薩摩さつま)” の例文
ここからいちばん近い薩摩さつまの山が、糸すじほどに見えるところまで行くのでも、どんな速い船でも二、三日はかかると言いますから。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
中を開けて見ると、粉煙草が少々、薩摩さつま國府こくぶでもあることか、これはきざみの荒い、色の黒い、少し馬糞まぐそ臭い地煙草ではありませんか。
銭形平次捕物控:050 碁敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
この街道を通って帰国した会津藩の負傷兵が自ら合戦の模様を語るところによれば、兵端を開いたのは薩摩さつま方であったと言うような
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
象嵌ぞうがんあるものにはちょっと高麗時代のものと見分けのつかないものさえある。第三に九州系統のもの、特に薩摩さつまの窯の影響が少くない。
現在の日本民窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
遠くは、薩摩さつま日向ひゅうがから。もちろん豊前ぶぜん肥前ひぜんの沿海からも徴集し、しかもそれは戦艦として使える堅牢な船質でもなければならない。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
染色そめいろは、くれない、黄、すかししぼり、白百合は潔く、たもと鹿の子は愛々しい。薩摩さつま琉球りゅうきゅう、朝鮮、吉野、花の名の八重百合というのもある。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先生は愛蘭土アイヤランドの人で言葉がすこぶる分らない。少しきこんで来ると、東京者が薩摩さつま人と喧嘩けんかをした時くらいにむずかしくなる。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
薩摩さつま蝋蠋らふそくてら/\とひか色摺いろずり表紙べうし誤魔化ごまくわして手拭紙てふきがみにもならぬ厄介者やくかいもの売附うりつけるが斯道しだう極意ごくい当世たうせい文学者ぶんがくしや心意気こゝろいきぞかし。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
由来、薩摩さつまと仙台は気風が暴い、酔漢たちはたちまち二人の周囲を取巻いたが、山根道雄は早くもこそこそと逃げてしまった。
松林蝙也 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その場限りにさしえていながら、なお山中の大木の根を枕にしてというものがあり、また薩摩さつま甑島こしきじまなどでは、山の中に野宿しているのに
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そのはずだよ、ねエ、昔は薩摩さつまでおいもを掘ってたンだもの。わたしゃもうこんなうちにいるのが、しみじみいやになッちゃった
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
夕方に商人が出る時分に「おはよ/\」の蝋燭ろうそく屋の歌公というのが、薩摩さつま蝋燭を大道商人に売り歩いて、一廉ひとかどもうけがあった位だということでした。
江戸か東京か (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
座元は結城ゆうきだか薩摩さつまだか忘れてしまいましたが、湯島天神の境内けいだいで、あやつり人形芝居を興行したことがありました。
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
木曾、奥州、薩摩さつまなどは日本の名馬の産地であるが何処どこの産地の馬とも分らんので、日本の馬の長所々々を取ってやろうということに一決しました。
西郷南洲さいごうなんしゅう翁が慶応けいおう年間、京都に集まった薩摩さつまの勇士の挙動はなはだ不穏なりと聞き、これが鎮撫ちんぶに取りかかったとき
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかし去年の秋の末には、もうあの靴や薩摩さつま下駄が何処どこからか其処そこへはひつて来た。いや、き物ばかりではない。
わが散文詩 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
演壇では、筒袖つつそでの少年が薩摩さつま琵琶びわいて居た。凜々りりしくて好い。次ぎは呂昇の弟子の朝顔日記浜松小屋。まだ根から子供だ。其れから三曲さんきょく合奏がっそう熊野ゆや
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
とラ行を忘れて来た男は悉皆すっかりア行で間に合わせる。斯う気がついて耳を澄ますと、口をいている乗客で舌の廻るのは極くすくない。大抵大隅おおすみ薩摩さつまの人らしい。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いつでも脅かしに男下駄を玄関に出しておくのが、お京の習慣で、その日も薩摩さつま下駄が一足出ていた。米材べいざいを使ってはあったけれど住み心地よくできていた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
また薩摩さつま大隅おおすみでは、道路のつき当たりに「石敢当」と刻したる建て石がある。これは琉球にことに多く立てられておるが、シナより伝来せし魔よけ法である。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
その上体を支えて洗い浄められた溝板どぶいたの上に踏み立っている下肢は薩摩さつまがすりの股引ももひきに、この頃はまだ珍しい長靴を穿いているのが、われながら珍しくて嬉しい。
とと屋禅譚 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ああ悪の美の牽引力! ……四国へはいっては長曽我部へ仕え、九州へ渡っては大友家へ仕え、肥前ひぜんへ行っては竜造寺家へ仕え、薩摩さつまへ入っては島津家に仕えた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
神戸の牛のミソ漬、下総しもうさきじ、甲州のつきしずく、伊勢のはまぐり、大阪の白味噌、大徳寺だいとくじの法論味噌、薩摩さつまの薩摩芋、北海道の林檎、熊本のあめ、横須賀の水飴、北海道のはららご
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
が、頭は極端に奔放であるにもかかわらず、薩摩さつま上布の衣物きものに、鉄無地のの薄羽織を着た姿は、可なり瀟洒しょうしゃたるものだった。夫人はその男とは、立ちながら話した。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
大きくいえば漢の荀彧じゅんいく曹操そうそうにおけるがごとしともいおうかネ。あの西郷も僕にいわすれば。やっぱりそうだ。薩摩さつまの壮士に擁せられ。義理でもない義理にからまれて。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
だが、今はもう退屈男にとっては、名もなき陪臣またざむらいの二人や三人、問題とするところでない。目ざす対手は、大隅おおすみ薩摩さつま日向ひうが三カ国の太守なる左近衛少将島津修理太夫さこんえしょうしょうしまずしゅりだいふです。
そこで大阪は薩摩さつま、兵庫は長門ながと、堺は土佐の三藩が、朝命によって取り締ることになった。堺へは二月の初に先ず土佐の六番歩兵隊が這入はいり、次いで八番歩兵隊が繰り込んだ。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
前者の例は生麦なまむぎ薩摩さつまの武士がイギリス人を斬った、いわゆる生麦事件に代表されるものであり、後者はたとえば対馬つしまが占領されたとき最後まで反抗した対馬の住民であった。
黒船来航 (新字新仮名) / 服部之総(著)
さう思つて自分は東京に帰つて来、灰燼になり果てたほとりに佇立して、当来勝利の何であるかを見ようとした。小握飯一箇、薩摩さつま芋数片の弁当を持参しながら。(二三・一・二一)
三年 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
安井息軒やすいそっけんの門にいたのだ、西郷さんのいくさに、熊本城に立て籠って、薩摩さつまの大軍をくいとめた谷干城たにたときさんも、安井の門にいたのだ、私は運が悪くて、こんなことになっちまったのだが
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
住吉すみよしをどりに角兵衛獅子かくべいじし、おもひおもひの扮粧いでたちして、縮緬透綾ちりめんすきやの伊達もあれば、薩摩さつまがすりの洗ひ着に黒襦子くろじゆす幅狭帯はばせまおび、よき女もあり男もあり、五人七人十人一組の大たむろもあれば
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
命はそれからすぐに、今の日向ひゅうが大隅おおすみ薩摩さつまの地方へ向かっておくだりになりました。そのとき命は、まだおぐしをおひたいにおいになっている、ただほんの一少年でいらっしゃいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
薩摩さつまの言葉は判りにくい。早口でしゃべられると、全然判らない。外国の言葉を聞いているようだ。小型トラックの荷台に腰をおろして、まわりの風景を眺めながら、五郎はそう考えた。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
私の家は代々薩摩さつまの国に住んでいたので、父は他の血を混えない純粋の薩摩人と言ってよい。私の眼から見ると、父の性格は非常に真正直な、また細心なある意味の執拗しつような性質をもっていた。
私の父と母 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
孔子は恐らく貧相な不男ぶおとこであったろうし、孫子は薩摩さつま芋侍いもざむらいのような骨太な強情きごわものであったであろう——のたまわくや、矢声掛声やごえかけごえは、そなたのかわいい唇から決してれてはならぬものじゃ
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
興味をもってもすぐに忘れがちな子供のおりのことで、川上音二郎が薩摩さつまガスリの着物に棒縞ぼうじま小倉袴こくらばかまで、赤い陣羽織を着て日の丸の扇を持ち、白鉢巻をして、オッペケ節を唄わなかったならば
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
土方は、洋式鉄砲の威力がの位のものか、この戦争が最初の経験であった。味方のフランス式伝習隊の兵を見ると、旗本のへっぴり侍ばかりで薩摩さつまのイギリス仕込みだって、これと同じだろう。
近藤勇と科学 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
それがしきりに市中を巡邏じゆんらする。尚ほ手先を使つて、彼等盜賊のあとを附けさせると、それが今のしば薩摩さつまぱらの薩州屋敷にはいるといふのでこの賊黨はとう/\薩藩さつぱんちうあふものだといふことが分つた。
兵馬倥偬の人 (旧字旧仮名) / 塚原渋柿園塚原蓼洲(著)
かの神代かみよ三神さんしん瓊瓊杵尊にゝぎのみこと彦火火出見尊ひこほほでみのみことそれから鸕鷀草茅葺不合尊うがやふきあへずのみこと御陵ごりようは、今日こんにち九州きゆうしゆうみなみ日向ひうが大隅おほすみ薩摩さつまほうさだめられてありますが、それは神代しんだい御陵ごりようでありますからいままをしません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
薩摩さつま(いまの鹿児島県かごしまけん)のとのさまの行列ぎょうれつが、江戸えどをたってくにへかえることになり、東海道とうかいどう生麦村なまむぎむら(いまは横浜市内よこはましない)をとおっていたとき、横浜よこはまにきていたイギリスじんがうまにのってやってきて
高橋多一郎が、薩摩さつま高崎猪太郎たかさきいたろうの手紙を読み上げているのだ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
何となく琴曲をおもふ時に薩摩さつま琵琶びはを聞くが如きの感あるなれ。
昭和三年十月十日 薩摩さつまに赴き、桜島に遊ぶ。
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
薩摩さつまあげ
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
薩摩さつまあげ
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
筑前ちくぜん筑後ちくご肥前ひぜん肥後ひご豊前ぶぜん豊後ぶんご日向ひゅうが大隅おおすみ薩摩さつまの九ヵ国。それに壱岐いき対馬つしまが加わります。昔は「筑紫ちくししま」と呼びました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
水戸の御隠居、肥前ひぜん鍋島閑叟なべしまかんそう薩摩さつまの島津久光の諸公と共に、生前の岩瀬肥後から啓発せらるるところの多かったということも似ていた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「喜多、君は知らんだろうがな」円鍔藤之進がふと思い出したように、「左内が薩摩さつまの西郷吉之助と交友を結んだとき、面白い話があるんだぞ」
城中の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その自然木の彎曲わんきょくした一端に、鳴海絞なるみしぼりの兵児帯へこおびが、薩摩さつま強弓ごうきゅうに新しく張ったゆみづるのごとくぴんと薄を押し分けて、先は谷の中にかくれている。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(イ)岡方・浜方 薩摩さつま揖宿いぶすき郡山川町大字岡児水おかちごがみず、及び同村字浜児水はまちごがみず駿河するが志太しだ東益津ひがしましづ村大字岡当目おかとうめ及び浜当目がある。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)