蓮華れんげ)” の例文
まだ電燈にはならない時分、廻廊の燈籠とうろうの白い蓮華れんげつらなったような薄あかりで、舞台に立った、二人の影法師も霞んで高い。……
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
上被には蓮華れんげと佛像とをゑがき、裏面中央に「倣尊澄法親王筆そんちようはふしんのうひつにならふ」、右邊に「保午浴佛日呈壽阿上人蓮座はうごよくぶつじつじゆあしやうにんれんざにていす」と題し、背面に心經しんぎやうの全文を寫し
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
この上流に、七きゅうをめぐらして、一山をなしている山地があります。蓮華れんげの如く、七丘の内は盆地で、よく多数の兵をかくすことができる。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地上に咲くきよ蓮華れんげを浄土の花とは呼ぶのである。地に咲けよとて天から贈られたその花の一つを、今し工藝と私は呼ぼう。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
文化の上から言っても蓮華れんげの占める位置は相当に大きい。日本人に深い精神的内容を与えた仏教は、蓮華によって象徴されているように見える。
巨椋池の蓮 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ところでわれわれ近代の人間にとっては極楽の蓮華れんげの上の昼寝よりはのあたりに見る処の地獄の責苦せめくの方により多くの興味を覚えるのである。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
寺の御堂にも香の煙くゆらし賽銭さいせんさえあがれるを見、また佐太郎が訪い来るごとに、仏前に供えてとて桔梗ききょう蓮華れんげ女郎花おみなえしなど交る交る贈るを見
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
彼は或は大名になつたり、或は池の上の鴨になつたり、或は又蓮華れんげになつたりした。けれどもクリストはマリアの外にも死後の彼自身を示してゐる。
西方の人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かもの河原には、丸葉柳まるはやなぎが芽ぐんでいた。そのこいしの間には、自然咲のすみれや、蓮華れんげが各自の小さい春を領していた。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
東の隅の小壁に描かれた菩薩ぼさつの、手にしている蓮華れんげに見入っていると、それがなんだか薔薇ばらの花かなんぞのような、幻覚さえおこって来そうになるほどだ。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そう言われると一言もありません。倅は親の私をかばわなければならないうえ生れ付き腕が鈍くて、台座の蓮華れんげ一つろくなものが彫れなかったのでございます
今から蓮華れんげをお持ちになる迎えの仏においする夕べまでを私は水草の清い山にはいってお勤めをしています。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
禅の言葉に、「火中の蓮華れんげ」ということがあります。その深い意味は知りませんが私はこう思っております。
見よ見よわが足下あしもとのこのこいしは一々蓮華れんげ形状かたちをなし居る世に珍しき磧なり、わが眼の前のこの砂は一々五金の光をもてる比類たぐいまれなる砂なるぞと説き示せば
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
芋の葉の形をした錦の帽子もうすを冠った僧正が列の中に出て来て、紙の蓮華れんげを足場の上から右へ左へときます。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ただ、地獄の鬼やかまの話、極楽の蓮華れんげや音楽の話は道理以外のことにして、もし宗教外よりこれをみれば、苦楽の状態を形容したるに過ぎざることになります。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
どうもそういう所に入ったのは極楽世界の蓮華れんげの中に入ったよりか身体からだの上からいうと結構に感じました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その蓮華れんげ模樣もよう中央ちゆうおうほう非常ひじようおほきいかたちのものもあり、花瓣かべん恰好かつこうたいそううつくしく、蔓草つるくさかたち非常ひじようによく出來でき、そのりかたもつよ立派りつぱであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
蓮華れんげの花が開いたというのが同じもので、つぼんだ、開いたという別の動作があるが、歌の半分はやはり小さな手をつないで、くるくる廻っている間に歌うもので
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
蓮華れんげ温泉に食物を運ぶ人が温泉に行く途中で木に登っている熊を見て驚き、悲鳴をあげて逃げだすと
単独行 (新字新仮名) / 加藤文太郎(著)
その四丁目かに黒川重平という質屋があって、其処の二階に私の村の寺の住職佐原㝫応りゅうおう和尚が間借をして本山即ち近江番場おうみばんば蓮華れんげ寺のために奮闘していたものである。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
あの土台の下になった蓮華れんげのような形をした一枚石——あれがいかにも、おれたちの求めるものにふさわしいものではないか、あれを持って行けば棟梁にもほめられる
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
正※知しょうへんちはどんなお顔いろでそのおはどんなだろう、うわさの通りこんいろの蓮華れんげのはなびらのようなひとみをしていなさるだろうか、おゆびつめはほんとうに赤銅しゃくどういろに光るだろうか
四又の百合 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
私は今ひとりここに立ってこのように憧れてるのに彼女はなぜはやくきて私を抱いてくれないのであろう。古い憧憬しょうけい蓮華れんげは清らかな光にあってふたたび花びらをひらいた。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
それから「仏部ぶつべ昧耶まいや」に移り、さらに「蓮華れんげ三昧耶」に移った。それから右手を空に振り、「臨、兵、闘、者、皆、陳、烈、在、前」——バッバッと九字を切ったのである。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蓮華れんげじい鹿島槍かしまやり、五りゅう……とのびて、はるか北、白馬しろうまやりにいたるまで、折からの朝日を受けて桜色というか薔薇色というか、澄み切った空にクッキリと聳えているではないか。
可愛い山 (新字新仮名) / 石川欣一(著)
蓮華れんげつゝじは下葉したばから色づき、梅桜は大抵落葉し、ドウダン先ず紅に照り初め、落霜紅うめもどきは赤く、木瓜ぼけは黄に、松はます/\緑に、山茶花さざんかは香を、コスモスは色を庭に満たして
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「別に見るところといっちゃありゃしませんけれど、それでも田舎はよござんすよ。蓮華れんげ蒲公英たんぽぽが咲いて……野良のらのポカポカする時分の摘み草なんか、真実ほんとに面白うござんすよ。」
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それが原因で世人に知られていないのである、また蓮華れんげ群峰や妙高山みょうこうさんや日光白根しらね男体山なんたいさん、赤城山、浅間山、富士山からも見えるには、見えているはずであるが群峰畳嶂の中にあるから
平ヶ岳登攀記 (新字新仮名) / 高頭仁兵衛(著)
なぜなら、あのこっとうてんが、いつのまにかなくなって、つからなかったからです。そのかわり、そこが葬儀屋そうぎやとなって、真新まあたらしいかんおけやしろ蓮華れんげ造花ぞうかなどが、ならべてありました。
太陽と星の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
途中で溝の中の蛙をイジメたり、白蓮華れんげを探したりして、道草を喰い喰い、それこそ屠所の羊の思いで翁の門を潜ると、待ち構えている翁は虎が兎をかすめるように筆者を舞台へ連れて行く。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
たとえば男女の心中しんじゅうのごとき、二人が夫婦になるのを理想とするが、不義ふぎの交際は親も許さず世間も認めぬ。この世で晴れて一緒になれぬなら、むしろあの世で蓮華れんげの上にということになる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
此藥このくすりをのませ給はば、疑なかるべきなりやみなれども、りぬればあきらかなり。濁水だくすゐにもつきりぬればすめり。あきらかなること日月じつげつにすぎんや。きよこと蓮華れんげにまさるべきや。法華經は日月じつげつ蓮華れんげなり。
かかる暗黒のうちにこそ信仰の光りは輝きずるのであり、聖武天皇と光明皇后の信仰も、泥中でいちゅう蓮華れんげのごとく咲き出でたのである。この点については後節「不空羂索ふくうけんじゃく観音」で更に詳しくふれたい。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
彼は、ちょうど、一本の木のかげに、横向きになって寝ていた。すると、くだんの鷓鴣の子が、蓮華れんげ畑を横切りながら、ちょこちょこ、えさを拾っているのが眼についた。彼は立ち上がって、撃とうとした。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
型のごとく、青竹につるした白張の提灯ちやうちん、紅白の造花の蓮華れんげ、紙に貼付はりつけた菓子、すゞめの巣さながらの藁細工わらざいく容物いれものに盛つた野だんご、ピカピカみがきたてた真鍮しんちゆう燭台しよくだい、それから、大きな朱傘をさゝせた
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
しかもその法は、妙法といわれる甚深微妙じんしんみみょうなる宇宙の真理で、その真理の法はけがれた私たち人間の心のうちに埋もれておりながらも、少しも汚されていないから、これを蓮華れんげに譬えていったのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
右の方で目立つのは芭蕉ばしょうでした。わずかの間にすくすくと伸び、巻葉が解けてひろがる時はみずみずしくて、心地ここちのよいものです。花が咲いて蓮華れんげのような花弁が落ちますと、拾ってさかずきにして遊びました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
羅蓋らがい蓮華れんげやみうてほのかにそらへ
第二邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ですけれども、真夜中ですもの、川の瀬の音は冥土めいどへも響きそうで、そして蛇籠じゃかごに当って砕ける波は、蓮華れんげを刻むように見えたんですって。
新しい御堂の大扉はすでに開かれて、内陣の壇には、先刻の僧たちが、仏具やとばり蓮華れんげや香台などをせわしげに飾っていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
地上に咲くきよ蓮華れんげを浄土の花とは呼ぶのである。地に咲けよと天から贈られたその花一つを、今し工藝と私は呼ぼう。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
これはその時うちならしの模様に、八葉はちよう蓮華れんげはさんで二羽の孔雀くじゃくつけてあったのを、その唐人たちが眺めながら、「捨身惜花思しゃしんしゃっかし」と云う一人の声の下から
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さう言はれると一言もありません。伜は親の私をかばはなければならない上、生れ付き腕が鈍くて、臺座の蓮華れんげ一つろくなものが彫れなかつたので御座います
当時此戦の功を讃えて、鎗仕やりし鎗仕は多けれど名古屋山三は一の鎗、と世に謡われたということだが、まさこれ火裏かり蓮華れんげ、人のまなこを快うしたものであったろう。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
同じ蓮華れんげの上へ生まれて行く時まで変わらぬ夫婦でいようとも互いに思って、愛の生活には満足して年月を送ったのですが、にわかにあなたの境遇が変わって
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
その形状のごときも地図に書かれてあるのは変な具合になって居りますが、今私のいった通りにちょうど八咫やたの鏡がうねくって蓮華れんげの形のようになって居るです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
ただ音楽のみがその印象を語り得るであろう。極楽国土にある八つの池の一々には、六十億の七宝しっぽう蓮華れんげがあり、一々の蓮華は真円で四百八十里の大きさを持っている。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
或時は蓮華れんげが現われ、或時は羯磨かつまが現われ、或時は宝珠が現われるといったような奇瑞。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
日本につぽんかはらはちょうど支那しなずいといふ時代じだいに、朝鮮ちようせんから輸入ゆにゆうせられたものでありまして、圓瓦まるがわらはしには蓮華れんげ模樣もようかざりにつけてあり、唐草瓦からくさがはらにも蔓草つるくさ模樣もようなどがつけてあります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)