)” の例文
僕はこのホテルの部屋に午前八時頃に目をました。が、ベッドをおりようとすると、スリッパアは不思議にも片っぽしかなかった。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いかにも感慨無量で折角飲んだ酒もめて来るが、暫くするとまた飲みたくなりゃこそ酒屋が渡世が出来る理窟故ますます感心する。
暫く寐ているうちに、部屋に人が来たように思って目をました。見れば芸者が来て枕元にすわっている。君は驚いて起き上がった。
二人の友 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そっと帰って来て、行燈あんどんの下で頭巾ずきんを取ろうとした時にお銀様は眼がめました。醒めてこのていを見ると怪しまずにはおられません。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「なにが、無態だ。なんじらの馬鹿げた迷妄を、の勇をもって、ましてくるるのがなんで無態か。鍛冶かじを呼んで、くさりを切らせろ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
膝からともすれば襦袢じゅばんがハミ出しますが、酣酔かんすいが水をブッかけられたようにめて、後から後から引っきりなしに身震みぶるいが襲います。
とにかく、いつもの夢想からめて、ひょいと気が付いてみたら、たった一人で古い墓室の薄暗がりの中にいた、というよりほかはない。
木乃伊 (新字新仮名) / 中島敦(著)
彼は遠くで赤子の泣き声のしている夢を見て眼がめた。すると、傍で姪がもつれた糸をほどくように両手を動かしながら泣いていた。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
生島は崖路の闇のなかに不知不識しらずしらず自分の眼の待っていたものがその青年の姿であったことに気がつくと、ふとめた自分に立ち返った。
ある崖上の感情 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
大四郎は酔いがめてしまった。豪遊まではよかったが、差引をすると三月分の小遣が消えたうえに肌付の金まで欠けてしまった。
ひやめし物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
自分の側室で私が目をますと、小さな窓枠の中に、藍青色らんせいしょくに晴れ切った空と、それからいくつもの真っ白い鶏冠のような山巓さんてん
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
「柵、柵、眼をませ。そなたの許婚宗介が今こそここへ戻って来たのだ。さあ早くそこから出てわしの贈り物を見るがよい。やッ……」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「それは先生」曽我貞一と名乗る男は一寸ちょっと云いよどんだが、「先生は御臨終ごりんじゅうの苦しみを続けていらっしゃるのです。目をおましなさい」
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして男が脊中を向けるとき、自分は急いでその場を逃げるだろう。その日は目のめるような喜びに輝いている夏の朝であろう。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
盛り上がる古桐の長い胴に、あざやかに眼をませと、への字に渡す糸の数々を、幾度か抑えて、幾度かねた。曲はたしか小督こごうであった。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
其処そこに折よく第三者が来て、「彼奴あいつは狐に化かされている」といって、背中をどやしてくれると即ち催眠状態がめるのである。
ばけものばなし (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
昼ねからめて、体を洗って、新しい仕事を考えながら二階で風にふかれていたら、不図思いついて狭い濡縁ぬれえんの左の端れまで出てみたら
「言うたか。今にそう言うであろうと待っていたのじゃ。ならば迷いの夢をましてやるために嗅がしてやるものがある。吃驚びっくりするなよ」
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
私は全く眼がめた。けれども起き上る前にシクシクと痛む頭の中から無理に記憶を呼び起していた——さっきあれからどうしたか——。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
マア坊の夢は悪い夢で、早く忘れてしまいたいが、竹さんの夢は、もしこれが夢であったら、永遠にめずにいてくれるといい。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
はらわたを断つような呻き声が、段々彼女の耳の近くに聞え初めた。彼女の意識が、めかゝるに連れてその呻き声は段々高くなった。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
菊五郎のお蔦、両吟りょうぎんの唄にて花道の出は目のむるほど美しく、今度は丸髷まるまげにて被布ひふを着られしためもあらんが、容貌きりょうは先年より立優たちまされり。
数かぎりない因子たちをまし、それを通じてそれらの因子を共有する他の無数の現実断片に交感し呼応するものでなければならない。
チェーホフの短篇に就いて (新字新仮名) / 神西清(著)
月のおもてに雨雲がもったりとかかった。章一の眼ははっきりめた。と、階子段はしごだんをあがって来る跫音あしおとがして、それが廊下のふすまの外に止まった。
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
『僕もよひめかゝつて寒くなつて来た。しづちやんさへさしつかへ無けれアかどの西洋料理へ上がつてゆつくり話しませう。』
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
 目がめてから考へれば、実に馬鹿馬鹿しくつまらぬことが、夢の中では勿体もつたいらしく、さも重大の真理や発見のやうに思はれるのである。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
やがて「忘れましょう、忘れましょう、いくら考えてもどうなる話ではないのですから」と迷夢からめたようにかしらを振った。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
……その酒さえ、弱身のある人が来て対向さしむかいになると、臆面の無いほてった顔を、一皮かれるようにめるんだからの。お察しものです。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ましてや一たび酔うて今はめているというたぐいの旅人であったならば、深い詠歎えいたんなしにはて過ぐることができなかったろう。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
勘次等かんじらにん凝集こごつてうす蒲團ふとんにくるまつた。勘次かんじあし非常ひじやうつめたさをかんじて、うと/\としてねむりからめた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私が一人、鋭い意識と深い心とにめて歩く時、凡てが私の世界のうちに飛び込み、やがて漉されて私の後ろの闇にとり残されるのであった。
蠱惑 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
睡りからさめる時も速やかにめ切って、エーテルやクロロホルムのようにさめぎわの悪いようなことがなかったそうである。
話の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あざみも長い間の押し問答の、石にくぎ打つような不快にさっきからよほどごうが沸いてきてる。もどかしくて堪らず、酔った酒もめてしまってる。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
侍「わしが悪いから何うか免してくれ、酔がめて見れば白刃しらはふるって町人をおどかし、土地を騒がしたは私が悪いから謝まる」
けだし昨夜は背の痛強く、終宵しゅうしょう体温の下りきらざりしやうなりしが今朝めきりしにやあらん。熱さむれば痛も減ずるなり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
あはれ此夢いつかはめん、醒めてこの怖るべき形相ぎやうさうは消えほろびなん。心を鎭めて目を閉づれば、ひやゝかなる山おろしの風は我頬をめぐりて吹けり。
はじめのうちは話すたびに、ところどころ違っていたが、それはたしかに、彼が眠りからめてまだ間もなかったからだ。
「いや判っている。あのくらいの葡萄酒じゃ、もうめて来て、頭がぼんやりして来るほど身体が弱っている。あーあ、つまらん。眠くなった」
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
種彦初め一同は一時に酒の酔をましてしまった。女中はもう涙をほろほろこぼしながら相手選ばず事情を訴えようとする。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
姐さんはそれを聞いて、大喜びに喜んで、代りの晴着をこしらへて呉れた。お客はゑひからめて、真青な顔をして謝りに来た。
夢遊病者のように葉子はまっしぐらにこの不思議な世界に落ちこんで行った。それでいて、葉子の心の一部分はいたましいほどめきっていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それらの処置が一段らく終った時、元の船室に立戻った警部が、ふと思い出して、まだゆめめ切らぬ面持の明智に云った。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのごえに、ねむっているはやしや、もりや、野原のはらましました。なかには、「元気げんきのいいからす。」といって、この早起はやおきのからすをほめました。
一本のかきの木 (新字新仮名) / 小川未明(著)
喧嘩を買い歩くのが商売と聞けば、どうやら怖ろしくも思われるが、それも惰弱に流れた世人の眼をます為だという。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかしめたものに望むような徹底を、因襲をもって十重二十重とえはたえに縛られた貴族の家庭に多くの愚かな召使たちにかしずかれながら育った夫人に
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
この不埓者ふらちものめといって、その肩の処をつらまえて引起ひきおこして、目のめてるのを尚おグン/″\ゆたぶってやったことがある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
さてしばらくまどろんだと思ふ時分にくびの処に焼けるやうなかゆさを覚えて目をました。私は維也納ウインナ以来のしばしばの経験で直ぐ南京ナンキン虫だといふことを知つた。
南京虫日記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
もし手術が無事に済んで、麻酔からめたのちメデューサの首を見せてくれと言われたらどうしようかと考えました。
メデューサの首 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
たちま長嘘ためいききて、をひらき、めたるがごとくに起きあがりて、人々にむかひ、我二一人事にんじをわすれて既に久し。
う思つて小池は、ハツと夢からめたやうに、自分に引きつて低首うなだれつゝ弱い足を運んでゐるお光の姿を見た。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)