とん)” の例文
三四郎は日英同盟の所為せゐかとも考へた。けれども日英同盟と大学の陸上運動会とはどう云ふ関係があるか、とんと見当が付かなかつた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
うするとその時の閣老役人達がいろ/\評議をしたと見え、長々と返辞へんじやったその返辞の中に、開鎖論と云うことをとんと云わない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「どうもね? とんとお話の意味わけが分りませんよ。まさか、土の中からそんなものを掘り出そうと仰っしゃるのじゃないでしょうねえ?」
などとおどしに人に逢うと喋るから怖くって惣次郎はとん外出そとでを致しません、力に思う花車がいないから村の者も心配しております。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いや、そんなことはない。以前は至つて身持の良い女であつたが、——どうしてあんなことになつたか、とんと合點が行かないくらゐだ」
「けんど、急病とんころちふこともあるさかいなア。きんのまでピチ/\してて、ケンビキが肩越して死ぬ人もあるやないか。」
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ならてる内にアノ山口巴から來る若旦那かへと小夜衣は空然うつかり長庵の口にのせられさればなりその三河町の若旦那はとんいたちみち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これを実際に行わないで、文字そのものを美術的にもてあそんで、儒教の精神そのものはとん閑却かんきゃくされるようになったのである。
新嘉坡シンガポオルへ輸入する石炭の総額は一年に六千万とんだが、この半額は日本炭と撫順炭で占め、の半額は濠洲炭、英国のカアジフ、ボルネオ炭とうである
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
しも太古たいこにおいて國民こくみんが、地震ぢしんをそれほどにおそれたとすれば、當然たうぜん地震ぢしんくわんする傳説でんせつ太古たいこから發生はつせいしてゐるはずであるが、それはとん見當みあたらぬ。
日本建築の発達と地震 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
最初は独逸ドイツ語で尋ね、次は自分でこれを御自慢の仏蘭西フランス語に訳してたずねてみたが、二人にはとんと解せぬのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
現にまだとんと合点がゆかないとみえて、かれ番頭クラアクは、灰いろの眼をぱちくりさせて謎に面したように黙っている。
で、日曜日が来ても教会へはとんと御不沙汰ばかりしてゐたが、それでも国元の夫人へ出す手紙にはきまつたやうに
まあ那樣事そんなこといて、其時そのときふねなかで、ちつともさわがぬ、いやもとん平氣へいきひと二人ふたりあつた。うつくしいむすめ可愛かはいらしいをとこぢや。※弟きやうだいえてな、ました。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「如何ようの所かとんと考え当らず候に付き、願わくば教えくれ候」よう申し述べ候処、「市中に玩物多く売物これ有り候処は、決まりて奢美の国にこれ有り候」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
... 割っていたからとんと気が付かなかった。中川君、玉子の黄身に色の白いのと赤いのがあるがこれはどういうわけだね」中川「それは食物と飼養法しようほうと種類とで違う。 ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
一九〇九年に、サザンプトンのサリイ・ロウズ夫人が偶然にも同姓のジョウジ・ロウズと名乗る男と恋に落ちて、同棲するとまもなく浴槽で、「とん死」している。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
○去年の夏以来病勢がとんと進んで来て、家内の者は一刻も自分のそばを離れる事が出来ぬようになった。
病牀苦語 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
わるくなったとは言う条一昨年迄はと詞杜絶とぎれ、ちょうど私共が両国近辺に居りました頃は、まだ/\話の種も出来ましたが、今ではとんと指折ることも御在ません
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
天の怒り地のたたり、親罰、子罰、嬶罰かかあばちのと、四方八方からの威し文句の宣伝ビラが昔から到る処ふりかれておりますが、近頃の人間はとんと相手にしなくなりました。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
戸部近江之介を叩ッって、その生首を御番部屋へ投げ込んで逐電して以来、今まで土中にもぐってでもいたか、とんと姿をくらましていた——神尾喬之助! ううむ、この日頃、きつい御詮議せんぎ
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
集めまたは編纂へんさんして歴史となるべきものであろうが、あれを構成して行くめいめいの悩みとよろこびとの交渉配合が、こんなに人生の片寄った一小部分であったことを、今まではとんと心付かずにいた。
申す迄もなく私などには初めはとんと合点が参りませんでございました。
殺された天一坊 (新字新仮名) / 浜尾四郎(著)
此廿二日には増上寺御豫參よさん之、御供に而御座候處、まこと賑々敷にぎ/\しき次第に御座候。とんと五社御參詣の時の如く、御衣冠御轅おんながえに被召、美を盡し候事に御座候。此旨御安否御伺迄奉尊意候。
遺牘 (旧字旧仮名) / 西郷隆盛(著)
さればこそ西洋人はツバキに大変な趣味を持ち、もうずっと昔に沢山な苗木を欧洲に移植しそれを図説した立派な書物がとっくに出版せられて居りその書価も百円以上で日本はとんと顔負けがしている。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
けれども解雇されねばならぬ理由がとんと考えられない。
女給 (新字新仮名) / 細井和喜蔵(著)
おふくろは、何の事だかとんと解らないといふ風で
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
一體いつたいこりや、了見れうけんだね」と自分じぶんかざけたものながめながら、御米およねいた。御米およねにも毎年まいとしうする意味いみとんわからなかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
丈「いや実にどうもしばらくであった、どうしたかと思っていたが、しちねん以来このかたなん音信おとずれもないから様子がとんと分らんで心配して居ったのよ」
あの村はそうぶだ、つまりそこの地名がマニロフカちゅうだ。ザマニロフカなんちゅうところは、こけえらにゃとんとねえだ。
と云いながらまえにも云う通り何も偏屈でれを嫌って恐れて逃げて廻って蔭で理屈らしく不平な顔をして居ると云うような事もとんとしない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「まあ、かけるがいい……ところで話は早いがいいと思うのだが、一体どうしたというわけなのだな? 何が何やらとんと私には納得がいかんのだが……」
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
その外の四十人には日英博覧会に遣つて来て帰りはぐれた芸妓げいしやや相撲なども混じつて居ると云ふ事だが、その連中れんぢゆう何処どこに何をして居るのかとんと僕らの目には触れない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
伯爵家の台所はかなり贅沢ぜいたくなものだが、それとは打つて変つて伯自身のお膳立ぜんだては伯爵夫人のお心添こゝろぞへで滋養本位のやはらかい物づくめなのでとんと腕の見せどころが無いさうだ。
れにもりず、一時あるときなんぞは、とん遊蕩のら金子かねこまりますところから、えぬ、へゝゝゝ
月夜車 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたくしばかりでありません、誰でもお米を食べる人が一度その事を聞いたらなるほどと感心して生涯忘れる事はありますまい。しかるに私どもは今までとんと知りませんでした。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
近頃はとんとこの種の休みがすくなくなつて、昔鹿島大盡が庄屋であつたり、下はんと呼ばるゝ好人物の旦那が村の支配者であつたりした時、一日或は半日の休みが始終貰へた時代を謳歌する聲が
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「いや、そんな事はとんと」
碌々ろく/\耳にも入ず適々たま/\の御無心と云殊には母のことなれば何樣どのやうにも都合して上度あげたきは山々なれども當暮たうくれは未だ掛先かけさきより少も拂ひが集まらず其外そのほか不都合だらけにてとんと金子は手廻り兼ればお氣の毒ながら御ことわり申ます勿々なか/\私し風情ふぜいの身にて人の合力がふりよくなど致す程の器量きりやうはなし外々ほか/\にて御都合成れよと取付端もなきへん答にお菊は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
全くインスピレーションで書くので詩人はその他には何等の責任もないのです。註釈や訓義くんぎは学究のやる事で私共の方ではとんと構いません。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すると二月から二三四と四月の廿七日迄日々心に掛けて敵の様子を尋ねて居りましたが、とんと手掛りがございません。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
旅中は一切官費で、ただ手当として四百両の金を貰たから、誠に世話なし。ソコで私は平生へいぜいとんと金のらない男で、いたずらに金を費すとうことは決してない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
相変らず上野で教鞭きょうべんっていられましたが、職業も違い、社会的立場も異なって、その後ったことがありませんから、とんとその意味はわからないのです。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
... 手の処はこわい肉ばかりでとんと味がありません」猟天狗「鹿はどういう風に料理します」中川
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
一人坊主ひとりばうず)だとうてさわいでござるから丁度ちやうどい、だれわし弟子でしになりなさらんか、さうして二三にん坊主ぼうず出來できりや、もう(一人坊主ひとりばうず)ではなくなるから、とんんでくござらう。
旅僧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
岡崎氏も人並はづれた牛好きだけに、喜んでその註文を引受けて製作にかゝつたが、くだん註文主ちゆうもんぬしは、牛を馬に乗り替へたものか、その後とんと音沙汰をしないので、岡崎氏は今では身銭みぜにを切つて
とんと物が美味しく食べられないという変った御仁ごじんがざらにあるもので。
と独仙君はもったい振って、東風君に訓戒じみた説教をしたのはよかったが、東風君は禅宗のぜの字も知らない男だからとんと感心したようすもなく
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どういう事で斯様なことになりましたかとんと分りませんけれども、右の次第ゆえ何うか手前へお譲りを願いたいもので
さてこの二つの場合において、子供の方にてはいずれも自身の誤りなればとんと区別はなきことなれども、一には叱られ一には慰めらるるとはそもそも何故なにゆえなるか。
家庭習慣の教えを論ず (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)