すみ)” の例文
文字と絵画、二者相俟って無上の模様を示す。四囲を辺づけるよどみなき線、単純な強き二つの口、ふくらめる面、刀を加えし四すみ
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
お六は、急ぎ反対側のすみかくれソッと覗いていると、鏡丹波を先頭に、多くの門弟が廊下を来て、部屋のまえに立ちどまった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
すみさんは、休屋やすみやはまぞひに、恵比寿島ゑびすじま弁天島べんてんじま兜島かぶとじまを、自籠じごもりいは——(御占場おうらなひばうしろにたる)——かけて、ひとりでふねした。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
年を取つたのは口を幅広くして微笑する。若いのの口のすみにも、ちよいと可笑しがるやうな皺が出来たのです。わたしは好い徴候だと思ひました。
(新字旧仮名) / グスターフ・ウィード(著)
襯衣シャツの上のズボン釣りを片っ方はずして、右手はドアの下のすみを、左手は真鍮張りの敷居をシッカリと掴みながらビクビクと藻掻もがいているようである。
幽霊と推進機 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
すみ屋七郎兵衛の北の方は安南王族げん氏のしゅつで、安南では権勢を持っているということなので、破船の取得しゅとくを願いあげた。
呂宋の壺 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ぜにさえあれば町に出て一寸ちょいますすみからるのもやすいが、何時いつか一度は露顕ろけんするとおもって、トウ/\辛抱しんぼうして一年のあいだ、正体を現わさずに、翌年の春
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いつの昔か——傍の農家の老人は樹齢から察して多分六百年以上は経っていると言いますが——おすみという少女があって、桜の苗木を手植にしました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
橋がかりへ出る口には幕が垂れているし、すみの奉行窓からかすかな明りはさしているが、塗籠ぬりごめのように仄暗い。そして一面の鏡だけが冷たい光をたたえている。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
グランテールの向こうのすみには、ジョリーとバオレルとがドミノ遊びをやり、また恋愛の話をしていた。
教員室は以前の幹事室兼帯でも手狭なので、二階のすみにあった教室をあけて、そっちの方へ引越した。そこに大きな火鉢を置いた。鉄瓶てつびんの湯はいつでも沸いていた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
即ち『梅野由兵衛』の長吉の言葉に、『姉さん私もこの暮に、すみを入れら大人おとな役』というのがそれだ。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
くだんの経文に〈この道人、頭破れ血したたり、床座を沾汚てんおす、駆りてすみに入らしむ、急を得て糞を失す、次第七人、皆打棒せられ、地に宛転えんてんす〉とあるから転化したのだ。
尤も今も云うように瞳は或る一点をにらみつめたまゝであり、わずかに視野に這入って来るものを眼のすみに感じたゞけであるが、それでいて彼は人々の様子に気をくば
友達の家に旅装をといて、浴室を出ようとすると、夕陽を浴びた廊下のすみから私の方を視凝みつめてゐる女の鋭い視線を見ました。私の好きな可愛らしい魔物の眼でした。
ぱつと一段明るい珈琲店カフエの前に来たら、渦の中へ巻き込まれる様にその姿がすつと消えた。気がついたら、僕も大きな珈琲店のすみの大理石のつくゑの前に腰をかけてゐた。
珈琲店より (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
と森松はれこんでいくらいっても動きません。其の筈で森松などから見ると三十段も上手うわての悪党でござりますから、長手の火鉢ひばちすみの所へ坐ったらてこでも動きません。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
立花家の甥の富坂松次郎はどん栗にはかまをはかせたような少年で、十六とはどうしても見えないほど発育が悪く、ニキビの盛大なのと、口のすみのあたりを白くしているのが
何かいっそう黒い影が、その蔭のすみのところを這いまわって、戸口の前にうずくまったのでした。
やくといふは、たとへば骰子さいかどがあり、ますにはすみがあり、ひとには關節つぎふしはうには四すみのあるごとく、かぜはうよりけば弱く、すみよりふけば強く、やまひうちより起ればしやすく
鎧戸をおろした窓、聳えたつ瓦ぶきの屋根、猛禽の爪のように四すみからそそり立つ黒い尖った避雷針のある、傲然たるこの姿が。しばらく彼はたちどまったままみつめていた。
しかし何か言おうとして起き上がったが、直ぐ苦しげな顔をして倒れて、うめき声を出している。口のすみから血が少し流れている。女は途方に暮れてそばに寄って見詰めていた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
西の丸の北、いぬゐすみに京橋口が開いてゐる。此口の定番の詰所は門内の東側にある。定番米津が着任してをらぬので、山里丸加番土井が守つてゐる。大筒の数は大手と同じである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
この薬舗くすりみせがパナンショーへ行く道とカーチェハカンへ行く道の三角形のすみにある店である。するとアニサカンの向うの方からその紳士がパナンショーの方へ向けて出かけて来るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
で、五合桝に八分目の酒を受取ると、すみに口を当てて、キューッとあおった。酒に弱い方ではなかったが、嘗つてこんな飲み方をしたことがないので、毒でも飲んだ様に不気味だった。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ついにそのすみのほうにちょっと絵が描かれているほかは、ただ白い紙が、黙々として、空虚を占めており、その淡々たる淡さ、その虚ろさ、しかも、それがもっているキーンとした感情の緊張
日本の美 (新字新仮名) / 中井正一(著)
たゞ無々ない/\とばかり云ひをつておのれ今にあやまるか辛目からきめ見せて呉んと云ながら一升ます波々なみ/\と一ぱいつぎ酒代さかだい幾干いくらでも勘定するぞよく見てをれと冷酒ひやざけますすみより一いきにのみほしもうぱいといひつゝ又々呑口のみくち
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
一休いっきゅう沢庵たくあんなどは、その出色で、一見エロ僧みたいだが、禅もここまで行かねば話せんと悦ぶ人は随喜する。南浦も、この派の傑僧だから、これで世事にもなかなか通じてすみにおけないところがある。
南浦紹明墨蹟 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
手を板戸のすみへかけた。グーッと足下へ引き上げた。
隠亡堀 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
口のすみをちょっと引き吊らせてくれればいのだ。
……と表二階おもてにかい三十室さんじふまばかり、かぎのにづらりとならんだ、いぬゐのすみ欄干らんかんにもたれてまはしたところわたしとぼしい經驗けいけんによれば、たしかにみゝづくがきさうである。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
半元服と言うのは前髪のついている額を、剃刀を以って角深く剃り込んで、それと共に今まで前髪を結っていたのを解き放すのである。それを『すみを入れる』ともいった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
森「へえこゝでしょう、腰障子に菱左ひしさに「い」の字が小さくすみの方に書いてあるから」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
釣りあげたぐぢをさげて、私はうちへ帰りました。一日の潮風を洗ひ流して浴室をでるとき、私は廊下のすみの方をみたのですが、もはや夜も落ちてゐたし、誰の視線もなかつたのです。
口のすみから一筋の血があごの方へ流れている。唇とまぶたとが、まだぴくぴく動いているらしい。しかしく見れば、それは月の光が青ざめた顔を照して人の目を惑わしていたのであった。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
私たちは足を麓のほとりにたゆたわす程の序に、大間々おおままという駅近くのおすみ桜という名木を見物いたします。月は五月に入って見事なこの枝垂桜しだれざくらはすっかり葉桜になっておりました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
教室の上にある二階のすみが先生のデスクや洋風の書架の置並べてあるところだ。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
京橋口定番の詰所の東隣は焔硝蔵えんせうぐらである。焔硝蔵とうしとらすみの青屋口との中間に、本丸に入る極楽橋ごくらくばしが掛かつてゐる。極楽橋から這入はひつた所が山里で、其南が天主閣、其又南が御殿である。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ますすみからばかり飲むからだよ」
その一番手前のすみの所だ。
すなはやま背面はいめんには、きし沿ふ三すみさんの小船こぶねがある。たゞそのひとたよりであつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
表口おもてぐちの内側にゐた菊地鉄平は、美吉屋の女房小供や奉公人の退いたあとしばらく待つてゐたが、板塀いたべいの戸口で手間の取れる様子を見て、鍵形かぎがたになつてゐる表の庭を、縁側のすみに附いて廻つて
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その往昔かみのこのおすみという女の童も、うつそみの世にはいのちを阻まれる節があり末の世を頼みに、そのいのちをせめて非情の草木に向けて生い移した不幸な女性群の一人ではなかったのでしょうか。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そろ/\關善の玄関のすみの座敷へ這上りました。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すみ先生せんせいよろしく、と挨拶あいさつして、ひとり煢然けいぜんとしてたふげくだ後態うしろつきの、みづうみ広大くわうだい山毛欅ぶなたかし、遠見とほみ魯智深ろちしんたのが、かついくさやぶれて、よろひて、雑兵ざうひやうまぎれてちて宗任むねたふのあはれがあつた。
十和田湖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)