貴君あなた)” の例文
わたしときよりまぐれをおこすはひとのするのではくてみなこゝろがらのあさましいわけがござんす、わたし此樣こんいやしいうへ貴君あなた立派りつぱなお方樣かたさま
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それは貴君あなたが下宿屋でなさる事も出来ます。先ず林檎の皮をいて小さく切ってしんって鍋へ入れますが水は少しもりません。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
貴君あなたは文化的な生活はお嫌ひのやうに承はつてゐましたから、実は洋琴ピアノの方も余りお好きではないか知らと思つてゐましたので……」
看板に「沢山たくさん道具をお壊しなさい、それ貴君あなたのお幸福しあはせ」と書いてある。如何いかにも破壊を好む気ばや仏蘭西フランス人の気に入りさう遊戯あそびだ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
貴君あなたなんかも、用心をしないと、いつコロリと行くかも知れませんよ。第一喧嘩なんかをして興奮しては駄目ですよ。熱病も禁物ですね。
マスク (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「私は、私は、貴君あなたのことが気になって、立っても、いても、いられなくなりましたから、うちを逃げだして、夢中になって走って来ました」
倩娘 (新字新仮名) / 陳玄祐(著)
近いうちに謁聖えっせいがありますから、それに応ずるがよろしゅうございます、貴君あなたは武科が御志願でございますけれども、まず文科を
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「もう少しさつきでした。貴君あなたは大相お早かつたぢやありませんか、丁度ございましたこと。さうして間の容体はどんなですね」
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
老叟らうそうわらつて『さう言はるゝにはなに證據しようこでもあるのかね、貴君あなたものといふれきとした證據しやうこが有るならうけたまはりいものですなア』
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
わたしが、ある日狐狗狸コックリ様をやる方々の所へ参りました。そうして私は彼らに申しますのには、『貴君あなた方はわたしの父の名を聞かせてください』
妖怪談 (新字新仮名) / 井上円了(著)
……昌作さんもナンですが、(と信吾を見て)失礼乍ら貴君あなたも好い御体格ですな。五寸……六寸位はお有りでせうな? 何方どちらがお高う御座います?
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
一日いちじつ、お勢の何時になく眼鏡を外して頸巾くびまきを取ッているを怪んで文三が尋ぬれば、「それでも貴君あなたが、健康な者にはかえって害になるとおっしゃッたものヲ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
貴君あなたの作品のうちで、愛着を持つてゐらつしやるものか、好きなものはありませんか」と云はれると、一寸ちよつと困る。
風変りな作品に就いて (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
貴君あなたは伯爵なんですッてね。長らく外国へ行っていらして、そして大変な学者でいらっしゃるッて」と言った。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「おお、貴君あなたはよく知っていますね。あのX甲虫も、その一つです。まだもっとおどろくべきものが沢山ありますよ」
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「然し、それはまあ一応御遠慮しなければなりますまいね、貴君あなたの前だからなんだが、何んなものでせうな?」
円卓子での話 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
「それはそうですとも、貴君あなたは知るわけはない。岸野さんがいま少し注意してくれるといいんですけれど、あの人はああいうふうで、何事にも無頓着むとんじゃくですからな」
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
早速警視庁へ御相談にあがりました所、あちらではそう云う事は却って貴君あなたに御願い申すがよかろうと云う事で、はなはだ御迷惑ながら御依頼に上った次第でございます。
真珠塔の秘密 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
それがナ貴君あなたのお眼は外障眼がいしょうがんと違い内障眼ないしょうがんと云ってがたい症ですから真珠しんじゅ麝香じゃこう竜脳りゅうのう真砂しんしゃ四味しみを細末にして、これを蜂蜜はちみつで練って付ける、これが宜しいが
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
つれなされ上野うへの成共なりとも隅田すみだ成ともお心任せの方へ至り終日お遊び爲されませ和吉も今年ことしは十四なれば貴君あなたのおともには恰好かくかううれしき餘り忠義の忠兵衞己れ一にん饒舌廻しやべりまはし其座を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
わたしは貴君あなたのお心がようく解っています。何でもないことです。貴方だって後になって考えると、やはり、あんなものは返していいことをしたとお思いなさるでしょう。
ふみたば (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
これから自分で狆をれて行こうかと思いましたが、貴君あなたの書き附けを持っておでならお使いでもお渡ししますと、充分に私を信じてくれておりますので、私は家に帰り
貴君あなたは少し何だが、御子息はどうして中々のものだ、末恐しい俊童だ、精一杯念入にお育てなさるがいゝ、などと口を極めておだてるので、人の好い父は全くその氣になつてしまひ
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
『お……父様はそんなに貴君あなたがおいやなの——それぢやおうちに居られませんか?』
おまえの髪としっかり結びあわ喼喼きゅうきゅう如律令にょりつりょうとなえて谷川に流しすてるがよいとの事、憎や老嫗としよりの癖に我をなぶらるゝとはしりながら、貴君あなた御足おんあし止度とめたさ故に良事よいことおしられしようおぼえ馬鹿気ばかげたるまじない
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「いや、私は貴君あなたをば昔成立塾に居た頃からよく知っています」と云うと
私の経過した学生時代 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
或る日嬢様に向つて私も愈/\来春らいはるは博士論文を呈出しますと仕たり顔に云ふと、オヤ貴君あなたも御用学者になるの、博士と云ふと大層らしいが三年経つと三歳みつゝといふ比喩たとへもありますから子
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
相済まんがどうぞうちの方へお届けを、といって平にあやまると、使つかいの婦人が、私も主義は違っております。かようなものは信じませんが、貴君あなたしんから思召していらっしゃる方の志は通すもんです。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「昨日私は貴君あなたに何か話しましたか?」
(新字新仮名) / 小川未明(著)
れは貴君あなた病人びやうにんだからです。』
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
而して「貴君あなたは?」ときいた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「——貴君あなたじゃあるまいし」
明るい海浜 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「それで貴君あなた様の方を、湯河原のお宿までお送りして、それから引き返して熱海へ行くことに、此方こちらの御承諾を得ましたから。」
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
あゝ貴君あなたのやうにもないおりき無理むりにも商買しようばいしてられるは此力このちからおぼさぬか、わたし酒氣さかけはなれたら坐敷ざしきは三昧堂まいどうのやうにりませう
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あの通り狭い台所だから公開して来客に見せる事が出来ません。貴君あなたに御相談申して早く改築したいと思いますけれども今の間に合わん。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「私は、この南村なんそんに住んでいる、鄭宰相のひとの宣揚と云う者でございますが、今日こんにち貴君あなたかたきを打ってもらいましたから、お礼にあがりました」
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
文三には昨日お勢が「貴君あなたもおいでなさるか」ト尋ねた時、行かぬと答えたら、「ヘーそうですか」ト平気で澄まして落着払ッていたのが面白からぬ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
私は困つて、私のこの殺風景な居室を見ながら、どうして貴君あなたはそのやうな質問を、然も熱心に訊ねる気になつたのですか? と云はずには居られなかつた。
趣味に関して (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
その多くは無代価ただで書物を貰はうとするけちてあひで「平素ふだんから貴君あなたを尊敬してゐる」とか、「御著作は欠かさず読んでゐるが、近頃手許が苦しくて買へないから」
それともいまこれを此處におけ貴君あなたの三年の壽命いのちちゞめるがよいか、それでも今ぐにほしう御座るかな。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
貴君あなたの親御より十万円恩借おんしゃくありて、今年返済の期限きたり、万一延滞そろ節は所有地家蔵いえくらを娘諸共もろとも、貴殿へ差上候さしあげそろと申す文面の証書をしたゝめて、残し置き、拙者せっしゃは返金に差迫さしせま
屹度抜いて上げませうと思つて待つてると、信吾さんに札が無くなつて、貴君あなたが「むべ山」と「流れもあへぬ」を信吾さんへやつたでせう? 私厭になつちまひましたよ。ホホヽヽ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
実はこれを貴君あなたに始末して頂こうと思って持って参じましたといって風呂敷包ふろしきづつみを解かれると、中に絹の服紗ふくさに包んだものが米ならば一升五合もあろうかと思うほどのかさになっている。
出しより駕籠舁共頻りに急ぐ故妾も不審ふしんに思ひ貴君あなたの事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ところが少し貴君あなたのおいでが早かったものだから……
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
『それは貴君あなた病人びょうにんだからです。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
貴君あなたになら売るのは厭だ。」
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「それで貴君あなた様の方を、湯河原のお宿までお送りして、それから引き返して熱海あたみへ行くことに、此方こちらの御承諾を得ましたから。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
惡業わるさまらぬ女子おなごがあらば、繁昌はんじようどころかひともあるまじ、貴君あなた別物べつものわたしところひととても大底たいていはそれとおぼしめせ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
貴君あなたどうして今時高利貸したッて月三十五円取ろうと言うなア容易なこっちゃア有りませんヨ……三十五円……どうしても働らきもんは違ッたもんだネー。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)