露出むきだ)” の例文
辰男の明け方の夢には、わらびえる學校裏の山が現れて、其處には可愛らしい山家乙女やまがをとめが眞白な手を露出むきだして草を刈りなどしてゐた。
入江のほとり (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
わたし今迄いまゝで朝鮮猫てうせんねこ始終しじゆう露出むきだしてるなんてことちつともりませんでした、眞個ほんとらずにましたわ、ねこ露出むきだすなんてこと
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
だが、どう考えても、犯人じゃないと思うね。自分の熱情の前には、何もかも忘れて、ただそれのみを、ひたむきに露出むきだしてしまうのだ。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
惜し気もなく露出むきだしていたが、胸幅広く肩うずたかく、身長せいの高さは五尺八寸もあろうか、肌の色は桃色をなし、むしろ少年を想わせる。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
其處には斑猫ぶちねこの死體が轉ツてゐたのだ。眼をき、足を踏張り齒を露出むきだしてゐたが、もう毛も皮もべと/\になツて、半ば腐りかけてゐた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
勿論お嬢はきずのない玉だけれど、露出むきだしにして河野家に御覧に入れるのは、平相国清盛に招かれて月が顔を出すようなものよ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「道はヌカるし、固めておけばジクジク流れ出すし、泥と一緒に混合ごっちゃになって、白粉おしろいげて、痘痕面あばたづら露出むきだしたようなこのザマといったら」
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
マドロス煙管パイプをギュウと引啣ひっくわえた横一文字の口が、旧式軍艦の衝角しょうかくみたいな巨大おおきあご一所いっしょに、鋼鉄の噛締機バイトそっくりの頑固な根性を露出むきだしている。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ただ暫時しばらくは黙って睨んでいると、老女は何と感じたか、きいろい歯を露出むきだして嫣然にやにや笑いながら、村境むらざかいの丘の方へ……。姿は煙の消ゆるが如くにせてしまった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もしか大隈伯が身投でもする場合には、矢張やつぱり履物を脱いで、義足を露出むきだしに死ぬるだらうかと疑つた者がある。
引めくるように、その風呂敷がとられると、いきなり露出むきだしにされたものは、あの美しく、年若き妖婦、葉子の、それこそ一糸も纏わぬ全裸まっぱだかの肢体だった。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
僕は山賊のような毛脛けずね露出むきだしにした叔父と、静御前しずかごぜんかさに似た恰好かっこう麦藁帽むぎわらぼうかぶった女二人と、黒い兵児帯へこおびをこま結びにした弟を、縁の上から見下して
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
次には大きな口から白い歯を露出むきだして光らせて居るのも見える、人間は人間だが、余ほど異様な人間である。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
何処かヲルフに似たやうな、饑死をし掛つた犬が一匹、家の周囲まはり彷徨ぶらついて居るから、名を呼んで見ると、厮奴きやつは歯を露出むきだして、噢咻うなつて逃げて仕舞ひました。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
彼女は今、露出むきだした腕を組み、花の髪飾りを付けたままの頭を素肌の胸のあたりに垂れて坐っていた。
露出むきだしの男の膝をつねったり、莨の火をおっつけたりなどした。男はびっくりしてねあがった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
氷は離れずベリベリと音して衣服は破れたり、露出むきだされたる余の肌に当る風の寒さよ、オオ風と云えば、風はまたますます激しきを増し来りしようなり、海は泡立ち逆巻き
南極の怪事 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
麻の葉の派手な浴衣ゆかたに、独鈷繋とっこつなぎの博多帯、鬘下地かつらしたじに結った、二十五、六の、ゾッとするような美しい女が、浴衣の衿元から乳の上のあたりまで露出むきだしにしたひどく艶めいた姿で
殊に貧民に対しては異常な同感を払って、もし人間から学問技芸等のお化粧を奪って裸一貫の露出むきだしとしたなら、貧乏人の人格の方がはるかに高等社会にまさっていると常にいっていた。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
こう云って、父は、露出むきだしにしてある手を挙げてテーブルわきの一つの椅子を指差した。そのようすは年に似合わずいかにも元気に見なされた。老医師はあらかじめ自分でそれと知っていた。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
と、お由は鐵漿おはぐろの剥げた穢ない齒を露出むきだにして、ワッハヽヽと男の樣に笑つたものだ。鍛冶屋の門と此の家の門に、『神道天理教會』と書いた、丈五寸許りの、硝子を嵌めた表札が掲げられた。
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
帷幄も何もない露出むきだしの寝床である。その寝床の上には、ぼろぼろの敷布に蔽われて、何物かが横わっていた。それは何とも物は云わないが、畏ろしい言葉でそれが何物であるかを宣言していた。
少年は下に薄い純白の肉衣を着けていたが、老人の方は素肌にこの外衣を纏うているらしく、くびも右肩もことごとく露出むきだしになっていた。そして二人とも素足に革のサンダルを穿いているのであった。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
彼は手荒くジャネットの露出むきだしの腕を握って二三度ゆすぶった。
巴里祭 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
我は、かよわく、蒼白き全身を露出むきだ
妄動 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
好きなあなたは露出むきだしに愛さう
齒は白く露出むきだして
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
衣裳の裾のようにふくれ上がり前歯を露出むきだした上下の唇、左半面ベッタリと色変えている紫色のあざ、醜く恐ろし気な人間の顔が箱の底から睨んでいる。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私は妻木君が出てゆくのを待ちかねて違い棚の上に露出むきだしに並んでいる四ツの鼓を見た。何だかそれが今夜私を死刑にする道具のように見えたからである。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
厨房だいどころるものでくさめをしないのはたゞ料理人クツクと、それからへツつひうへすわつて、みゝからみゝまでけたおほきなくちいて、露出むきだしてた一ぴき大猫おほねこばかりでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
一人、膝頭ひざがしらと向うずね露出むきだした間にうずたかい、蜜柑の皮やら実まじりに、股倉またぐらへ押込みながら、苦い顔色がんしょく
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で日は家中に射込むてすべ露出むきだし……薄暗い臺所には、皿やら椀やら俎板やらしちりんやらがしだらなく取ツちらかツてゐるのも見えれば、く開ツ放してある押入には
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
内田博士はその日古本屋でどつさり参考ものを掘り出したので、それを露出むきだしの儘抱へ込んで、ほく/\もので道を急いでゐたが、ふと自分の名を呼ぶ者があるのに気がついて
卒然と一枚の田舎新聞を出し「此の広告に在る電報を人に頼まれて掛けたのは私ですが、頼み主を白状すれば幾等お銭呉れるのです」と、憎いほど露出むきだしに問い掛けた、余は今以て
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
口も比較的に小さい方で、きいろ口唇くちびるから不規則に露出むきだしている幾本の長い牙は、山犬よりも鋭く見えた。足の割には手が長く、指ははり五本であるが、爪は鉄よりも硬くかつとがっていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
葉子は広い通りに露出むきだしになっている、一軒の家の前で車をおりて、勝手口の方へまわって、「おばさん、おばさん」と言って、木戸をたたいていたが、しばらくしてから内から返辞があった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その大きな乳房を露出むきだして
『でも!わたし度々たび/\してないねこてよ』とあいちやんははうとしたものゝ、『露出むきだしてるものはねこほかに!わたし是迄これまでたものゝうちで一ばん奇妙きめうなのは』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
煉瓦造れんがづくりなんぞ建って開けたようだけれど、大きな樹がなくなって、山がすぐ露出むきだしに見えるから、かえって田舎いなかになった気がする、富士の裾野すその煙突えんとつがあるように。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
パッと包んだ手拭を捕るとヌッと露出むきだされた変面異相、少し詳しく説明すれば、まずその眼は釣り上ってちょうど狐の眼のようであり、その鼻はひしゃげて神楽獅子を想わせ
善悪両面鼠小僧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
肩を露出むきだしに乾ききつた古寺の容子は、まるで長い生活の重荷にへとへとに倦み疲れて、何處にでも腰を下すが早いか、もうこくりこくりと居睡りを爲始める耄碌爺の心持そつくりだ…………
喜光寺 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
ゾッとするような白光りする背中のこぶ露出むきだした川村書記さんと、禿頭の熊みたような毛むくじゃらの校長先生が、自動車で連れてお出でになった三人の若い婦人のほかに、土地ところ芸妓げいこさんでしょう
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼女かれは例の如くきいろい歯を露出むきだして笑っていた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「これから、これへ、」と作平はあかじみた細いしわだらけの咽喉仏のどぼとけ露出むきだして、握拳にぎりこぶしで仕方を見せる。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その女が黒い布でも冠って、そういう腹部はら露出むきだして、ムキ出しの脚で歩き廻ったとしたら、胴体がなくて巨大な顔から、足のつづいた化物ばけものとして、何んとよい見世物になることだろう!
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
白痴ばかにもこれ可笑をかしかつたらう、此時このときばかりぢや、真直まツすぐくびゑてあつくちびるをばくりとけた、大粒おほつぶ露出むきだして、ちゆうげてかぜあふるやうに、はらり/\。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
股引ももひきが破れまして、ひざから下が露出むきだしでござりますので、見苦しいと、こんなにおっしゃります、へい、御規則も心得ないではござりませんが、つい届きませんもんで、へい
夜行巡査 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
引掛ひっかかりそうに便たよりなくひびきが切れて光景ありさまなれば、のべの蝴蝶ちょうちょうが飛びそうななまめかしさは無く、荒廃したる不夜城の壁の崩れから、菜畠になった部屋が露出むきだしで、怪しげな朧月おぼろづきめく。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すなわちまた、その伝で、大福あったかいと、向う見ずに遣った処、手遊屋おもちゃやおんなは、腰のまわりに火の気が無いので、膝が露出むきだしに大道へ、茣蓙ござの薄霜に間拍子まびょうしも無く並んだのである。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白痴ばかにもこれは可笑おかしかったろう、この時ばかりじゃ、真直まっすぐに首をえて厚いくちびるをばくりと開けた、大粒おおつぶな歯を露出むきだして、あの宙へ下げている手を風であおるように、はらりはらり。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)