
(
ち
)
が
冷
(
ひ
)
え、
骨
(
ほね
)
が
刻
(
きざ
)
まれる
思
(
おも
)
ひ。
神鑿
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
積
(
つも
)
る思いのありたけを語り
尽
(
つく
)
そうと
急
(
あせ
)
れば、
一時
(
ひとしきり
)
鳴く
音
(
ね
)
を
止
(
とど
)
めた虫さえも今は二人が
睦言
(
むつごと
)
を外へは
漏
(
もら
)
さじと
庇
(
かば
)
うがように庭一面に鳴きしきる。
散柳窓夕栄
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
亜
(
つ
)
いで男の声は
為
(
せ
)
ざりしが、
間有
(
しばしあ
)
りて
孰
(
いづれ
)
より語り出でしとも分かず、又
一時
(
ひとしきり
)
密々
(
ひそひそ
)
と話声の
洩
(
も
)
れけれど、調子の低かりければ
此方
(
こなた
)
には聞知られざりき。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
当時、女学校の廊下を、紅色の緒のたった、
襲裏
(
かさねうら
)
の
上穿
(
うわばき
)
草履で、ばたばたと鳴らしたもので、それが全校に行われて
一時
(
ひとしきり
)
物議を起した。
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
一時
(
ひとしきり
)
病院にも入れたことがあるんださうですが、一晩でも白井が側にゐないと起きて帰らうとするんで、仕方がなく、退院させたんださうです。
来訪者
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
一時
(
ひとしきり
)
又
寒
(
さむさ
)
の
太甚
(
はなはだし
)
きを覚えて、彼は時計より目を放つとともに起ちて、火鉢の
対面
(
むかふ
)
なる貫一が
裀
(
しとね
)
の上に座を移せり。こは彼の手に縫ひしを貫一の常に敷くなり、貫一の敷くをば今夜彼の敷くなり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
此
(
これ
)
が
納
(
をさ
)
まると、
一時
(
ひとしきり
)
たゝきつけて、
樹
(
き
)
も
屋根
(
やね
)
も
掻
(
かき
)
みだすやうな
風雨
(
あめかぜ
)
に
成
(
な
)
つた。
驟雨
(
しうう
)
だから、
東京中
(
とうきやうぢう
)
には
降
(
ふ
)
らぬ
處
(
ところ
)
もあつたらしい。
間引菜
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
一時
(
ひとしきり
)
、わたくしの仮寓していた家の裏庭からは竹垣一重を隔て、松の林の間から諏訪田の水田を一目に見渡す。
葛飾土産
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
一時
(
ひとしきり
)
世の中がラジウムばやりだった頃、
憑
(
つき
)
ものがしたように
賑
(
にぎわ
)
ったのだそうですが、汽車に遠い山入りの
辺鄙
(
へんぴ
)
で、
特
(
こと
)
に和倉の有名なのがある国です。
河伯令嬢
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
一時
(
ひとしきり
)
寂
(
しん
)
としていた二階のどこやらから、男女の話声が聞え出した。炊事場では又しても水の音がしている。
濹東綺譚
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
思い思い、町々八方へ
散
(
ちら
)
ばってるのが、日暮になれば総曲輪から一筋道を、順繰に帰って来るので、それから
一時
(
ひとしきり
)
騒がしい。水を
汲
(
く
)
む、
胡瓜
(
きゅうり
)
を刻む。
黒百合
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
八重その年二月の頃よりリウマチスにかかりて舞ふ事
叶
(
かな
)
はずなりしかば
一時
(
ひとしきり
)
山下町
(
やましたちょう
)
の
妓家
(
ぎか
)
をたたみ心静に養生せんとて殊更山の手の
辺鄙
(
へんぴ
)
を選び
四谷荒木町
(
よつやあらきちょう
)
に隠れ住みけるなり。
矢はずぐさ
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
一時
(
ひとしきり
)
魔鳥
(
まちょう
)
の
翼
(
つばさ
)
と
翔
(
かけ
)
りし黒雲は全く
凝結
(
ぎょうけつ
)
して、
一髪
(
いっぱつ
)
を動かすべき風だにあらず、気圧は低落して、呼吸の自由を
礙
(
さまた
)
げ、あわれ肩をも
抑
(
おさ
)
うるばかりに覚えたりき。
取舵
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
矢
(
ヤア
)
さんというのは
赤阪
(
あかさか
)
溜池
(
ためいけ
)
の自動車輸入商会の支配人だという
触込
(
ふれこ
)
みで、
一時
(
ひとしきり
)
は毎日のように女給のひまな昼過ぎを目掛けて遊びに来たばかりか、折々店員四、五人をつれて
晩餐
(
ばんさん
)
を
振舞
(
ふるま
)
う。
つゆのあとさき
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
今しがた
一時
(
ひとしきり
)
、大路が
霞
(
かすみ
)
に包まれたようになって、
洋傘
(
こうもり
)
はびしょびしょする……番傘には
雫
(
しずく
)
もしないで、
俥
(
くるま
)
の
母衣
(
ほろ
)
は
照々
(
てらてら
)
と
艶
(
つや
)
を持つほど、
颯
(
さっ
)
と一雨
掛
(
かか
)
った後で。
妖術
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
一時
(
ひとしきり
)
夏のさかりには影をかくした蝶が再びひら/\ととびめぐる。
蟷螂
(
かまきり
)
が
母指
(
おやゆび
)
ほどの大きさになり、人の跫音をきゝつけ、逃るどころか、却て刃向ふやうな姿勢を取るのも、この時節である。
虫の声
(旧字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
その
老人
(
としより
)
は、
年紀
(
とし
)
十八九の時分から
一時
(
ひとしきり
)
、この世の中から行方が知れなくなって、今までの間、甲州の山続き
白雲
(
しらくも
)
という峰に
閉籠
(
とじこも
)
って、
人足
(
ひとあし
)
の絶えた処で、行い澄して
政談十二社
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
次の日から千代子は
一時
(
ひとしきり
)
投げすてて置いた毛糸の編物を再び編みはじめた。
心づくし
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
維新以来の世がわりに、……
一時
(
ひとしきり
)
私等の稼業がすたれて、
夥間
(
なかま
)
が食うに困ったと思え。弓矢取っては一万石、大名株の芸人が、イヤ
楊枝
(
ようじ
)
を削る、かるめら焼を露店で売る。
歌行灯
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
一時
(
ひとしきり
)
夏のさかりには影をかくした蝶が再びひらひらととびめぐる。
蟷螂
(
かまきり
)
が母指ほどの大きさになり、人の
跫音
(
あしおと
)
をききつけ、逃るどころか、かえって刃向うような姿勢を取るのも、この時節である。
虫の声
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
一時
(
ひとしきり
)
、芸者の数が有余ったため、
隣家
(
となり
)
の平屋を出城にして、
桔梗
(
ききょう
)
、
刈萱
(
かるかや
)
、
女郎花
(
おみなえし
)
、垣の
結目
(
ゆいめ
)
も
玉章
(
たまずさ
)
で、
乱杙
(
らんぐい
)
逆茂木
(
さかもぎ
)
取廻し、本城の
欄
(
てすり
)
の
青簾
(
あおすだれ
)
は、枝葉の繁る二階を見せたが
日本橋
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
もう、大したことはないんだけれど、
一時
(
ひとしきり
)
は大病でね、内の病院に入っていたんです。東京で私が
姉妹
(
きょうだい
)
のようにした、さるお嬢さんの
従兄子
(
いとこ
)
でね、あの美術、何、
彫刻師
(
ほりものし
)
なの。
伊勢之巻
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
牛込見附で、
仲間
(
ちゅうげん
)
の乱暴者を一
人
(
にん
)
、内職を届けた帰りがけに、もんどりを打たせたという
手利
(
てきき
)
なお嬢さんじや、
廓
(
くるわ
)
でも
一時
(
ひとしきり
)
四辺
(
あたり
)
を払ったというのが、思い込んで剃刀で突いた
奴
(
やつ
)
。
註文帳
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
名にし
負
(
お
)
ふ
栃木峠
(
とちのきとうげ
)
よ!
麓
(
ふもと
)
から一日がかり、
上
(
のぼ
)
るに従ひ、はじめは谷に其の
梢
(
こずえ
)
、やがては崖に枝
組違
(
くみちが
)
へ、次第に峠に近づくほど、左右から空を包むで、
一時
(
ひとしきり
)
路
(
みち
)
は
真暗
(
まっくら
)
な
夜
(
よる
)
と成つた。
貴婦人
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
商人
(
あきうど
)
で此の
節
(
せつ
)
は立派に暮して居るけれど、若いうち
一時
(
ひとしきり
)
困つたことがあつて、
瀬戸
(
せと
)
のしけものを
背負
(
しょ
)
つて、方々国々を売つて
歩行
(
ある
)
いて、此の野に
行暮
(
ゆきく
)
れて、其の時
草
(
くさ
)
茫々
(
ぼうぼう
)
とした中に
二世の契
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
と言って、それなり
前途
(
むこう
)
へ、蘆を分ければ、
廂
(
ひさし
)
を離れて、一人は店を
引込
(
ひっこ
)
んだ。
磯
(
いそ
)
の風
一時
(
ひとしきり
)
、
行
(
ゆ
)
くものを送って吹いて、
颯
(
さっ
)
と返って、小屋をめぐって、ざわざわと鳴って、
寂然
(
ひっそり
)
した。
悪獣篇
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
氷店
(
こおりみせ
)
、
休茶屋
(
やすみぢゃや
)
、赤福売る店、一膳めし、
就中
(
なかんずく
)
、
鵯
(
ひよどり
)
の鳴くように、けたたましく
往来
(
ゆきき
)
を呼ぶ、貝細工、寄木細工の小女どもも、昼から夜へ
日脚
(
ひあし
)
の淀みに
商売
(
あきない
)
の
逢魔
(
おうま
)
ヶ
時
(
どき
)
、
一時
(
ひとしきり
)
鳴
(
なり
)
を鎮めると
浮舟
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
夕方、今しがた
一時
(
ひとしきり
)
は、凪の絶頂で口も利けない。餉台を囲んだ人の話声を、じりじりと響くように思って、傍目も触らないで松原の松を見ていて、その目をやがて海の上にこう返すと
浮舟
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
二人とも目を据えて
瞻
(
みまも
)
るばかり、
一時
(
ひとしきり
)
、屋根を取って
挫
(
ひし
)
ぐがごとく吹き
撲
(
なぐ
)
る。
朱日記
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
一時
(
ひとしきり
)
は魔の
所有
(
もの
)
に
寂寞
(
ひっそり
)
する、
草深町
(
くさぶかまち
)
は静岡の
侍小路
(
さむらいこうじ
)
を、カラカラと
挽
(
ひ
)
いて通る、一台、
艶
(
つや
)
やかな
幌
(
ほろ
)
に、夜上りの澄渡った富士を透かして、燃立つばかりの鳥毛の
蹴込
(
けこ
)
み、友染の
背
(
せなか
)
当てした
婦系図
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
一時
(
ひとしきり
)
、吸い
草臥
(
くたび
)
れて、長々と寝たるもあれば、そのあとへ、
這
(
は
)
い寄って、灰色の滑らかな背を
凹
(
なかくぼ
)
に伸ばしながら両手で穴に縋るもあり、ぐッたりと腰を曲げて
臍
(
へそ
)
へ頭をつけるもあり、痩せた膝に
わか紫
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
また
一時
(
ひとしきり
)
、がやがやと口上があちこちにはじまるのである。
露肆
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
耳
(
みゝ
)
に
馴
(
な
)
れた
瀬
(
せ
)
の
音
(
おと
)
が、
一時
(
ひとしきり
)
ざツと
高
(
たか
)
い。
月夜
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
一
常用漢字
小1
部首:⼀
1画
時
常用漢字
小2
部首:⽇
10画
“一時”で始まる語句
一時間
一時颪
一時凌
一時雨
一時餘
一時代
一時余
一時頃
一時性
一時脱