おご)” の例文
おごらせるためにあるのだ。殿軍の大兵は、みな後ろの山谷に伏兵として潜めてある。——足下もここにいては、呂布ありと敵が大事を
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みぎ車麩くるまぶのあるのをつけて、おかみさんと馴染なじみだから、家内かないたのんで、ひとかゞり無理むりゆづつてもらつたので——少々せう/\おかゝをおごつてた。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ことに鏡の前に立てかけてあった写真のかおと、自分の打掛姿を見比べた時に、お君の面には物におごるような冷たい気位を見せていました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼の出できたる、継嗣論その楔子せっしたる疑うまでもなし。当時くらいきわめ、おごりを極め、徳川の隆運を極めたる家斉いえなりの孫家定、将軍の位にり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
おご平家へいけを盛りの櫻にくらべてか、散りての後の哀れは思はず、入道相國にふだうしやうこくが花見の宴とて、六十餘州の春を一夕いつせきうてなに集めてみやこ西八條の邸宅。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
その時はおん身にられしかごの中なる兒は、知らぬ牧者の妻となりて、おん身が前にぬかづくならん。おん身は人におごるやうにはなり給はじ。
美くしいもののなかによこたわる人の顔も美くしい。おごる眼はとこしなえに閉じた。驕る眼をねむった藤尾のまゆは、額は、黒髪は、天女てんにょのごとく美くしい。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
子貢しこう曰く、貧にしてへつらうことなく、富みておごることなくんば如何と。子曰く、可なり、未だ貧にして楽み、富みて礼を好む者にかざるなりと。
論語物語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
酔うたる人は醒むる時の来るが如く、たのしめる者、おごれるもの、よろこべるもの、浮かるるもの早晩傷み、嘆き、悔いうれうる時の来ることをまぬかれない。
最明寺さいみょうじ入道はおごらない人だったらしい、台所をくまなく捜しても、小皿に味噌しかなかったというのだから、御殿も質素なものだったに相違ない。
滝口 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「二度三度の首尾に心おごる様ではならない。刀ですら錆びる。まして油断の心は大敵である。心驕ることなく、家臣の忠言を容れるのが第一である」
長篠合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
たりて徳足るとは真理にはあらざるべけれども確実なる経験なり、奢侈しゃしはもちろん不徳なり、我とみたればとておごらざるべし、しかれども滋養ある食物
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
終始一貫心おごれる悧溌な女(「虞美人草」藤尾、「明暗」おとしその他)と、自然に、兄や親のいうがままの人生を人生と眺めている娘とを対比させて
又役者が意気揚々と、房のついたむちを振りまわしていたら、その役者の股ぐらの下には、おごって行かざる紫騮か何かが、いなないているなと思うべきである。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ゆうよ。われ汝に告げん。君子がくを好むはおごるなきがためなり。小人楽を好むはおそるるなきがためなり。それだれの子ぞや。我を知らずして我に従う者は。」
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
人間の世界でおごったものは、かならず貧しい家に生れさせられ、前の世界で働いた者は、必ず富んだ家の人として生れさせられるのだ、それが因縁という
トシオの見たもの (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
常々あれば心おごりて湯水のごとくつかい、無きも同然なるは黄金なり。よって後世こうせいちょうことあるときの用に立てんと、左記の場所へ金——サア、これはわからぬ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
まことに茶道は最も遜譲そんじょうの徳を貴び、かつは豪奢の風を制するをもって、いやしくもこの道を解すれば、おのれを慎んで人におごらず永く朋友の交誼を保たしめ
不審庵 (新字新仮名) / 太宰治(著)
吉原きた豪奢こうしゃの春のおごりもうれしいが、この物寂びたやしろの辺りの静かな茶屋も面白い。秋の遊蕩ゆうとうはとかくあまりケバケバしゅうないのがよい。のう、露月どの」
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
さて彼殉教に渇き、おごるソルダンの目前めのまへにて、クリストとその從者等のことを宣べしも 一〇〇—一〇二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
むかしとは違うておごりにはふけらるる、我が威にはつのらるる、あれが天下の宰相たるべき行状であろうか。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
寂寞——一種の寂寞——気におごるもののみが味わう、一種の寂寞である。それは俊子さんも味わった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
上も御承知遊ばす通り、あの者はもと卑しき黒鍬上がり、権におごって、昨今の身分柄もわきまえず、曲輪の卑しきはしたに横恋慕せしが事の初まりにござります。
同じほどに愛されているのであるが権家の娘であることにおごっている心からそう思われたのであろう。
源氏物語:51 宿り木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
斯る歌よみに蕪村派の俳句集か盛唐の詩集か讀ませたく存候へどもおごりきつたる歌よみどもは宗旨以外の書を讀むことは承知致すまじく勸めるだけが野暮やぼにや候べき。
歌よみに与ふる書 (旧字旧仮名) / 正岡子規(著)
何物でもかはつた物は見逃すまいとする良人をつとから「自動車をおごるから」などとそゝのかされて下宿を出た。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
さても富みておごらぬは大聖おほきひじりの道なり。さるを世のさがなきことばに、三六富めるものはかならずかだまし。
アイロニイという一つの知的性質はギリシア人のいわゆるヒュブリス(おごり)に対応する。ギリシア人のヒュブリスは彼等の怒りやすい性質を離れて存しなかったであろう。
人生論ノート (新字新仮名) / 三木清(著)
職人ふぜいで毎日めえにち店屋てんやの料理なんぞを喰っちアばちがあたるア、貰った物にしろ毎日こんな物を喰っちア口がおごって来て、まずい物が喰えなくなるから、実ア有がた迷惑だ
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
鶴飼橋畔つるかひけうはんの夜景に低廻して、『わが詩のおごりのまのあたりに、象徴かたどり成りぬるはえのさまか』と中天の明月に浩歌かうかしたりし時、我と共に名残なくその月色を吸ひたるもこれ也。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
富めるものおごる可からず、貧しきもの何ぞ自らづるをもちひん。額上の汗は天与の黄金、一粒の米は之れ一粒の玉、何ぞ金殿玉楼の人を羨まむ。唯だあはれむべきは食を乞ふの人。
客居偶録 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
(十五) 子貢曰く、貧しくしてへつらうことなく、富みておごることなきは何如いかん。子曰く、可なり、(しかれども)未だ貧しくして道を楽しみ、富みて礼を好むものにはかざるなり。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
おごれる女神は、たえずこうささやきながら、その、古ぼけた、巨大な骰子さいころを愛撫している。
二十歳のエチュード (新字新仮名) / 原口統三(著)
よしさりとも、ひとたび同胞はらから睦合むつみあへりし身の、弊衣へいいひるがへして道にひ、流車を駆りて富におごれる高下こうげ差別しやべつおのづかしゆ有りてせるに似たる如此かくのごときを、彼等は更に更にゆめみざりしなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しょうの如き、如何いかに心のおごれることありとも、いかで得てくわだつべしと言わんや。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
それにつけて、将来技術家として世に立つには少時しばらくも心を油断してはならぬ。油断は大敵で、油断をすれば退歩をする。また慢心してはならん。心がおごれば必ず技術は上達せぬ。反対に下がる。
「では、頭取!」と妻は一文なしになりながらもなお未だ伯爵夫人のおごりと衿持きんじとを失わず、蒼白なる顔は冷たいながらいよいよ美玉の輝きを増して、慇懃いんぎんを極めた私の結婚の申込みを受諾した。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
中にも奥仙丈方面にたむろしている積雲の大塊は、銀白の頭をもくもくと碧空にもたげて、絶えず擾乱じょうらんを捲き起している風情、あたかも百門の大砲を備えた一個軍団の兵が惨としておごらざる勢を示している。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
これと云うのも、一体、以前から自分の心がおごっていたのだろうかしらん。ああ、こんな事になるなんて自分は夢にも思わなかったものを。それほどまで私は大きな夢を持ちつづけていたのに。……
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
『よにあうは、道楽者におごり者、転び芸者に山師運上』
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
暗黒の生んだおごれる光明は、母の闇夜と古い位を争い
さんとしておごらざるこの寒牡丹かんぼたん
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
平次はおごる色もありません。
刹那せつな、かのおごりたる眼鼻めはなども
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
おごれる愛人達を。
春をおごりし儷人れいじん
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
おごどりれて
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
「怪しからん! ——いかにおごり誇っているか知らんが、おれをはずかしめるにも程がある。おれはもう曹操などに屈してはいられないぞ」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今は主君と先祖の恩恵にて飽食ほうしょく暖衣だんいし、妻子におごり家人をせめつかい、栄耀えいようにくらし、槍刀はさびもぬぐわず、具足ぐそくは土用干に一度見るばかり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「いや、縁はすぐつながるよ。会のかえりに酔払って、今夜、立処たちどころに飛込むんだ。おでん、鍋焼、おごる、といって、一升買わせて、あの白い妾。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)